最終回を飾る第6回に登場していただいたのは、昨年度から早大庭球部のヘッドコーチ並びに三菱電機・早稲田大学インターナショナルオープン(早稲田オープン)のトーナメントディレクターを務める石井弥起ヘッドコーチと、昨年の大会を統括として成功に導いた佐藤祥次(スポ3=大分舞鶴)のお二人。トーナメントディレクター、前統括というこれまでとは少し異なる立場から早大庭球部が今大会を運営する意義や、世界を見据えた早大庭球部としての考え方、そして大会の魅力に迫った。
※この取材は3月4日に行われたものです。
「世界へ羽ばたく選手のベースとなる大会」(石井)
石井ヘッドコーチ(右)が思う、早大庭球部が今大会を運営する意義とは
――石井ヘッドコーチはトーナメントディレクターですが、どういったお仕事をなさっているのでしょうか
石井 えー・・・いい質問ですね(笑)。
佐藤 (笑)。
石井 試合の簡単に言ってしまえば大会を運営する側のトップ、大会の責任者という立場ですね。
――具体的にはどういった内容でしょうか
石井 実際に運営とか頑張って大会をつくっているのは学生なので、去年だったら佐藤が学生の統括ということで本当にいろんなことを全てを仕切ってやっていました。僕はそれを見守るのと、チェックをするのと、大人にしかできないようなことの確認であったりをするということと。選手とのコミュニケーションを取ることであったり、ディレクターとしてはワイルドカードを決めることであったり、大会の時は、試合のコートをどこにするかを決めたりだとかですね。あと何かあったっけ?
佐藤 あとはスーパーバイザーとしてITF(国際テニス連盟)から派遣される審判の方がいるんですけど、その方々と連絡を取って、ドローをどうするだとか、選手が何を求めているかだとか、そういったことをまとめてやってくれていると思います。
――今年は例年以上に学生主体の色が強いとお聞きしましたが実際のところはいかがですか
石井 そうなんじゃないかなとは思いますけど、実際に僕もディレクターになったのが去年からで、去年も学生に任せていたので、僕的にはそんなに変わらないんですけど、もっと責任が重くなったのかなとは思います。さらに学生が主体になって運営しているとは思います。
――前統括の佐藤選手の目からはその部分はどう映っていますか
佐藤 去年まではパンフレットとかでOBの方に手伝ってもらっていた部分があったんですけど、今年は一番忙しいパンフレットを例に挙げると、そこの人数を増やすように加藤と長倉に伝えて、あまりOBの方の負担を減らすという目的でそういったアドバイスをして、実践的にやってくれたのでよかったかなと思います。スポンサーに挨拶に行くときにお手伝いをしてもらった部分などはあるんですけど、去年に比べて手伝ってもらう機会は減少しているかなと思います。
石井 相当減ったの?
佐藤 はい。特にパンフレットに関しては相当減ったと思います。
――今大会は名称が変更になりましたが、具体的にはどういった点が変更になったのでしょうか
石井 一番違うのはこの大会単発でATPポイントが取れなくなりましたということです。ただ大会の位置付けとしては、要は世界へ出て戦うために世界ランキングを上げたい選手の登竜門ではありませんけど、一番ベースとなる大会であるという部分は変わらないですね。ここから全てがつながっていくというのは確かなので、ここでステップアップして世界へ羽ばたいていくための大会ですね。ちょっと名称だったりシステムが変わっただけなので、根本的な部分というのは変わっていないとは僕は思っています。
――大会のレベル自体は上がっているというお話もお聞きしました
石井 実際上がっていると思います。ランキング的には。予選の枠が少なくなったので、ワイルドカード以外で出るチャンスが減ったという部分で難しくなったと思います。それに伴って今までのランキングで考えると出ている選手のレベルも少し上がったので、いいことではあると思うんですけど、単純に出るのが難しくなった印象ですね。
――早大の庭球部の選手にとってもより狭い門になったということでしょうか
石井 一応主催者の推薦枠というのがあるので、そこで推薦すれば4人と、小林雅哉(スポ3=千葉・東京学館浦安)が勝ち上がった予選のワイルドカードで一人出られるんですけど、あとはもうランキングを持っていないと出られない世界なので。去年までは枠が大きかったので世界ランキングを持っていなくてもナショナルランキングで出られるチャンスがあったんですけど、今年はちょっと厳しくなっていますね。
――お二人にお聞きしたいのですが、今大会を運営することで、早大の庭球部にはどういったメリットがあるとお考えですか
石井 僕の視点から見たら、学生が大会を運営することで色々なことを勉強できると思うし、それが社会に出てからも生きてくるいいチャンスだと思います。国際交流ができるということも非常に大きいと思いますね。普段選手だったらやらないような仕事をやらなければならなかったり、気づかなければならない部分は運営になってみないとわからないので、そういうことを学生のうちから直に触れて、主体的にやっているということは本当に勉強になっているなと思います。
佐藤 普段はずっと学生大会で試合をしていて、学生連盟の方が運営してくださっているというかたちで。練習をして試合に向けて頑張るということだけなので、学生連盟側の立場を経験することでお互いの立場の難しさとか、選手にとってどういった大会にしていくのかを考えることもできますし、さっき弥起さんがおっしゃっていたように、社会に出て求められる礼儀だったり、対応だったりを学生のうちから学ぶことができるので、そういった面ではすごいメリットだと思いました。
――佐藤選手はちょうど就職活動の時期ですが、統括の経験が生きている実感はありますか
佐藤 そうですね、リーダーとして全体を幅広い視野で見ることで、組織の課題であったり、全体が動いても個人が動かなかったりだとか、そういったときにどう対応するかを色々な人と話しながら自分が見て、いかに動かしていくかっていうのもそうですし、報告連絡相談といった部分を怠ってしまうと大きなミスにつながってしまうことも理解できたので、そういった面では僕にとっても他の部員にとっても重要なことだったなと思います。
――統括をやっていて課題だったり、逆に良かった部分というのは何かありましたか
佐藤 課題としては全体的に取り組むのが遅くて、大会1カ月前ぐらいに切羽詰まってやっていて。そういった面では今年は僕が世話人という立場で、統括のサポートをするところで長倉と加藤には早めにやるように口うるさく言っていたので、今年はすごく順調に進んでいるのかなと思います。良かった点としては全体的に大きなミスはなく、僕もやっているうちに徐々に慣れてきて、個人で動かない人にどう動かすかっていう部分でもお互いにコミュニケーションを取って動かすことができるようになっていったので、僕に取ってもいい経験ができたと思いますね。
――後輩の働きぶりとしては頑張っているなという印象ですか
佐藤 そうですね、去年に比べて頑張ってくれていて、協力的な人も多いので、そういう部分では助かっています。
――トーナメントディレクターとして、学生たちの働きぶりはどう感じていますか
石井 いや、素晴らしいなと思います。去年も話は聞いていましたけど、無事に大会を終わらせられましたし、よく頑張ってくれたと思います。今年も準備段階では佐藤も言った通り順調にきている感じはするので、あとは大会期間中に大きな問題なくというか、臨機応変に対応できるように準備を進めていくだけかなと思いますね。僕なんか全く出る幕がないというか(笑)、本当によくやってくれています。
――複数の大学が国際大会を主催していますが、テニス界から見た日本の学生テニスの位置付けはどのようなものだとお考えですか
石井 難しい質問ですね。世界的に見たらまだまだなレベルだと思うんですけど、でも確実にこの15年、20年ぐらいでレベルが上がってきているのは確かです。僕も現役の頃から早稲田で練習させてもらっていましたけど、その時も早稲田は強かったですし、レベルの高い人もいたけど、それでもここ10年ぐらいの日本の学生のレベルは上がってきたなと思います。それは1つは大学ということで環境が整っていること。それと同時に指導者の数が増えてきたことによって、大学の環境をより活かせるようになってきたこと。学生からも少しずつプロで活躍する選手が増えてきて、大学に行ってからでもプロの道に行けるんだっていうことが多くの人に見えてきているということは確かなので、そういったことで大学における層が厚くなってきていると思います。ただ、テニスを卒業してからもやる人っていうのは一握りでもあるので、そこらへんは難しい部分ではあるんですけど、本当にレベルは高くなってきていると思います。
――その中で、現在王座アベック13連覇を達成している早大の庭球部というのはどのような立ち位置と捉えていますか
石井 その通り、チャンピオンじゃないですか。ずっと学生テニスを引っ張ってきている存在ですよね。それはもう先輩方が連覇をしていなかったとしても積み上げてきたものがあって、10年以上勝ち続けていると思うので。ただその数字というのは奇跡に近くて、それをやり続けていることは単純にすごいこと、素晴らしいことだと思います。早稲田が他の大学よりも少しだけピントを合わせる能力が高いのかなと。例えば王座に向けてだとか、やることを明確にしてみんなの意識を同じ方向に向かわせるのはうまいのかなと思います。
――選手の立場からもピントを合わせる能力が高いというのは感じますか
佐藤 そうですね、早稲田には高校のトップの人がずっと全国各地から集まってきているので、王座やインカレといった主要な大会に向けて練習やトレーニングから照準を合わせる能力はとても優れている選手が多いのかなと思います。
『早稲田らしさ』
統括として大会の運営を指揮してから1年。今年度の大会は佐藤の目からはどう映るのか
――今大会、早大だからこそのポイントは何かありますか
佐藤 大学テニスの中で一番強い選手が多い早大で、イベントでそういった選手とテニスができる点であったり、全日本やデビスカップに出場した経験のある弥起さんにテニスを教わったりできる点はすごい魅力的かなと思います。今までテニスを知らなかった方でも気軽に体験できる値段設定でもありますし、こういった機会からテニスに興味を持ってくれることもあると思うので。早稲田の庭球部が応援してもらえるように、この大会だけでなく、今後の活動でも尽力していければなと思います。
――石井ヘッドコーチは選手としてこの大会に出場なさった経験もありますが、選手の立場、あるいはコーチの立場として今大会の特色を感じる部分はありますか
石井 引退試合はこの大会でした。土橋さん(登志久、平元教卒=福岡・柳川)に出ろって言われて(笑)。特色はやっぱり学生が頑張っているというところじゃないですか。そこに尽きると思います。
――今大会を運営する上で、数多くの役職がございますが、割り振りはどのように決まるのでしょうか
佐藤 統括の加藤と長倉が去年経験した僕とかに相談しながら、基本的に責任感の強い人とかを役職のトップに立たせて、部下を引っ張っていくじゃないですけど、そういった部分でも成長できるように。
石井 任命するの?「じゃあお前これね」って。
佐藤 任命します。それは去年も今年も変わっていないですね。だいたい人数だけ大まかに決めて、トップを決めて、下の人数を決めるというかたちです。あまり仕事量に差が出ないようには選びました。
――役職によって仕事の差は大きいのでしょうか
佐藤 そうですね、基本的にパンフレットだったり、忙しい役職はそこだけに専念させるようにして、大会期間中は審判とかにに活躍してもらって。大会の前と後であまり差異が出ないように選びましたけど、実際に蓋を開けてみると差が大きい部分があったかなと思います。それは今後続けていく中でどんどん改善していければなと思います。もっと人数を増やすのか、どうするのかというところですね。
――統括の方はどうやって決まるのですか
佐藤 僕らの時は学年で話し合って決めました。とりあえず男女一人ずつという感じだったんですけど、僕らの一個下の代は男女比の差が大きいので、そこで女子を選んでしまうと、ということで今回は男子から2人選びました。
――石井ヘッドコーチから何かアドバイスだったりはありませんでしたか
石井 もう決まってましたね。
佐藤 僕らが決めて、これでどうですかっていう提案をして、オッケーをもらう感じです。
石井 「どうですか」じゃなくて、もうそれで確定ですね(笑)。
――坂井勇仁前主将(スポ4=大阪・清風)が「部としてもこれからは世界に目を向けていけるように」とお話しされていたのですが、石井ヘッドコーチのお考えとしてはいかがですか
石井 もちろん、それが今後の早稲田に課せられたもう一つの大きな課題じゃないですか。日本一にこれだけ長くなって、これから目指すものはなんですかと言われたら、僕としてはもちろん学生で日本一であり続けるということは大前提として、あとは早稲田から日本代表であったり、五輪であったり、グランドスラムに出場できる選手をより多く輩出できるように育てていくのが早稲田の使命じゃないかなと思っています。今大会はそれのいいステップになればいいんじゃないかなと思います。
――世界に目を向けた場合の、ここまでの早大庭球部としての手応えはいかがですか
石井 卒業生がプロになって、グランドスラムだったり、世界で頑張っている人たちはたくさんいますから、やっぱり早稲田が引っ張っているなというのは感じますけど、それと同時にもっと活躍する選手を出したいなと思います。特に男子はまだまだそういうレベルに達している選手が少ないかなとも思います。頑張っている選手はたくさんいますし、ただもう一歩かなという部分もあるので、大学出てからも世界のトップで活躍できるんだぞというところをもっと示していければなと思います。今大会はそういった世界に向けた一つのきっかけにもなっていると思います。
――佐藤選手は昨年統括という立場で大会の運営を仕切って、何か印象深いことなどはありましたか
佐藤 うーん・・・。あまり良くないことの方が印象に残っていますね(笑)。ヤバかった事案が2個ぐらいあって。やっぱり、思うように個人を動かせなかったことが印象に残っていますね。
石井 やっぱり統括となるとね、やらなきゃいけないことも多いから、そういうことの方が覚えてるんだろうね。
佐藤 そうですね。辛かったことの方が(笑)。でも選手からはとてもやりやすかったっていう高評価をいただけた大会でもあったので、そういう大会の運営に携われたっていうことは思い出深いですね。
――前統括として、後輩たちに期待することなどはありますか
佐藤 さっき言った問題点などは全部今年の統括に言って、やらなかったら統括から各役職のトップに催促するように言いましたし、もしそれでやらなかったら統括として無理矢理にでも言い聞かせるだったり、二人で協力して。統括は組織を動かす経験もできますし、大変な役職ではあるんですけど、誰しもができるわけではない貴重な体験だと思うので。長倉と加藤はできる二人だと思っているので、うまくやれると思います。
――今大会の注目点や見どころは何か挙げられますか
石井 僕の立場から言ったら、早稲田の選手の活躍ですね。予選もワイルドカードに4選手出すし、本戦も3選手出すので、試合をしている選手がどういった活躍をしてくれるのかっていうのは注目してほしいです。あとは話の続きですけど、出ている選手だけではなくて、学生のスタッフが頑張りを見せてくれているので、そこにも注目して、暖かい目で見てくれればなということに尽きますね。
佐藤 さっき弥起さんがおっしゃられたように、裏方も頑張っている部分が多いので、そういうところには目を配っていただければなと思います。特に今回僕はイベントが気になっていて、去年と比べて非常に魅力的で、値段もお手頃なので、人が来やすいような日にちに設定しているので。去年よりも多くの観客に来てもらうために、イベントやグッズの担当が頑張っているので、そういった部分では期待しています。
――イベントにはどういった人に参加してもらいたいですか
佐藤 テニスをやっている人でも、やっていない人でも関係なく。小さい子どもでも遊びながらテニスに触れることができるので、こういった機会をきっかけにテニスに興味を持ってもらえればなと思います。非常に貴重な機会だと思いますし、さっきも言ったんですけど、これが早稲田ならではだなと思います。
――早大の注目選手を挙げるとすればどの選手になりますか
石井 注目選手は全員ですけど…。まず間違いなく出ると思うので言っちゃいますけど、島袋(将、スポ3=三重・四日市工)と田中(優之介、スポ2=埼玉・秀明英光)はナショナルのメンバーなので、日本を代表する学生トップの二人と、プラス、ジュニアのときには日本のトップだった千頭(昇平、スポ2=愛知・誉)の3人は楽しみですね。
佐藤 白石(光、スポーツ科学部入学予定=千葉・秀明八千代)は。
石井 白石もですね。白石も出場する予定です。インターハイ3冠で、高校の時から注目選手なので。
――今大会を一言でで表現するとすればどういったものになるでしょうか
佐藤 『早稲田らしさ』ですかね。雨が降った場合でもインドアで試合ができるっていうのは(大学のITF男子サーキットでは)慶大とここだけなので、天候に左右されることなく試合ができるということと、イベントも選手のレベルが高い早稲田ならではだと思うので、試合の面に関しても、イベント含む裏方の面に関しても、色々な人が動いてやっているので。学生主体っていう面でも僕らが大学の中では率先しているので、表向きでも裏向きでも早稲田らしさを表現できる大会なのかなと思いました。
石井 被るけども、『学生の大会』ですね。大人は本当にサポートだけですし、僕なんかはもう任せているので、本当に学生の大会だなというふうに思っているので、そこを見てもらえればなと思います。
――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします
石井 会場に来てください!
佐藤 イベントに参加したり、試合を見たりとテニスにたくさん関わることができるので、一人でも多くの方にテニス、そして早稲田を知ってもらうために僕らも頑張るので、ぜひ会場に足を運んでいただきたいと思います!
――ありがとうございました!
(取材・編集 石﨑開、林大貴)
◆石井弥起(いしい・やおき)(※写真右)
1977(昭52)年4月29日生まれ。現役時代の主な戦績は全日本選手権男子シングルス優勝(1998年)、ダブルス優勝(2001年、2006年)。デビスカップ出場(2000年、2001年)、シングルス3勝2敗。昨年度より早大庭球部ヘッドコーチに就任し、同時に今大会のトーメントディレクターも務める。
◆佐藤祥次(さとう・しょうじ)(※写真左)
1997(平9)年11月16日生まれ。大分舞鶴高出身。スポーツ科学部3年。統括の立場を退いても世話人として後輩たちの大会の運営を見守る佐藤選手。後輩たちに劣らない、大会成功にかける強い思いが伝わってきました!