春先の故障により春季オープン戦での登板はゼロ。東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)へ向けてチームが実戦を重ねる中、大竹耕太郎(スポ4=熊本・済々黌)は一人焦燥感や孤独感と向き合った。焦らず調整を続け、明大戦からベンチ入り。しかし、そこからがまた試練だった。明大1回戦で決勝本塁打を浴び敗戦投手となると、立大2回戦ではビハインドを追い付いた9回に登板しまたも決勝打を浴びてしまう。悔しい春となっているが、状態自体は悪くない。カギとなるのは『緩急』。早慶戦でこそ本来の持ち味を存分に生かし、陸の王者を翻弄(ほんろう)する。
※この取材は5月19日に行われたものです。
肩痛により離脱、そして復帰
春先のケガ、そこからの復帰までを語る大竹
――今季は春先に肩の故障があり、出遅れたかたちとなりましたが、痛みを感じ始めたのはいつでしょうか
台湾に行った初日なんで、3月1日ですね。そこまでは問題なかったです。激痛ってわけじゃないですけど、気持ち悪い感覚が続いていました。
――原因として心当たりなどありますか
秋のシーズンが終わってからずっと投げ込み投げ込みだったので、それもあると思います。
――沖縄キャンプ時の取材では「冬場は週4で投げ込んでいた」ともうかがいましたが、投げ込みは多い方ですか
1年の冬はかなり投げ込んで2年の春に結果を出したんですけど、自分自身かなり投げ込んでいるので、そこらへんの兼ね合いは考えていかないといけないと思います。ただ、投げないと得られないものもあるんで投げ込みは大事にはしていきます。
――「投げないと得られないものがある」という一方で投げられないままリーグ戦に入ってしまいました
そうですね。ほぼ。(投げ始めたのは)ベンチ入りした前の週からでした。だいたいオープン戦で自信つけていくんですけど、それがなく、投げ込みもほとんどしてなかったので、投げる感覚、実戦の感覚が・・・。
――それでも開幕戦の法大戦には間に合わせたいという気持ちがひしひしと伝わってきましたが、実際は開幕に間に合わせることは難しかったということでしょうか
そうですね。焦ってキャッチボールしてまた痛めてというのもあったので、そこは焦っても仕方ないかなと思いました。中途半端のまま復帰しても迷惑かけると思ったので、
――今季の復帰について髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)も厳しい見方をしていましたが、2カード目・明大戦からの復帰となりました
その週の実戦形式の練習で良かったので、試合でもいけるかなと思ったんですけど、ダメでしたね。
――ことしに懸ける思いは相当のものだったと思いますが、投げられない焦り、もどかしさは
そうですね・・・。他のピッチャーもいいんで、なかなか登板機会が回ってこないです。
――おととしの夏には右ひざの故障で秋季リーグ戦に間に合いませんでしたが、その時と比べていかがですか
その時も復帰してから2試合は打たれて、早慶戦だけ抑えただけなので、その時よりも今の方が状態、球の質はいいんですけど、ちょっとしたところがうまくかみ合ってないというか。そんな感じがします。
――その時はそれほど状態が良くない中、投球術で抑えていたということですね
そうですね。今は球の質が落ちている感覚はないんですけど、心の余裕がないですね。
――復帰できたことで、焦らずにやってきたことは正解だったと思いますか
そうですね。中途半端に投げずに調整できたから(復帰できたの)だと思います。
――投げられない期間はリーグ戦メンバーとは行動が別になります。その中で支えになった選手はいますか
野手はメンバーとそれ以外で分かれて、メンバーが練習している時は補助をして、その後にメンバー以外が練習で。ピッチャーも同じく試合に出る人とそれ以外で分かれます。その頃は試合に出ない方にいたので、少しモチベーションが下がる部分もあったんでけど、試合に出ない同級生の存在が大きかったです。
――具体的に名前を挙げるなら
小宮山(将、教4=東京・早実)ですね。あとは増田(大輝、教4=埼玉・早大本庄)とかです。
――投げられない期間に行っていたメニューはなんですか
ボールを投げられなくてもシャドーピッチングなど、体の使い方は確認できるので、投げられないからこそやっていました。
――ことしは最上級生ということで、これまでよりも「チームで」「みんなで」「助け合って」という言葉を頻繁に口にされます。あらためてチームや同期への思いを聞かせてください
最初は仲悪かった時もあったんですけど(笑)、野手とピッチャーの間でもめたり。それは毎年あることですけど、学年が上がるごとに遠征や行事を通して仲が深まっていって、今はチームのためにやりたいという気持ちになっています。このチームメイトと一緒に優勝したいという気持ちが強いです。
――それはおととしに第一線で優勝を経験したメンバーの一人としても、でしょうか
そうですね・・・。導きたいですけど、今はなかなかそんな大口はたたけないです(笑)。
――現4年生はスタンドで応援する時は全力で応援し、試合後はベンチ裏に降りてきてメンバーを一人一人労う光景が見られます
最近、応援しているみんながブルペンの隣にいるんですよ。今まではもっと上だったのに。そこから声を掛けてくれます。応援も4年生が中心になってやってくれていて、試合前の補助も進んで買って出てくれて、そういう本当は試合に出たいのに出られないメンバーのためにも試合に出るメンバーは責任を持ってやらなければならないです。
――脇健太郎投手コーチ(社4=早稲田佐賀)はことしの投手陣について「本当に仲が良い」とおっしゃっていましたが、ことしの投手陣はどんなメンバーですか
うーん、やっぱり個性は強いですね。みんなピッチャーだなって感じで。柳澤(一輝、スポ4=広島・広陵)とか変わってるんで(笑)。でもまとまりは強いと思います。
――今はなかなか勝てず、苦しいとは思いますが、復活を待ち望む声は聞こえてきますか
自分は聞こえなかったんですけど、今季の初登板した時にスタンドからそういう声をかけていただいたと聞いて、それはとてもうれしかったです。
――同期の仲間からしても『待望』なのではないですか
そうですね。それはすごく感じますね。その分、気を使われてるなとも感じますけど、打たれた時なんか。期待に応えられない申し訳なさはありますね。
――今季は初登板が明大1回戦。同点で迎えた6回からの登板でしたが、久々のマウンドに向かう心境はいかがでしたか
リリーフをあまりやったことがなかったので、緊張しましたね。ましてや同点だったので、点を取られちゃいけないという気持ちでした。状態というか、ピッチング自体はそんなに悪い感じはなかったですが、最後の一球(決勝打となったソロ本塁打)だけが甘かったです。
――リーグ戦の雰囲気も久々に感じたものだったと思います
そうですね。去年から神宮のマウンドで投げること自体にいいイメージがなくて、ある意味トラウマというか。1、2年時よりも雰囲気にのまれている感じはありましたね。
――打者に投げるのも久しぶりだったと思いますが
今シーズンは投げてるときに考えることはないです。バッターとの勝負に集中できています。
――今季は最後の最後、一球に泣いている印象があります
ホームランだけはダメという場面で打たれましたし、先週の立教戦も長打だけはダメという場面で長打を打たれましたし、そこらへんの何だろう、配球のリスク管理というか、ボール球が中に入ったり。球の質というよりは、そういうちょっとしたところの問題の積み重ねだなと。
ピッチングの『遊び心』
状態は上がっている。早慶戦でこそ大竹らしい投球なるか
――そこを間違えずに投げられれば抑えられるという自信はありますか
そうですね。それが前はできていたので、できると思うんですけど、現状はできていないです。
――状態はこれまでよりもいいということですが、特に手応えを感じている部分はどこでしょうか
真っすぐの質ですかね。それはキャッチャーに聞いてもだいぶいいということなので、投げてる方からしたら分からないんですけど、受けている方からはそういう声もあるので、真っすぐですね。
――真っすぐの球質、キレを特に意識されていますが、スピードガンの表示も今季は最速が139キロと、球速も上がってきたのではないですか
そうですね。球速を意識してるわけではないんですけど、常時(の球速)は上がってきているので、そこもいいかなと思います。
――スローカーブもかなりブレーキが効いてきているのではないですか
そうですね。調子がいい時はそういう緩い球を投げる余裕があるので、今思えば立教戦では緩いボールももう少し使えていたらなと。チェンジアップ、ツーシームだけだったので、絞りやすかったと思います。自分のピッチングをしていくためには緩い球でストライクを取る『遊び心』が必要というか。そういうものが足りていないなと思います。
――緩い球を投げるのには勇気もいると思いますが
打たれるというよりすっぽ抜けてストライクが入らない方が怖いですね。それでストライクが入らずカウントが悪くならないように、結局速い球になってまうんですけど、明治戦の2回戦なんかはコントロールに余裕があって、緩い球が外れてもカウントを整えられるという心の余裕もあって。結果的にストライクも取れたんで。だから、ブルペンでは緩い球でしっかりストライクを取っていく練習をしています。
――その緩い球が有効に使えればより打ち取れる幅も広がりますね
そうですね。それがないと自分はただのピッチャーです。そこらへんにいるピッチャーと変わらなくなるので。
――単純にボールの緩急だけではなく、クイックですとか、リリースを少し変えるような工夫も見られます
そうですね、めっちゃ見てますね(笑)。そんなこともやっていました。打ちたい打ちたいと思っているバッターならセットを長くして、クイックしたり。それはもう、「こうだったらこう」とかではなく、感覚です。長く持ってクイックだったり、足を上げる時の長さを変えてみたり。自分がバッターなら嫌だろうなと思うことをしています。
――それでは、マウンドでは常にバッターの反応を見ながらということですね
そうですね。はい。
――登板する前、ブルペンでは山なりのキャッチボール、スクワット、遠投など決まった準備をしてから捕手を座らせての投球練習をしていますね
軸足のお尻で前に押し出すイメージができるようになってから調子が戻ってきたんで、そのイメージができるための準備です。お尻が働くように軽くスクワットしたり、体重移動を意識して投げたり。お尻を働かせるイメージですね。軸足のお尻の外側、ですね。
――以前の取材では「先発でなければ自分の良さは出ない」ともおっしゃっていましたが、やはり先発したい気持ちは強いですか
したいですね。中継ぎでは1イニングで結果を残すことの難しさを感じます。「絶対いくぞ」と言われていても投げなかったり。その逆もあるんで、毎日毎日モチベーションを保つのが難しいですね。先発は前々から「この日」と言われていてそこへ状態を上げていけますし、1点取られても試合は続いていくので。今の自分の立場だと1点取られたら終わりなんで、それは難しいです。
――そうすると、1年時から中継ぎで活躍する北濱竣介投手(人4=石川・金沢桜丘)に対しては・・・
いやあ、もうすごいと思いますよ。尊敬します。
――立大2回戦でサヨナラ打を浴びたシーンを振り返ってみていかがですか
打たれたのは外のツーシームです。たらればなんで、言ってもしょうがないですけど、結構バットが外回りして打つバッターだったんで、バットの軌道的にあそこは外の変化だったかなと・・・。結果論なんで、しょうがいですけど・・・しょうがないではないですね。でもあんまり深くは落ち込まず、たまたま9回の裏に1点取られて負けたと思うしかないです。ふさぎ込みすぎたらまた雰囲気を悪くするんで。
――敗戦の瞬間はどんな心境でしたか
「やっちゃったな・・・」というか。まさかホームまで帰ってくるとは思ってなかったんで・・・(サヨナラ打を浴びた場面は1死一塁)。でも自分のせいで負けるというのは申し訳ないですね。
――4試合中2試合で自分に負けが付いているのも・・・
そうですね・・・。どちらも同点の場面で任せていただいたところで負けさせてしまったので、申し訳ないです。
――打たれた瞬間は佐藤晋甫主将(教4=広島・瀬戸内)が歩み寄って来て何か言葉を掛けていたように見えましたが、どんな言葉を掛けられましたか
「明日勝てばいいから気にするな」と。そんなニュアンスのことを言われました。
――その他の選手からはロッカールームや寮に帰って何かありましたか
八木(健太郎、スポ4-東京・早実)が部屋に来て。同じようなことですけど、「明日勝てばいい。打たれるのは仕方ない」というようなことを言われました。でもそういうのは本当にうれしいですね。
――他の投手の頑張りについては
1年で投げてる早川(隆久、スポ1=千葉・木更津総合)もいますし、小島(和哉、スポ3=埼玉・浦和学院)も。よく投げてくれているなとも思います。そこに食い込んでいきたいです。柳澤も肩を痛めていた時期があった中で、うまくやってくれているなと
「自分の能力が試される場」
――今季も慶大は打線が強力ですが、いかがですか
一発があるんで、そこは怖いなと思います。横尾さん(俊建、現北海道日本ハムファイターズ)、谷田さん(成吾、現JX―ENEOS)がいた頃からずっとそうですけど、その時に劣らないくらいいい打線だなと。相手のバッターの特徴を捉えたり、そういう部分でキャッチャーと話し合っていきたいです。
――おととし優勝して感じた最高の喜び、昨春打たれてノックアウトされる悔しさ、昨秋には登板すらできないもどかしさなど、いろいろな早慶戦がありましたが、あらためて早慶戦はどんなものですか
自分にとってもワセダにとっても一番大事な試合になると思いますし、満員の観客の前で試合をする分、自分の能力が試される場だと思いますね。
――甲子園を2度、早慶戦も5度経験していますが、大舞台で投げることについてはいかがですか
うーん。自分は緊張しないタイプと言ってきたんですけど、リリーフは緊張しますね(笑)。リリーフは違います。この前も9回裏いったときは足ブルブルになりました(笑)。今までみんなが試合をつくってきた中で最後に自分がいって、絶対に点を取られてはいけないという緊張感というか。先発で9回投げてきて最終回も自分がいくのとは違うなというのはありますね。そうなると、いい意味で開き直るのも大切かなと。そこまでに取られてきた点もあるわけですし。そういう開き直りも必要かなと、ちょっと思いますね。そこはピッチャーらしくじゃないですけど(笑)。気持ちの持ちようも大事かなと。あまり真面目に真面目にではなく。それにしても緊張はしますね(笑)。
――2年時の優勝の瞬間、その光景は今思い返していかがですか
特に春は満員だったので、自分の三振で湧くスタンドはすごく印象的でしたね。最後はセカンドフライ?センターフライだったと思うんですけど、優勝した瞬間は頭真っ白で興奮状態でした。優勝することの素晴らしさを知ったので、それをもう一度自分の代でやりたいという気持ちはありましたね。もちろん、今もあります。
――それでは最後の質問です。早慶戦で登板したらどのような投球を見せたいですか
やっぱりチームに勝ちをもたらすようなピッチングですね。抑えるにしても攻撃に向けて勢いが付くようなピッチングができればいいなと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 郡司幸耀)
最大の武器である『緩急』。慶大打線を手玉に取ってください!
◆大竹耕太郎(おおたけ・こうたろう)
1995(平7)年6月29日生まれ。183センチ、78キロ。熊本・済々黌高出身。スポーツ科学部4年。投手。左投左打。リーグ戦開幕時には選手の背番号を固定しなくてはならない今季の六大学。春先の故障で離脱を強いられた影響で早川選手に『13』を一時的に譲り、今季は『46』を背負ってマウンドに立ちます。それほど気にはしていないとのことですが、「最近は愛着が湧いているので・・・」とちょっぴり本音も。背番号は変われど、大竹選手が戻って来たことに違いはありません。