今年5月にアイスダンスカップル結成を発表した田中梓沙(オリエンタルバイオ)と早大の西山真瑚(オリエンタルバイオ/人通4=東京・目黒日大)の「あずしん組」が国内デビュー戦を迎えた。6組のアイスダンスカップルが集結し、それぞれの演技で会場を大いに盛り上げた今大会。上位勢が接戦を繰り広げる中、田中・西山組が銀メダルを獲得した。
★リズムダンス(RD)
RDの演目は、「80年代音楽」という規定の中、異色の選曲とも言える『スーパーマリオブラザーズ』。西山の元所属クラブのアンドリュー・ハラムコーチと、日本拠点の時に教えを乞う樋口豊コーチの2人がリンクサイドに立つ中、演技を迎えた。2選手ともに緊張した面持ちでスタートポジションについたが、プログラムの始まりを告げるゲーム音楽が鳴ると一気に表情は晴れやかに。最初の要素であるパターンダンスタイプステップシークエンスから、次々と鳴る効果音を、コミカルな振り付けやおどけた表情も織り交ぜながら一つ一つ拾い、その度に観客からは歓声が上がる。続く要素のツイズルは、西山がレベル3の判定となってしまったものの、大きく崩れることはなく、息の合った実施を見せた。プログラム後半に入り、有名なマリオのテーマ曲が流れ、マリオの声の効果音も入ると、会場のボルテージも1段階上がり、その熱量に後押しさせるようにスピード感のある滑りが続く。緊張があったのか、後半のミッドラインステップシークエンスではやや硬さが見え、要素のつなぎで少しもたつく場面もあった。しかし、最後のローテーショナルリフトはしっかりレベル4を取り切り、キャラクターになり切ったポーズでフィニッシュ。国内デビューの演技で「らしさ」を存分に見せつけ、67・88点の3位で折り返した。
『スーパーマリオブラザーズ』を演じる田中・西山組
★フリーダンス(FD)
翌日に行われたFDで演じたのは、ロマンティック・バレエの代表作『ジゼル』。田中は柔らかなミントグリーンの衣装、西山は腕の部分にブルーのグラデーションが入った新しい衣装を身にまとって登場した。前日のRDでは表情にかたさがあったが、「(RDよりも)踊りやすい」というFDでは一転、明るい表情で氷に立った。2人が別々の方向を向くポーズを取ると、壮大な音楽が鳴り響く。第2幕から始まるあずしん組の『ジゼル』では、ジゼルが亡くなっているところから物語がスタート。演技冒頭のコレオグラフィックエレメンツから一気に会場を2人の世界観に引き込むと、切なげな表情でそのストーリーを表現していった。音にぴったりと合った動きと滑らかな滑りで魅了しながら、ツイズルやリフトなどのエレメンツを丁寧に、かつダイナミックに決め、スピンの中でも柔らかな表情や手の動きで魅せる。2人で目を合わせながら披露したロングリフトでレベル4を獲得するなど、順調に演技を進めていった。そして演技後半は、「2人で踊れる楽しさや儚さ」を表現する『ジゼル』の第1幕へ。晴れやかな笑顔でステップを刻むと、会場は温かな歓声と手拍子に包まれた。最後は西山が膝をつき、田中の手に顔を寄せるポーズを取ってフィニッシュ。スタンディングオベーションを送る観客に丁寧にあいさつをし、リンクをあとにした。
キスアンドクライではアンドリューコーチが「エレメンツがクリアだった」と声をかけ、田中・西山が笑顔で頷きながら演技を振り返った。「自分たちが練習でやってきたことを全部本番に落とし込むことができた(西山)」、「練習通りこの試合でやり切ることができて良かった(田中)」と充実感を示した2人の得点は103・18点。得点がコールされると会場がどっと沸き、選手本人も驚きの表情を見せた。総合では171・06点をマーク。RDから順位を上げ、銀メダルに輝いた。
FDの『ジゼル』を演じる田中・西山組
国内デビュー戦で見事銀メダルという成績を残した田中・西山組。シーズン前、西山は「田中・西山組というアイスダンスカップルがいるんだよということを日本のたくさんの方に知ってもらって、将来が楽しみなカップルだと思ってもらえたい」と語っていた。その言葉の通り、期待のアイスダンスカップル、「あずしん組」を存分にアピールした大会になったことだろう。試合をまたひとつ「クリア」したあずしん組の次なる舞台は全日本選手権。国内最高峰の舞台での2人の演技に期待が高まる。
銀メダルを手に表彰台に立つ田中・西山組
(記事・写真 及川知世、吉本朱里 )
結果
▽シニアアイスダンス
田中・西山組
RD 3位 67・88点
FD 2位 103・18点
総合 2位 171・06点
コメント
田中梓沙(オリエンタルバイオ)・西山真瑚(オリエンタルバイオ/人通4=東京・目黒日大)
※RD後、囲み取材より抜粋
――RDを終えての感想をお聞かせください
田中 少しずつミスがあったのですが、二人で最後まで諦めずに滑り切ることができてよかったと思っています。
西山 田中・西山組として初めての日本の大会に出場することができて、日本のお客さんの前で滑ることができて、自分たちのスケートができてとても楽しかったし、嬉しかったです。
――競技がシングルからアイスダンスに変わって、トレーニング地も変わって、大きな変化が一気にやってきたと思うのですが、田中選手はそういった変化をどのように受け止めて、何をパワーにして頑張っているのでしょうか
田中 モントリオールで真瑚くんと一緒にアイスダンスの練習ができているということが、自分の中で一番大きくて、それプラス、世界で戦っている選手の皆さんと毎日一緒に練習できることがとても幸せです。
――シングル時代からすごく踊れる選手だったと思うのですが、アイスダンスという種目に出会って練習をして行って、自分の適性のようなものが更に大きくなったなとは感じますか
田中 いつも練習させていただいているところの選手の皆さんが本当にすごくて、もっともっと本当に頑張らないダメだなと思いながら毎日練習をしているので、徐々に上がってきていると思います。
――RD『スーパーマリオブラザーズ』は、どのような話をしながら振り付けを作り上げていったのでしょうか
西山 正直僕たちは組んで間もない状況でモントリオールに行って、モントリオールに行ってすぐ振り付けが始まるという感じだったので、僕も久しぶりのアイスダンスで、梓沙ちゃんは初めてのアイスダンスだったので、振り付けというよりはダンスの技術を教えてもらいながら振り付けという感じでした。初めのうちはマリオの世界観などを説明してもらっている暇もなく、厳しい指導を受けながら振り付けをされている感じだったので、大変だったなという思い出です(笑)。
――だんだん馴染んできた感じはしますか
西山 はい。時間が解決してくれた感じで、徐々にマリオの世界観を自分たちも意識しながら滑れるようになってきました。
――RDの演技が終わってからコーチとはどのようなお話をされましたか
西山 アンドリュー先生からは、ちょこちょこミスはあったけど全体的にパワフルでよかったんじゃないかと言ってもらいました。
※FD後、囲み取材より抜粋
――今日の演技を振り返っていかがですか
西山 今日は自分たちが練習でやってきたことを全部本番に落とし込むことができて、お客さんもものすごく盛り上がってくださって、すごく滑っていて楽しい時間でした。
田中 まずこのフリーを練習通りこの試合でやり切ることができて良かったなと思います。
――結果についてはいかがですか
西山 もうびっくりです。すごく高く評価していただけて、素直に嬉しく受け止めています。
――『ジゼル』という曲は誰が選ばれたのですか
西山 2人で選びました。
田中 真瑚くんが曲を持ってきてくれて、『ジゼル』どう?という感じになって、そのまま先生も良いとおっしゃったので決まりました。
――2人の中でどのようなストーリーを描かれているのですか
田中 第2幕から始まるのですが、その時はジゼルはもう亡くなっていて、あまり笑わないというのを意識してやっています。第1幕が途中から始まるのですが、その時は2人で踊れる楽しさや、儚さを表現しています。
――アンドリュー先生からはどんなお話がありましたか
西山 (アンドリュー先生に)これまでもビデオなどは送っていたのですが、フリーダンスに関しては今まで見ていた中で一番良かったと言ってもらったので、すごく嬉しかったです。
――試合にうまく合わせられた要因は
田中 フリーの方が多分自分たちは踊りやすいと思うので、いつも通りやればちゃんと結果につながってくるかなと、今日は挑みました。
――(西山選手へ)フリーの衣装については
西山 カナダの大会では、(腕の部分の)衣装の生地が間に合わなかった関係でシンプルな衣装だったのですが、先週、日本に出発する2日前にようやく生地が届いて急いで衣装さんに作っていただいて、新しくなりました。