森ワセダ終幕 一年の軌跡は新たな舞台への架け橋に

女子バレーボール

 深紫のユニフォームの選手から放たれたボールが臙脂(えんじ)埋めくコートにポトリと落ちる。その瞬間、早大の長い一年の旅路が終わりを迎えた。全日本大学選手権(全カレ)2回戦。初戦の高知工科大に勝ち、駒を進めた早大が対峙したのは選手たちがこの大会の山だと語る日体大だった。涙を飲んだ春からこの日まで成長を止まなかった選手たちは、自分たちのできるプレーを存分に発揮する。しかし、日体大のカベは高かった。強く、高い相手の巧みなスパイク、ブロックに屈し第1セットではブレイクを奪うことすらままならない。第2セット以降は春に対戦した時以上に通用するプレーも目立ち得点を奪うものの、気持ちとは裏腹に徐々に点差が離れていく。結局、リードを奪えることができないまま試合はセットカウント3−0(25−13、25−17、25−18)で試合終了。森佳央理主将(スポ4=群馬・高崎女)をはじめとした4人の四年生が独自の色を出し、チームを照らし続けてきた一年に一つのピリオドが打たれた。

 アップ時から選手は気合いに満ちていた。早大としての誇り、そして一年の成長を示すことができる対戦相手、それが秋季関東大学リーグ戦2位の日体大である。この試合にかける気持ちはプレーに現れる。これまで副将としてチームを引っ張ってきた富澤結花(スポ3=東京・文京学院大女)のスパイクが試合開始を告げる号砲となりコートを揺らす。井上裕利恵(スポ2=岡山・就実)のフェイントも決まり試合は互角の戦いとなるかと思われた矢先、強い気持ちは時に空回りを生む。いつもなら起こらない連携ミスが生じ、思うように攻撃のペースをつかめない。さらに2部とは全く異なる『高さ』が早大をさらに苦境へと追いやる。日体大の強さの前に反撃の端緒が開けないまま第1セットを終える。続く第2セット。この一年、多くの選手がもっとも成長した選手として口をそろえる井上が躍動する。先制点をもたらすスパイクを放つと終始精度の高いプレーを見せ、このセットでチーム最多得点を決める活躍。井上のプレーに森も呼応し、中盤にはこの日初めての連続得点を奪う。2点差まで追いつき、さらに加速したい早大は森、富澤を前衛に据えるローテーションでピンチサーバー梨本未央(社2=東京・駒場)を投入。ここでの逆転を狙ったものの、再びミスが重なり連続失点を奪われ流れを明け渡す。勝機は見せたもののこのセットも落としてしまった。

高いスパイク技術を誇る富澤

 窮地に追い込まれた早大。緊張感高まるコートの中で斎藤友里(社1=千葉・敬愛学園)がセッター橋本美久(社1=福島・郡山女大附)との息の合ったコンビを決め存在感を放つ。守備では変わらず河治えみり(社2=北海道・旭川実業)が顔にスパイクを受ける場面がありながらも、決死のプレーでチームを牽引(けんいん)。そこに森も四年として主将として意地のスパイクがコートをつらぬき、中盤まで互角の戦いを繰り広げる。しかし、またもブロックそしてバックアタックを効果的に用いたバリエーション豊かな戦術の前に点差は離れていく。ビハインドのまま迎えた終盤。センタープレイヤーであるため後衛に回った森はベンチに下がる。もう一度森をコートに立たせたい早大だが、連続失点を喫し、ついにマッチポイントを取られてしまう。「頼むからもう一回コートに立たせてくれ」(森)。後輩たちを信じ、まっすぐコートを見つめる森。その時これまで森に支えられてきた下級生が奮起する。今年幾度となく見せてきた『粘り』でボールをつなぎ相手のミスを誘引。最後の一点のところでようやくローテーションが回り、背番号『1』がゆっくりと腰を上げる。終わったと思った試合、後輩の想いでつなげられたコートに向かう時、森には堪えきれないものがあった。最後は無情にも森の手をかすめたスパイクがコートに落ち試合終了。しかし、コートの中には悔しい気持ちのどこかに一年やり切った表情をはらむ選手たちの顔があった。

森のプレーは後輩に大きな影響を与え続けた

 『学生自主』。馬場泰光監督(平8人卒=京都・洛南)が大事にする言葉だ。この言葉が今年の女子バレーボール部、ひいては大学バレーボールを物語っているのではないだろうか。全く異なったバックグラウンドを持ち、選手は大学でバレーボールをしている。特に早大はスポーツ推薦、自己推薦、一般入試、帰国子女など大学への入り方も多岐にわたり、経験の有無も大きく違う。そのためバレー部に関わる形はマネージャー、アナリスト、トレーナー、さらに大会の運営も選手が行なっている。バレーが好きだ、勝ってこの大好きなチームメイトと笑い合いたい。その共通意識の下、選手がプレイヤーだけではない唯一無二のポジションで物語を紡いでいくからこそ大学バレーは面白く、独自のドラマが生まれるのだ。今年の四年生は4選手が全く異なる立場でチームを支え続けた。それぞれに見える世界が違ったからこそ生まれたかけがえのないものがあり、それは後輩の心に刻み込まれている。一つの物語の終わりはまた新しい物語の始まりを意味する。三年生以下は再び来年、絶対使命である『1部昇格』に向けて新たな旅路につき、四年生は社会人として全く異なる舞台へ飛び立つ。しかし、立場は変われど変わらないものがある。「みんなが勝っている姿が見たい」(森)。早大バレー部に対する揺るぎない愛だ。同じ景色を目指す想いは今後も変わることなく、選手たちは新たな舞台へ再び歩みを進める。―勝利の日が差し込む紺碧の空を目指して―

(記事 遠藤伶 写真 友野開登、安岡菜月)

セットカウント
早大 13-25
17-25
18-25

日体大
スタメン
レフト 富澤結花(スポ3=東京・文京学院大女)
レフト 植松知里(文構2=香川・高松第一)
センター 森佳央理(スポ4=群馬・高崎女)
センター 斎藤友里(スポ1=千葉・敬愛学園)
ライト 井上裕利恵(スポ2=岡山・就実)
セッター 橋本美久(社1=福島・郡山女大附)
リベロ 河治えみり(社2=北海道・旭川実業)
コメント

馬場泰光監督(平8人卒=京都・洛南)

――今季最終戦となりました。きょうの試合を振り返っていただけますか

このチームでやれることはきょうの試合で全て出し切れたんじゃないかなと思います。

――このチームでやれることというのは具体的にはどういったあたりでしょうか

最初はアタッカーが少ないところから始まって、そこを井上_(裕利恵、スポ2=岡山・就実)だとか、秋リーグ(秋季関東大学リーグ戦)の手前には植松(知里、文構2=香川・高松第一)だとかそういったメンバーが打力を上げて臨むことができましたし、レシーブのつなぎについても一年間レシーブ練習をしてきて、きょうはフェイントにも対応できていましたし、きっちりつないでくれましたので攻守ともにやれることはやってくれたと思います。それからやっぱり、一年生の活躍なくして最後の試合までこれることはなかったかなと思います。秋リーグから入った橋本(美久、社1=福島・郡山女大附)、センターの斎藤(友里、社1=千葉・敬愛学園)が本当によく頑張ってくれましたね。

――個々の選手の成長が目を惹く中、入れ替え戦では負けてしまったものの秋リーグでは優勝しました。秋リーグが終わって以降、どういうチーム作りをされましたか

秋の優勝自体は目標が全勝優勝だったので、その前の週で全勝が断たれてから入れ替え戦に照準を合わせていました。だから、優勝した後というよりは私もチームも地獄を味わってからのきのう、きょうの試合だったと思います。その点でいったら精神的にもっともきつかったのはキャプテンの森(佳央理、スポ4=群馬・高崎女)だったと思いますし、彼女自身怪我を抱えながらも這い上がってやってきてくれたので、厳しく注文もしましたけど森が這い上がってきてくれること、そこしか考えていませんでした。

――特に秋には攻撃面でチームとして成長したと思います

背では負ける分、打力を上げるためにコンビを色々試したり、学年関係なく学生自主を実践してくれたと思います。その中で試合の中でも副将の富澤(結花、スポ3=東京・文京学院大女)がしっかり森を支えてやってくれたと思います。

――今年のチームはどういうチームでしたか

森佳央理のチームだったと思います。それを支えた宮田(綾乃、政経4=東京・早実)と森昌美(文構4=神奈川・大和)。それから学連でやってくれている佐久間(絢菜、文構4=茨城・茗渓学園)。本当に四年生の4人がそれぞれの役割で一年間やり通してくれた、そういうチームだったので、すごく学生自主として私は二年目のシーズンとなりましたけど、本当にいいチームを作り上げてくれたことに感謝しています。

――四年生に向けて一言お願いします

私がチームを担当して二年目で、色々と一年目から引き継いだところ、大きく内容を一新したところなど迷いはあったと思います。その中でも心折れずにやってくれたこと、そこを本当に四年生4人に感謝したいと思います。

――今後はどういったチームを作っていきたいですか

まだ何も考えていないです。切り替わったらゆっくり考えていきたと思います。

森佳央理主将(スポ4=群馬・高崎女)

――現役最後の試合を終えられていかがですか

自分個人としてはやりきったけど、チームとしては本当に悔しい、課題ばかりが残る一年でした。

――1部リーグで上位の日体大との対戦、序盤は固さが見られました

そうですね、全てが一枚上手の相手に対してそれ以上の気持ち、気迫で行かなきゃ点数も取れないと思うんですけど、最初そこで受け身になってしまいました。あとはブロックかな。総じて日体大が何枚も上手でした。

――きょうはどうチームを引っ張っていかれましたか

きのう高知工科大の出だしが悪く少し浮足だった感じに第2セットの途中までなっていて、きのうはそこで修正できたからよかったんですけど、きょうそんな隙を見せたら相手にどんどんつけ込まれるから明日は本当に朝来た時から気合を入れて、気迫あるプレーをしようっていうのはきのうの試合が終わった後のミーティングで話してました。でも、アップでは足が動いていたし、春リーグ(春季関東大学リーグ戦)で日体大とやった時よりも通用するプレーは多かったし、そう思うと一年間を通して勝ちっていうことに対しては結果が残せれてないけど、後輩たちの来年、それ以降につながるものはあったんじゃないかなと思います。

――後衛に回ったことで一度ベンチに下がり、もう出場しないまま試合が終わってしまうというところでチームが粘り、もう一度コートに立つことになりました。あの時の心境はいかがでしたか

泣きながら出ました(笑)。もうお願いだから回ってきてっていう思いでベンチに座っていて、試合に集中しなきゃいけないのにこの一年間やこれまでの四年間がフラッシュバックしてきて、頼むからもう一回コートに立たせてくれ…っていう想いでした。

――勝負が決まった最後の一点は森さんのブロックをかすめてコートに落ちたボールでしたね

本当に最後まで悔しい気持ちでいっぱいです。

――第2セットでは井上選手(裕利恵、スポ2=岡山・就実)がチーム最多得点を決めるなど、下級生の成長が本当に見られた試合だったと思いますが、森さんの目にはどう映っていましたか

本当にその通りで、春リーグの時は全然だったんですけど、春の入れ替え戦が終わってからはみんな一から見直して、コンビをたくさんくんだりとか、きょうも単調なコンビじゃなくて交差するコンビとかを中で使っていったんですけど、押しの練習も最後の1ヶ月本当に頑張ったし、それを見てもウルっときちゃうくらいでした。自分自身は何一つ成長してないんですけど、周りが成長してくれたことが本当に嬉しいです。

――きょうで早大バレー部引退となりましたが、どう振り返りますか

自分の弱いところとかダメなところとか強みもあったと思うんですけど、そういったところを全部さらけ出せて、それを受け止めてくれて特に最後の一年はついてきてくれたみんなには本当に感謝してます。全部をさらけ出せた場所だなって思います。

――今後の人生に向けての抱負をお願いします

高校まではバレーがしたくて推薦とかで集まってきた人たちとやってきたんですけど、大学では一般入試や自己推薦、帰国子女だったりといろんな選手がいる環境で、本当にこの四年間で自分の価値観がすごく変わったし、後輩の悩みとか気持ちに寄り添いたいって思えるようになりました。みんなが何を考えていてどうするべきなのかっていうのを当たり前のことかもしれないんですけど、考えられるようになりました。だから、本当にこの四年間で学んだことを社会人になって生かしたいと思います。これからは勝って笑顔になる瞬間を観客席から見守りたいと思います。

――最後に来年のチームへ向けて一言お願いします

自分たちが思ったり、感じたことをみんなに伝えて欲しいと思います。こう思ってるけど、みんなにこれをいったらこう思われちゃうかなってこともあると思うけど、そういった言葉一つ一つを言い残して後悔することがないように全部をさらけ出して欲しいです。何よりみんなが勝っている姿が見たいから、まずは1部に上がって欲しいです。

宮田綾乃(政経4=東京・早実)

――現役最後の試合を振り返っていかがですか

正直今、引退の実感はないです。だけど、一年間の集大成の試合として、後輩や同期の、この一年で一番と思えるスパイクとかブロックとか、そういった一つ一つのプレーを見れたということだけが、素直に嬉しいです。

――きょうの試合にどんな意気込みで臨みましたか

シンプルに、やるしかないって思ってました。その中で私は、スタメンじゃないから、いかに外から最後の気持ちを吐き出せるか、ということだけを考えてました。

――タイムアウト時などにメンバーへ声をかける姿が印象的でしたが、どのような声かけを意識しましたか

もちろん、私がスタメンで出て勝つことができれば出たいけど、そうじゃないから、私の代わりに頼むよ、頑張ってねっていう思いで声かけをしてます。それは、他人事とかではなくて、本当に頼むよ、あんたがやってくんないといけないんだよ、っていう気持ちで、メンバーにもちゃんと伝わってるかな、と思います。

――最後に、バレー部での四年間を振り返って、どんな現役生活でしたか

達成感とかよりも、いかに自分が未熟かっていうことが思い知れた四年間でした。早実でキャプテンをやってた、とか自分が今までに触れてきたバレーボールとは違ったもっと広い世界がみれたと思います。あとは、自分の未熟さを知って、だからこそどうしたらいいのか、正攻法でスタメンになることはできないからその代わりにチームが勝つのに、どこからアプローチすればいいのかっていうのを本当に考えた四年間だったなと、思います。それができていたかはわからないけど、そういうことを考えられた経験はとても良い経験でした。あとは、最後に残ってる悔しさを紛らさないで、社会人にまで持っていこうと思います。