【連載】競走部 日本学生対校選手権(日本インカレ)特別企画 特集『Alll ONE(オールワン)』 第10回 大前祐介監督

特集中面

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 最終回では、大前祐介監督(平17人卒=東京・本郷)にお話を伺った。学生個人選手権(学生個人)や関東学生対校選手権(関東インカレ)をはじめとする前半シーズンの戦いぶりを、指揮官はどのように振り返るのか。そして、日本学生対校選手権(日本インカレ)に向けてどのような展望を思い描いているのかーー。

※この取材は6月1日に行われたものです。

ーーはじめに、今年のチームのことについてお伺いします。大前監督から見た、今年のチームの特徴を教えてください

 井上主将(井上直紀、スポ4=群馬・高崎)、山口智規駅伝主将(スポ4=福島・学法石川)、大川女子主将(大川寿美香、スポ4=東京・三田国際学園)の3人が主体性を持ってチームを引っ張っています。また、『One早稲田』というスローガンのもと、種目を超えた取り組みをしてくれています。リーダーシップを彼らが発揮してくれており、1つにまとまっています。

ーー井上主将、大川女子主将、山口智駅伝主将は、それぞれどのような印象ですか

 井上主将は、チーム全体を信頼しています。特に関東インカレは、主将不在の中でどれだけ戦えるかというところが本当にチャレンジだったと思います。その中でも、部員たちが井上を信頼して、井上がチーム全体を信頼して、というようなかたちができていたので、すごくいい主将だと思います。智規に関しては、直接練習で関わることはなかなか少ないですが、関東インカレの時の最後の挨拶で、早稲田に対する熱い思いを持っていると感じました。『One早稲田』として、トラックとフィールドで共に戦うのは日本インカレがラストチャンスなので、そこに向けて井上とともに一生懸命チームを引っ張っていってくれていると思います。大川は、女子主将としては3代目になります。彼女なりに、女子主将になる前から意識はしていたと思います。女子が大所帯になってきて、非常に苦労しているのではないかというところは正直あります。今までになく大きい組織体の中で、長として頑張っています。それぞれが三者三様にチームを引っ張っていってくれていると感じています。

ーー新入生は、日本代表歴のある選手も多く入ってきました。新入生についてはどのような印象をお持ちですか

 毎年のことですが、いい意味で期待していないです。1年生が活躍する組織というのは、上級生が成長できてないということです。1年生に関しては、プラスアルファの戦力であると例年考えています。その中でも台頭しつつある選手は、松本悠斗(スポ1=佐賀北)です。高校時代まで400メートルの実績はゼロで、大学になってから400メートルを始めようと、高校時代からずっと伝えていました。大学に入ったタイミングで400メートルにしっかりチャレンジできていることが、まず素晴らしいと思います。日本インカレの出場権までしっかり勝ち取って、本番を迎えることができる状態にいるので、彼なりにすごく努力していると思います。今は試行錯誤の段階ですが、非常に期待できる選手の1人だと思っています。女子は、日本インカレに出場するのは1年生が多く、種目によっては1年生主体になっています。特にハードルの谷中(天架、スポ1=大分雄城台)、松田(晏奈、スポ1=長崎日大)の2名は、高校時代の実績には輝かしいものがあります。それをおごらず、早稲田の環境の変化にうまく順応しながら少しずつやれるようになってきていると思います。日本インカレでは、入賞ラインにいると思いますので、チャレンジャーとして挑んでもらいたいです。あとは、若菜(敬、スポ1=栃木・佐野)です。現状故障気味の状態ですので、7月の日本選手権に向けてもう1回つくり直して、という状況です。正直なところ、あまり無理はさせたくないと思っています。今年無理をさせるよりも、今年は試練の年と言いますか、我慢して成長の年にして、来年以降しっかりと日の丸をつける選手になり、4年生の時のロサンゼルスオリンピックに向けて頑張っていければ、と思っています。

ーー今シーズンの振り返りに移ります。昨年の対談では、「来年は過密日程で難しくなるだろう」というお話がありました。実際に前半シーズンを過ごしてきてどのように感じられていますか

 トップ選手になればなるほど試合が重複してくるので、かなり過密になっている印象を受けます。特に井上主将は、関東インカレをパスして海外に行って、世界リレーのアンカーで走るなど、かなりタイトなスケジュールではありますが、非常に充実したシーズンになっていると思います。ただ、関東インカレに関して言えば、練習があまりできずに進んでいった中での試合になってしまい、調整はミスをしてしまった部分が実際のところあります。やるべきところをもっと明確に分けて、トレーニングのスケジュールを組めればよかったと思うので、そこは反省点です。そのような中での、関東インカレの結果は上出来というふうにも思います。心残りは1つも優勝する種目がなかったことだったので、日本インカレでは、しっかりと勝つことを目指し、準備を進めています。

ーーまず、学生個人についてお聞きします。7名が表彰台に上がりましたが、学生個人の結果はどのようにご覧になっていらっしゃいますか

 基本的にはワールドユニバーシティゲームズの選考会という位置づけなので、代表権を勝ち取るか否かがやはり評価になると思っています。その代表権を勝ち取り切れたのが、スプリント系では渕上翔太(スポ2=東福岡)、長距離で言えば鈴木琉(琉胤、スポ1=千葉・八千代松陰)と佐々木哲(スポ1=長野・佐久長聖)、2月にハーフマラソンで優勝した工藤(慎作、スポ3=千葉・八千代松陰)になります。その選手たちはきっちり代表権を勝ち取ったという印象です。ただ、代表権を取りこぼした選手も多かったです。あと1歩行けば代表権を勝ち取れたというところは反省材料であり、他のチームの選手が1枚も2枚も上手だったと思います。

ーー続いて関東インカレについてお聞きします。関東インカレの総括をお願いいたします

 トラック優勝に関しては、我々の戦力であれば十分に届くところであり、最低限クリアしなければならない目標だと思っていたので、ほっとしています。ケガ人がいて苦しい中でしたが、しっかりと勝ち取ったトラック優勝であったと思っています。ただ、優勝種目がなかったことは、やはり何かが足りないのだろうと思います。何かが足りないから、結果を残せずに終わったので、今度は足りなかった部分を補って日本インカレに向かうというような流れでやっています。

ーーリレー種目に関してはどのように振り返りますか

 男子の4継は井上という大黒柱がいない中だったので、どのようにリレーメンバーを組むかを、コーチと話して戦略を練りました。昨年まで3走にいた関口を1走に置くなど、配置を大幅に変えました。その中でどれだけできるかがチャレンジでしたが、予選はしっかり走れていました。決勝は100メートルの後だったので、疲労感が残りながらのレースでした。例年のことですが、なかなかフレッシュな状態では臨めないので、そういった意味では及第点だと思っています。男子のマイルは、フレッシュなメンバーでしたので、どのようにしてラウンドを上がり、決勝で勝負しようかと考えていました。実際のところ、レースの1時間ぐらい前まで、シャッフルを重ねて、メンバーを悩んでいる状況でした。もう1つピースが足りなかったり、やるべきことができていなかったりして勝ち切れなかったので、日本インカレへの課題だと思っています。

ーー女子のリレーはいかがですか

 女子の4継はメンバーがそろわず、キャンセルという決断をしました。具体的に言えば、山越(理子、人4=東京・富士)のコンディションがなかなか上向いてこず、山越はエントリーもしない状況だったので、4継はキャンセルしました。女子のマイルもギリギリまで走順を悩んで、どの走順が(ベストではなく)ベターだろうかと考えながらやっていました。ベストメンバーで組めば勝てる状態にはいると思いますが、あの状況下では満身創痍で行かざるを得ませんでした。本当は上島周子(スポ3=東京・富士)をアンカーに置きたかったのですが、それもできず、やりくりしながらのレースでした。

ーー関東インカレの裏で、井上選手は世界リレーに出場されていました。井上選手の世界リレーでの走りはどのように御覧になっていましたか

 現地には行っていないですが、私自身もオリンピック強化スタッフとしてリレーのスタッフに入っています。井上を生かせるポジションはアンカーだと思っていたので、存分に自分の力を発揮してくれたと思っています。持ち味を発揮して、エース級の他国のアンカーの選手に対しても遜色ない走りをしていたので、見事だったと思います。

ーー今シーズンは上島選手や森田陽樹(創理=埼玉・早大本庄)選手、矢野夏希(スポ3=愛知・時習館)選手など、3年生の好調ぶりも印象的です。どのように捉えていらっしゃいますか

 上島は、上級生になったという自覚が一番大きいと思います。自分が引っ張ってエースとして頑張るという気持ちが結果に表れていると思っています。多種目にチャレンジすることを決断してやってくれており、それがオフシーズンから続いて今に至ります。技術が変わったというより、モチベーションが非常に高い中で競技ができているというふうに思っています。森田に関しても同様です。眞々田(眞々田洸大、令7スポ卒=現ANA)という大黒柱が抜けて、自分が引っ張らなければいけない立場になり、その立場が彼自身を成長させたと思います。彼は理工学部なので、昨年まではなかなか練習にしっかり来れる状態ではなかったのですが、3年生になって少し余裕が生まれ、練習に参加できるような状態になりました。森田も、技術的な部分が向上したというよりも、自覚が芽生えて結果が出始めていると思います。矢野に関しては、1メートル80を飛んで初めてスタートラインということを日頃から言っているので、そこを常に意識してくれていると思っています。昨年までは、1メートル70を1つのボーダーにしていましたが、今年はもう10センチメートルアップして取り組んでいます。その背景には、スピードやフィジカルアップがあり、楽に助走に入れるようになってきたことが非常に大きな要因だと思います。また、彼女も昨年の日本インカレで優勝したので、インカレチャンピオンとしての自覚が出てきて、もう少し高く飛べたら日本トップに行けるというところが意識できているのではないかと思います。三者三様ですが、総じて「立場が人を育てる」ということの典型例かなと思います。

ーー日本インカレ後は日本選手権、グランプリシリーズが続きますが、シーズン後半はどのような展望をお持ちですか

 日本インカレがチームとしての一区切りにはなってきます。そこからはもう、個人の強化一辺倒という感じです。地元に戻り、それぞれの都道府県の選手権などにチャレンジすることの繰り返しになると思います。日本インカレ後は個人のレースばかりになります。8月に早慶戦がありますが、4年生はそれで一区切りになると思います。(今年は)臙脂(えんじ)を着る機会が秋口にないので、モチベーションの維持が難しいです。今、他大学を巻き込んで、いいかたちで対校戦を組めないかと、検討しています。特に女子が臙脂(えんじ)を着る機会は元々少ないので、なるべく着させてあげたいという思いもあります。

ーー今年は世界陸上が開催されます。世界陸上出場を狙っている選手もいらっしゃると思いますが、世界陸上はどのように捉えていますでしょうか

 現役、OB・OG含めて、グラウンドで練習している面々から、まずは何人、世界陸上の日本代表選手を排出できるかというところが我々指導者側としてはポイントになってくるかと思います。私自身も強化スタッフの1人なので、代表側として、日の丸をつけて一緒に取り組んでいくことになりますので、個人的にも世界陸上は楽しみです。中でも、井上主将や西OB(令6教卒=現MINT TOKYO)は、代表権に片手は引っかかっている状態になっていますので、しっかりと代表権を勝ち取ってほしいと思ってます。

ーー大前監督から見て、現在のチーム状況はいかがでしょうか

 関東インカレと比べれば間違いなく良いという状況です。ただ、日本インカレでどうやって戦っていくかとなると、今回は地方開催ですし、戦い方が変わってきます。岡山に行っても、今の好調をキープできればいい結果になると思います。

ーー期待している選手や注目してほしい選手はいらっしゃいますか

 一番に名前が挙がるのは井上です。やはり彼には最後に個人タイトルを取ってほしいと思っています。他の大学のライバルも、彼自身も優勝を意識しているはずなので、しっかりとライバルを倒して、あわよくば世界陸上の標準記録突破を狙ってほしいと思っています。この間のセイコーゴールデングランプリで、いけるかなと思っていましたので、日本インカレではしっかりと標準を切ってほしいと思っています。あとは、もちろん矢野です。1メートル80を飛んで、次のステージに上がってほしいです。今年の世界陸上もそうですが、来年は、彼女の地元の名古屋でアジア大会が開催されるので、今年1メートル80を飛んで、できる限りいいかたちで来年を迎えてほしいです。地元開催のアジア大会で日本代表を目指すために、競技のステージを1個上げるというところには僕もこだわって話をしているつもりなので、そこは達成してほしいと思っています。あとは、リレーに注目してもらいたいです。獲りに行きます!

ーー最後に、日本インカレに向けて意気込みをお願いします

 日本インカレは総合優勝など、関東インカレで達成できなかった部分を常に意識していきます。関東インカレよりも必ず総合得点のボーダーが下がるので、チャレンジャーとして獲りに行きたいです。男子は最低限トラック優勝。女子は今いるメンバーでどれだけ戦えるかというところですので、昨年の8位という順位よりは1つでも2つでも上に上げられるように、チーム一丸となって頑張っていきたいと思います。

ーーありがとうございました!

(取材 佐藤結、植村皓大 編集 佐藤結)

◆大前祐介(おおまえ・ゆうすけ)監督

1982(昭57)年4月6日生まれ。平17年人間科学部卒。200メートル20秒29(U20日本記録)。令4年2月より現職。