東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)では共に試合終盤に登板し、救援の柱として活躍した柴田迅(社4=東京・早大学院)と山下拓馬(法3=埼玉・早大本庄)。2人は早大の付属校出身、そしてリリーフというポジションも重なることから、学年を越えてここまで共に成長を続けてきた。今回は、それぞれが課題を見つけた春季リーグ戦の振り返りや今秋に懸ける思い、お互いの印象や投球について伺った。
※この取材は9月8日にオンラインで行われたものです。
お互いの特徴は・・・
取材に答える柴田(左)と山下
――まず、お互いの他己紹介をお願いします
柴田 おー、いきなりね(笑)。じゃあ、僕から。
山下 下の名前は?
柴田 拓馬(笑)。山下くんは、そうですね、すごくいいピッチャーですね。
山下 柴田さんに言われたくない(笑)。
柴田 この春からリーグ戦デビューした選手ですが、初めてとは思えないほどマウンドさばきも冷静ですし、肝が座っているなというのが僕の率直な印象です。プライベートでも結構先輩や後輩に対しても距離感が近かったり、そういう意味で人間的な部分でもすごく魅力的なところもあります。野球という意味でも、自分自身も初めてのリーグ戦は2年生の時に経験していますが、初めてベンチ入りしたシーズンからこれだけ活躍できて、あれだけ冷静に淡々と抑えられるというのは、山下のメンタルの強さがあるかなと思います。すごいやつです。
山下 めっちゃ言ってくるな、言いにくい(笑)。柴田さんは優しい人です。今4年生で後輩しかいないですけど、後輩にちょっかいかけたりするような人で、同期に成田(璃央、教3=東京・早実)というのがいるのですけど、いつも練習中に成田にちょっかいをかけているような人です(笑)。
柴田 やばいじゃんそれは(笑)。
山下 それくらいラフに人と接するのがうまいというか、人柄的にはそういう人です。野球で言うと、神宮でこの前150km投げていたりとか、真っすぐでプロと戦えるのではないかと思えるくらいすごいものを持っているし、変化球ではカーブだったり、カットボールが自分的にはすごいと思っています。そういうもので組み立てて、強いストレートで決める。あのストレート、自分は欲しいと思って見ていますね、いつも。
――プライベートでも交流はありますか
柴田 リアルではなく、画面の中で交流していますね。
――具体的には
柴田 ゲームですね(笑)。『荒野行動』というゲームを時々、お互い暇な時間に通信して2人で戦いに行ったりしていますね
――どちらが強いのですか
山下 まあ、自分の方がうまいですね(笑)
柴田 山下くんはiPadというね、大きい端末を使って僕が見えない敵まで見えていて倒してしまうので、やはりちょっと負けちゃいますね(笑)。
山下 これに関しては自分の方がセンスあるということでお願いします(笑)。
――お2人とも附属校から内部進学で大学に入られました。共通点として感じていることは何かありますか
山下 自分の場合、最初附属出身はそんなに試合で活躍できることはないのかな、と入った時に思っていたのですが、柴田さんが附属校出身でベンチ入って活躍していて、附属でもいけるのだなと思ったので、自分は頑張ってくることができました。
柴田 山下個人的にということで言えば、自分自身が学院出身で、附属から大学の野球部で何とかベンチ入りして投げさせてもらっているという立場だったので、練習試合とかを通して附属校出身の山下が1軍のメンバーに選ばれていって、どんどんステップを踏んで行ってメンバーになっていくという過程を見たときに、自分との共通する部分も感じましたし、人一倍山下のメンバー入りについては喜んでいました。
――山下選手から見て柴田選手の尊敬するところを教えてください
山下 まず、人柄の良さ。あとは、球も速いし、足も速いし、女性にもモテますし。尊敬するところか、挙げたらキリがないですけど、やっぱり人柄の良さでしか表せないな(笑)。誰とでもうまく付き合えるというか。心の中では好き嫌いあるでしょうけど、それを表に出さないで親しく接することができるのは、すごいところだと思います。
――柴田選手から見て山下選手に期待している部分はありますか
柴田 今、ポジション的には大事な後半局面で出てくるピッチャーというところで共通していて、時々山下も(最終回を)担ったりしていますけど、今のところ最終回を抑えるというのは僕が務めているような状況なので、クローザーというポジションを将来的には山下に担ってもらって、最後を締めくくるという大事な役割を自分の後を継いでいってもらいたいなという期待はあります。
――前回の対談では、(山下選手から)柴田選手に相談されることもあると伺いました。最近、お2人で話されたことはありますか
山下 投球フォームについてで、自分の場合は下半身の使い方が下手なので、柴田さんは下半身意識したりだとか上手い部分があるので、少し聞いたりしていますね。
――お互いの投球の特長はどのようなところだと思いますか
柴田 山下のピッチングスタイルは、魔じゅちゅ、噛んだ(笑)。魔術師でお願いします(笑)。というのも、山下はチェンジアップがいいなと自分の中では思っています。奥行きがすごく出るというか、真っすぐとチェンジアップでバッターを翻弄していく、バッターを操っていくというところで、チェンジアップという魔球を操る魔術師として自分の中では山下くんを捉えています。
山下 魔術師とか、柴田さんを表す言葉ないな(笑)。自分の場合は一言で表すことはしないです。柴田さんの投球スタイルは速い真っすぐでゴリ押しというように見えるかもしれないですけど、実は器用なので、カットボールを組み合わせて、ここぞという時に真っすぐを投げ込むというように自分は思っていますね。
「秋は優勝して、感謝の気持ちを表に出したい」(山下)
昨季の法大戦でリーグ戦初登板を果たした山下
――では、ここからは春季リーグ戦についてお伺いします。リーグ戦を振り返って、ご自身を点数で表すと100点中何点でしょうか
柴田 僕は点数を付けるなら60点かなと思います。自分の中で大きいのは、法政戦の六大学初のタイブレークで僕がマウンドに上がって、その表の攻撃が上手くいかなかったというのもあって自分が絶対に抑えなければならないという状況で、全く自分が納得できるピッチングができなかったことによって最後サヨナラ負けを喫したことです。あそこで自分のピッチングができなかったという部分では悔しい思いが強かったので、法政戦以降は自分のピッチングが取り戻せたと思うのですが、法政戦の一試合、あれが自分の中では大きいので、60点、ぎりぎり赤点行かないぐらいだと思います。
山下 自分は50点でお願いします。法政戦は自分のピッチングができて2イニングゼロで抑えることができたのですが、慶大戦と東大戦は自分のピッチングができず、慶大戦はタイブレークの打たれてはいけないところで打たれてしまって負けてしまい、東大戦は抑えたのですが思い通りに投げることができませんでした。東大なら正直1イニングで三振を2つ3つ狙えるかなと思ったのですが、結局ゼロで納得が全くいかなかったので、50点です。
――その中で、何か手応えは感じられましたか
柴田 一つ自分の中ではあって、それは下半身の使い方という部分で、リーグ戦中でつかめたものがありました。リーグ戦を終えた夏のオープン戦でも手応えを感じながら過ごすことができていて、下半身の中でも母指球を意識することによって、ピッチングがいい方向に変わったというのが試行錯誤していく中であったので、そういう意味では下半身の使い方を改めて自分の中で見つけることができたことが収穫かなと思います。
山下 自分の場合、ストレートはそんなに打たれないなということです。六大学にはバッティングがいい人が多いのですが、ストレートは案外打たれないなというのが収穫です。チェンジアップも法政戦はよかったのですが、慶大戦ぐらいから少しおかしくなり始めたので、ちゃんと投げることができれば打たれないというのはあるし、投げ切ることができなければ慶大の時のように打たれる。それはずっと前からわかっていることではあったのですが、その2つですかね。
――今季は六大学の中で一番チーム防御率が低かったですが、お2人から見て投手陣全体はいかがでしたか
柴田 本当に何より先発ピッチャーに尽きると思っています。早川(隆久主将、スポ4=千葉・木更津総合)、西垣(雅矢、スポ3=兵庫・報徳学園))、徳山(壮磨、スポ3=大阪桐蔭)というような先発ピッチャーがあれだけ試合をつくってくれて、失点も少なくリリーフ陣に回してくれるというのは防御率という部分にも関わってくると思いますし、リリーフ陣が奮起するエネルギーになったかなと思うので、防御率1位というのは先発ピッチャーのおかげだなと思います。
山下 ほぼ一緒ですね。早大の場合は先発が6、7回投げてくれるので、その後に出ていくリリーフ陣は1イニング、投げても2イニングです。そこはゼロに抑えられて当然、というのを求められるチームなので、先発ありきの投手陣ですね。3人がいなかったら、長い回を投げたら自分とかはもっと点を取られていたと思うので、3人に感謝ですね。
――それぞれの球種の状態はいかがでしたか。
柴田 先程言ったように、法政戦で自分の納得できるピッチングができなかったのですが、それ以降下半身の使い方をつかんでからは全部の球種が一段階ぐらい、感覚的にいい方向にレベルアップしたかなと思っています。今、六大学ではトラックマンという最新の機械を取り入れていて自分のピッチングを数値化できるのですが、そのような数値で見ても春のリーグ戦は3年の秋と比べてもレベルアップできている部分を見つけることができたので、各球種、特にカットボールとストレートが自分の中では一段階レベルアップできたかなと思います。
山下 自分の場合はピークが法政戦だったので、そこから少し落ちてはしまったのですが、真っすぐは回転数がトラックマンとかで人よりも多いなと感じていて、チェンジアップとかスライダーの回転の軸も自分のイメージしているものと近かったので、いい調子だなとは思うのですが、カーブが春季リーグ戦には間に合わなかったので、カーブの調子は見直しつつ、秋に繋げていけたらという感じです。
――リーグ戦3位という結果をどのように捉えていらっしゃいますか
柴田 敗戦した試合はどちらもタイブレークという、あと少しという敗戦があって残念ながら3位という悔しい結果に終わっているので、やはりここぞという時の一本とか、あと一歩という結果の3位なので、自分としては悔しい気持ちが残る結果だと思います。
山下 3位だったのですが、延長まで持たずに負ける試合が無かったとかチーム打率、防御率が共に1位であったりと、地力では負けていなくて、1位を取れてもおかしくないなという中だったとは思います。タイブレークで力を発揮できなかったり、そのような詰めの甘さで負けていたので、そこを詰めていけば秋は1位が取れるのではないかと思います。
――タイブレークという話が出ましたが、今回リーグ戦で初めて行ってみていかがでしたか
柴田 リーグ戦までのオープン戦で相手チームにお願いしてタイブレークの練習をさせていただく機会は多くあったのですが、リーグ戦の独特の緊張感の中でのタイブレークはいくら練習していても慣れないというか、あの中で投げる緊張感というものは今までに無いものがあったので、そういう意味では貴重な経験ができましたし、逆に言えば悔しい経験もしたというような思い出です。
山下 オープン戦のタイブレークでは打たれて失点したりとかは無く、リーグ戦でもやれるだろうという中で臨んだ結果があれだったので、悔しいし申し訳ないという気持ちが強いです。
――リーグ戦では観客が3000人という上限があり、応援団もいない状況でしたが、実際に試合をしてみていかがでしたか
柴田 自分自身2年生からリーグ戦に出させていただいているのですが、今回応援無し、さらに観客の人数制限がある中で、やはり応援の力というのは強く背中を押してくれる原動力というか、自分がパフォーマンスを高いレベルで発揮するうえで大切なものと改めて強く痛感した部分はあります。でも、3000人という静かな中での試合だったので、改めて自分たちのベンチの声、チームの中での声がどれほど重要なのか身に沁みて感じることができたので、秋のリーグ戦がどのような形であっても自分たちの声を大切にしていこうと思います。
山下 ほとんど全部言うじゃないですか…(笑)。自分が思ったのは、応援の力が試合に働くことが多いのだろうなということです。あとはベンチからの声、早川さんとかベンチでマウンドまで聞こえるぐらい声を出してくれて、そこで一つ冷静になれたりとかはあったので、投げやすかったと言えばそうなのですが、秋に応援団が入るとなると相手の応援が聞こえてくるので、その中で自分がどう投げなくてはいけないのか、また考えることが増えるなということが、試合をしてみての印象です。あとは、実際に球場には来ていなくても気にかけてくれる応援部の人がいるので、そういう人たちのためにも秋は優勝して、感謝の気持ちを表に出したいなと思います。
――徳山選手が最優秀防御率とベストナインを獲得されましたが、お2人から見ていかがですか
柴田 本当に文句なしの最優秀防御率とベストナインではないかなと思います。徳山のみならず、早川とか頑張っていたし、西垣もしっかりとゲームメイクしていたし、そういった先発陣の調子が良く、切磋琢磨しながらいい試合を重ねていく中で徳山のいい結果が生まれているのではないかと思うので、チームの投手陣みんなで取れたものなのではないかと。自分は微力ですが、早川や西垣、徳山の3人が高め合っている中で生まれたものだと思うので、チームメイトとしてうれしいです。
山下 自分の場合は、同期で防御率0.00でベストナインで、本当に同期なのかなと思う瞬間があったり、そういったピッチャーを負け投手にしないように後ろが頑張らなくてはいけなかったりというのがあります。徳山だけではなくて早川さんとか西垣もいいピッチャーなので、先発陣が9回とか完投しなくても後ろに任せられるようなリリーフ陣になれば、その2人の防御率も上がってくると思うので、早稲田の先発陣だけで最優秀防御率の争いができるのではないかなと思います。
――春季リーグ戦を終えて監督やコーチから何か言われたことはありますか
柴田 思い出せる限りは特には無いかなと思います。いつもそうなのですが、チームとして自分で考える、『自律』を重んじているチームなので、上から指導されたり道を導かれるのではなく、自分で切り開いていくことが早稲田のチームカラーとしてあると思っています。監督やコーチから何か言葉をもらったりとかは特には無く、とにかく自分で考えて、失敗してしまったらその失敗を繰り返さないためにはどうしたらよいのかを考えるということを、何も言われていないということから感じ取ってやらなければいけないのではないかなと思います。
山下 自分も同じような感じで監督から言われたりとかはしていないのですが、記事の中で「山下はあれぐらいはできると思って投げさせた」というのを目にした時は、期待に応えることができたということと、そこまで期待してもらっていたんだなという気持ちが入り混じって、少し感動したりしました。あとは、助監督(佐藤孝治助監督、昭60教卒=東京・早実)と仲がいいので結構話してくださるのですが、法政戦が終わった後に「ナイスピッチ」と言ってくれた時は、素直にうれしかったですね。それ以外は特に言われたことは無かったです。柴田さんが言ったように、言わないというメッセージなのかなと思います。
――早川主将からも特にはありませんでしたか
山下 早川さんもそんなに言わない人だから…。
柴田 やはり、早川からの言葉というのはピッチャー陣に対してとかではなくチームのキャプテンとしてというところで、チームとして今回の3位という結果は決していい結果ではないと思っていますし、あと一歩のところで負けるという悔しい思いをしているので、その悔しさを晴らすために春のリーグ戦で出た課題をどう克服していくかというところに重点を置いて、この夏必死にやっていこうというメッセージはあったかなと思います。
――春季リーグ戦を終えて、練習で意識するようになったことはありますか
柴田 自分の場合はリーグ戦でつかむことができた下半身の感覚を絶対に忘れずに、秋のリーグ戦に繋げていくことができるようにということで、トレーニングを通して忘れないように、あるいはもっとレベルアップできるようにということを考えてやっています。
山下 自分の中ではリーグ戦でストレートが武器ということに気づくことができたのが大きかったので、回転とかもっと磨きをかけられるようにキャッチボールから指先のかかりを意識したり、柴田さんに下半身の使い方を教えてもらったりしています。あとは慶応の橋本(典之、3年)にチェンジアップを打たれたことがリーグ戦を通して強く残っているので、しっかり腕を振って低めに集めるように練習しています。
――それでは、ここからは個別にお伺いしたいと思います。まずは柴田選手から。先程、球種のお話の中でカットボールとストレートはいい状態とおっしゃっていましたが、リーグ戦前の対談であと一歩としていたカーブの状態はいかがでしたか
柴田 個人的にカーブの状態が一番良かったのは東大戦で、リーグ戦後のオープン戦でもいい状態で来ていると思うのですが、自分の中ではカーブの中でも強弱をつけたり、高低の差をつけたりというところでは東大戦で感覚が良くて、それがオープン戦でも継続できているかなと思うので、あと0.5歩まで来たかなと思います。
――最近の試合を見ても、三振率が高いように思えるのですが、何か要因はありますか
柴田 自分の中では3年の春に明治戦で打たれたホームランから、投げる球の高さを徹底して意識しているということがありますし、それに加えて先ほど言ったカーブを有効に使って、いかに自分の武器であるストレートを生かしていくかという2つを意識して試合に臨んでいます。自分の状態がいいということもあり、高さを徹底して武器であるストレートをどう生かすかというピッチングができているので、三振が多く取れているのではないかなと思います。
――先程もお話の中でありましたが、法大戦では10回裏でマウンドに上がりましたが、その時の心境はいかがでしたか
柴田 これが空回りしてしまった原因ではあると思うのですが、3年生秋の相手の全勝優勝がかかった慶応との試合で2回戦、9回無死一塁から登板した時の気持ちの高ぶりと絶対に抑えてやるぞという強い気持ちを(今回の法大戦)ブルペンからマウンドに向かう時に自分で強制的に思い出させて、あの時の高ぶりをマウンドに持って行けばもう一回抑えられるという自信を持ってマウンドに上がったのですが、逆にそれが力みに繋がって、心と身体がアンバランスになってしまってなかなか納得のいく投球ができませんでした。少し苦い思い出ですが、あの時は早慶戦を思い出しながら気持ちを高ぶらせていた記憶があります。
――最近の試合では、8回に柴田選手が投げ9回に山下選手が投げることもありますが、引き継ぐ際に何か意識していることはありますか
柴田 これはピッチャー陣全体を通してということになりますが、自分が投げた時のマウンドの状態であったり相手バッターの印象であったり、後は審判のストライクゾーンなどの情報の共有を第一にするということはもちろんです。山下は何も言わなくても抑えてくれるので特に言うことはないのですが、「9回任せたぞ」という言葉をかけたりはしています。
――秋は大学最後のリーグ戦ということで、何かこれまでと意識の面で異なることはありますか
柴田 全てのことに「最後」が付くこと以外は無いかなと思っていて、自分のやることはいつも通り0で抑える、チームに勢いを持っていくことだと思うので、自分の中では特に意識することは変わらないかなと思います。
――春季リーグ戦前の対談では、春が終わった後に進路を決めるとおっしゃっていましたが、最終的な進路は決定したのでしょうか
柴田 就職します。もう監督にも伝えました。周りからはありがたいことに「野球を続けてほしい」と思ってくれているというか、社会人チームの方からも必要としているという気持ちを伝えていただいて、自分が必要とされている幸せを感じることはできました。ただ今まで野球というスポーツを通して成長できたということはあるのですが、今度はもっと社会という大きなフィールドで自分を磨いていけたらいいなと思うので、就職ということを自分の中で決めました。
――ここからは山下選手にお伺いします。法大戦でリーグ戦初登板となりました。ご自身で振り返っていかがでしたか
山下 1ー0で7回裏にエラーで1点入って1ー1(という状況)で。8回から自分が行くぞということだったので、準備はできていましたけど、本当にこの場面自分でいいのかなと(思っていました)。その1ー1になってからは本当に自分?という思いが強くて。柴田さんの方が良くない?と思っていたのですが、行くと決まった以上、気合入れて行かなきゃ行けないな、できるだけ集中して行こうという気持ちでした。初登板だったのですが、緊張というよりも絶対抑えてやろうという方が大きく、バッターと勝負ができたので、法政戦はいい勝負ができたかなと思います。
――緊張やプレッシャーはあまり大きくなかったのでしょうか
山下 そうですね、緊張やプレッシャーよりも絶対勝ちたい、優勝したいと思っていたので、やってやろう、抑えてやろう(という気持ち)でした。1イニング投げれば、柴田さんが投げてくれると思っていたので、1イニング出し切りで、初球から全力で行こうと一生懸命投げました。
柴田 すごいですね。
山下 ちょっとずつ入ってくるのやめてください(笑)。
――以前「自分は三振をとるピッチャーではない」とおっしゃっていましたが、法大戦8、9回には4者連続三振を記録されていました。この結果、いかがですか
山下 まぐれといったらまぐれなのですが、あれだけ真っすぐが走って、打たれないことが分かったので、チェンジアップを振ってくれれば六大学のレベルの高いバッター陣でもある程度三振をとることができると分かったので、次につなげていきたいですね。まぐれです。
――以前の対談で「慶応を警戒している」とおっしゃっていましたが、実際に対戦していかがでしたか
山下 やっぱり早慶戦は、法政戦とは違って緊張が勝ってしまって、自分の思い通り投げられなくて。警戒はしていたのですけど、その中でやっぱり打たれたので、結果が伴わなかったのがすごく悔しいですね。フレッシュオータム(大学野球オータムフレッシュリーグ)でも打たれているので、次は絶対に抑えてやろうという思いが今は強いです。
――慶大戦でマウンドに上がる時のご自身の心境はいかがでしたか
山下 負けている状況で9回に入って追いついて(という状況でマウンドに上がった)ですけど、柴田さんがそのまま行くのではないかという気持ちが強かったです。
柴田 だめですね、それは(笑) 。
山下 自分と決まってしっかりやろうと思って行ったのですが、早慶戦の異様な雰囲気にちょっと飲まれてしまって、スライダーを投げてキャッチャー捕逸があって。あの辺から頭が真っ白になって、正直打たれた球は覚えていますけど、それ以外どんな配球で投げていたのかも覚えてないくらい真っ白になっていたので、飲まれすぎていました。心境でいうなら、雰囲気に飲まれたという感じです。真っ白です。
――ベンチ内や試合前、投手陣をはじめ、他の選手に声を掛けてもらうことはありましたか
山下 投手陣に限らずですが、ありがたいことに自分が何回に行くとなったときに、「じゃあ、その回は安泰だな」とおちゃらけた感じでも言ってくれる先輩が多くて。「まじか、お前かよ」となるよりは投げやすい雰囲気ができて(マウンドに)行きやすいですし、自分が抑えればどうにかしてくれるというチームなので、投げやすいです。「任せたぞ」「お前なら大丈夫」などポジティブな方向の声かけが投手陣含め、いろいろな先輩方からしてもらえるので。ネガティブな声がけはないですね、ポジティブが多いです。
「感謝を持って有終の美を飾る」(柴田)
昨季の慶大戦で力投する柴田
――今季はどのような投球を目指していますか
柴田 僕は防御率0.00。いつもですが、これを目指してやっていこうと思っています。というのもリリーフ陣、0で抑えなければいけない場面で出ていくことしかないので、とにかく0で抑える。欲を言えば、欲しいところで三振やゲッツーを取ったりしてチームに勢いを与えるような投球ができればベストかなと思います。
山下 防御率0.00、リリーフ陣としてそれを求められるのですが、自責点0だけでなく、失点も0でいきたいなというところはありますね。エラーで(塁に)出たりしてもそれを自分がカバーしていく。それができれば、チームとしては勢い付くと思うので。欲を言えば、三振を何個か取って帰ってきたいなと思っています。
――警戒しているチームと打者はいますか
山下 自分の場合は、法政とはまあまあ相性が良いので、法政は警戒しているかと言われたら、そうでもないです。(警戒しているチームは)やっぱりずっと言っている通り、慶応。その中でもやっぱり橋本。代打で出てきて打たれているので、同学年だし、次こそは絶対に打たせない、やり返してやると思っています。この辺ですね、警戒しているのは。
柴田 (質問は)警戒しているチームとバッターね?
山下 いないでしょう、余裕でしょう、柴田さん(笑)。
柴田 正直選ぶのが難しいくらい今、六大学というのは実力が拮抗しているというのは身に染みて感じているのですが、その中で強いて言うなら、警戒しているチームはいつも慶応と言うので、今日は変えて法政で行こうと思います。山下は法政に相性がいいらしいですけど(笑)、自分自身は夏のリーグ戦(東京六大学春季リーグ戦)で法政にやられたりもしているので、警戒するチームというかリベンジの心を燃やしている相手を挙げさせてもらうと、法政大学。その中でも本当にいろいろないいバッターいますけど、自分の中では最後犠牲フライ打たれた神野(太樹、3年)。神野は次出てきたらこてんぱんにしたいなと思っています。
山下 さすがですわ、かっこいいな(笑)。
――今の早稲田の強みは
柴田 今は、自分で言うのもおこがましいですけど、早稲田めちゃくちゃ強いなと思っています。攻撃陣もやはり夏のリーグ戦で反省点として出ていたチャンスでの1本とかあと一歩というところが、このオープン戦期間、そのチャンスをものにできているなというところが見受けられます。相変わらずピッチャー陣も調子が良くて、失点も少なく来られています。チームとして安定して強い状態を保っているなと言うのが正直な印象としてあります。
山下 自分としては大きく2つ強みがあるなと思うのですけど、まずピッチャー陣。自分もピッチャーなのであんまり言えないですが、ピッチャー陣はロースコアのゲームに持っていける先発ピッチャーを筆頭に、毎回ほぼ3点以内に抑えてゲームをつくれるので、勝率はそこで上げられるなというのがあります。もう一つは春にはなかった勝負強さというのが出てきて、さっき柴田さんも言っていたと思うのですが、ここぞの1本、それが上位打線やクリーンアップ関係なく出てきて、得点率も上がってきているので、強みはその辺ですね。早稲田今、強いと思います。
――秋の個人目標はありますか
山下 簡潔に行きましょう、目標なんで。
柴田 防御率0.00です。
山下 前回と同じになっちゃうかもしれないかもしれないですけど、失点0ですね、自分はやっぱり。
――最後にリーグ戦に向けての意気込みをお願いします
柴田 自分の場合は、大学野球人生最後のリーグ戦で、これで自分の本気で打ち込む野球人生というのはピリオドを打つことになるので、野球を小学校3年生から始めて今までずっとやってきて、自分をサポートしてくれたり、関わってくれたりした人全員に感謝を持って最後のリーグ戦、全身全霊でいって、有終の美を飾ることができたら良いなと思います。そのためにもさっき言った防御率0.00。自分の持てる力全部を発揮して、相手チームを抑えられたらいいなと思っているので感謝を持って有終の美を飾るというように思っています。
山下 自分は個人の成績で防御率0.00、失点0、三振率いろいろありますけど、それよりもやっぱり、柴田さん含めいろいろな先輩方の優勝の経験を最後にお手伝いできるように、自分個人のためというより、チームのため、先輩のために失点0を掲げて、点を取らせないピッチング、チームを勇気づけるピッチングをやっていきたいなと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 石黒暖乃、吉田美結)
◆柴田迅(しばた・じん)
1998(平10)年6月2日生まれ。177センチ、77キロ。東京・早大学院出身。社会科学部4年。投手。右打ち。早大の守護神としてチームにとって欠かすことができない存在になっている柴田選手。大学野球最後のシーズン、早大に勝利をもたらす圧巻のピッチングを期待しましょう!
◆山下拓馬(やました・たくま)
2000(平12)年2月29日生まれ。184センチ、90キロ。埼玉・早大本庄出身。法学部3年。投手。右打ち。時に冗談を交えつつ質問に答えてくださった山下選手。柴田選手との会話には仲の良さを垣間見ることができました。秋季リーグではきっとお二人の投球で試合を明るくしっかりと締めくくってくださることでしょう!