【連載】秋季早慶戦直前特集『乾坤一擲』第6回 中川卓也

野球

 入学以来将来を嘱望されてきた大器が、この秋ついに覚醒を果たした。打率は自己最高の打率3割7分9厘を記録しており、出塁率も5割超え。さらに、リーグ最多の5本の二塁打を放っており、打線の中軸として申し分ない成績を残している。今季の飛躍の要因、さらには4年生に対する熱い思いを伺った。

※この取材は10月21日にオンラインで行われたものです。

「(明大1回戦の9回は)納得のいく打席だった」


身振りを交えながら取材に答える中川卓

――今季の打撃成績について、どのように評価されていますか

 ここまでは、ある程度自分が思うようなバッティングができているかなと思います。

――今季は打率が3割7分9厘ということで好調だと思いますが、その要因はどのようなところにありますか

 しっかりボール球を見極められていることと、今シーズンは2ストライクからのヒットやフォアボールが多くあるので、こういう打率になっているのかなと思います。

――2ストライクからの安打を打てたり、四球を取れたりするようになった要因について、思うところはありますか

 夏のオープン戦で蛭間(拓哉、スポ3=埼玉・浦和学院)がけがで離脱している時に3番を打たせてもらっていて、そこで気持ちの面で打席の入り方についてつかんだものがありました。具体的にこれと言うことは難しいのですが、打席に入ってバッターとピッチャーが対戦している中で、何かつかんだものがあったと感じているので、そこら辺がつながってきているのかなと思います。

――今シーズン最も手応えを感じたのは、どの打席ですか

 明治1回戦の(最終回に放った)レフト前です。本当に追い詰められて(2点ビハインド二死一、三塁。凡退すると優勝が大きく遠のく場面)、追い込まれた中で、ああいうバッティングができたことは、自分の中でも自信になりました。次に生きてくる一打席かなと思ったので、あの打席は自分の中でも納得がいく打席だったかなと思います。

――その打席は、次につなぐと絶好調の今井選手(脩斗、スポ4=埼玉・早大本庄)という場面でした。打席に向かう際の心境は、いかがでしたか

 あの時は2点差だったので、最悪フォアボールで満塁になっても、今井さんは長打があるので、長打を嫌って外野手が後ろに下がってもワンヒット2点という状況だったので、何でもいいので後ろにつなごうという思いで打席に入りました。

――安打の中でもライナー性のものが多いように見受けられます。東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)が始まる前に、打撃を修正した効果は感じていますか

 (夏季オープン戦で)3番に入ったことで良いこともあったのですが、自分の欲が出てしまって、紙一重なのですが、ボールの下をこすったようなフライが多くありました。本当に紙一重なのですが、紙一重でもアウトはアウトなので、ボールの真ん中をたたくように意識して、リーグ戦が始まる前の期間までに修正して、それが実戦につながっているという感じですね。

紙一重、では意味がない


明大1回戦9回2死一、二塁から適時打を放ち喜ぶ中川卓

――先ほどもお話にあった、ボールの見極めについて伺います。今季は四球を9個獲得しており、じっくりとボールを見ている場面もあれば、明大2回戦の決勝打のように、初球から積極的に打つ場面もあります。ボールの見極めや、狙い球の決め方について、手応えを感じていますか

 基本は初球を振りにいく姿勢は変わらないのですが、データと自分の考えを組み合わせて、狙い球を絞っています。そこで(狙いと)合わなかった時に、簡単に手を出して、(フェアゾーンの)中に飛ばすのではなくて、空振りやファールにすることで、フォアボールや、追い込まれてからのヒットにつながっているのかなと思います。

――狙いが外れてしまった時は、あえて空振りやファールにしているのですね

 振らないのがベストですが、合わせて中に飛んでアウトというのが一番もったいないです。そこで、振ってしまった時に空振りやファールにできるということが、打率を残せている要因の一つかなと思います。

――インコースの対応について伺います。立大戦や明大戦では、春に比べるとインコースを攻められている印象でした。ご自身の中で、配球や攻め方の違いは、感じていますか

 配球を読むこともそうですが、自分は基本的に甘い球を一球で仕留めることに、フォーカスしています。明治との2回戦のライト線への安打は狙い打ちしたのですが、厳しい球であれば見逃していいと考えています。状況状況によって、厳しい球を打ったり、あえて見逃したりするようにしています。

――明大2回戦での決勝打は、インコースの直球という課題とされてきた球を、狙い打ちしたということでした。そうされますと、これまで取り組んできたことが、一つの成果になった打席なのでしょうか

 一冬かけてインコースを課題としてやってきた中で、土曜日(1回戦)に結構インコースでカウントを稼がれていたので、インコースを狙い打ちしました。あそこは本当に、一冬かけてやってきたことの成果が出たのかなと思います。

――ご自身が強みとされている『状況に応じたバッティング』について伺います。中川選手の考える『状況に応じたバッティング』は、どのようなものですか

 アウトカウントやランナーのケース、ストライクボールのカウントとかを含めたものに加えて、配球をしっかりと自分の中で整理して打つことです。一つの野球の知識というか、(状況を整理して打つことが)人より少し長けているところが、自分の強みではあります。

――法政1回戦の8回に満塁で凡退してしまった場面について、振り返っていただけますか

 あの場面も明大2回戦と一緒で、状況的にインコースに来るかなと思っていて、インコースに張っていたのですが、後で映像を見たら、(捕手が)インコースに構えていたものが、抜けて外の高めにいったボールでした。抜けて高めにいった分だけ、フライを打ち上げてしまいました。狙いは悪くないと思ったので、(相手投手が)インコースに投げ切れていたら自分が打っていたかもしれないので、微妙な差だけなのかなと。個人的にはそんなに悪くはなかったのですが、あそこは一本欲しかった場面ではあったので、チームとしては良くなかったですね。

――紙一重といってよい打席だったのでしょうか

 そうですね。紙一重といえば紙一重ですが、ツーアウト満塁で紙一重は何の意味もないので、あそこはライナーで一本欲しかったところですね。

――法大2回戦では、山下輝投手(4年)から逆方向への二塁打を打ちましたが、山下投手の真っすぐを強く打ち返せたことは自信になりましたか

 火曜日の法政1回戦が終わった後に、(1回戦に向けて)右ピッチャーのラインで合わせていたのですが、帰ってからすぐに左ピッチャーのラインで打ち直しまして、その通りに(ボールが)来たので打てて良かったです。

――今シーズンはチャンスで安打を打つことができていると思います。チャンスの際には、どのようなことを意識されていますか

 これはチャンスに限らないのですが、後ろにいい打者が並んでいるので、どうすればいいかたちで後ろにつなげるかということだけを常に考えてやっています。

「最高の相手と最高の舞台で最高の対戦ができる」


明大2回戦で決勝の3点適時二塁打を放つ中川卓

――今シーズンの慶大には、どのような印象を持っていますか

 春からではありますが、『負けないチーム』をつくっているというイメージがあります。慶応自体も苦しいゲームが続いている中で、負けていないということが一番に(印象として)あります。一本を出せるか、チームとして戦えるかというところがすごく鍵になってくると思うので、『負けない』慶応に勝ちたいですね。

――事前のアンケートにおいて、警戒する選手として正木選手(智也、4年)の名前を挙げていました。中川選手の目から見て、正木選手はどのような点がすごいと感じていますか

 大前提として、慶応のバッターは全員警戒しなければいけないです。その中であえて正木さんの名前を挙げたのは、今シーズンはうまくいっていないように(打率1割9分2厘)見えるのですが、それでもここ一番で勝負強くて、守っていて嫌な打者です。今一本出ていない分、早慶戦で一本出されたら怖いので、正木さんの名前を出しました。

――慶大投手陣を攻略する上では、どこがポイントになると考えていますか

 慶応のピッチャーはコントロールが良くて、それにプラスして福井さん(章吾主将、4年)の配球が合わさって、慶応のバッテリーができていると思います。ボール球を振るようであれば、相手の思うつぼだと思うので、ボール球をいかにして見極めて、(相手投手が)投げづらくなったところで失投を狙っていくことが鍵になるのかなと思います。

――目標とされてきた『3割、ベストナイン』が近づいていると思いますが、そのことについてどのように考えていますか

 (ベストナインを)取れたらいいですし、3割打てたらいいのですが、第一はチームの勝利なので、3割切ってベストナインを取れなかったところで、チームが勝てたらそれでいいです。進塁打だったり、チャンスで一本ではなくても、チャンスで次につなげられたりするバッティングが自分の持ち味だと思うので、最後まで個人の成績は気にせずに、チームの勝利を第一に考えてやっていきたいと思っています。

――早慶戦に優勝が懸かっていることについては、いかがですか

 最高の相手と最高の舞台で最高の対戦ができるということで、わくわくはしていますが、浮足立ってしまったら元も子もないです。自分たちの野球の土台部分を見つめ直して、早慶戦に臨みたいと思います。

――4年生がもうすぐ引退されます。4年生に対する思いを教えていただけますか

 自分でも生意気な後輩だったと思っているのですが、それでも良くしてくれてかわいがってくれた先輩です。3年間一緒にやってきた集大成を見せてほしいと思っていますし、その一かけら、一ピースにでもなれたらうれしいと自分は思っているので、全員で勝って4年生にいいかたちで終わってほしいと思っています。

――最後に重複する部分があるかもしれませんが、早慶戦への意気込みをお願いします。

 先ほどとかぶってしまうのですが、優勝の兼ね合いや結果はどうなるかわかりませんが、最後は4年生に笑って終わってほしいと思っているので、全員で勝って、4年生にいいかたちで終わってほしいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 杉﨑智哉)

◆中川卓也(なかがわ・たくや)

2000(平12)年7月28日生まれ。175センチ、78キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部3年。内野手。右投左打。「最後は4年生に笑って終わってほしい」と、熱い思いを語ってくださった中川卓選手。4年生に対する恩返しの思いを、プレーで表現します!