ことしの東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)。今季の早大は好調な打線を中心に、粘り強い試合を続けている。優勝こそ逃したが、チームは着実に成長を遂げた。その中心となったのは、石井一成主将(スポ4=栃木・作新学院)だ。屈辱を味わった春季リーグ戦から約5カ月。ここまでチームを立て直すために模索を続けてきた主将の軌跡を伺った。
※この取材は10月21日に行われたものです。
「やるべきことは変わらない」
ここまでの打率は3割。春の成績は上回っているが、自身は納得していない
――昨日のプロ野球ドラフト会議、本当におめでとうございます
ありがとうございます。
――一夜明けてあらためてプロ野球選手になることに対してどう思いますか
率直にうれしいです。
――指名された時はお一人でテレビを見ていたのでしょうか
いえ、みんな来てくれました。自分と竹内(諒、スポ4=三重・松阪)が前にいて、周りを囲むみたいな感じです。みんなで見ていましたね。
――北海道日本ハムファイターズについてはどのようなイメージを持っていますか
ファンの方も温かいですし、とても強いチームだなという印象です。
――2位という結果については
うれしいですね。
――石井選手と同じ大卒の内野手である吉川尚輝選手(中京学院大)らが指名されて、そろそろ指名があるかなと考えながら見ていたりはしていましたか
京田(陽太、日大)が指名されてそろそろ来るかなとは思っていましたが、2位だとは思っていなかったです。びっくりしました。
――率直に何位くらいかなというのはご自身の中でありましたか
3、4位くらいだと思っていました。
――調査書は何球団から来ていましたか
調査書は10球団です。
――秋季リーグ戦が始まる前に「どこの球団のファンですか」と聞いたときには、悩みながらも「巨人ファン」とお話しされていました
最初に(調査書が)来たのが巨人だったので。特にファンとかはないです。
――プロ入りが決まりましたが、秋季リーグ戦に向けて再び気持ちを切り替えなければならないと思います
プロが決まっただけなので、大学での野球は続いていますし、やるべきことは変わらないと思います。そこは全然気にしていないです。
――おととい(ドラフト会議前日)からきのう(ドラフト会議当日)の夜はしっかり寝られましたか
そこは大丈夫です(笑)。ちゃんと寝ました。
――遊撃手というポジションに対するこだわりはありますか
センターラインなのでやることも多いですし、チームを引っ張っているという感覚にはなります。
――プロに入った後も遊撃のポジションで勝負していきたいですか
まずは勝負して、他に出られるところがあればそこも練習をして、機会をいただければそこでチャンスをつかみたいです。
――大学1、2年時は三塁手がメインでしたが
そうですね、そこでもやっていきたいです。
――遊撃手にコンバートして失策数が減りましたが、やりやすいのは遊撃ですか
ショートの方がやりやすいというのはありますが、どこでもやれないと通用しないと思うので、そこは柔軟にやっていきたいです。
――目標にしている選手は誰ですか
千葉ロッテの中村選手(奨吾、平27スポ卒)です。
大きな決断・打撃フォーム改善
――ここから秋季リーグ戦の話に切り替えていきたいと思いますが、今季のご自身の成績についてはどのように考えていますか
後半になるにつれて調子が落ちてしまっているので、なんとか早慶戦までには立て直して結果が出るようにしたいです。
――具体的に調子が悪いと感じるところはどこですか
いろいろ細かいところはありますが、少し力んでしまっているのかなと思います。
――打とう打とうと思ってしまっていると
そうですね。
――今季の石井選手はご自身でも話されているように好機で凡打という場面が少し多い印象もありますが、力んでしまっているのでしょうか
打てないときは打てないので切り替えていますが、もっと強い気持ちで臨めればと思います。
――春季リーグ戦では4番を務めていましたが、今季は3番打者でのスタメンとなっています。背負っていたものが多少でも楽になったという感覚はありますか
背負っていたものは特にないですし、打順に対するこだわりもありません。木田(大貴、商4=愛知・成章)の方がいいバッターなので、4番を打って当然だなと思います。
――木田選手が石井選手に対して勝っているなと感じるところはどこですか
チャンスに強いところですね。
――一方でシーズン前半は開幕カードから立て続けに安打が出ました。その要因についてはどう考えていますか
練習したことがただ出たのだと思います。特に何かを変えたということはないので。結果が出てくれて良かったです。
――夏に練習量を増やしましたが、その点が出たと
そうですね。
――今季の立大2回戦では左投手に外角を徹底的に投げられて打率を落としてしまった印象があります。左打ちの石井選手にとっては打ちづらいコースだと思いますが、その点はいかがですか
苦手意識はないですが、バットの出し方が悪かったなと思います。
――今シーズン印象に残っている一打は何ですか
強いて言うなら法大2回戦のホームランです。
――今季は右方向への安打が多いですが、その点に関してはどうお考えですか
打つ方向は来たコースによりますが、打てる球が来たらヒットになりやすいところに打つというのが一番だと思うので、強引に行く必要はありませんが、もっとレフト方向へのヒットが増えればなと思います。
――この夏は具体的にどのような練習をされていましたか
基本的にはティーバッティングをやっていました。数をこなそうということで、どのくらいかは覚えていませんが、気がすむまで振っていました。
――この夏は打撃フォーム改造にも取り組みましたが、参考にした選手などはいますか
参考にした選手はいなくて、ボールを上からたたくという意識に変えて。あとは、バットを内から外に出すということに気をつけています。
――手応えはいかがですか
だんだんと自分のものになっているのかなと思います。
――ここからプロに向けても同じ方向性でいくかたちでしょうか
そうですね。
――先ほどボールを上からたたく意識に『変えた』とお話しいただきましたが、それまではどのようなスイングをしていたのでしょうか
少し強引にいっていた部分があったので。例えば、アウトコースの球をライト方向に打つようなイメージでいってしまっていました。なので、アウトコースの球は三遊間へ逆らわずに打つという意識でやっています。
――打撃フォームを変えると一言で言っても、構え、テイクバック、スイング、フォローなどさまざまだと思いますが、具体的にはどのようなところを変えましたか
(スイングの)軌道ですね。ボールを上からたたくことです。
――ティーバッティング以外に練習したことはありますか
ボールの内側をたたく練習をティーバッティングだけではなく、全部の打撃練習の時にしていました。
――今季の試合後のインタビューではノックを打つ練習もされていたともお話しされていましたが
自分で投げて、自分の思ったところに飛ばす練習をしていました。素直にバットを出さないと、素直に強い打球がいかないので、それはいい練習だと思いました。監督さん(髙橋広、昭52教卒=愛媛・西条)に言われて始めましたが、それもやっていましたね。
――アンケートでは打撃フォームの完成度が2点とありました。その意味を教えてください
ものにするためには数が必要で、1日では身につかないので、毎日やっていくにつれて何か見えてくるものをしっかり自分のものにしながらやっていきたいです。
――右手の握力が75キロと伺いました。その握力を使った打撃フォームというのはどのようなことなのでしょうか
右手が強いので、右手リードで打つイメージです。今までは左手で押し込む打ち方をしていたので、「右手が使えていない」と言っていただきました。今は上から下に右手リードで前を大きくして振っています。
――左手で押し込むことも大切ですが、添えるだけというイメージですか
そうですね。右手リードで左手は付いてくる感じです。
――その感覚もだんだんとできてきていますか
そうですね。
――これまでの野球人生で一度も大きなケガをしたことがないということをお話しさられていましたが、交錯プレーなどでのケガも同様ですか
ないですね。避けていたので(笑)。
――体づくりに関して気をつけていることはありますか
バランスよく食べて、足りないところはプロテインで補っています。あとは練習前のウォーミングアップですね。しっかり準備運動をしてケガを防いでいます。
――チームで行うウォーミングアップの前にも準備されたりはしていますか
そうですね、練習前に少し走ったり、(体を)伸ばしたりはしています。
――ダウンは何かやられていますか
お風呂に入った後にストレッチしたりはしています。
――体は柔らかいですか
いや、硬いですね(笑)。前屈で後ろに倒れちゃいそうになります(笑)。
――体の柔らかさは守備でも必要だと思います
そうですね、しなやかさと強さを兼ね備えていけたらなと思います。
「いいかたちで終える姿を後輩に見てほしい」
――今季は見ていても分かるくらいベンチの雰囲気が良いですが、試合をやっていていかがですか
ベンチの雰囲気も試合の流れに影響してくるので、相手に流れがいかないようにやっています。
――春季リーグ戦5位という結果を受けて、主将からチームに話したことなどはありますか
コミュニケーションを増やして、5位でも諦める必要はないので挑戦者の気持ちでやっていくよということは伝えました。
――吉野亨新人監督(スポ4=埼玉・早大本庄)が春はプレーで引っ張ろうとし過ぎでいたとお話しされていましたが、その点はいかがですか
実力が伴っていなかったので、チームを引っ張れなかったのかなと思います。
――実力以外で足りなかったなと考える部分はありますか
プレーというか、努力する姿(を見せる)ですね。
――周りの選手は「石井選手の練習量はすごい」と口をそろえていますが、それでも足りなかったと
いや、そんなに練習していないです(笑)。そう見えるだけだと思います。みんなに負けないようにやっています。
――一年間主将をやってきての感想はありますか
やはり難しいなというのが率直な感想ですね。
――悔いが残るシーンなどはありますか
もっと最初から思いというか、自分の気持ちを伝えていけばよかったなと思います。
――チームを盛り上げてくれる人を具体的に教えください
スタッフ陣ももちろん、メンバー外の4年生も積極的に補助してくれています。そのおかげでいい練習になっています。4年生は最後なのでみんなメンバーに入りたいと思ってやっていますが、その人もサポートに徹してくれて本当に感謝しています。
――どのようなことでサポートをしてくれていますか
試合に出ている選手が暗い時はメンバー外の選手が背中を押してくれる存在だったので、勇気を持てました。
――慶大のエース加藤拓也選手(4年)にはどのような印象を持っていますか
とてもいいピッチャーという印象です。
――今春は加藤拓選手から本塁打を打ちました
あれは抜けた球だったので、真剣勝負でいい球を打ちたいです。
――直球の速い投手に対してはどのように対応していきたいですか
打ち上げないように、上からたたく意識を変えずにやりたいです。
――3年春からレギュラーとして早慶戦に出ていますが、石井選手にとって早慶戦とは何ですか
例年盛り上がってくれて自分たちも気合が入りますし、特別な試合なので、絶対に負けたくないという思いで臨んでいます。
――大舞台は好きですか
お客さんが入った方がいいですね。
――緊張はしない方ですか
そうですね、楽しんでいます。
――高校時代から甲子園に出ていますが、そのころから緊張はしない方ですか
だんだんと慣れてきましたね。
――警戒する選手として沓掛祥和選手(4年)を挙げていますが、どこを警戒していきたいですか
トップバッターですし、いい選手なので要警戒です。
――慶大は2回戦ではさまざまな選手を起用してきますが、どう対処していきたいですか
どのピッチャーが来ても、甘いボールを打つだけです。チャンスで一本打ちたいです。
――最後に早慶戦の抱負を教えてください
学生最後の試合なので、連勝していいかたちで終える姿を後輩に見てほしいです。
(取材・編集 杉田陵也)
チーム一丸となって慶大に挑む
◆石井一成(いしい・かずなり)
1994(平6)年5月6日生まれ。180センチ、77キロ。栃木・作新学院高出身。スポーツ科学部4年。内野手。右投左打。プロ野球選手と言えば、ファンサービスも大事な仕事の一つ。「サインは決めましたか」と尋ねると、「これから決めてもらいます」という答えが返ってきました。今石井選手が考えるのは、プロ入り後のことよりも目の前の早慶戦のこと。最後の大一番に全力で挑みます!