華の早慶戦。感涙にむせぶ

応援

 早慶戦。特にこの東京六大学野球秋季リーグ戦の最終戦である早慶戦は応援部にとっては重みが違う。前日の初戦で見事勝利を収め、優勝に王手をかけ臨んだ二日目。4回に勝ち越しを許し、1点リードされたままの状況が続くも、起死回生の本塁打で応援席は歓喜に包まれた。4年生にとっての最後の戦いは最高の形で幕を閉じ、喜びの涙を流した。

 勝ち点差0.5点で慶應優位だった初日を勝ち取り、勝ちもしくは引き分けで優勝が決まる早慶戦二日目。応援部4年生にとってはこれが引退前最後の大舞台となる一戦。彼らは新人時代に70年ぶりのリーグ最下位という悔しい思いをしてから、一度も優勝することなくラストイヤーを迎えている。華の最高学年となって巡ってきた好機を絶対に逃すまいと「打倒慶應」のハチマキに想いを込める。その想いは野球部も同じであったのだろう。3回、きのうに引き続き4年生打線が先制点をあげる。しかしそう簡単に勝たせてくれないのが宿敵、慶應。4回で勝ち越され、苦しい戦いを強いられることになる。佐川太一連盟常任委員(スポ4=栃木・太田原)の学生注目(学注)では繰り返し「早慶戦とは!早稲田が、慶ぶ、戦いだ!」と士気を高める。両者無得点のまま試合は終了に近づき、8回。慶應はエース木澤尚文(4年)が登板、好投し、裏ではチャンスを作る。このピンチは早川隆久主将(スポ4=千葉・木更津総合)が抑え、両エースを擁して試合はついに最終回を迎えた。

宮川、魂の学注

 宮川隼代表委員主将(人4=千葉・稲毛)が最終回で部員に向けて叫ぶ。「俺たちはコロナで全部なくなった代じゃない!優勝する代だ!」希望はまだある。諦めない主将の姿を見せた。しかし木澤の前に早くも二死を取られ、あと一人で慶應の眼前優勝を許す状況に。うっすら目に涙を浮かべる者もいる応援席を、宮川が再び奮い立たせた。「涙は勝つ時まで取っておけ!絶対慶應倒すぞ!」皆がハッとして大きくうなずいた。ここからはリーダー全員、チアリーダーズ4年生全員による『コンバットマーチ』が吹奏楽団鼓手の二人の太鼓と共に、無塁の状態から繰り返される。打席には蛭間拓哉(スポ2=埼玉・浦和学院)。応援曲『雷轟』から『コンバットマーチ』に入り、リーダー全員が突き終わってチアリーダーズと入れ替わり、構えに入ったその瞬間、蛭間が打ち上げた。応援部員全員が打球の行方を見守る。時間にしては数秒のことであったが、その視線には応援部4年間の全てが詰まっていた。相手外野手が打球を見送り、バックスクリーンに飛び込む球に応援席が爆発した。喜びの涙と感動で崩れ落ちそうになりながらも、明治神宮野球場に『紺碧の空』を響かせた。最後の守備回は早川がしっかりと抑え、早稲田は優勝した。

谷下豪リーダー練習責任者(政経4=東京・早大学院)による『伝統の勝利の拍手』

 試合終了後には野球部の部員がレフトスタンドの応援部のもとに駆けつけ、共に喜びを分かち合う姿も見られた。早慶戦勝利時にのみ行われる『早稲田の栄光』『伝統の勝利の拍手』も二日間とも行うことができた。早稲田大学応援部の至上命題は早慶戦で打倒慶應を果たすこと。稲穂祭も他大学の応援部応援団の団祭のように自分たちが主役になるものではなく、野球部を応援するため、早慶戦に勝つための前夜祭として行われる。常に主役を応援してきた。応援の力が選手の力になると信じて、ここまで「全力で馬鹿」やってきた。その努力があの瞬間、報われた。逆転し、優勝を決めたのは野球部だけの力ではない。声が、拍手が、演奏が、ダンスが、そして気持ちが打球を運んだ。この感動をクライマックスにせず、次の代も、また次の代も受け継いでいって欲しい。

(記事、写真 市原健)

コメント

宮川隼代表委員主将(人4=千葉・稲毛)

――勝ちました!今のお気持ちを教えてください

こんなに幸せな気持ちになれるのは今後の人生でもあるのかというくらいの気持ちです。正直まだ気持ちの整理が出来ていません(笑)。

――かなりドラマチックな試合展開でした

出来すぎていたくらいの展開だったので、なんというかドラマや漫画を観ている様な本当に比喩表現ではなく夢じゃないかと思いました

――蛭間選手のホームランが入った瞬間、早川選手が抑えて優勝が決まった瞬間、どのようなお気持ちでしたか

お恥ずかしい話、優勝を経験したことがなかったのでどう喜んで良いのかが分からず、少し戸惑ってしまいました。しかし、ずっと夢見てきた優勝して慶應より先に校歌を歌うということが達成出来、そして同期や後輩の表情を見て気持ちが込み上げて来ました。

――ホームランが入ったのはリーダー全員で、そしてチア4全員でのコンバットマーチの時でした

もしあのまま逆転出来ずに試合が終わっても形としては「最後に全員でやれて良かったね」となるかもしれませんが、少なくとも私が見る限り誰一人として綺麗に終わる様なことは考えず、2アウトになってもただひたすらに泥臭く、血眼になってコンバットをやっていたと思いました。その想いが伝わったのではないかと思います。

――4回で慶應にリードされてから9回までは長かったと思いますが、どのような気持ちで応援されていましたか

チャンスが何回か来ても点が取りきれず、まるで本当に練習が決まらずに必死にもがき苦しむ下級生時代のリーダー練習と似た様な感覚でした。しかし、いつも最後にはどうにか練習を決めて来たという自信があったので心は折れませんでした。

――優勝というのは、4年間で最初で最後でしたが、どんなお気持ちでしょうか

言葉では優勝、優勝と言ってきたのですが、いざ本当に実現するとそこまでの道のりの険しさと達成する喜びの大きさというものは体感してみなければ分からないと思いました。 そして私が関わってきた先輩たちからずっと託されてきた夢だったのでお世話になった先輩達にも顔向けできるという気持ちもあります。

――報告会等で野球部に直接どんな声をかけられましたか

小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)も含め本当に多くの方から「ありがとう」と言っていただきました。あの場の主役は野球部だったので多くは語ってもらえずともその一言だけで報われました

――これから部を引き継いでいく後輩に伝えたい思いはどんなものでしょうか

自分たちが先輩達に感じさせていただいた、本当の「応援」というものを片鱗でも良いので後輩達に感じてほしいと思いながらやってきました。この秋季リーグ戦や早慶戦でもし「応援」というものを少しでも感じてくれたなら、辛いことや色々なことがあると思いますがそれを糧にして乗り越え、後輩達にも「応援」を体現してもらって次世代にも伝えて欲しいです

――野球部へ、メッセージをお願いします

令和2年度早稲田大学応援部を「コロナでかわいそうな代」ではなく「優勝した最高な代」にしてくれて本当にありがとうございました。

――記事を見ている方、応援してくれていた方へメッセージをお願いします

後輩達は自分たちを超えてくれると思うので、来年も後輩達と共に応援宜しくお願いします!

蘆野茉柚チアリーダーズ責任者(教4=東京・早実)

 

――勝ちました!今のお気持ちを教えてください

凄く嬉しいです。貴重な経験をさせてくれた野球部に感謝です。

――かなりドラマチックな試合展開でした

早実時代から野球応援をしてきて、2015年の夏の西東京大会決勝などドラマチックな試合展開の応援もさせてもらいましたが、今回の試合が1番感動しました。この先も今回を超える試合には出会わないと思います。

 

――蛭間選手のホームランが入った瞬間、早川選手が抑えて優勝が決まった瞬間、どのようなお気持ちでしたか

ただ、ひたすら嬉しかったです!私自身、試合中に泣きたくないと思っていて、勝ってから嬉し涙として泣くまで我慢しようと思っていたのですが、蛭間くんのホームランは流石に耐えられませんでした。

――ホームランが入ったのはリーダー全員で、そしてチア4全員でのコンバットマーチの時でした

4年生にとって最後の攻撃回だったので、後先考えずひたすらコンバットを突き続けました。早稲田に点が入った時は、チアリーダーズの年間目標である「想いを形に」が体現出来たかなと思いました。

――4回で慶應にリードされてから9回までは長かったと思いますが、どのような気持ちで応援されていましたか

いつか絶対チャンスが来ると信じていました。それまで、応援部は諦めずに野球部を後押しする応援をすると決めていました。

――優勝というのは、4年間で最初で最後でしたが、どんなお気持ちでしょうか

今まで優勝する事が出来なかったからこそ、今回の優勝は物凄く嬉しく感じられたと思います

――報告会等で野球部に直接どんな声をかけられましたか

報告会で野球部と話す時間はあまりなかったんですが、最後に同じ高校出身でもある金子(銀佑・教4=東京・早実)と話す機会があったので、「お疲れ様、おめでとう」と伝えました

――これから部を引き継いでいく後輩に伝えたい思いはどんなものでしょうか

下級生は、4年生の為にという思いで応援をしてくれました。でも私は一生懸命頑張っている下級生の姿を見て、ここまで頑張ることが出来ました。本当に感謝しています。私はある上級生の「下級生時代、もがき苦しんだ代こそ、4年生では素敵な学年になる」という言葉を信じて4年間やってきました。今の下級生なら4年生になった時に素敵な代になってくれると信じています。

――野球部へ、メッセージをお願いします

優勝おめでとう!最後の年は思うように活動が出来なくて悔しい思いもあったけど、野球部のお陰で報われました。1年生の時から色々辛い事なども共有してきた仲間たちが最高の締め括りが出来た事、本当に嬉しく思います。来年からも強い早稲田大学野球部を継承してください!これからもずっと応援しています。

――記事を見ている方、応援してくれていた方へメッセージをお願いします

応援ありがとうございました。秋季リーグ戦が始まりようやく応援が出来る幸せもありましたが、それよりも皆さんと一緒に応援出来ない事が凄く辛かったです。でも、内野からエールを振ってくださったり、私たちに対して拍手をしてくださる皆さんを見て、物凄く勇気付けられていました。特に、早慶戦2回戦試合後の外野から見たエールの景色は一生忘れません。それは外野から応援した私たちにしか感じられない貴重な経験でした。来年は応援席で部員と皆さんが一緒に応援できる事を願っています。これからも早稲田大学体育各部の応援を宜しくお願いします。