【連載】『令和2年度卒業記念特集』第4回 木元風哉/テニス

庭球男子

成長と継勝

 「この一年で最も成長した選手は誰か」と部員に聞くと、多くの選手が木元風哉(社=埼玉・早大本庄)の名前を挙げる。当初は主将就任が有力視されておらず、石井弥起現監督(前ヘッドコーチ)から「主将やってみないか」と伝えられた際は大きな驚きがあったそうだ。元々は主将をするようなタイプではなかったと言われる木元だが、この一年間は常にチームの先頭に立ち、引っ張ってきた。そこには常勝早稲田の主将として、チームと共に成長を遂げた姿があった。

 第13〜27回の園田学園女子大に並ぶ全日本大学王座決定試合(王座)15連覇を早大は2019年に達成。新型コロナウイルス感染拡大の影響がなければ、本来は王座16連覇という歴史的偉業を目指す1年となるはずだった。現4年生代は下級生時から団体戦の中心選手として活躍してきたメンバーが多く、経験という面では他大を大きく上回っていた。2年時に飛躍を遂げた木元も、一人のプレーヤーとして『連覇』を支えてきた。

 同期の田中優之介(スポ=埼玉・秀明英光)、千頭昇平(スポ=愛知・誉)が1年時から団体戦のレギュラーメンバーとして定着。当時は2人に遅れを取っていた木元であったが、重点的に鍛えてきたウエイトトレーニングが身を結ぶ。また坂井勇仁元主将(平30スポ卒=大阪・清風)を中心に平日2回行われていたダブルス練習会の成果も出た。ストローク、ボレーの底上げがなされると、ダブルスだけでなくシングルスにもいい影響をもたらした。全日本学生選手権(インカレ)単ベスト8、関東学生選手権複優勝、全日本学生室内選手権複優勝と好結果を立て続けに残すなど、素晴らしい2年目を送った。しかし3年目は単複どちらもレギュラーとしての働きが期待されたが、思うようなプレーをできず。王座ではこれまで実績を残してきたダブルスにおいて出番がないなど、もどかしさを感じさせることもあった。

木元は田中優(右)と組んで2度の学生王者に輝いた

 「仕事を振り分けられていたのですが、役職あった?と思ってしまうくらい仕事をしていませんでした」と本人が語っていることからも分かるように、3年時まではプレー以外の側面で求められていた部分はほぼなかったと言っても差し支えない。しかし主将に就任したことで生活は一変。その中でチームを客観視するようになった。

 「実力もバラバラなのは改めて感じました。その中で全員の考えや気持ちを統一することが人数的な面でもできないのは現実でした」

 現実を直視し不安を抱えながらも、少しずつ主将の役割を果たすようになった。練習では今まで以上にプレーから引っ張り、コート外では多くの部員とコミュニケーションを取ることで信頼関係を築いた。困った時は積極的に周囲からのアドバイスをもらうこと、そして意見を受け入れることを意識。コロナ渦という状況で例年を踏襲することができず難しい部分もあったが、時には周囲に支えてもらいながら『頼りがいある主将』へと徐々に成長していく姿が見られた。主将を務めた経験はプレーの面に良い影響をもたらす。早慶対抗試合は単複どちらも勝利、特にシングルスではチームの勝ちを決定づける重要な働きをした。さらに関東学生トーナメントはシングルスベスト4、インカレもシングルスベスト8と、いずれも自己最高位を記録するなど抜群の安定感を誇ったのだ。

 今後は一線から退くが、庭球部で4年間逃げずに戦った経験は木元の今後の人生において力となるはずだ。

(記事 大島悠希、写真 林大貴氏)