【連載】『令和元年度卒業記念特集』第60回 百田恵梨花/水球

水球男子

『有終完美』

 「個人を生かしつつ楽しくやっていて、最後まで諦めないチーム」。当時高校3年の百田恵梨花(社=埼玉・秀明英光)は早大女子水球部にそんな印象を抱いた。全日本学生選手権(インカレ)で、ペナルティーシュート戦の末銅メダルを獲得した試合を見てのことだった。それから4年後、主将を務めた百田が目指したチームも、またそんなチームだった。しかし、それを達成するためにはチームを率いる主将として、想像以上の頑張りが必要だった。後輩とのコミュニケーション、練習メニューの作成、選手としての自分の役割の見直し・・・。自分が理想とするチームをつくり上げるために奮闘した、最後の1年間を中心に振り返る。

 高校は埼玉県屈指の強豪校だったため、あまり試合への出場機会はなかった。しかし早大では人数が少ないこともあり、1年時から試合に出場。そのため「出られることが楽しかった」という。また出場できただけでなく、インカレで2位という好成績を収めるなど、成績面でも充実した内容だった。しかしメダル獲得という結果は、先輩たちに付いていき、気付いたら取っていたような感覚の出来事。自分が強く関わった気持ちは少なかった。

 『個人を生かして全員が楽しく水球をする』。そんなチームを全員でつくりあげたいという気持ちがあるから、後輩たちの考えも大切にしていきたかった。しかし、今まで下の学年とコミュニケーションを積極的に取っておらず、自分が伝えたいことがちゃんと伝わっているのか、自分の意見をどう思っているのか、不安に思うことが多かったという。互いに意見を出し合える関係を築くためには、上下関係が強すぎても良くない。そう思った百田は、水球以外のフランクな会話も積極的にするように。気軽に話せる関係づくりを目指した。個人の技術を高めていくためには、練習メニューの作成も重要となる。そこで主将が全て決定するのではなく、後輩がやりたいと言った内容を取り入れて、意欲的に取り組める工夫をした。4年になって、チームをまとめる立場になったこと以外に選手としての変化が起こる。3年時までは攻撃を専門とするポジションに就いており、百田自身も「ここぞという場面で決められる選手」を理想としていた。しかし、1個上の代が卒業したことで、ディフェンスを中心に行うポジションが人員不足に。元々の役割を果たす他に、あまり得意としないディフェンスポジションも担うことになった。また、ゲームを組み立てる役割も必要なのではと考え、ゲームメイクにも挑戦。さらに試合中は誰よりも声を出し、チームを鼓舞した。

 

 主将として、最高学年として、プレーでもそれ以外の場面でも奮闘してきた百田。そんな1年間の集大成として臨んだ試合が、2019年9月に行われたインカレだ。目標はメダル獲得。勝たないといけない。大きなプレッシャーと戦いながら、なんとか3位決定戦に駒を進めた。試合の相手は、宿敵・国士舘大。「いつも最後は国士舘と当たる。なんとしてでも勝ちたいと思った」。強い思いで臨んだ試合は、終了時間ギリギリで追いつきペナルティーシュート戦へもつれ込む白熱の戦いに。これは、百田が高校3年で見た試合展開と同じだったーー。しかし、7本目のシュートが決まらずくしくも敗北。あの時見た景色と、同じ結末にはならなかった。

 「こんなこといったら言い訳に聞こえるかもしれないけど、自分では納得できたしやり切ったと思える」。引退後、百田がこう力強く語るには1つの理由があった。それは、百田と同期の男子部主将からの言葉である。「お前がやってきたことは間違いじゃないよ」。その言葉が百田の胸に強く刺さった。主将としての1年。慣れないことも多く、自分の意見が、プレ―でやろうとしていることが正しいのか、うまくできているのか不安に感じることが多かった。しかし、共に4年間水球をやってきた仲間からそう言ってもらえたことが、自分の自信につながった。そして百田の頑張りは、しっかりと後輩にも伝わっていた。「本当にやりやすかった」、「楽しかった」。そんな言葉を貰ったという。百田がやってきたことが正しかったと、証明された瞬間であった。

最後のインカレでシュートを放つ百田

 後輩たちには「一緒にチームをつくってくれたので、全然心配はしていない。もちろん応援しているし、頑張ってほしい」とエールを送った。頼もしい下級生らに、『インカレでメダル獲得』という惜しくも百田の代では達成できなかった目標は託された。水球を通して学んだ挨拶や礼儀、そして仲間を大切にし、百田は新たなステージへと踏み出していく。

(記事 飯塚茜、写真 小山亜美)