【連載】競走部 東京箱根間往復大学駅伝(箱根)前特集 『UPSET』 第5回 工藤慎作

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 前回の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では5区で区間6位の走りを見せた工藤慎作(スポ2=千葉・八千代松陰)。花田勝彦駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)から授けられたニックネームである「山の名探偵」はXでトレンド入りを果たした。今シーズンは出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)と全日本大学駅伝対校選手権(全日本)で快走を続ける好調ぶり。今回はシーズンの振り返りや、2回目となる山登りへの意気込みをうかがった。

※この取材は12月13日にオンラインで行われたものです。

想像よりも強くなることができた


学生ハーフで3位入賞を果たし笑顔を見せる工藤(写真左)と花田監督

――今シーズンの初戦となった日本学生ハーフマラソン選手権(学生ハーフ)を振り返っていかがですか

 学生ハーフの時点で自分より格上の選手が多かった中、ハーフマラソンで分かりやすい結果が出たことは将来フルマラソンを見据えている自分にとって大きな一歩だったと思います。

――関東学生対校選手権(関東インカレ)は昨年と違い悔しい結果に終わりましたが、どのように捉えていますか

 学生ハーフの後に疲労などで調子を崩してしまい、 今年のトラックシーズンは上手くいかないことが多かったです。関東インカレ自体はあまり良くなかったのですが、試合に出られない分、練習の質や量をレベルアップさせる期間に充てることができました。

――全日本大学駅伝関東選考会(全日本予選)があったトラックシーズン、昨年と違う難しさはありましたか

 高温多湿の状況で1万メートルなどの長い距離を走ることはなかなかないので、全日本予選は走っていて体にはハードなレースだと感じました。シーズンの組み立てとしても、前半であまり走れていなかった分、後半の全日本予選に向けて調子を上げることには苦労しました。

――7月にはゴールドコーストマラソンにペースメーカーとして出場されましたが、どのような意図でしたか。また、収穫はありましたか

 私は将来フルマラソンを走りたいので、そのイメージ作りとして参加しました。向かい風の影響があり、設定タイムではなかったものの、一応集団を率いるという役割は完遂することができました。自分としてはかなり自信になったと感じています。

――夏の期間を、部員日記では「仙人のような生活」と振り返られていました。具体的にはどのようなものでしたか

 休日は基本外に出かけず、完全にリカバリーに充てていました。また遊ぶための帰省というよりは、高校時代に使っていたクロスカントリーコースを使用するなど、練習環境を変えるためだけの帰省でした。ひたすら走って、寝て、食べてを繰り返す、競技のためだけにあった夏休みの期間だったと思います。

――夏の練習で重点的に取り組んだことを教えてください

 私はマラソンを目指すというところで、長い距離への適応を意識していました。その中でもきつい練習の日と、そうでないジョグの日があるのですが、きつくない日こそ差がついていくと思うので突き詰めて練習していました。

――マラソンに関する将来の具体的な目標を教えてください

 次のロサンゼルスオリンピックへの出場を目標としています。そのためにまずはマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)に出場しないといけないので、そちらに向けて取り組んでいます。

――マラソンの出走予定はありますか

 MGCに出るためには大学在学中からマラソンに出始めていかないと間に合わないため、早ければ3年生時点でのマラソン挑戦も視野に入れています。

――昨年苦しい走りとなった出雲で今年は快走を見せました。振り返っていかがですか

 昨年は4区でいわゆるつなぎの区間での出走でしたが、今年は6区という他大学もエースが集う区間での出走でした。その中で青学大の太田蒼生選手や、駒大の篠原倖太朗選手といった学生トップの選手にも勝つことができ、区間2番を取れたのは自分の中で大きな収穫です。

――全日本でもアンカーで素晴らしい走りでしたが振り返っていかがですか

 全日本ではタスキを受け取った時点で自分の前に城西大の平林樹選手がいて、その前に4位を走っていた創価大の野沢悠真選手がいました。創価大まで追いつこうと最初はかなり速めのペースで入りましたが、なかなか追いつかないと感じたので近くにいた城西大との勝負に切り替えました。そのようにアグレッシブさの中で冷静な判断ができたことは大きな収穫だと思っています。

――全日本後のコメントには「暑さを感じてバテてしまった」とのコメントがありましたが、得意なコンディションや苦手なコンディションはありますか

 私自身暑さに苦しんだと言いつつも、そこまで苦手なわけではありません。寒さというのも苦手とはしていないので、様々な状況に対応できる自信はあります。

――リベンジを果たした両駅伝でしたが、昨年との違いを感じるところはありますか

 練習の余裕度や質、量といったものは段違いに変わっていると思います。

――今年の駅伝シーズンの走りは自信につながったのではないでしょうか

 平地での走力は昨年に比べると格段に強くなっているという結果があり、自信があります。自分の中では平地の走りをもっと磨いていきたいと思っていますが、自分の想像よりも強くなることができたと思っています。

――ここまでの駅伝シーズンに点数をつけるなら何点ですか

 85点です。

――残りの15点というのはどういったものですか

 私が出走した全日本の8区で区間賞を取った駒大の山川拓馬選手は自分と同じようなハイペースで入ってそのまま押し切れていました。自分は近くの選手との勝負に切り替えたとはいえ、ハイペースで押し切れなかったことが課題ではあります。

箱根に向けては順調


全日本8区を走る工藤

――工藤選手が得意とするレースプランを教えてください

 私自身前半から突っ込んでいくレースプランの方が好きなのですが、昨年はあまりうまく行きませんでした。そのため前半は少し抑えるイメージで入っているのですが、結局突っ込むかたちになってしまう、というのが最近のレースの傾向です。

――昨年と同様に全日本以降はレースに出場されていませんが、箱根に向けた調整のためでしょうか

 はい。現在、かなり良い状態で出雲や全日本の前より質の高い練習ができています。箱根に向けては順調です。

――箱根まで残り半月ほどですが現在の心境はいかがですか

 良い意味で平常心で過ごせていると思います。

――箱根に向けて注目のチームメイトを挙げてください

 同学年の長屋匡起(スポ2=長野・佐久長聖)を挙げます。出雲や全日本での好走があったうえ、長屋は距離が長ければ長いほど力を出せるタイプだと私は勝手に思っています。その分箱根では本領発揮できると思うので、私自身楽しみな存在です。

――特に仲のいいチームメイトはどなたですか

 一緒に出かけることはしないのですが、現在は藤本進次郎さん(教3=大阪・清風)と話すことが多いです。私と藤本さんはあまり休日に出かけないタイプなので、2人で出前を頼んで寮の中で食べるということがありました。

――花田駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)からは「無限の可能性を秘める」との評価がありましたが、ご自身のどのような点がそう感じさせるとお考えですか

 この夏から練習の余裕度や走りがガラッと変わった自信があり、ここ最近もレベルの高い練習を余裕を持ってできています。自分の成長はまだ止まらないと思っているので、そのような点を汲んでいただいたと思っています。

――5区山登りへの思いを教えてください

 山の神になりたいわけではありませんが、昨年は「山の名探偵」ということでかなり話題にしていただきました。昨年は名前のインパクトが先行していた部分はあったのですが、今年は実力もついてきたので、自分の適性も含めて活躍できる区間だと思っています。

――前回5区を走ったうえで、ポイントだと思う部分を教えてください

 昨年は約12キロ地点の小涌園から、頂上付近の芦ノ湯までのタイムが区間13番でした。他の区間は5、6番で推移していましたので、そこの区間でタイムを上げられればさらにいい結果が出せると思っています。

――山の名探偵として注目されることにプレッシャーはありますか

 特にプレッシャーを感じることはありません。このように盛り上げてくださるのは大学4年間だけなのかなと思っているので、その分楽しんでいけたらと思います。

――ライバルだと意識している選手を教えてください

 5区を想定したときに、青学大の若林宏樹選手や創価大の吉田響選手というのは間違いなく自分の壁になってくる存在だと思います。簡単に勝てる相手ではないと思いますが、少しでも食らいつくことができたらと思います。

――自分の走りで注目して欲しいポイントを教えてください

 私の強みは、前半からハイペースで入っても後半持たせられるアグレッシブさです。それに加えて、大きく外さない安定感を見ていただきたいと思います。

――箱根の具体的な目標を教えてください

 箱根では区間3番以内を取れれば良いと思っています。

――5区の早大記録への意識はありますか

 問題なく走ることができれば抜かせる記録だと思うので、そこからどれだけ上乗せできるかということを考えています。

――箱根への意気込みをお願いします

 区間賞争いに顔を出したうえで、区間3番以内を取ることができればと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 石澤直幸)

◆工藤慎作(くどう・しんさく)

2004(平16)年11月10日生まれ。168センチ。千葉・八千代松陰高出身。スポーツ科学部2年。7月のゴールドコーストマラソンに出場するため、オーストラリアを訪れた工藤選手。外へ走りにホテルから出かけた際、帰り道が分からず迷子になってしまいました。スマホも持っていない危機的状況でしたが、通行人に英語で道を尋ねてなんとかホテルにたどり着いたそうです!