昨春は吉見健太郎副将(教4=東京・早実)、昨秋は小藤翼(スポ2=東京・日大三)が務めた扇の要。しかし、今季その座を射止めたのはそのどちらでもなく、岸本朋也(スポ3=大阪・関大北陽)、この男だった。悔しさを越えてつかんだ舞台。そこに立とうとする心境を伺った。
※この取材は3月30日に行われたものです。
「負けていられない。負けたくない」
真剣な表情で語る岸本
――これまでの実戦を振り返って、ご自身の状態はいかがですか
最初の頃は配球面で難しいことがあったんですけど、まだまだ勉強不足で足りないところもあるのですが、最初に比べたら自分の中で少しずつ軸となるものができてきたかなと思います。バッティングの方も台湾は不調で全然打てていなかったのですが、ここへ来てちょっとずつヒットも出てきているので、いい感じにできているかなと思います。
――配球面という話がありましたが、髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)からのアドバイスはありましたか
監督さんからよく、「今のところはストレートだろう」とか、「ピッチャーの球質が来ていて、バッターの力量を見たらインコースを攻めるべきだろう」とか、そういうバッターの状況とかピッチャーの力量を見て、「ここはこう」と言ってもらって、実際同じ局面がやったときに、そういうふうに配球をしてみたら抑えられた、とか、そういうことがよくあります。
――そういうお話は監督の方から来られるのですか。それとも岸本選手の方から
打たれたらキャッチャーが悪いというふうになるので、そういったときに監督さんから、そのときの配球について言ってもらえるという感じです。
――投手陣の仕上がりというのはいかがですか
打たれてしまっている部分もあるのですが、昨日(亜大戦)の清水さん(陸生、人4=宮崎大宮)であったりはしっかりと抑え切れていて、長いイニングも投げられているので、いい感じでできているのかなと思います。あと、やっぱり後半に点を取られてくるので、そこの後半のところでどうリリーフに引き継げるかっていうのが大切になってくるかなと思います。
――投手陣は4年生が多いですが、リードだったりコミュニケーションだったりというのは岸本選手の方からどんどん行くのですか
そうですね。ピッチャーの特徴や良い部分を引き出すのがキャッチャーだと思うので、自分から「どういう感じで攻めたいですか」とか聞いた上で、自分の意見もしっかり言いたいので、そのピッチャーの特徴を聞いて、「自分はこう思うんですけど、どうですか」とか聞くようにしていますね。
――コミュニケーションの部分が非常に大切になってくると思うのですが、普段から意識していることはありますか
練習の中でいろいろなピッチャー、リーグ戦で投げるピッチャーを多く受けることで、そのピッチャーの得意球であったりカウント球、決め球といったところを理解して、いざ試合になった時に、困ったときにこの球を投げればいいとか、状況が悪くなってもピッチャーの自信のある球を分かっていれば、ピッチャーが思い切って腕を振って投げられるように持っていくこともできると思うので、そういうふうにできるように、普段からピッチャーの特徴を知るようにやっています。
――リーグ戦ですと相手のデータも頭に入れていくと思うのですが、ピッチャーの自信のある球を大事にしてあげたいという考えですか
ピッチャーの得意なボールを生かすんですけど、苦手なコースとか、データも大事になってくるので、これから映像で研究をして、なおかつその得意球や自信を持って投げられる球を組み合わせて、相手打者を翻弄できるような配球ができるといいなと思います。
――以前、「大事なことは信頼」とおっしゃっていましたが、実戦を通して投手陣からの信頼を得られているという感じはありますか
それに関しては自分でどうこう言えるとは思わないですね。信頼できるというふうに投手が言ってくれるようなキャッチャーが一番大事だと思っていて、自分の目標でもあるので、自分でされているとかされていないとか決めるのではなくて、周りが評価してくれることだと思うので、そこはどう、というふうには言えないですね。
――ミスがなくしっかりとプレーをこなしていると髙橋監督がおっしゃっていましたが、守備面での自己評価はいかがですか
送球などしっかりやってきて、盗塁を刺すことであったり、ゴロの処理とかはしっかりとできているとは思います。ただ、まだパスボールだったりそういう細かいミスが出ているので、そこはしっかり基本に戻って、一つもミスがなく、守備では完璧にできるようにこれから詰めていきたいなと思います。
――捕手の守備の中で配球、捕球、送球など、重視している部分はありますか
キャッチャーは守備がメインなので、どこというより全部。送球だと絶対投げられる、ワンバウンドは絶対止められる、キャッチングはしっかり止められる。全部できないとダメだと思うので、どれかというよりは、全体的にできるようにしていきたいです。
――昨春は吉見選手、昨秋は小藤選手が正捕手として出場していて、それをベンチから見ていました。そういったところの悔しさはいかがでしたか
吉見さんも小藤もすごくいいキャッチャーというのは分かっていて。ただ、自分が出たいという気持ちはあって、去年一年間出られなくて悔しい一年ではありました。そうですね、リーグ戦を通して悔しいという気持ちはありました。
――特に後輩の小藤選手の台頭には、焦りというのはありましたか
小藤はいいキャッチャーなので。自分も負けていられないという気持ちにさせられました。
――正捕手獲得に向けて一番に取り組んできたことはありますか。
まずはセカンドスローをしっかり投げることだと思って、ショートがタッチしやすい位置に投げることを冬の間に取り組みました。
――一冬越えて一番成長出来たと思う部分もやはり、スローイングの部分ですか
そうですね。自分としては一番守備ではできているかなと思います。
――以前、内野手も練習されたと聞いているのですが、やはり捕手で勝負したいという気持ちが強かった
そうですね。内野手も一応やってみたのはやはり試合に出たいという気持ちが強くて。それでやってみたんですけど、やはり監督さんの方からキャッチャーで勝負しろというふうに言っていただいて。自分の中でも決心がついたというか、キャッチャーで自分はやるべきなんだと感じました。
――野球を始めた頃からずっと捕手だったのですか
メインはずっと捕手で。下級生の頃に他のポジションをやって、というのはありましたけど、メインはずっと捕手ですね。
――そうすると捕手へのこだわりというのも
捕手でずっとやってきたので、捕手として負けたくないという気持ちは強いですね。
「楽しみ。絶対やったろう」
正捕手として初めて臨むリーグ戦に闘志を燃やす
――打撃面についてお聞きします。台湾では少し不調気味でしたが、最近は納得行く打撃が出来ているのかなと思いますがいかがですか
まだちゃんとした、すごくいいかたちではないのですが、1試合に1本くらいは打てているので、ここからもう少し仕上げていって、もっと率を高く打てるようにしていきたいなと思います。
――長打も多く出ていますが、いかがですか
去年は単打ばかりで長打が少なかったので、外野を越えるような当たりが打てるようになりだしたのはすごく良いと思います。
――それは冬の練習の成果ということですか
冬に飛距離を伸ばそうと思って、バッティング練習でも遠くに飛ばすということをして、フォームを崩した時期もあったんですけど、それが今すごくいいかたちでできているのかなと思います。
――ウエイトトレーニングだけではなく、フォームから変えていったと
少し大きくしてみたり、下半身の動きだったり。いろいろ試して、それでようやくハマってきたかなという感じです。
――打席でのフォームの始動が早いと思うのですが、何か意識はありますか
高校からなんですけど、自分は構え遅れするのが嫌なのでバックスイングで自分の構えといつでも打ちに行けるかたちをつくって打ちに行くというのは高校の頃からずっと意識してやっています。
――岸本選手は来た球を打つのか、それとも狙い球を絞って打つのかどちらですか
状況にもよります。配球も読みますが、「なんでもこい」という気持ちの中で「今のボールがストレートできたら、次はスライダーだろう」とか。配球も読みつつ、「なんでもこい」という両方の気持ちがありますね。
――自分の打撃の一番の持ち味はどこだと思いますか
積極性だと思います。自分は初球から振りに行かないとダメだと思っているので、初球から積極的に、チャンスでも振っていけるというのは持ち味なのかなと思います。
――初球から振っていくために、打席入る前に意識して取り組んでいる準備はありますか
初球からしっかり振れるように、ネクストから素振りとか体を動かしたりというのはもちろんですし、前の打者の初球の入り方だったり、配球とかっていうのはしっかり見て、狙い球を絞って積極的に初球から振れるようにしています。
――捕手の考え方が打席で生きることはありますか
配球は、自分だったらこういくけど、この捕手だったらこう来る、というのは考えながら打席に入っています。
――春季オープン戦は6,7番を打つことが多くありました。クリーンナップが塁に出て、あるいはクリーンナップが倒れて回ってくる打順ということで、流れとして非常に大事な打順なのかなと思うのですが、打線の中で自分の役割というのはどのように考えていますか
やはり6、7番はどちらかと言えばチャンスでランナーを返すほうが多いと思うので、2死三塁とか、そういう状況で一本打つ。1死三塁だったらしっかり犠牲フライを打つとか、しっかりチームに貢献できる仕事をしていきたいです。
――いよいよ春季リーグ戦が開幕します。スタメンマスクを被ることの責任については
下級生で出してもらっているので、チームが勝つために全力を尽くして、絶対ミスはできないですし、貢献しないといけないポジションだと思うので、キャッチャーというポジションでピッチャーをリードできるような、そういうキャッチャーでやっていければと思います。
――早大の捕手の中で他の選手には負けたくない、という部分はありますか。
セカンドスローは肩に自身があるので、そこの部分では負けたくないですね。
――守備と打撃の比重はどれくらいの割合で意識して、取り組んでいますか。
自分は完全に切り替えて、と思っているので、どっちが強く、とは思っていないですね。それぞれ割り切ってできるようにしています。
――優勝へ向けてチームとして一番カギになってくるのはどの部分だと思いますか
小さなミスだったりエラーだったり無駄な四球だったり。そういうミスが致命傷になってくるので、小さなミスがないようにしっかり詰めてやっていくことと、全員で一つになって戦っていくことが大事だと思うので、下級生にも大きい声を出して、とか、チームの雰囲気が良くなるようにやっていくのが大切じゃないかなと思います。
――今年のチームは試合中もずっと元気で、ベンチで声を出して盛り上がっているなと感じます
チーム全体として団体となってやっていこうというのは4年生から言われているので、それに下級生がついていけるように。あと下級生からでも、しっかり声を出してやっていけるように、というのは意識しています。
――春季リーグ戦への意気込みをお願いします。
去年優勝できていないので、ことしの春は優勝して全日本大学選手権でも優勝という目標に向けてこの冬しっかり練習してきました。その目標を達成できるように一試合一試合戦っていきたいと思います。
――個人として目標はありますか
キャッチャーとして大量点を取られないとか、ピンチの場面でしっかり抑えられるとか、ランナーをいくら背負っても抑えられるような配球だったり、ストップだったりセカンドスローだったり。守備ではミスのないようにやっていきたいです。打撃ではチャンスでの一本だったり、チームバッティングに徹していって、アウトになるとしてもチームに貢献できるアウトのなり方というのがあると思うので、そういうことを徹底してやっていきたいです。
――神宮でマスクを被ることにプレッシャーはありますか
プレッシャーというより、楽しみです。「絶対やったろう」という気持ちが強いですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 安本捷人)
リードも打撃も『攻めの姿勢』を貫きます!
◆岸本朋也(きしもと・ともや)
1996(平8)年9月11日生まれ。173センチ、86キロ。大阪・関大北陽高出身。スポーツ科学部3年。「仲の良い部員は」との問いに、西岡寿祥選手(教3=東京・早実)や三木雅裕選手(社3=東京・早実)の名前が挙がりました。彼らの共通項は、出身が大阪府。やはり通ずるものがあるのでしょうか。