【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第32回 唐木沙彩/バレーボール

女子バレーボール

背中で語る『1点』への思い

 「何年経っても帰ってこられる場所」。早大バレーボール部とは、という問いに対し唐木沙彩(スポ=千葉・柏井)はこう答えた。先輩たちを必死に追いかけ、最終学年で背負ったのは主将としての重圧。それでも、笑顔で大学生活を振り返られたのはなぜか。そして、そこに至るまでの知られざる苦悩と戸惑いとは。夢中で駆け抜けた4年間の軌跡を追った。

 練習漬けの日々を送ってきた高校時代。大学入学当初、あまりにも大きな環境の変化に対応することができなかった。量よりも質を重視する練習を目の当たりにし、成長できるか否かは個々の努力次第であることを知る。しかし、最初の1年は周りについていくことで精一杯。モチベーションが上がらず、1部昇格に対する喜びも湧くことはなかった。主力としての意識が芽生え始めたのは、出場機会が増えた2年時。この年にスタメンの座を奪い、『若きエース』の名が似合うアタッカーへと成長した。一方、チームは2部に降格し、暗闇の時代へ。そして3年時、あることに気づく。「いい雰囲気と楽しい雰囲気は違う」。選手同士の仲が良い反面、このチームにはアスリートに必要な厳しさが欠けていた。この時覚えた危機感が、主将・唐木をつくる原動力となっていく。

全日本大学選手権は不調だったが、主将として果敢にスパイクを放った

  迎えた最終学年。唐木は多くを語らず、態度で示した。自分のこと以上にチームのことを考え、練習では手を抜くことを一切しなかった。言いたいことは互いに言い合い、改善点を見つけては何度も修正を繰り返す。そして成し遂げた、5季ぶりの1部昇格。3年前は感じなかった喜びを、ようやく手に入れた。だが、満を持して踏み込んだ1部の舞台は、想像を絶する険しい道のりであった。勝てない。とにかく勝てなかった。それでも主将である限り、落ち込む姿を表に出すことはできない。『いい雰囲気』を壊すまいと、常に変わらぬ笑顔と声で仲間に接した。その結果、選手たちにある共通意識が浸透していく。2部での1勝より、1部での1点。最高峰のコートでその1点を追えるありがたみが、早大部員に上だけを向かせる源となっていたのだ。秋は全敗に終わったが、「一人一人が自分の役割を果たそうと毎日努力していた」と語る唐木の表情は、達成感に満ちあふれていた。

 早大でのラストゲームは、あっけなく幕を閉じた。全日本大学選手権1回戦。4年間の集大成の場であったが、調子の上がらない唐木は途中交代を余儀なくされる。センターの関根早由合(スポ4=神奈川・橘)が後衛に回り下がると、4年生のいない時間帯が生まれてしまった。先輩の花道を飾るべく、必死に戦う残されたメンバー。「私がいなくても、たのもしいな」。コートの外に立って見えたのは、自分の背中を見て育った頼もしい後輩たちの姿であった。無念の初戦敗退に終わったが、主将の目に涙はなかった。その目に映るのは、チームづくりの結実に対する確かな自信と、歓喜の1勝にたどり着く明るい未来だ。

 大学卒業後は、「社会人としての役割を見つけていきたい」と語る唐木。この4年間で学んだのは、自分の気持ちを伝えることの大切さと、相手の気持ちを考えることの大切さだという。人が生きる上で何よりも重要なことを、早大のバレーボールが教えてくれた。だからこそここが、「何年経っても帰ってこられる場所」になったのだ。

(記事、写真 川浪康太郎)