紀平、大きなミスなく『タイタニック』の演技を届け「本当に幸せ」/女子FS

フィギュアスケート

 ショートプログラム(SP)で悔しいミスがあり、11位発進となっていた紀平梨花(人通2=東京・N)。女子フリースケーティング(FS)当日朝の公式練習で足首を痛めてしまうというアクシデントの中、構成に入れたジャンプを大きなミスなくこなし、壮大な『タイタニック』を演じ切った。演技後には笑顔も見せ、全日本選手権(全日本)で滑る幸せを噛みしめた。

FSで演技をする紀平

 状態は芳しくなかった。SP後、FSでは「ベストの状態」に持っていきたいと意気込んでいた紀平だが、朝の公式練習でルッツジャンプを確認していた際に、まだ完治していない足首を再度痛めるというアクシデントに見舞われた。ブライアン・オーサーコーチとともに、11月終わりに行われたグランプリシリーズフィンランド大会と同じ構成で演技に挑むことを決断したという。「不安もあった」という中、臨んだ演技だった。

 上半身は淡いブルー、スカートにかけて漆黒になるグラデーションが美しい衣装に身を包み、リンクに登場した紀平。会場からの温かい拍手を浴びながらリンク中央に静かに立った。祈るようなポーズを取ると、『タイタニック』の壮大な音楽が響き渡る。両手を前に差し出すような動きから、冒頭の3回転サルコウ+3回転トーループの軌道へと入っていく。朝の公式練習や直前の6分間練習で念入りに確認していた大事なジャンプ。3回転サルコウはわずかに回転不足がとられるも、SPではつけることができなかった3回転トーループをつけ、上々の滑り出しを見せた。朝の公式練習後からあまり跳んでいなかったという3回転フリップも加点のつく出来栄えで着氷すると、曲調が変化していく。タイタニック号が出港するような音が響き、リズムに合わせて2回転アクセルを決める。続く3回転ループはSPで納得のいく着氷ができなかったジャンプだったが、きれいに着氷し、2回転トーループとの連続ジャンプにした。

 疲れが出る後半に突入すると、3回転ループでバランスを崩してしまうが転倒は回避。出来栄え1・40点の減点に抑えた。2回転アクセルからの3連続ジャンプでもわずかに回転が足りないとの判定を受けるが、最後の3回転サルコウは音に合わせてなめらかに着氷。得点が1・1倍になる大事な場面でミスを最小限に抑える集中力の高さを見せた。

 「不安があった」というジャンプを全て終えると、プログラムのクライマックスへ。音の捉え方に定評があり、プログラムを表現する力に長けている紀平だが、『タイタニック』のようなストーリー性のある曲を演じることは珍しい。一音一音を丁寧に捉える力を存分に発揮すると同時に、表情の変化で会場全体をタイタニックの物語へと引き込んだ。両手を広げ、演技を終えると何度か頷いた紀平。手を足首にあて、痛めた足首に感謝をする場面も見られた。そして全日本の舞台で滑る幸せを噛み締めるような笑顔で挨拶をすると、観客からの温かい拍手を全身に受け、リンクを去った。

演技後、ブライアン・オーサーコーチとハグをする紀平

 試合を全て欠場することを余儀なくされた昨シーズン。今シーズンもまた、ケガと向き合うシーズンとなっている。代名詞だった3回転アクセルや、2020年の全日本で成功させた4回転サルコウなどを戻すところまで回復はしていない。しかし、ジャンプを跳び始めて間もない中出場した中部選手権から毎試合、強くなった「紀平梨花」を見せ続け、この全日本選手権という舞台まで戻ってきた。SP、FS両日会場にはバナーが掲げられ、大勢の観客が立ち上がり、紀平の全日本への帰還を喜んだ。紀平自身も、試合後のインタビューで「自分の滑りをこの舞台でできたのが本当に幸せ」と微笑みながら語った。ケガと向き合う時間を経てさらに強くなった紀平が目指す次のステップへ、「幸せ」を感じられたこの全日本は足がかりになったに違いない。

(記事 吉本朱里 写真 及川知世)

結果

▽女子シングルFS


紀平梨花

 

FS 8位 128・19点

総合 11位 188・62点


コメント

紀平梨花(人通2=東京・N)

※囲み取材より抜粋

――ケガから復帰し、大勢の観客が見ている中で戦えることについて

 たくさんの方に見ていただいて、ショートでは全然自分の滑りをできなくて「何のために練習してきたんだろう」と思っていたのですが、フリーでは練習してきたことは出せたのかなと思います。少しは自分の滑りを届けることができたかなと思います。

――これから4年後に向けて、大きな一歩だったと思いますが、これからどのようなステップを上がっていきたいですか

 こうやって昨年は出られなかった全日本選手権に戻ってくることができて、なんとか自分の滑りをこの舞台でできたのが本当に幸せなことだなと感じています。でもまだまだ演技や点数には満足していないので、もっともっと点数や構成を上げて、ミスをしないという自信を持って挑めたらいいなと思うので、来年はまた、新たに生まれ変わったかのような自分を見せられるよう頑張りたいです。

――演技後足首に手をあてたように思いますが、どのような思いがありましたか

 やっぱり朝練で(跳んだ)ルッツで思い切り突いてしまって。そこからトウが突けなくなってしまったので。本当に不安だったのですが、(足首が)もってくれたなと思って。(全日本への出発の)2週間前くらいに痛めてしまって、そこから4、5日くらいで良くはなったのですが。本当に不安ではあったのですが、もってくれてありがとう、と。「足さん、ありがとう」と思いました。

――9月に復帰してから3カ月、グランプリシリーズなどにも出場されましたが

 まだまだ自分の状態もですし、元々の自分とは今は違った自分として、完成度の高い演技を目指していたのですが、本当の自分はこういうものじゃないと感じていますし、もっともっと時間をかけてやればすごく良いものができると思っています。

――3回転ルッツはどの時点で回避することを決めましたか

 朝練で一番最後に跳んだルッツがパンクしてしまって、そこで結構痛めたので、そこからルッツの練習が一切できなくなって。フリップもやめておいたんです。でも骨が折れたというわけではないのでこうして試合には出られたのですが、大きく悪化してしまうと演技や今後の試合にも支障がでるかなと思ったので、練習後にブライアン・オーサーコーチと相談し、フィンランド大会と同じ構成で挑もうと言ってくださったので、決めました。

――落ち着いてリンクに立てましたか

 落ち着いてもいましたし、すごく集中もしていました。ジャンプの感覚も良かったのですが、完全に調子が良くてもノーミスができるわけではないので、ノーミスできるか、まとめられるのかがすごく不安でしたが、落ち着いて良い滑りで、良いコンディションの中で滑れたと思います。