昨年度、東京六大学リーグ戦春秋連覇をはじめとする華々しい結果を残した早大野球部。髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)の堅実な采配は、チームの躍進において欠かせない要素であっただろう。その躍進から一転、大きくメンバーが入れ替わる今季の開幕に向け、髙橋監督はどのように準備を進めてきたのだろうか。就任2年目の指揮官の胸中に迫った。
※この取材は3月31日に行われたものです。
「順調に来ている」
――まず本日のオープン戦(●1-5Honda)は監督からご覧になっていかがだったでしょうか
相手が社会人のHondaですからね、かなり強豪ですから。まあワセダの投手もそんなに悪くはなかったんですが、やっぱり5点取られるとね。社会人の投手からはなかなか点は取れないので。あと1、2点は取れる好機はありましたけど、そんなに状態が悪いわけでもなく。まあ仕方ないかな、という感じですね。
――ここ数日の試合では八木健太郎選手(スポ3=東京・早実)が好調です
調子いいですよね。きょねんからことしにかけての冬場、八木と真鍋(健太、スポ4=東京・早実)の打撃が改善されたというか、非常に良くなったなというのを2月頃から感じていましたんでね。それが実戦に出ていて、非常に成長したなと思います。他の連中も練習はしていますけども、彼ら二人は振り込んだ成果が出ていると思いますね。真鍋はオープン戦首位打者だったんですよ。あと気温が上がってきて、調子が出始めているなと思うのは石井(一成主将、スポ4=栃木・作新学院)ですね。
――打順については、オープン戦を経てクリーンアップが固定されてきた印象です
ゲームもそんなに数多くやっていないのでね。とりあえずいまの状態で、というところですかね。八木が調子良いので、このまま上位で真鍋と1、2番かなとも考えていますけどね。
――きょうは5回にマウンドに行かれていましたが、何をお話されていたのでしょうか
竹内(諒、スポ4=三重・松阪)がピンチだったのでね。もう代えるつもりで行ったんですけど、本人が「あと一人勝負させてくれ」と。リーグ戦だったらそうもいかないんでしょうけど、オープン戦ですしね。勉強になるかと思って、「じゃああと一人な」と。
――きょうは二山陽平選手(商3=東京・早実)も登板していましたが、新戦力ということでしょうか
良かったですよね。立ち上がり、緊張感で腕が縮こまっていましたけど、社会人に通用するような投球していましたからね。神宮でも期待できるんじゃないかなというような感じでしたね。
――ここまで新体制としてキャンプ、オープン戦と続いてきましたが、全体的に総括していかがでしょうか
大きなケガ、故障もなく順調に来ていると思います。ただ、メンバーは(昨年から)6人入れ替わりましたんでね。競争なので。例えば調子が良さそうに見えても、大学の投手を相手に打っている、社会人の投手を相手に打っていないというのもあるのでね。同一レベルで見られないんですよね。たまたま大学生との試合に出て打った選手と、違う子が社会人相手に出て打てない選手と、比べようがないんですよね。相手の投手のレベルが違うので。そこらの評価が難しいとは思いますね。
――打順もまだ模索中というところでしょうか
そうですね。どうしても大幅に入れ替わりましたんでね。八木とか真鍋のように出てくる選手もいるし、逆にこっちが期待していても期待通りに打ってない子もいますんでね。そこらはまだ確定ではないですね。
――一方、投手陣には昨年度も登板した選手が多いですが、その経験というのは大きいのでしょうか
それは大きいですよ。いくら練習試合で調子が悪くても、じゃあ神宮で誰に投げさせるかといったらやっぱりきょねん頑張っていた連中、経験のある連中を私は信頼したいですからね。彼らでいって駄目だったら、ということになりますかね。
――また加藤雅樹選手(社1=東京・早実)は既に春季オープン戦にも出場していますが、そういった新しく入る1年生に期待することはございますか
とりあえず加藤あたりは打撃もいいのでね。使いたいなと思いますけど、まだ守るところがないですからね。まあでもまだまだこれからですかね。
――チームの課題などは見つかりましたか
やっぱりまだ不動のメンバーが組めないことでしょうかね。競争しているわけですから、組めない方がいい面もあるしね。あるんですけど、あと開幕まで1、2週間になってきてどうかなというね。ちょうど変革の年ですから。きょねんの連中はずっと1年から出ていた連中も多かったので、不動のメンバーで戦えましたけども。特に春は新チームで戦うわけですから。このオープン戦、春のリーグ戦を通じて、秋に固定したメンバーになるのではと思いますね。
「この春が一番大変」
この春は一からチームを作り直してきた
――いまあらためて、就任1年目の昨年を振り返っていかがでしょうか
連続優勝して、日本一、二番という子たちですからね。最高の結果といえば最高の年だったと思います。
――監督就任と主力選手の引退、タイミングが偶然一致していた印象です
主力といっても、エースと4番が抜けただけで、実は脇役たちはみんな残っていたのでね。だからことしの方が大変なんですよ。数が6人ですから。きょねんは実際は、エースと主力という大黒柱はのいたけれども、実は2人か3人なんですよ。脇役はみんな残っていた。ことしはごっそりその連中がのいたので、残っているのは3人ですからね。だからこの春が一番大変なんですよ、実は。
――またその役割を見つけていく段階から始めなければならない、ということですね
そうですね。模索しながらようやく7、8割方固まってきたかなっていう段階ですね。まだこれからですよね。
――昨年は4年生がチームの中心となって試合にも出場していましたが、それはことしも変わらないのでしょうか
でしょうね。下の学年で出そうなのが八木と吉見(健太郎、教3=東京・早実)と、三倉(進、スポ3=愛知・東邦)ですか。最高で3人、投手が下級生なら4人ですかね。
――石井主将と中澤彰太副将(スポ4=静岡)、昨年から出ていた二人が遊撃手、中堅手と、センターラインが固定できています
内野の要と外野の要ができまして、あとは投手も昨年からいるんでね。一番不安だった捕手も吉見でめどが付きましたのでね。二塁の真鍋も守備力が高い選手なので、センターラインについては心配ないと思います。逆に、両翼。右翼、左翼、一塁、三塁、この辺が未知数なのでね。どちらかというと、現状こちらの方が不安ですね。この4つが不安なんですが、現状八木が一つ当確かなという感じですね。
――外野のポジションは八木選手、三倉選手、長谷川寛選手(社3=宮城・仙台育英)と、3年生同士の争いにも注目が集まります
そうですね。本当はここに相馬(弘季、スポ4=青森)も入る予定だったんですけれども、ケガしてしまってね。不運ですよね。
――その中で八木選手が頭角を現してきて、監督としてもうれしいのではないでしょうか
そうですね、うれしい誤算ですよね。彼は非常に打ち方が変わっていて、成長していい結果が出ているんでね。非常に楽しみですね。
――ことしのテーマとしては『守り勝つ』ことが挙げられますか
選手に言っているのは、投手がきょねんから残って、でも打つのは分からないと。きょねんあれだけの打線のチームでも秋は打てなかった。そりゃ打ってくれるに越したことはない、打ってくれればありがたいんですけれども、でもやっぱり守り勝つというより『負けない野球』をしようと。
――点を取られなければ負けない、という
そうそう。投手を含めて最後は守り勝つんだけれども、『勝つ』までいかなくともとにかく負けない野球をして、相手のミスで勝つとか。そういうパターンになってくると思うんですよね、六大学の投手もレベルが高いですし。よそにはメンバーが残っているチームもありますんでね。だから、まず我々は『負けない野球』をしようということでやっています。
――その『負けない野球』を実現する上で、投手のキーマンとなる選手は誰でしょうか
まあキーマンというよりは、きょねんの実績からして大竹(耕太郎、スポ3=熊本・済々黌)、小島(和哉、スポ2=埼玉・浦和学院)なんですけど、やっぱり4年生になる竹内がきょねんあまり活躍してくれていないのでね。彼も4年生になるし、実力もあるのでね。頑張ってほしいですよね。
――竹内選手に懸ける思いは監督からしても強いですか
やっぱり最上級ですし、力もありますからね。たまたまきょねん出足でつまずいて、そのまま一年間、という感じがしましたので。もちろん彼がいなくても大竹、小島あたりがきょねん通りやってくれれば問題はないんですけれども、ケガも故障もあるし、不調な時もあるんでね。そこに竹内が入ってくれると助かりますよね。もちろん吉野(和也、社4=新潟・日本文理)も安定していますしね。万全な状態だと思います。
――打のキーマンはというと
うーん。やっぱり中澤でしょうね。石井はある程度やってくれると思うので、中澤がカギを握ると思いますね。
――中澤選手がたくさん打ってくれるようならチームも勝っていけると
そうですね、いい感じになると思います。石井一人だとちょっと厳しいかなと。
――中澤選手にはずば抜けた守備力もあります。きょうも越えそうな当たりを好捕していました
外野ではきょねんの重信(慎之介、平28教卒=現読売ジャイアンツ)よりも上ですよ。彼の守備力はかなりのレベルですからね。この間の社会人対抗戦なんかでも中堅のヒット性の当たりを2、3本捕りましたからね。風もあったし、普通の外野なら捕れないと思いますよ。
――一塁は現状、外野からのコンバートで立花玲央選手(人4=千葉英和)が守っていますが
やはり守りで負けないとすると、立花かなと思いますね。大きいミスはないですし、サイズが大きい方が他の野手も投げやすいですからね。
――打撃でもクリーンアップを任されています。1軍経験の少ない立花選手を抜てきされた意図としては
それが今度、神宮に行った時にどう出るかという問題もありますけどね。社会人対抗戦でも左中間に打っていますし、力はあると思います。
――また、正捕手の道端俊輔選手(平28スポ卒=現明治安田生命)が抜けたいま、後継者として吉見選手に期待されることは何でしょうか
捕手というのはチームの要ですからね。彼は3年生でもう上級生なので、1、2年生が(マスクを)かぶるとなると大変なんですけど、3年生なのでその点は楽だと思います。きょねんの道端に極力近いような働きをしてくれると、投手陣がいいだけにまとめてくれると非常に助かります。
――昨年度も控え捕手としてベンチ入りしていましたしね
そうですね。その経験は大きいと思いますね。
――今季、早大は周囲から追われる立場にあると思いますが
いやいや。まあ同じメンバーじゃないのでね。早稲田大学という名前で追われるのであって、選手が入れ替わっているのでね。私はそんなに気にしていないし、逆に新しいこのチームで優勝を目指そうというのがテーマですからね。
――先日の社会人対抗戦は、他大の試合や選手はご覧になられましたか
次の日の試合ぐらいしか見てないですね。社会人とやっている状態なのであまり参考にならないんですよ。社会人の打者に打たれたから大した投手じゃないかというと、そうではないのでね。
――ことしはどの大学も優勝を狙える立場にあると思います
その通りだと思いますよ。東大だって侮れないです。開幕の相手は東大ですし、宮台(康平、東大3年)という投手も初戦だったら非常に調子がいいと思いますからね。だから、やっぱり『負けない野球』が一番なんですよね。
――特に警戒すべき大学などはありますか
どうでしょうね、やっぱりどの大学もエースはみんないいですからね。そのエース級の投手に対して、こちらが負けないようにというところですかね。
――その各大学のエースに対する時、チームにはどのように声掛けしていかれるのでしょうか
なかなか1点が取れないですからね。取れないからこそ、こちらも1点をやらない野球をやっていかないと。そこで我慢比べでしょうね。ちょっとしたミスが出た方が負けます。
――だからこそ、結論として早大が目指すのが投手力を中心とした『負けない野球』だと
ことしはとりあえずそうですね。結局、さっき一塁の立花のように、最後のメンバーを決めるのに優先していくのは守りですよ。守れる人を使うというね。
――昨年はグランドスラム目前まで到達しましたが、あらためて本年度目指すところは
(東京六大学野球の)90年間の歴史でも一度もないわけだし、なかなかできるもんではないと思うのでね。まずは春の優勝です。そこからまた。
――ありがとうございました!
(取材・編集 中丸卓己)
今季も目指すのはもちろん『日本一』。髙橋野球2年目の真価が問われる
◆髙橋広(たかはし・ひろし)
1955年(昭30)2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977年(昭52)教育学部卒業。早大野球部第19代監督。年末年始のオフには徳島へ帰られたという髙橋監督。ゆっくりと羽を休められるかと思いきや、周囲の方々は早大野球部の躍進にお祝いムードで、その対応に追われていたようです。「オフなのかどうか分からなかった」と笑いながら、うれしいお悩みを話してくださいました。