個人戦の大一番・全日本シングルス選手権(全日本シングルス)。群雄割拠のこの大会でことしもエンジの選手が活躍した。二日目には学生ながら4人が進出する。しかし、アジア選手権日本代表選考会も兼ね、ますますハイレベルな戦いを強いられた今大会。いま一歩及ばず、ワセダからチャンピオンは出なかった。
★見事!因が8強に名乗りを上げる
1年生らしく思い切ったプレーを展開した因
ルーキーながら見事8強に名を連ねたのは因京将(スポ1=石川・能登)だ。5回戦、実業団の選手相手に0ゲームで勝利し、勢いに乗る因。続く6回戦では西の精鋭・平久保雄己(和歌山県庁)と激突した。両者一歩も譲らず、取っては取り返しのシーソーゲームを展開する。ゲームカウントは3-3までもつれ、勝負はファイナルゲームへ突入した。しかしここから新鋭らしい勢いのあるプレーを披露。最後までしぶとくラリーを続けた因に軍配が上がった。しかし準々決勝の相手は優勝筆頭候補の長江光一(平22スポ卒=現NTT西日本広島)。ベースライン上に深く正確に打ち込まれる打球に、好機をつくり出せず1-4でゲームセット。「全然太刀打ちできなかった」と悔しさを覗かせた。またその一方で、「長江選手を見習って、フットワークを強化したい」といった反省も忘れず。トップレベルの選手との一戦は因をさらなる成長に導く好材料になったようだ。日本の最高水準のテニスを知ったルーキーはどう進化していくのか。今後の活躍に注目だ。
★昨年の記録を大きく塗り替えベスト16
どんな苦境であっても粘り強く戦った安藤
今大会で1年間の成長を見せたのは安藤優作(社2=岐阜・中京)。昨年は2回戦敗退という成績からことしはベスト16と大きな飛躍を遂げた。1日目の最終戦にダブルスの第一線で活躍している小林幸司(ミズノ)を4-1で撃破すると、2日目の初戦は村上雄人(NTT西日本広島)と対戦。1-3という出遅れる形で始まった村上戦。しかし「しっかり修正できれば、攻めているのは自分」と、厳しい戦況を前にしても冷静さを欠くことはなかった。スライスやシュートボール、多彩なショットで相手を崩すと要所で得意のネットプレーが光る。見事、挽回を果たし4-3で白星を飾った。続く6回戦、今大会の優勝者・増田健人(和歌山県庁)と火花を散らした。「凡ミスが続きもったいない始まり方になってしまった」と振りかえるよう、自身のミスから後手に回りあっという間に0-3に追い詰められた安藤。もう後がない戦況だったが、昨年の1年間で様々な場数を踏んできた実力を発揮する。「どうやって立て直すかしっかり考えて、それを信じて思い切り振れた」。ボールを繋ぎ、ラリー展開に持ち込むと、相手に触らせないカウンターで圧倒。力を振り絞り2ゲーム取り返した。しかし背水の陣の挽回もここまで。ツイストで仕掛け、飛びついたボレーはラインの外に落下。最後まで強気の姿勢を貫いたがいま一歩及ばなかった。しかし「ここまで勝ち残れると思っていなかった」、こう笑顔で今大会を振り返った安藤。名だたる強豪ぞろいで厳しいドローであった中、ベスト16の壁を突破したことは確かな自信になったに違いない。
★一歩及ばず、決勝進出ならず
昨年度覇者の船水はファイナルゲームの死闘の末敗れた
前年度、空前絶後の兄弟対決を制し、最年少優勝を飾った船水颯人(スポ2=宮城・東北)。背負った前回王者の称号、そして優勝者に与えられる日本代表の座――。決して負けられない戦いだった。第一シードの船水は順当に勝ち上がり準決勝へ。相手は後輩・因を抑えて駒を進めた長江だった。幾度目になるかというこの対戦カード。お互いに手の内を知り尽くした相手だ。さきに先行したのは船水。得意の逆クロスへのツイストで長江を前に誘い出し、脇を抜く鋭いショット。2-0まで引き離す。しかし「このまま終わるはずはないと思っていた」と船水が予想した通り、日本のエース長江が火を噴いた。確かな競技歴に裏打ちされた正確なショットで攻撃の幅を狭められ、あっという間に3ゲーム挽回許す。ここで船水も執念で1ゲーム取り返し3-3のファイナルゲームに突入。お互いにリードを許さず緊迫した試合を展開した。しかしついに長江にマッチポイントを握られる。「日本代表を自力で取りたいという思いが裏目に出てしまった」。船水の代表に懸ける熱い思いが皮肉にも体を固くした。サイドラインいっぱいを狙い、深く打ち込んだ船水の打球はわずかにサイドアウト。目の前に迫っていた優勝の扉は惜しくもここで閉ざされた。「またしっかりと突き詰めて出直してくる」。試合後、こう語った船水。悔しい黒星、しかし立ち止まっている暇はない。誰より己に厳しいエンジのエースは、この敗戦を糧にさらなる飛躍を誓う。
(記事 三佐川唯、写真 吉澤奈生、三佐川唯)
★PICK UP
試合を終えた内本と船水(右)
早大対決として見逃せない一戦を繰り広げたのは船水雄太(平28スポ卒=現NTT西日本広島)VS内本隆文(スポ1=大阪・上宮)。昨年度のキャプテン対注目ルーキーという、早大の新旧スター対決にギャラリーも集まった。「船水さんのペースだった」(内本)と、主導権を握ったのは船水。コートを広く使い左右に翻弄(ほんろう)する船水のショットに、内本は先にミスが出てしまう。途中、ツイストなども織り交ぜる挽回を図るも上手く対処され1-4でゲームセット。新旧スター対決は船水に軍配が上がった。試合後、「いま自分たちがいる環境に感謝して頑張ってほしい」と早大への思いを語った船水。立場は変われど、思いは変わらずワセダの栄光を願うかつてのキャプテンの姿がそこにはあった。
(記事、写真 三佐川唯)
結果
▽男子シングルス
船水颯人 ベスト4
二回戦
4-0 待木慶太(中京大)
三回戦
4-0 中山大翼(高知工科大)
四回戦
4-1 谷口睦(高田商業高校)
五回戦
4-1 九島一馬(ミズノ)
六回戦
4-2 内田理久(三重高校)
準々決勝
4-0 広岡宙(上宮高校)
準決勝
3-4 長江光一(NTT西日本広島)
因京将 ベスト8
二回戦
4-0 荒木彰吾(射水市協会)
三回戦
4-3 山根稔平(高田商業高校)
四回戦
4-2 吉岡真司(東ソー南陽)
五回戦
4-0 水澤悠太(NTT西日本広島)
六回戦
4-3 平久保雄己(和歌山県庁)
準々決勝
1-4 長江光一(NTT西日本広島)
安藤優作
二回戦
4-1 堀貴裕(TOD)
三回戦
4-2 倉本和広(NASTA滋賀)
四回戦
4-1 小林幸司(ミズノ)
五回戦
4-3 村上雄人(NTT西日本広島)
六回戦
2-4 増田健人(和歌山県庁)
内本隆文
二回戦
4-0 中村祐貴(熊本学園クラブ)
三回戦
4-0 浅間楓(岩手高校)
四回戦
4-0 野田和明(天理大)
五回戦
1-4 船水雄太(NTT西日本広島)
※2日目進出者のみ掲載
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コメント
安藤優作(社2=岐阜・中京)
――ベスト16という結果に関して
実はここまで勝ち残れるとは思っていませんでした。昨年も同じ大会に出ていて、2回戦目で負けてしまっていたんです。初日を勝ち残れて2日目に臨めたことがうれしいですね。きょうの第一試合も強い選手と当たったのですが勝ち残れましたし、優勝した増田選手と当たって負けてしまいましたが、結構戦えたことは自分の自信になりました。
――試合前の目標は
2日目に残ることが目標でした。なので、きょうの結果はプラスに捉えられますね。
――2日目を振り返って
増田さんとの試合は0-3で落としてたんですけど、そこから2ゲーム挽回できたので、最初のゲームとその次のゲームがもったいないプレーをしてしまっていたかなと思います。やっぱり入りからしっかりスイッチを入れてやっていけたらもう少し変わったと思いますね。
――村上選手との試合はいかがでしたか
そうですね、村上さんとの試合も0-2から一個とって、1-3という出遅れる展開だったんですけど、そこまで内容的には悪くはなかったんです。しっかり前に出てボレーを決められたり、チャンスボールで厳しいところを狙って攻めた結果アウトになってしまったり。そういったところをしっかり修正できれば、こちらが攻めている戦況ではあったので、そこだけ集中して打っていたらうまく挽回できました。
――特にファイナルゲームを振り返って
相手が短いボールを使ってきてる印象はあって、僕もラリーが結構よく打てていたのでうまく拮抗できたかなと思います。最後もデュースが続いて辛い場面はあったんですけど、
先に自分がポイントを取れていたのでそんなに焦ることはなくできたと思います。それが大きかったかなと。
――増田選手との試合では苦しい立ち上がりになりましたね
はい、凡ミスが続いてしまいもったいない始まり方になりました。2ゲーム挽回した時は、自分の中でどうやって立て直そうかしっかり考えて思い切り振れたのが良かったかなと思います。でも、チェンジサイズしてからは、勝ちを意識して無理に振ってしまったり、少し急いでしまった部分がありました。そういった場面が負けてしまった要因かなと思います。
――立て直しした時に意識したことは
無理なボールはまずつないで、ゆっくりめにラリー展開に持って行きました。それからは真ん中にボールを集めたり、サイドに打たれたボールはカウンターで返せるようだったら狙いに行ったりを意識していました。そしたら結構相手も苦しそうだったんで、その時のゲームはうまく崩せていたかなと思います。ただ、増田さんはサーブがいいのと凡ミスの数が少なくて、比べると僕の方がやっぱり最初は特に凡ミスが多かったですし、最後も勝ち急いでミスが出てしまったので、そこがしっかり粘れなくてはいけないなと思いました。
――最後に今年度の個人戦の目標をお願いします
このあいだ行われた春リーグではベスト32で終わってしまいました。これから東日本、インカレと大きな大会が控えています。昨年良い成績を残せた分、勝たなければというプレッシャーは大きいのですが、まだ2年生なので向かって行って昨年以上の成績を残せるように頑張りたいです!
因京将(スポ1=石川・能登)
――今大会の意気込みは
全日本シングルスに出場するのが、高校2年生の時に初めて出て、一回戦敗退、そして今回ということで二回目でした。ことしは1日目を勝ち残って2日目に残るということを目指してやっていました。
――結果としてベスト8まで残られました
そうですね、ドローが良かったというのもありますが、8決めの時にファイナルであそこまでもつれても勝ちきることができてうれしかったです。
――2日目全体を振り返って
そうですね、やっぱり1日目とはレベルが全然違くて、特に準準決勝の長江選手との試合ではフットワークや打つコースなどからこれがトップレベルの選手かということをすごく感じました。全然太刀打ちできなかったことにやはり悔しさが残ります。
――長江選手との試合を通して取り入れたいと思ったことは
やはり次の球に対するフットワークというものが自分とは違うなと感じたので、フットワークを伸ばしたいなと思いました。あと、自分はフォアが自信持っている部分なのでそこをもっと鍛えていきたいです。
――逆に現状の自分が通用した部分は
相手が決めに来た球をカウンターで返すことです。でも長江さんの時は、かなり返球の球が深くて僕が下がって打たされることが多くうまく自分の得意とする部分が出せませんでした。深い打球だけでなくツイストもあってあたふたしてしまった部分も大きかったです。
――今年度の個人戦の目標は
春リーグで負けてしまったので、まだインカレの出場権をダブルス、シングルスどちらも得ていないんです。校内戦でしっかり勝ち切ってまずは出場権を得たいです。インカレに出られたらベスト4以上を目指して頑張ります!
内本隆文(スポ1=大阪・上宮)
――本日の試合を振り返っていかがですか
船水さんとの試合はいつも持久戦になるんですけど、きょうもそうで、結局そういった戦況の中で船水さんのペースになってしまった部分がありました。すごくつなげられて、自分からポイントを取りにいけたら良かったんですけど、こっちも合わせてつないでしまったことが敗因かなと思います。
――ツイストなどで仕掛けている場面もありました
はい、そうですね。途中から続けるのがしんどくなってしまって、ツイストとかで仕掛けていこうと思ったんですけど、それも全部うまく対処されてしまいました。攻めたボールも甘く入ってしまったので、もっと厳しい場所を狙っていかなければなと反省点です。
――昨年度のワセダの主将でしたが意識はされましたか
やっぱり、他の選手よりも勝ちたいなという気持ちは大きかったです。緊張はあまりしなかったんですけど、思いは今までの試合よりも懸けていました。
――今後の個人戦での目標は
やっぱりこういった大会で決勝まで行きたいですし、天皇杯といったダブルスの大会でも活躍できたら良いなと思います。
船水颯人(スポ2=宮城・東北)
――前年度王者として臨まれた大会でした
そうですね、初日は動きも固くなっていたんですけどだんだん勝つに連れて動きも良くなってはいました。関東選手権から調子も上げてきていて、調整もこの大会に標準を合わせてやってきていて、サーブとかショットとかも最後の方が仕上がっていたとは思います。ただ、ことしは特別に代表の枠がかかっていましたし、勝ちを意識してしまった部分があって、懸ける思いが強かった分すごく悔しいです。またこれから頑張っていきます。
――初日は固くなったということですが、2日目の調子は
2日目はいつも通りとは言わないですが、緊張などはあまりなくやること決めてしっかり入ることができました。最後5-5で迎えた1本が入らなくて、そういったところの1本が勝負の行方を左右するのかなとは感じました。またしっかり突き詰めて練習して出直して来なければという気持ちです。
――3位という結果をどう捉えていますか
内容は別として負けてしまったんですけど、最後も自分が決めた通りに打とうとしてミスしてしまったのが悔しいですね。自力でやはり代表枠を勝ち取りたかったですし、そういった思いが強い人がやはり勝負を決めるんだなと。増田さんの決勝戦をみていて思いました。
――2日目のプレーを振り返って
そうですね、いつも通りではないにしろしっかり自分のプレーはできていたと思います。去年と違うやり方だったり、新しく自分で試してやった作戦もありました。去年より体力的にも余裕もありましたし、そういったことを含めて、優勝はできませんでしたがここまで勝ちあがれたというのは収穫ですね。これをまた弾みにして頑張っていきたいです。
――具体的に試したこととは
去年がツイストがちょっと多かったかなと思ったので、今回は体力、技術的にも積み上げてきましたし細かい技も入れつつですが、もっと激しくぶつかっていこうと考えていました。
――とりわけ長江選手との試合を振り返って
そうですね、2ゲーム先行してはいたんですけどそのまま終わるはずはないとずっと思っていました。そこから僕の簡単なミスが続いてしまって、最初の2ゲームは勝ちが見えたわけでも何ともなくて、シングルスの勝利の流れがどっちに流れるかわからないというのはすごく身をもって体感しました。
――ファイナルゲームは特に振り返っていかがですか
もう割り切ってやるしかないと思っていました。自分が思った通りの場所に迷わず打っていましたし、でもラストでそれが入らなかったのが、大きな差だったなと振り返ってみて思います。やはり日本代表を自力で取りたいという思いで力んで裏目に出てしまいましたね。
――今後の目標は
これから代表メンバーが発表されるのでまだどうなるか分からないのですが、自分は日本代表として戦うという気持ちを強く持って頑張っていきたいです!
船水雄太(平28スポ卒=現NTT西日本広島)
――今大会の意気込みは
ことしは日本代表の選考も兼ねていたので、昨年の雪辱を果たすというよりは一位しかないという気持ちで臨んでいました。入賞したんですけど、一位しか意味がないというか、それだけ一位になるテニスを目指してこの大会に調整してきました。
――3位という結果に関しては
昨年と同様にまた足をつってしまって、タイムを取ったんですけど、それでもダメで。やっぱりタフな試合をこなすだけの体力が追いつかなかったのが悔しいし、もったいなかったなと思います。
――準決勝を振り返って
そうですね、もっとちゃんとした状態で戦いたかったです。相手にとっても楽な試合だったと思います。ナショナルチームの合宿でも、何度も対戦していて手の内を知り尽くした相手だった分、コンディションが万全でできなかったことが悔しいですね。
――社会人になってから調子はいかがですか
そうですね、仕事もやっていて、そのあと練習という形で学生の時とは違ってかなり練習時間も限られていますよね。でも逆に、学生の時はあれもこれもといろんなことに手を出していたんですけど、社会人になってからは自分はこれをやるべきだと明確に焦点が絞れてやれているので非常に環境には対応できているのかなと思っています。
―― やはり社会人のほうが大変でしょうか
そうですね、仕事が終わったあとに練習しているので、学生時代は恵まれていたなとも思います。でも社会人になっても、かなりテニスに理解ある環境ですし、トップレベルの選手の中で日々練習できているので楽しいです。
――NTT西日本広島チームの雰囲気は
少数精鋭で、かなり練習の質も高いです。一本一本、普段から集中力を高めていかなければいけない練習ばかりで、非常に良い環境の中で揉まれて頑張っています。
――今年度の目標は
社会人1年目という節目で、大変なこともあると思いますが、そこで色々なことに負けずに常に出場した大会で自分のベストを出し切れるように頑張ります。
――社会人として母校へのメッセージをお願いします<
まだ社会人になったばかりで何とも言えないんですけど(笑)、いま自分たちのいる環境に感謝して上級生、特に4年生は悔いがないようやりきってほしいです!