ついに始まる東京六大学春季リーグ戦。このときを今か今かと待ち望んでいるのは戸谷光助(教4=東京・早実)だ。高校時代は投手として甲子園で投げた経験を持ち、現在は外野手として活躍している。何度スランプに陥ってもめげず、努力を惜しまなかった戸谷。ラストイヤーのことしはスタメンに名を連ねるようになった。外野手へ再転向した経緯とレギュラー獲得までの道のりに迫る。
※この取材は3月30日に行われたものです。
一歩一歩確実に
自信に満ちた表情の戸谷
――もともと早実高にも野手での入部だったということでよろしいでしょうか
そうですね。
――投手転向のきっかけを教えてください
二山(陽平、商4=東京・早実)が自分の代のエースだったのですが、二山が腰をケガして長いイニングを投げられなくなったときに、投手の数が足りなくなって、自分に白羽の矢が立って転向したという経緯です。
――当時苦労はありましたか
投手の経験が小学校以来なく、ゼロからのスタートだったのですが、割り切れて楽しめました。新たな発見ばかりで、日々成長を感じられました。
――高3時のセンバツでは甲子園でも登板しました。マウンドの感触はいかがでしたか
本来野手で早実には入学したので、打席には立ちたかったのですが、順調に勝ち進んで目指していたところまで行けて、投手としては活躍できて良かったなと思います。
――投手経験が今に生きていると思う点はありますか
ほとんどないですね。
――未練が残っていたから大学で野手に再転向したのでしょうか
そうですね。最後夏の大会で負けた試合でも投げて、投手としてはすごく活躍できたのですが、その試合のチャンスで自分に回ってきたのに一本打てなくて悔しい思いをしました。引退して振り返ったときに、打者としての方が未練が残っていたので、また大学で再転向しようかなと決めました。
――投手には未練がありませんでしたか
ないですね。
「引き出しが増えた」
――野手転向から現在までの3年間は外野手としてどのように過ごされてきましたか
高校最後の年に投手をやったことによって、打者としての経験が他人より足りなかったので、今までいろいろな方法を試して、ダメで、試して、だダメでをずっと繰り返して、引き出しが増えたと思います。
――いろいろなスタイルを試した中で、特に自分に合った指導やアドバイスはありますか
髙橋広監督(昭52年教卒=愛媛・西条)が就任されて少しずつ指導してもらう中で、バッティングが成長したなという実感があります。いろいろな角度から教えていただいたのですが、基本線としては逆方向に強い打球、いかに自分の中の打ちたいという欲を抑制して逆方向にしっかり打てるかというのが自分にハマったのかなと思います。
――ご自身でも経験の差を埋めるためにかなり研究をしましたか
そうですね。打席の動画を送っていただいて、3年間で相当な量になりました。
――同期の外野手が自分より早く試合に出て活躍していたことへの焦りはありませんでしたか
焦りはあります。焦っているという実感はあるのですが、その反面で焦っても仕方ないなと客観視できた部分もありました。高校生活より大学生活のほうが長いイメージがあったので、大学のラストイヤーに出場できればいいなというイメージでやってきました。1年のときはスランプになったときに対する引き出しが少なく、スランプが長引いてしまっていたのですが、学年が上がるにつれて少し打てなくなってもいろいろな引き出しの中から試してみて、調子が戻って、というように波の幅が狭まったなと感じます。
――それでは今すぐというよりは地道に努力を重ねて上級生で活躍しようというプランがあったということですか
そうですね。1年のときより、2年、2年より3年の方が良いイメージです。
――同じ投手経験者に三倉進選手(スポ4=愛知・東邦)がいます。俊足、強肩と何かと似ていますが、お互いの経験を話されたり、意識したりすることはありますか
三倉はバッティングも高校のときから良いと聞いていたのですが、投手で入ってきたので投手でいくだろうなと思っていました。選手として丸被りなので、来ちゃったなという感じです(笑)(三倉選手は)ポテンシャルが高く、打球も飛ばしますし、強肩なので勝負できるところでというよりは目の前の練習に真摯に取り組むことで、数字的な力ではないところにフォーカスを当てています。
――三倉選手がケガから復帰したらレギュラー争いになります
(三倉選手のけがが)おいしいとは全く思っていないです。同じ舞台で戦って競り勝ちたいです。
――これまでの遠征やキャンプを振り返っていかがですか
台湾では出だしが良くて、沖縄と関西ではレベルが上がったり下がったりと波があったのですが、帰ってきてたくさん練習する時間が取れるので、チェックポイントを修正していきたいと思っています。
――台湾での好調から少し調子を落としていますが、自分ではどう感じていますか
その感覚は自分でも認識しています。どこができていないというのも客観的に分かっているので、反復して一つ一つつぶしていけたらいいかなと思っています。
――具体的にはどのような改善点だと考えていますか
台湾が良すぎたので、結果が出ないときに結果ばかり求めてしまい、自分が冬やってきたことができていませんでした。あまり野球らしい表現ではないのですが、余裕を持ってゆっくり間をとるというのを心がけています。
――調子の良いときと悪いときでは何が違いますか
フォームを動画で撮ってもらって観たら、自分としては同じ感覚でやっていても間が取れていなかったので、強く意識づけをしています。試合に入ったら、間をとろうと考えると意識がいってしまって体が動かなくなってしまうので、自然と反応できるように自主練の時に強く意識しています。
――テークバックであまりバットを動かしたり、足を動かしたりしないシンプルな打撃に見えますが、フォームや打ち方でこの型がしっくりきているのですか
そうですね、今しっくりきています。
――自慢の足の方では、盗塁がなかなか成功しませんが、いかがですか
レベルの高い相手というのもあるのですが、あまり点を取るチームではないので1点が大事ですし、リスクを伴うことなのでいけるときはいきたい気持ちもあるのですが、アウトになると流れが悪くなるので、無理にいってもなと思っています。
「不安要素はない」
走攻守で勝負する準備はできている
――春季リーグ戦が迫った今の心境は
やっと来たなという感じです。同期が活躍していく中でスランプを何回も経験して、結果が出たと思ったらまたスランプでというのをずっと繰り返してきて、やっとかたちになったのものを出せる舞台が目の前にあるので、緊張ではなく、わくわくしかないです。
――これまで代走のみでしたが、スタメンでシーズン通して出場するイメージはできていますか
イメージもですし、準備もできています。
――リーグ戦は2ヶ月に渡って結果を残すことに難しさがあるのではないでしょうか。神宮ではどんなプレーを見せたいですか
今までやってきたことが全てだと思うので、泥臭くやっていけたらなと思います。クリーンヒットが打てたらいいのですが、内野安打でもいいのでとにかく塁に出て、チームの1点に1回でも多く貢献して、守備だったら27個のアウトのうち1個でも2個でも3個でも多くとりたいです。
――最高学年として臨むリーグ戦はこれまでと違う思いがありますか
ラストイヤーなので責任を強く感じます。今までやってきたことに後悔もないですし、常に全力で結果を出すだけです。不安要素はないです。
――最後にリーグ戦への意気込みをお願いします
各チームのエース級と対戦して速い球やキレのいい変化球を見てきたのですが、そのような投手を想定して練習してきましたし、積み上げたものしか出ないかなと思うので今まで通りリーグ戦に入れたらなと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 森原美紘)
神宮ではフルスイングを期待しています!
◆戸谷光助(とや・こうすけ)
1995(平7)年8月23日生まれ。175センチ、82キロ。東京・早実高出身。教育学部4年。外野手。左投左打。落ち着いた様子で質問に応えてくださった戸谷選手。細かい打撃フォームの話になると、一転「そういう話いいですね」と笑ってくださったのが印象的でした。自信に満ちた姿が頼もしいです!