昨春、1番・二塁手としてフル出場し、その目覚ましい活躍からベストナインに選出された金子銀佑(教4=東京・早実)。ボールを丁寧に扱うことを心掛け、今季も安定した守備で勝利に貢献している。早実高時代から7年間着続けた早稲田のユニフォームもこれで最後。これまでの振り返り、そして早慶戦にかける思いを伺った。
※この取材は10月27日に行われたものです。
「本当にいい同期を持ったなと素直にうれしかったです」
笑顔で質問に答える金子
――今季の振り返りをお願いします
チームとして良く言えば負けないチーム、悪く言えば勝ちきれないチームというのが、客観的に見た状況だと思います。終わってしまったことは何も変えられないので。ただ、今度の早慶戦が優勝決定戦であることは変わらないので、そこに向けて今はやっています。
――印象に残っている試合はありますか
最終回に2点を取って勝ち切れたというところで、法政戦(法大1回戦)ですかね。法政には夏(春季リーグ戦)に悔しいかたちで負けたので、なんとしてでもと思って入った初戦を、ああいうかたちで勝てたので印象に残っています。
――法大2回戦では引き分けという結果でした
取って取られての試合だったと思うんですけど、よく負けなかったのかなと。あの引き分けは、勝ちに等しい引き分けだったと捉えています。
――法大1回戦では3打席連続で犠打を決めていました。チームで夏に練習していたと仰っていましたが、成果は出ていますか
チームとしてはここぞのバントが課題に挙げられていて、秋までチームとして取り組んでいました。ここぞの場面でバントを決めることは、代打でホームランを打つより難しいというくらい緊迫するような作戦で、バントはそういうものだと思っています。もちろんバントの構えであったり形もそうですが、打席に入った打者がいかに成功しやすい雰囲気をつくれるかが鍵なのかなと思います。あの試合(法大1回戦)は3つ決めたのですが、あれでバントできるぞという雰囲気をチームに持っていけたと思います。
――あの3打席すべて安定して決めているように見えました
自分はバントが得意という感覚がないので、必死にピッチャー前でもいいから何がなんでも転がす、避けないように向かっていく意識で決められました。あの時は足も手も震えていました。
――アンケートで「出塁率や得点に絡めている」と書いていましたが、そういった犠打などの部分でしょうか
打率を見れば、打ってないじゃないかとなると思うのですが、フォアボールであっても今回だと振り逃げも明治戦(明大1回戦)であったと思います。1番バッターは出塁するというところで、まずまずかなと捉えています。
――今季1番バッターとして何点くらいだと思いますか
いやぁ。50点だと思います。
――その理由は
打率じゃないとはいえ、やっぱり最初の方は一本も出ない試合もありましたし、そういったところでもっともっと出塁できたもったいない打席があったということで50点です。
――アンケートで打撃に関して「結果的に安打に結びつかない」とありましたが、焦りなどはありましたか
焦りももちろんありましたし、それに対するいら立ちも出てきて。あぁまたか。あぁまただ。あぁまたか。という繰り返しだったので。だけど、いつか絶対どんなかたちであれヒットが出るというのを信じてあの期間は戦っていました。
――法大2回戦で今季初安打が出ました。その打席を振り返っていかがですか
正直なところ、ほっとしたというのが一番です。あの試合が確か第2試合だったかな。第2試合の時は東伏見で少し練習してから行くのですが、そこでのバッティング練習でももう自分のフォームがわからなくなり、どうしよどうしよってなっていたのですが。そんな時に同期の中島(活大、商4=香川・高松北)が声を掛けてくれて、「凡打になってもちゃんと全力疾走してるところとかみんな見ているし、お前が出るんだから思い切ってやったら大丈夫だよ」ということを言ってもらって少し吹っ切れたというか。そういうことがあって、結果的にあそこで今季初安打が出たので、本当にいい同期を持ったなと素直にうれしかったです。
――盗塁も積極的にしている印象があります
このチームはもちろん、早川を中心に守りで勝っていくしかないと新チームが始まったのですが、それに加えて走塁。バッティングは正直打てる打てないあると思うのですが、守備と走塁は100パーセントに近いかたちでやれると思っているので、隙のない野球という意味でも、走塁は特に意識してやっています。
――昨年の秋季リーグ戦後、点を取るためには機動力が必要とおっしゃていましたが、今年はいかがですか
それは例年に比べてできていると思います。試合に出ていない4年生がいろんなチームの研究をしてくれていたりするので、そういうものを活用して実際グラウンドに向かう自分たちがうまくそれを生かせていると思います。
二塁手にとって大切なこととは・・・
――ここまで失策1ですが、守備に関してはいかがでしょう
セカンドを初めて2年目になるのですが、確実にアウトにできるものをアウトにするっていうところが1番です。そのあとに応用があると思うので、そういった部分は2年間を通して成長できているのかなと感じています。
――観客が沸くような守備も、丁寧にやることを心掛けた結果に生まれるのでしょうか
丁寧に扱うというところで、何一つ同じ状況で同じ打球は絶対にないので、一つ一つの打球に対して自分が動くという。守備はどうしても受け身というかたちになるので、それをいかに受け身になりすぎずそのボールに対応していくかというとこだと思います。丁寧に扱うという考え方を軸に、応用になっていくと思います。いいプレーをしてやろうと思った時こそ暴投になったり失策につながるということがよくあったので。来たボールをさばく、アウトにする。そこはこの1年を通してシンプルに考えてできるようになりました。
――理想的な二塁手とは
理想的な二塁手は試合を支配するくらいの二塁手だと思っています。それは自分が守ることだけではなく、キャッチャーに「このバッターならこう抑えようよ」とかをゲーム内で指示できるくらい余裕のあるセカンドがプロフェッショナルなセカンドだと思っています。その域にはまだ全然達していないのですが、今後野球を続けるにあたりそういうところまで視野を広く持てるような二塁手を、そういう内野手を目指してできればなと思います。
――以前、守備でチームを一つにしたいと仰っていましたがそこはいかがですか
シートノックを見てもらうとわかると思うのですが、一番早稲田が声出してやっているんじゃないかなというくらい、はつらつとノックから入れていると思います。劣勢の場面でも吉澤(一翔、スポ4=大阪桐蔭)であったり熊田(任洋、1年=愛知・東邦)であったり丸山(壮史、スポ3=広島・広陵)であったり、内野手が中心となってピッチャーを盛り上げる声がしっかりできているので、そこは成長できたのかなと思います。
――アンケートで他の選手に代われるなら、「守備がうまいから」という理由で金子さんと回答している方がいました
あ、そうなんですか。誰だろう。
――柴田迅選手(社4=東京・早大学院)と吉野星吾選手(政経4=東京・早実)です
おぉ。そうなんですね。ピッチャー2人か。
――選ばれましたが
いやぁ。まぁそういう人たちには、逆に悪送球とかエラーをした時のあの恥ずかしさを知ってもらってから選んでほしいですね(笑)。
――守備にこだわりはありますか
こだわりというと、もうかっこいい言い方になってしまうのですが、もちろん内野手でここまでサード、ショート、セカンドと野球人生を通して経験してきて、各ポジションいろんな面白みがあるなという感じです。人が変わるというか。ポジションによって人格を変えないといけないというか。性格を変えるぐらい適性って本当にあるんだなと思いました。ファーストはやったことないのですが、サード、ショート、セカンドで人格を変えるまで言ったらあれですけど(笑)。気持ちの入れ方や考え方が全然違うと感じました。
――二塁手に対してはどう臨んでいますか
セカンドは初めてだったので。今までみたいに小手先でやっていてもうまいこといかないので、本当に丁寧に。何かに特化するというより、中継であったりいろんなことを広く浅く全部無難にこなすことが求められるのかなと思いました。ラインのポジショニングであったり、自分のポジショニングであったり。次こっちに来そうだからショートの指示を仰いだり、サードに声を掛けたり視野を広く持たないといけないなと思います。
――今まで、このポジションがしっくりくるなどはありましたか
その時やっているポジションが一番自分に合っているなと思わないと、やってられないですね。最初サードだったのですが、「絶対サードだ」みたいに思って。高校の時いきなりショートをやらされて、俺ショートできるかなと思って始めたのですが、「あ、俺ショートだな」って。セカンドは絶対無理だなと思って、大学入ってセカンドをやらせてもらったのですが、最初はあぁ無理だと思いました。でもできないことが自分の中でもやもやして、なんとかセカンドでもう一回攻略してやろうみたいに思って取り組んできました。今はセカンドが自分に合っているのかなと思いながらやっています。
「舞台は整った」
立大1回戦でホームを踏み、喜ぶ金子
――1年間主将副将の3人などと共にチームを引っ張ってきましたが、そういった点を振り返っていかがですか
自分は何もしてないですよ(笑)。自由にやらせてもらった感じがあって。結構気分屋なところもあるので、仲間には結構迷惑をかけてしまった部分もあると思うんですけど。本当に自由にやらせてもらったなというのが一番です。本当に頼もしいキャプテン、副キャプテンがいる中で、時には守備についてはチーム全体に促すこともありましたけど、基本的には自由にのびのびとやらせてもらいました。
――学生コーチやマネジャーさんへのインタビューで主将、副将の方と一緒に金子さんがチームを引っ張ってきた人物として名前が挙がっていましたが
引っ張るというよりか、自分の持ち味の一つとして声を出すということだと思います。早川(隆久主将、スポ4=千葉・木更津総合)に負けないくらい試合中に声を出したりすることしかできなかったのですが、結果的にそれも後輩とか見ていてくれたらよかったのかなと思います。チームのためにというよりかは自分のためにというか自分の気分を上げたり、いいプレーをするために周りに振る舞ったりする意識はしました。
――以前、チームメートのプレーを自分のプレー以上に喜びたいとお話されていましたが、それは元々でしょうか。それとも何かきっかけがありますか
特にないのですが、野球って上に上がれば上がるほどどうしても目に見える打率だったり防御率だったり、個人個人になっていきがちだと思うんですよ。けど、原点を辿ると野球はやっぱりチームプレーですし、誰が勝ったというわけではなく、早稲田大学野球部が勝ったことになると思うので、そこがブレてないのかなと。チームスポーツというところで、やっぱり仲間がいいプレーをすれば自分のことのように喜ぶ、自分がいいプレーをして周りが喜んでくれたらそれ以上にうれしいことはないというシンプルなところだと思います。
――「ここ一番では集中力と運が鍵」とアンケートに書かれていましたが
なるようにしかならないんですよね、ああいう場面は。神頼みとはまた違うのですが、そこは結果を誰も知らないので。ただ、そこに対する集中力をもってことにあたるという。そういう手段に集中するしかないのかなと。あとは運です。
――自分でどうにかできるものではないと
なるようになります。きっと。駄目な時は駄目なので(笑)。
――そこに至るまでのやるべきことはやった上で、あとはその場にという
はい。やっぱり絶対打ちたいじゃないですか(笑)。向こうも抑えたいですし。そこはもう集中力と運です。
――昨年秋、昨季春の早慶戦で9回2死からそれぞれサヨナラ打と同点打を放っていますが、運を持っているなと思いますか
持っているとは思わないですね。持っているとは思わないですけど、でもよく回ってくるなとは思います(笑)。監督さん(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)にもよく言われますね。チャンスで回ってくると「お前そういう星の下に生まれてきたんだよ」みたいな。そう言われて打席に送り出されることがあって。持っているとは思ってないですし、思いたくもないですね(笑)。
――好機で自分に回ってこいと思いますか
そういう場面になる前からは思っていないですけど、やっぱりだいたいわかるじゃないですか。この打順でこれくるなって。こないでとも思わないですし、あんまりこいとも思わないです。あ、これくるな、よしやってやろうって感じです。
――試合中の声出しや、チームメートへ声を掛けたりする場面が見られますが、雰囲気作りはやはり心掛けていますか
神宮だけではなく練習からやることで、それを神宮でもやるだけだと思います。
――ベンチの雰囲気も勝敗に関わってくるのでしょうか
劣勢の時にいかに盛り上げて全員で守るかというところだと思うので、今季はそこで踏ん張れていると思います。
――下級生から試合に出場していましたが、早大での4年間を振り返っていかがですか
長いなというのが一番です。まだ終わんないのかというのが一番ですけど、でもこうやって優勝の懸かった早慶戦を最後迎えられるということは、僕にとってはいろんな人を見返すチャンスなのかなと思っていて。いろんなインタビューなどで言ってきたと思うのですが、1個上には加藤さん(雅樹、令2社卒=現東京ガス)がいて1個下には清宮(幸太郎、北海道日本ハムファイターズ)がいて。自分らの代は調整の代だろうとかそういうのがあったのですが。そう言われてきて、その場では「そんなことないですよ」みたいに流してはいたんですけど、でもどうしても絶対こいつらいつか見返してやろうみたいなのものはあったので、その舞台が今整ったのかなと感じています。
――水久保佳幸選手(慶大、4年)とは試合に関して何か連絡を取りましたか
取りますね。1回、よっち(水久保選手の愛称)が東大戦(慶東2回戦)でタイムリーを打った時に「ナイバッチ」って。そうしたら、早慶戦最後よろしくねみたいな感じになって。ただ向こうは「早慶戦で打たないでね」みたいなことを言われたので。でもやっぱり活躍してくれるのはうれしいです。中学校から約束して「最後早慶戦でやろう」と言って自分は早実の進学を決めたので。本当は山本賢太(慶大、4年)というのも慶応にいて、それも中学校が同じで。山本賢太と水久保と自分の3人で、「最後に早慶戦で戦えるように、お互い早稲田と慶応に行って頑張ろう」みたいなことを言ってここまで来たので。本当に正々堂々とやりたいですね。楽しみます。
――早実から早稲田に7年間在籍して、早慶戦は特別だと思います。そこへの気持ちをお願いします
人生で最後の早慶戦になると思うのですが、まずはこういう世界情勢の中で野球ができるということはありがたいですし、まずは野球ができることに感謝しないといけないなと思います。早慶戦も戦争中は中止になったりいろんな歴史があるので。そういった人たちの思いも背負いながら、なおかつその中で自分たちの野球をしっかりとやり切りたいと思います。『GRIT』を掲げてここまでやってきたので、ベンチに入れない人の思いも背負って、ヒットを打つ打たないではなく、必死にプレーしている姿を球場に来てくれる早稲田の学生、早稲田の関係者の人たちにも見せられればと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 飯塚茜)
◆金子銀佑(かねこ・ぎんすけ)
1999(平11)年1月4日生まれ。170センチ。72キロ。東京・早実高出身。教育学部4年。内野手。1日だけ他のチームメートに代われるとしたら、「注目を浴びたい」という理由で早川選手になりたいという金子選手。早慶戦で活躍し、神宮球場にいるどの選手よりも輝いてほしいですね!