辛苦に満ちた覚醒への道のり 早大野球部第112代主将として目指すは『勝つ価値のあるチーム』/中川卓也<後編>

野球
――3年目の覚醒と突きつけられた『実力』 技術と人間性を兼ね備えた『勝つ価値のあるチーム』へ

 特集の2回目は、飛躍を果たした3年時を振り返る。オフにはウエートトレーニングと並行して、インコースのさばき方の習得に取り組んだ。冬場の手応えとともに臨んだ春季リーグ戦では、自己最高の成績を残して飛躍の足がかりをつかむ。迎えた今季は、打率3割3分3厘と高打率を残し、念願のベストナインを受賞した。しかし、チームは優勝を逃し、中川卓也(スポ3=大阪桐蔭)は一目をはばからずに涙を流した。無安打に終わった早慶2回戦後に口にしたのは、「本当の実力を思い知らされた」という悔しさ、『勝つ価値のあるチーム』をつくるという強い決意だった。

打開


3年春、自己最高の成績を記録。開花の兆しを示した

 2年目の冬は、肉体的にも技術的にも変革に取り組んだ。肉体面では、前年に引き続きウエートトレーニングを敢行。筋肉量が増加し、「体つきも変わってきた」と本人も一定の成果を口にした。技術面では、鈴木浩文コーチ(平5社卒=東京・関東一)の指導を受けながら、インコースの対応力向上に力を入れた。これまでは、苦手なインコースを意識するあまり、アウトコースの変化球にバットが止まらず、逆にアウトコースを意識すると、インコースにバットが出ないという悪循環に陥っていたという。しかし、インコースのさばき方をものにすることで、「インコースさえさばければ大丈夫」と打席の中で余裕が生まれた。その結果、ボールを長く見ることができるようになり、選球眼が向上。さらに、ボールを長く見られるようになったことで、自分のタイミングでスイングできる打席も増えた。「数も質も高い練習をやってきたという自負はある」と語った表情からは、確かな自信が見て取れた。

 迎えた春季リーグ戦は、望んだ結果とはかけ離れたものになった。打率は自己最高を更新するが2割5分7厘にとどまり、目標としていた『3割、ベストナイン』には遠く及ばなかった。連覇を目指したチームも、屈辱の5位に沈んだ。しかし、決してマイナスな面ばかりだったわけではない。無安打に終わった東大戦以降の4カードでは、打率3割2分1厘を記録。小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)も、「本来の彼の能力というものを、少しずつ知らしめるというかたちにはなっているのかな」と一定の評価を口にしていた。

実力


3年秋、主軸としてチームの2位躍進に大きく貢献。その活躍はまさに覚醒と言えるものだった

 雌伏の時を過ごしてきた大器に、ついに飛躍の時が訪れる。秋季リーグ戦直前に、「ボールの真ん中をたたくように意識した」と打撃の修正を図ると、試合では広角にライナー性の打球を打ち分けた。甘い球は一球で仕留める一方、「夏季オープン戦中に気持ちの面で、打席の入り方についてつかんだものがあった」と言うように、追い込まれてからの対応力も向上。明大1回戦では2点ビハインドの9回2死一、三塁、1ボール2ストライクから適時打を放つなど、2ストライク以降の安打や四球が増加した。また、明大2回戦では、同点で迎えた7回1死満塁の場面で、冬場に課題として取り組んでいたインコースを狙い打ち。決勝の3点適時打を放った。「一冬かけてやってきたことの成果が出た」。このような活躍もあり、『3割、ベストナイン』という目標を達成し、チームの2位躍進の原動力となった。

 しかし、優勝決定戦となった早慶2回戦では無安打に終わり、チームも優勝を逃す。緊張が張りつめる大一番で、自分の実力を出せなかった現実。「それが今の実力」と語った中川卓からは、言葉では言い表すことができない悔しさが感じられた。たった一言ではあるが、1年間の取材で聞いたどの言葉よりも重く、胸に刺さる言葉であった。

決意


早慶2回戦後、丸山壮史主将(スポ4=広島・広陵)との1枚(左が中川卓)。『強い早稲田を取り戻す』。この思いは丸山から中川卓へ受け継がれる

 そして11月13日、中川卓が早稲田大学野球部第112代主将に就任することが発表された。副将は原功征(スポ3=滋賀・彦根東)、折内健太郎(文構3=福島・磐城)、蛭間拓哉(スポ3=埼玉・浦和学院)の3選手が務める。主将就任発表前のインタビューで中川卓は、『勝つ価値のあるチーム』を目標に掲げた。中川卓が考える『勝つ価値のあるチーム』とは、人間力と野球の技術の双方で戦っていくチームだ。日々の生活の中から小さな隙を見せず、野球の技術、人間性、チーム力、相手へのリスペクトなどを備えたチームを目指す。今季流した悔し涙をうれし涙に変えるために。中川卓が率いる第112代は、ついに船出の時を迎えた。

(記事 杉﨑智哉、写真 永田悠人、山崎航平)

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