【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第15回 小林里紗/フィギュアスケート

フィギュアスケート

『自分らしさ』を求めて

 「人それぞれのオリジナルのプログラムを作れること」。小林里紗(社=東京・三輪田学園)が思う、フィギュアスケートの魅力だ。テレビでよく耳にする、4回転ジャンプやトリプルアクセルといった用語。ジャンプばかりがピックアップされるが、ステップやスピン、音楽や振り付けこそがスケーターの色を引き立てる要素だという。卒業を迎えたいま、小林の目指した『オリジナル』に迫る。

 高校時代、浅田真央に憧れ足を踏み入れたフィギュアスケートの世界。クラシックバレエの経験こそあったものの、当時テニス部に在籍していた小林にとっては未知数の挑戦であった。その一方、文武両道をこなし一般入試で早大に入学。1、2年次を振り返り「遊んでばかりだった」と笑うように、当初は普通の女子大生として日常を過ごしていた。スケート部に入部したのは2年次で、デビュー戦もその年の12月であった。環境がガラリと変わり、練習量と結果は必ずしも比例しないことを知る。それでも、自分のペースで一歩一歩着実に成長を遂げていく。アスリートとしての日々は決して楽ではないが、それが小林の大学生活を彩ったことは間違いない。

 主将、そして唯一の4年生として臨んだ最終シーズン。初めての重役に不安もあったが、下級生とは「後輩というより友達感覚で接していた」と語るように、何かを変えることはしなかった。スケート部フィギュア部門は、部員の統率が難しい運動部でもある。練習場所や経歴、レベルも人それぞれ。幼少期から第一線で活躍している選手もいれば、競技を始めたばかりの選手もいる。部員同士が顔を合わせる機会も少なく、全員が同じ方向を向くことはほとんどない。だが、各大学が集う大会で光るのはエンジの一体感。演技前に一人一人とタッチを交わし、演技中は大きな声援で背中を押す。目指す場所は違えど、滑る場所が同じである限り、早大は一つの『チーム』なのだ。そしてその中心には、いつも小林がいた。中心にいることが主将の最大の仕事であり、その意味で主将という役目を最後まで全うしたと言えるだろう。

『チーム』の声援を浴び、最後の衣装で試合に挑む小林

 ラストイヤーは夏に1日6、7時間練習するなど、これまで以上に鍛錬を積んだ。努力は実り、この1年で1級から3級までレベルアップ。そして1月には、アイスホッケー早慶戦のエキシビションへの出演を果たす。「どの試合よりも楽しく滑れた」というこの舞台こそが、4年間の集大成であり一番の思い出だ。氷上で浴びる、大観衆の視線と歓声。それを背に滑ることが、何よりも楽しかった。引退試合となったバレンタインカップでも涙はなく、最後まで笑顔に満ちあふれていた。自分の好きな音楽に乗って、自分だけの世界を表現する。そこには確かに、小林の『オリジナル』があった。

 フィギュアスケートは華やかな反面、過酷なスポーツだ。試合数の何倍もの練習量を要し、それゆえ選手生命は短い。だからこそ、スケーターの一瞬にかける思いは人一倍強い。自身のスケート人生でやり残したことを問われ、「ない」と断言した小林。その言葉こそが、短くも濃い大切な時間を精一杯楽しんだ証である。
 

(記事 川浪康太郎、写真 井上莉沙)