22日から大阪で行われている今年の全日本選手権(全日本)。大会3日目には男子ショートプログラム(SP)が行われ、昨年の全日本で、アイスダンスで3位表彰台の西山真瑚(人通3=東京・目黒日大)が今季はシングルで出場。持ち前の高いスケーティング技術と、音楽の特徴をつかんだ踊りで観客を引き込み、SP17位で翌々日のフリースケーティング(FS)進出を決めた。
SPで演技をする西山
「全日本ってやっぱりこんなに緊張するんだ! 」と思うほど緊張していたという西山は、何度も胸に手を当て深呼吸をしてからリンク中央へ。フランク・シナトラの歌う『That’s Life』の音楽が始まると、メロウな曲に合わせ、ひと蹴りで良く伸びるスケーティングでジャンプエレメンツに入っていく。最初のコンビネーションは、前日の練習から特に念入りに確認していた3回転フリップー3回転トウループのコンビネーション。わずかに着氷が乱れ、手をついてしまったが、プログラムの流れを断ち切ることはなくまとめる。続く、イーグルからの難しい入り方をするループジャンプも崩れることなく着氷した。
ジャンプ以外の要素にも見せ場が多いのが西山の真骨頂だ。フライングシットスピンでも曲のキメに合わせて腕の動きをはめ、エレメンツとエレメンツの間の繋ぎの部分でも、「up and down」という歌詞のところで上と下を順に指差すなど歌詞を拾った振り付けでプログラムに隙間を作らない。
楽しげなダンスに緊張も徐々に解けた様子で、演技は後半へ。しかし、少し気が抜けてしまったのか、最後のジャンプの2回転アクセルは、1回転になってしまい、ノーバリューの判定に。それでも、その後の演技では持ち前の伸びやかなスケーティングを大いに発揮。指先まで意識の行き届いたしなやかな身のこなしを見せ、ステップシークエンスに組み込んだツイズルではフリーレッグの綺麗さが光った。
プログラムを締めくくる2つのスピンも、音楽にあったポジションチェンジを行い、回転速度を落とさずに回り切る。演技に組み込んだスピン、ステップでは全てでレベル4を獲得した。会場の拍手喝采を全身に浴びるかのような上向きのスピンでプログラムを締めくくると会場はスタンディングオベーション。「真瑚」と書かれたバナーも多く揺れる会場に、『シングルスケーターの西山真瑚』の存在感を刻み込んだ。
演技後、観客に挨拶をする西山
演技直後は、少し悔しそうな表情を見せたが、演技後の取材では開口1番に、「めちゃくちゃ楽しかった」と振り返った西山。今シーズンはアイスダンスのパートナーが見つからず、シングルの試合のみの出場だが、今後もアイスダンサーとしての活躍を目指し、「シングルスケーターとして最初で最後の全日本」と掲げ今大会に挑んでいる。全日本の舞台で滑るまでにはケガもあり、全日本予選の東日本選手権ではSP10位という崖っぷちも味わった。だが「That’s life(それが人生だ)」。「Each time I find myself flat on my face, I pick myself up and get back in the race」。失敗しても立ち上がり、もう一度チャレンジする、という内容の歌詞が多く登場するSP『That’s Life』で人生賛歌を演じ上げた西山。大舞台のFSでも至高の人生賛歌(『Anthem』)を見せてくれるだろう。
(記事 及川知世 写真 吉本朱里)
結果
▽男子SP
西山真瑚
SP 17位 66・43点
コメント
西山真瑚(人通3=東京・目黒日大)
※囲み取材より
――滑った感想は
めちゃくちゃ楽しかったです。でもジャンプでケアレスミス、いつも失敗しないようなところで失敗してしまったのが本当に悔しいです。
――最後のアクセルは気持ちが高まりすぎて失敗してしまったかたちですか
あまり調子が良くない中での全日本で、最初の2本のジャンプはなんとかまとめることができて、「やったー」と思って、「最後アクセルだけだ!」と思ったところで、失敗してしまいました。明後日のフリーに進めることになったので、(フリーは)最後まで気を抜かずに滑り切りたいと思います。
――先生からはどんな言葉をかけられましたか
「アクセルーーー」って言われました(笑)。「なんでそこ!?」って言われました(笑)。でも滑りはすごく良い滑りだったんじゃないの、とおっしゃってくださったので、よかったです。
――前の選手から良い演技が続いていましたが、会場の空気はいかがでしたか
僕は太一朗くん(山隈太一朗、明大)の演技しか見ていなかったのですが、太一朗くんがめちゃくちゃ会場を温めてくれたので(笑)、僕も着いていかないとと思って、頑張ろうと思いました。
――今季はシングルに専念して取り組んできて、全日本での演技がかなったと言うところでは、感慨深いものはありましたか
昨年はアイスダンサーとして全日本選手権に出場することができて、今年はアイスダンスの相手が見つからないと言うことでシングルに取り組むことになったのですが、僕にとって(シングルで)初めての全日本シニアということで、会場に来た時からずっとワクワクしていて、またアイスダンスで来た時の全日本とはまた違った経験になったので、それを最後に経験できたのはすごくよかったです。
――ここまでは自分の中でどのように取り組んでこの全日本を迎えられましたか
やはり自分にとって最初で最後の、シングルでの全日本かなと思っていたので、とにかく悔いが絶対無いように滑りたいなと思って練習を積んできました。
――特に最後のシングルの全日本でどこに力を入れてやってきましたか
やはり自分の強みがスケーティングやステップで、今までアイスダンスをやってきて、これからもアイスダンスで頑張ろうと思っているスケーターとして、やはりステップやスケーティングの部分は他の選手に劣らないようにしたいなと思っていたので、そこはプログラムを練習する時に重点的にやってきました。
――今日の演技ではどうでしたか
演技はめちゃくちゃ良かったと思います。
――P C S(演技構成点)もすごく出ていましたが
出していただいてありがたいです(笑)。
――アイスダンスに戻った時にこの経験はどう生かしていきますか
正直このショートはめちゃくちゃ緊張していて、足がガクガクしていて、今日1日中「全日本ってやっぱりこんなに緊張するんだ!」と自分で思っていて、その中でなんとか演技をまとめられたということで、緊張がある中でもまとまった演技ができるようになったという部分で精神的には成長したのかなと思っています。
――この試合で得られたもの
緊張の中でまとめる演技ができたというのもそうですし、自分が絶対に良い演技をしたいという大会に向けての練習の調整の仕方を、今回東日本(選手権)が終わってからの1カ月で身をもって経験できたと思っています。
――アイスダンスの今後の目処は見えていますか
トライアウトは何回はしていますが、まだ未定という感じです。