【連載】ラグビー部 卒業記念特別連載『Bound by love』 仲山倫平

特集中面

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Have a go 貫いた信念の軌跡

 高校時代をニュージーランドで過ごし、早大に進学した異色のキャリアを持つSO仲山倫平(法4=ニュージーランド・ウェリントン・カレッジ)。留学から早大への進学、そして『荒ぶる』を追いかけたこれまでの4年間の軌跡をたどる。

3年時、招待試合・慶大戦でアタックラインに入る仲山

 「留学に行きたい」。父に連れて行ってもらった2015年ラグビーワールドカップ・イングランド大会の帰り道で気がつけばそう頼んでいた。今思うと無茶ぶりかもしれない要求に対して両親からは「英語が喋れるようになったらいいよ」というポジティブな回答を受けた。仲山は「英語しか勉強しなかった」と振り返るほどの猛烈な努力で語学の壁をこじ開け、高校生にしてラグビー王国・ニュージーランドへ降り立った。そこには、日本の常識を覆す世界が広がっていた。規律と組織力を重んじる日本のラグビーに対し、ニュージーランドのラグビーは個を徹底的に重んじる。「異なる強みを持った15人の個性が集まって、初めて一つのチームになる」というラグビー哲学だ。全体練習は週にわずか2回。だからこそ「成長のために今、自分は何をすべきか」を自ら考え、能動的にトレーニングに向き合う自立心が養われた。当時のコーチから贈られた「Have a go(とにかくやってみよう)」という言葉。どんなことに対しても、まずは恐れずに飛び込んでみる。その果敢な精神は、仲山の最大の武器である鋭いランニングや物怖じしないゲームメイクへと昇華されていった。

4年時、招待試合・慶大戦でボールを蹴り込む仲山

 ラグビー王国で心身を磨き上げた仲山が、次なる勝負の舞台に選んだのが早大ラグビー部だった。2019年度に齋藤直人選手(令2スポ卒=現トゥールーズ)や憧れの岸岡智樹選手(令2教卒=現S東京ベイ)が牽引し、11年ぶりに日本一を奪還した『赤黒』の雄姿。熱烈な早大ファンである父とともに心を奪われる。後に仲山のニュージーランドの高校を訪れた岸岡本人と直接言葉を交わしたことで、入部の意志は確固たるものとなった。しかし、『荒ぶる』だけを渇望する集団での日々は、想像を絶するほど過酷なものだった。ニュージーランドでは経験したことのない壮絶な新人練習。最初は疲労で食事すら喉を通らなかった。それでも、限界まで追い込まれる日々を初めて出会う同期と共に乗り越える中で、強固な絆が芽生えていくのを肌で感じていた。恒例の入部式での一人一言。緊張の中にも、目指していた集団の一員になれたという誇りと、未来への高揚感が彼の胸を満たしていた。そして2年時には、地元である熊本で開催された早明戦で『赤黒』デビューを果たす。短い時間での出場だったが、故郷の人々から送られた地鳴りのような歓声は彼の心を深く震わせ、今でもその光景は鮮明に脳裏に焼き付いている。

4年時、招待試合・天理大戦でキックカウンターを仕掛ける仲山

 だが、厳しい競争を生き抜いてきた彼に、最大の試練が襲いかかる。集大成となるはずだったラストイヤーの夏、これまでの競技人生で経験したことのない大怪我に見舞われたのだ。数ヶ月間もピッチから遠ざからなければならない孤独と焦燥感。必死のリハビリの末に迎えた全国大学ラグビーフットボール選手権大会・決勝も、彼はグラウンドではなく、スタンドから見つめることしかできなかった。勝敗以上に、歯を食いしばりながらも積み上げてきたものを形にできなかったことに、ただ唇を噛むしかなかった。ノーサイドの笛を迎えると同時に後悔とやるせない気持ちに襲われた。

4年時、招待試合・天理大戦でゲームメイクをする仲山

 それでも仲山がこのチームに残した足跡はあまりにも大きい。野中組を象徴し、一年間チームを鼓舞し続けたスローガン『One Shot』。この言葉を考案したのは仲山だった。スローガン選びが難航していた中、仲山が聴いていたLose Yourself(Eminem)という曲にこのフレーズが使われていた。苦しい時間帯も、一気に波に乗る瞬間も。グラウンドの選手たち、ベンチの控え選手、そしてスタンドの観客までもが一体となって轟かせた『One Shot』のコール。その言葉は間違いなく、彼らの精神的支柱だった。「一年間を通して、この言葉がチーム野中を体現してくれた」。グラウンドに立てなくとも、自分の言葉がチームの血肉となり、共に闘い抜いたこと。それは仲山の胸に確かな誇りとして刻まれている。

4年時、4年早明戦で鋭いランをみせる仲山

 インタビューの最後に早稲田のラグビー部を「特別な存在」と語った仲山。これまでの4年間をすべてラグビーに捧げ、優勝というたった一つの目標に向けて貫いてきた時間はかけがえのないものだ。その終わり方は決して思い描いたものではなかった。それでも懸命にもがきながら大きな壁に挑戦し続けた経験は今後の人生の大きな糧となるはずだ。そして仲山は大学卒業とともに、競技の第一線を退く決断を下した。「これからは後輩たちの試合を見るのが楽しみ。将来的には、父のコーチ業も手伝ってみたい」。そう穏やかに笑う彼の視線は、グラウンドの外に広がる新しいフィールドをすでに見据えている。「Have a go。とにかくやってみよう」。その精神を胸に歩むこの先の人生は、ここからが彼の本当のベストショットになるはずだ。

(記事 髙木颯人 写真 西川龍佑、村上結太、大林祐太、伊藤文音)