第4回には井上直紀(スポ3=群馬・高崎)と関口裕太(スポ2=新潟・東京学館新潟)の早大が誇るスプリンター2名が登場。両者は5月の関東学生対校選手権でダブル表彰台を飾り、特に関口は今季自己記録を大幅に更新するなど存在感を放ち続けている。そんなお二方に今季の振り返りと来たる日本学生対校選手権(日本インカレ)への展望を伺った。
※この取材は9月7日に行われたものです。
「早大を背負っていかなければいけない」(井上)
対談中の井上
――まず、他己紹介をお願いします
井上 関口裕太は、スプリンターぽい性格です。100メートルの記録を出すということに対して熱心に練習に取り組んでいるのですが、一方ではおふざけキャラで、ぶっ飛んでいてねじが抜けているところがあります。自由奔放ではありながら向かうところに対してはしっかりしているところがスプリンターぽいなと思います。
関口 僕は結構陸上競技に対して、感覚派なのですが、井上さんは感覚派というより、考えて陸上競技に接しているイメージが強いです。分からないことがあったり、言語化が難しかったりしたら井上さんに頼っています。井上さんに頼ったら、しっかりした考えが返ってくるという点で非常に真面目な方だと思います。あともう1年井上さんと陸上ができることについて、すごくありがたみを感じています。普段の日常生活でもすごく落ち着きのある先輩ではあるのですが、楽しむ時は楽しんでその場に溶け込んで話を盛り上げてくれます。競走部でのお兄ちゃん的な存在です。
――お互いの第一印象を教えてください
井上 あまり印象がなくて(笑)。部に入ってきたときの印象で言うと、インターハイ(全国高等学校対校選手権)で勝って、国体(特別国民体育大会)でも勝った世代を代表する選手で。僕実は、関口が特集されているユーチューブを見ていて、その時に僕が課題としていた部分が関口の取り組みと似ていたので「あ、これいいな」と思いながら真似をしていました。実際来てみてどういう感じなのかと思ったら、結構抜けていました。最初は真面目っぽく来たのですが、すぐに抜けている様子を見せたのでスプリンターだなと思いました(笑)。
関口 井上さんが全国中学校選手権で勝った時に、ユーチューブで見ていたのですが、走りの特徴にすごい惹(ひ)かれたのを覚えています。大学に来ても唯一無二の走りに衝撃を受けました。大学に入った後も、学生個人選手権で10秒19を記録して。陸上に対して非常に真摯(しんし)な方で、誰にも負けないとよく考えて陸上に取り組んでいるので、尊敬するべき存在です。人としての印象より走りの印象の方が強いなと思いました。
――お互いの共通するところはありますか
井上 競技のところでもわりと逆というか。
関口 逆ですね。
井上 寮でも僕は静かにしているタイプで、関口はスピーカを鳴らして盛り上がっている感じなので(笑)。結構逆だと思います。ですが、試合に関しては僕も今までの過程で全国で勝ったことがあって、関口も勝ったことがあって。大前さん (大前祐介監督、平17人卒=東京・本郷)によく言われるのですが、勝ち方を知っているというところは2人に共通するところだと思います。
――今シーズンはどのような目標を掲げてスタートされましたか井上 一番は来年に東京の世界陸上があるので、そこに向けてやっていくために1年の冬から取り組んでいて。その通過点としてパリオリンピックを置いていたのですが、日本選手権で走って全然歯が立たず、関東インカレも自分の思うような走りをすることができませんでした。積み上げてきたものは良かったと思っているのですが、その積み上げの土台が低かったので上に届かなかった感じはしています。後半シーズンは日本インカレがあるので、今まで積み上げてきたものを発揮するとともに、やはり勝たなくてはいけないところだと思っているのでそこに向かって今は練習しています。
関口 僕も目標設定という点に関しては少し似ているところがあるのですが、来年のユニバ(FISUワールドユニバーシティゲームズ)や東京の世界陸上に向けて、その中での通過点として今年はパリオリンピックを目標にしていました。標準記録が切れなくて、日本選手権にも出れなかった悔しさはあります。今シーズンは自分に残された試合にしっかり調整して臨もうと思っています。
――前半シーズンに点数をつけるとしたら何点でしょうか
井上 足踏みをしたことはないのですが、やはり結果が求められる以上、結果というところで評価をするとなかなか自分の思うような感じではなかったので、50点くらいだなと思います。
関口 目標としていた大会には出られなくて、その点に関して言えば点数は低くなるのですが、前半シーズンの後半になるにつれて、自分の走りの感覚が良くなったり自己記録を更新できたりしました。その点少し良い評価をしていいと思うので、50点くらいだと思います。
井上 いい評価で?(笑)
関口 いい評価ですね(笑)。
――前半シーズンで特に印象に残っている試合を教えてください
井上 僕は、日本選手権がやはり印象に残っています。しっかり調整期間がとれて、日本選手権に向けて取り組みができたのですが、いざその場に立ったら雰囲気に飲まれてしまいました。力が劣っているとは思わなかったのですが、通用しないという感じはしました。来年の世界陸上を目指すうえで一番大切な試合になってくる日本選手権では、さらに上積みが必要だと思っています。あとは対校戦でいうと関東インカレが印象に残っていて。これどうすればいいんだろうというくらい調子が悪かったのですが、走ってみたら優勝しなければいけない立場ではあったのですが、2番をとれて。その試合から、早大を背負っていかなければいけないということを自分でも思っていましたし、その結果からもやはり引っ張っていかなければならないなと感じました。早大のエースになるというのが僕の目標なのですが、これを日本インカレでもつなげられればなと思います。
関口 僕は関東インカレが印象に残っていて。昨年は、スタンドに立って井上さんや直属の先輩である稲毛碧さん(令6スポ卒=現共西テクノス)が100メートルやリレーを走っているのを見て、色々かみ締めた思いがありました。今年は対校選手として出場させていただいて、表彰台に上ろうとは思っていました。ただ予選の結果からして厳しいと思う場面もありました。コーチの岳さん(欠畑岳男子ヘッドコーチ、平27スポ卒=岩手・盛岡第一)にリレーの予選の際にタイムが遅かったので、「これで(100メートルの)準決勝で遅かったら(リレーの)決勝外すからな」と言われて、ホテルで結構悩んで。その時井上さんが声をかけてくれて、「3走はおまえでやってきたんだから準決勝は絶対に突破しろよ」と言われました。そこでやるしかないなと思い、次の日の準決勝に臨んだら、タイム的には追い風ではあったのですがトップ通過できて。100メートルの決勝も予選からは想像できない3位入賞で、対校選手として走れていない人の分も自分に任されているなという思いをさらに感じました。4継に関しては、初めて3走という区間をやらせていただいて1位になれたのですが、リレー種目に対しての楽しさや難しさを一気に感じさせられて。もちろんプレッシャーもありますが、リレーに関しては負けなしで来ているので、日本インカレでは絶対に勝たなくてはいけないなという思いもあります。リレーは早大が1番だなと改めて印象付けられた試合が関東インカレであり、自分にとって陸上競技に対する姿勢が変わった試合だったなと感じています。
――関口選手は、前半シーズンに自己ベストを連発されていました。昨年と比べて成長した点はどこでしょうか
関口 メンタル面に関しては、1年生の時の関東インカレをスタンドで見ていて。100メートル選手として活躍したいのもそうですし、稲毛さんの代替わりは自分がやらなければいけないなと思っていました。やはりタイムの面でもチームを安心させられる存在でありたいと思っていましたし、冬季練習では絶対にケガをしてはいけないなと感じていました。身体的には1年と比べてケガをしないためにも、ご飯をたくさん食べて、身体作りに専念しました。選手として一回り大きくなれたのではないかなと思っています。
――関口選手は今季多くのシニアの大会に出られていましたが、得た収穫や課題があったら教えてください
関口 (シニアの大会には)日本選手権で活躍された実業団の方もいましたし、タイム的に自分より全然速い人もいたのですが、自分のやるべきことに集中すれば全然戦えるなと感じたグランプリシリーズの大会でした。意外と走ってみて(他選手との)距離は遠くないなと感じて。そこを追い越すのは難しいですが、自分の位置付けとして日本選手権の決勝の舞台に意外と残れるのではないかなという収穫がありました。
――井上選手は関口選手の活躍をどのように見られていましたか
井上 春先からしっかり走れていて、乗ってしまえば乗れるタイプなのでどこまで行けるかなという楽しみはありました。僕自身は関口が活躍しているというのはもちろん刺激にはなりましたし、自分も頑張らなくてはならないと思いました。刺激し合える仲間だと思いますし、頼もしい存在になったなと思います。
――井上選手が先ほど「どうしようもないほど調子か悪かった」というお話をされていましたが、差し支えなければ詳しく伺ってもよろしいでしょうか
井上 自分の思い描くものを自分では積み上げられているので、結果が現れていないとしても上手くいっている感じはありました。ですがやはり求められているものと結果があるので、そこに対するギャップに思い悩むことがありました。そこが一番大きかったかなと思います。
――「ワセダのエース」を担うために、これから必要になってくるものはずばり何だとお考えでしょうか
井上 やはり国内の学生の大会をしっかり獲るといったところが重要ですが、ワセダはそれだけが求められているわけではないと思います。世界に行った先輩、近いところで言うと大前監督もそうですし、江里口さん(江里口匡史氏、平23スポ卒)が100メートルの早稲田記録を持っていますし。やはりそういうところに並んでいかないと、ワセダのエースとは言えないと思うので、そういった点は意識して行っています。
――2回の菅平合宿を終えられましたが、手ごたえとしてはいかがですか
井上 8月の合宿は前半シーズンから後半シーズンへの移行ということでしっかり練習を積んで、良い手ごたえで富士北麓(富士北麓ワールドトライアル)と福井ナイトゲームズ(アスリートナイトゲームズ福井)の2試合があって。そこで最低ラインとして決勝進出を目標にしていたのですが、最低ラインを達成することができました。そして今回の合宿で全カレに向けてしっかり調整ができたので、個人というところもそうですが、リレーとしてもしっかり積めたので良かったと思います。
関口 8月の合宿は、坂練習で自分の走りを構築しており、その練習自体は結構良かったです。しかし、その後の平地での落とし込みで、中盤から後半にかけての走りは良かったのですが、スタートの部分を自分の中で見落としていた部分がありました。その後の富士北麓と福井で、どちらもスタートで出遅れて。自分の思うような結果にはならなかったのですが、それ以外では結構良かったなと評価していたので、そこ(スタートの部分)だけを今回の合宿では取り組みました。全日本インカレに向けてはあと2週間切っていますが、自分の中でイメージを思い浮かべて、それをかたちにはできています。しっかりそれを本番でも発揮できるように頑張りたいです。
「自分の持ち味を全カレですべて出し切る」(関口)
対談中の関口
――全カレに向けて現在のコンディションはどうですか井上 全カレは優勝を目指していて、それに向けた準備の段階なのでしっかり取り組んでいけたらなという感じです。順調にいっていると思います。
関口 自分の走りができれば記録の更新は狙える位置にいると思うのでしっかりそこを狙いつつ、確実に決勝に進んでメダルを取れるよう今の期間を大切にしていきたいです。準備が全てだと思っているので、そこを重視して頑張っていこうと思います。
――今はどのような点を練習で意識していますか
井上 細かいところでいうと100メートルをトータルで見たときに前半、中盤、後半と分割して、そこの前半から中盤、中盤から後半といったつなぎの部分に取り組んでいます。日本選手権が終わってから今の取り組みだと世界に届かない気がしたので、そこから取り組みを変えて色々な方にアドバイスをいただいたり今までやってこなかった取り組みをしたりしました。そういうことの成果がだんだん出始めているので、そこの部分と今自分が取り組んでいるところをマッチさせていけばしっかり走れると思います。
関口 合宿前の二つのグランプリシリーズでは、スタートの部分で出遅れるところが課題として挙げられたのでひたすらそこにアプローチをかけています。あとは自分のタイプ的に前半がうまくいけば後半もその流れで走れる、乗ってしまえばいけるという感じなのでそこをしっかり練習で取り組んでいます。井上さんと1対1でスタートダッシュを蹴ることもやっていこうと思っています。
――全カレ前の男子短距離の雰囲気はどのような感じですか
井上 個人種目もありますけどリレーは雰囲気を作る中で大きな要素としてあります。大きな大会は全カレと日本選手権なのですが、そこで三冠をとれるチャンスは関東インカレで勝った早大にしかなくて、三冠はあまり聞いたことがないし、取ったことがないと思うのでそこに向かっていく姿勢が個人種目も含めていい雰囲気を作っていると思います。
――現時点での4継の仕上がりはどうですか
関口 去年の関カレ・全カレを通していい意味でも悪い意味でも個人種目で点を取りたい気持ちのある選手が強かった半面、自分らしさをリレーで生かせなかった感じがしていました。その経験があったからこそ改善することができて、今年のリレー種目での良い結果につながっていると思います。
井上 万全の状態で挑むのはどこの大学も同じで結構大変なことなので、その中でも総合力が劣っていない点ではいい感じだと思います。
――全カレを2週間前に控えて、改めてご自身の走りの強みは何ですか
井上 僕は後半の走りが持ち味としてあるので、そこから前半のスタートも意識したつなぎの部分に取り組んでいます。後半にプラスして前半も走れるようになればトータルで100メートルが速くなるので工夫しているところです。トータルとしての100メートルの仕上がりは、見ていただきたいと思っています。
関口 僕はスタートしてから30メートルまでの爆発的な加速で頭一つ二つくらい抜けるところです。2つのグランプリではあまりうまくいってないのですが、終盤からの走りは安定してきているのでそこには自信をもっていきたいのと、自分の持ち味を全カレですべて出し切るつもりなのでそこに注目していただけたら と思います。
――最後に全カレに向けた意気込みや目標を教えてください
井上 昨年の全日本インカレに初めて出場させていただいたのですが予選落ちという結果で、エンジを着る以上その責任を持って走らないといけないのに、ふがいない走りをしてしまいました。リレーにおいても一番持ちタイムを持っていた自分が走ることができず、優勝という場にも立てなかった悔しさがあるので、学年が一つ上がって去年よりも色々な経験をして立つ、今年の全日本インカレではしっかり優勝を目指して走っていきたいです。
関口 対校選手に選ばれたからには勝って点数を持ち帰らないといけないというプレッシャーもあります。リレー種目に関しては、去年の稲毛さんや西さんがリレー後に来年は絶対勝ってくれという風に言われたのを今でも覚えていますし、そこは絶対(連勝を)つなげていきたいと思います。まずは自分の責務を全うできるよう頑張ります。
――ありがとうございました!
(取材・編集 草間日陽里、高津文音)
◆井上直紀(いのうえ・なおき)(※写真右)
2003(平15)年9月16日生まれ。172センチ。群馬・高崎高出身。スポーツ科学部3年。元々プロレスを見るのが好きだという井上選手。合宿中には「ほぼ僕と同じ名前」という井上尚弥選手のボクシングの試合を見て、ボクシングにはまり始めたお話を教えてくださいました!
◆関口裕太(せきぐち・ゆうた)
2004(平16)年11月4日生まれ。171センチ。新潟・東京学館新潟高出身。スポーツ科学部2年。「試合前なので身体を絞っています!」と教えてくださった関口選手。具体的に「食べ物は野菜多めにしたり、ジョギングしたり・・。」とおっしゃっていた関口選手に対し、「ほぼダイエットじゃん(笑)。」と井上選手がツッコミをされている姿が印象的でした!