【連載】春季早慶戦直前特集 『ONE』 第11回 吉納翼副将

特集中面

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 今春の東京六大学リーグ戦(リーグ戦)でここまで勝ち点を落とすことなく首位を走る早大。しかし、その好調なチームの中で吉納翼副将(スポ4=愛知・東邦)は不振に苦しんでいた。悲願の優勝が懸かった早慶戦では意地を見せることができるか。来たる決戦への思いに迫った。

※この取材は5月24日にオンラインで行われたものです。

「自分を追い込みすぎていた」

――早慶戦まであと一週間ですが、現在の心境を教えてください

 優勝が懸かった中での早慶戦ということで、あまり過去は振り返りたくないですが、(昨年の)秋の悔しい思いを晴らせるチャンスが来たと思っています。非常に楽しみです。

――現在の吉納選手の調子はいかがですか

 数字としてはクリーンアップで主軸を打っている中で、思うような結果が出ていないので非常に悔しいと言えば悔しいです。ただ、チームに勝ちがついていることが個人的にはうれしいので、あとは早慶戦に向けて良い調整ができたらなと思います。

――今季ここまでご自身のパフォーマンスに点数を付けるとすると100点中何点でしょうか

 数字だけを見たらあれですが、やはり副将として、また最高学年として早稲田大学野球部を良いものにしていく、良い伝統をつないでいくために後輩たちをしっかり引っ張っていくという姿勢は変えずにやっています。そういうものがチームの勝ちにつながっているのかなと思うと、そうですね、自分の結果がダメダメすぎるので50点ぐらいです。

――リーグ戦前の対談では「自分の追い求めている打球やスイングができている」とおしゃっていましたが、実際にリーグ戦を迎えてからはいかがですか

 打球であったり自分のスイングを求めすぎていたところがありました。また自分の進路や人生が懸かっているというのもあり、試合前や試合中も自分を追い込みすぎていたというか。平常心でやれ、というのを自分の心に言い聞かせていますが、なかなかうまく行かない部分があるのと同時に、それでも結果を残して上の舞台で活躍している人も何人もいるので、そういった意味では全然まだまだダメだなと思います。

――その中でどなたかにアドバイスをもらいましたか

 金森打撃コーチ(金森栄治助監督、昭54教卒=大阪・PL学園)はもちろん毎日常に見てくれているので、あまり声を掛けてとかではないですが自分が聞いたときは受け答えしてくれます。それと、毎試合スタンドから見てくださっている元打撃コーチの徳武さん(徳武定祐氏、昭36商卒=東京・早実)にはほぼ毎日自分の打撃の動画やスイングの動画を送って、こうなっている、ああなっているというアドバイスもいただいています。あとは、法政戦前の空き週の日曜日に蛭間さん(蛭間拓哉、令和5スポ卒=現西武)に会いました。プロアマ規定があるので打撃のことはあまり聞けなかったですが、心構えや、「とにかく大丈夫だぞ」と声を掛けてくださったので、それが優勝の懸かった早慶戦につながったらいいなと思います。

「団結力もすごく深まっている」

――今季から打順は3番に入り、得点圏での打席も多くなりましたが、どのような意識で打席に立っていますか

 得点圏やランナーがいるとかはあまり考えないですが、チャンスで打てばヒーローになれますし、試合にも勝てるので、ここぞという場面で一打をしっかり求めていきたいというのはあります。ただ、とにかく一打席一打席が本当に勝負なので、どちらかというとそちらの方が大事だと思っています。

――チャンスを多く演出している尾瀬雄大選手(スポ3=東京・帝京)と山縣秀選手(商4=東京・早大学院)の打撃に関してどう見ていますか

 できすぎているとしか言いようがないですし、シンプルに尊敬もしています。だからこそ作ってくれたチャンスをモノにできていないのは、非常に申し訳ない気持ちがあります。

――4番の印出太一主将(スポ4=愛知・中京大中京)もここまで好調ですが、主将のプレーは吉納選手の目にどのように映っていますか

 打撃や試合での技術面は本当に文句なく、実際に結果が出ているのであまり心配はしていないです。捕手として、主将としてピンチの場面でマウンドに行ったり、(球を)受けている人にしか分からない感じたことをしっかり伝えて、守備が終わりベンチに戻ってきてからはみんなに声を掛けているので、印出に対してもすごく尊敬しています。

――今季で一番印象に残っている試合はなんですか

 法政戦の第1戦目ですね。あれだけ注目されている篠木健太郎投手(4年)から健伸(前田健伸、商3=大阪桐蔭)があのようなかたちで逆転打を打って、そこから一気に日曜日も勝って、こうやって早慶戦を優勝決定戦として迎えているわけなので。法政戦の第1戦目は非常に大事な試合だったと思います。

――明大3回戦の延長11回には適時打を放ち、塁上で感極まる姿もありましたが、そのときを振り返っていかがですか

 あれはちょっと虫がいたので(笑)。なんかいろいろ言われましたけど、そっとしておきましょうという感じでお願いします(笑)。

――チーム全体のここまでの戦いぶりに関してはいかがですか

 できすぎているのと同時に、僕の不甲斐なさが目立ってしまっているので。僕が打っていたらもっと楽に勝てたとか、もっと強い早稲田を応援してくださる皆さんには見せることができたと思うので、この思いを早慶戦にぶつけて、跳ね返せるようにしたいです。

――リーグ戦でのチームとしての収穫はありましたか

 もともと今年のチームは粘り強さが売りだというのはキャンプの頃から感じていました。それが少しずつですけど、どんどん粘り強いチームになって、団結力もすごく深まっているのではないかと思います。

「早慶戦では僕がヒーローになれれば」

――改めて早慶戦について伺いますが、現在のチームの雰囲気はいかがですか

 とにかく「やってやるぞ」という気持ちでみんなが熱くなっているので、非常に良い雰囲気です。他の部活の子からも連絡が来て、「観に行くから頑張って」というのを聞くと、早稲田大学自体も良い波に乗っているのではないかと感じています。

――春季リーグ戦だけで見ると、吉納選手が入学してから初めて優勝が懸かった中での早慶戦となりますが、そこに関してどう感じていますか

 僕が入学してから「早稲田は春が弱い」と言われ続けて、実際に結果も出ていなくて何も言えない状況でした。ただ1年生のときからベンチに入れさせてもらって、その悔しさを知っていたからこそ、同じ過ちを繰り返さないためにキャンプから妥協せずに踏ん張ってやってきました。そこを信じてやってきたのを野球の神様が見てくれているのではないかというように思っています。

――これまで春季リーグ戦は苦戦することが多かった中で今季はここまで首位ですが、どのような要因があると考えていますか

 試合の内容で言えば、記録に残らない、目に見えないミスをしていないというのがあると思います。監督さん(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)も「0点で抑えることができれば負けることはない」と常日頃おしゃっていて、それこそ明治との3回戦であったり、そういったものが本当につながっていると思います。

――早慶戦において意識している慶大の選手はいますか

 やはり昨年からずっと投げている外丸選手(東眞、3年)を打たないと勝てないですし、しっかりあのエースを打ち砕くことで第2回戦にもプレッシャーをかけることができるので、チーム全体で外丸選手を攻略できたらと思います。

――早稲田のキープレーヤ―は誰だと考えていますか。

 ここまで試合ごとにヒーローが変わってきていて、みんなそれぞれヒーローになっている中で、僕だけまだなっていないので。そこは巡り合わせというか、そういう風に前向きに捉えて、早慶戦では僕がヒーローになれればいいなと思います。

――早慶戦で吉納選手の注目してほしいところはありますか

 本当にまだ入学してから一回も優勝したことがないので、優勝に懸ける熱いプレーと執念と、最高学年ということで悔いの残らないように、最後までしっかり戦い抜く姿勢を見てほしいです。

――早慶戦への意気込みをお願いします

 何としても昨年の悔しさを晴らして、慶応を倒し優勝します。日曜日に早稲田大学の応援してくださる方々と、優勝パレードをできたらいいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 沼澤泰平)

◆吉納翼(よしのう・つばさ)

2002(平14)年8月16日生まれ。180センチ。愛知県・東邦高出身。スポーツ科学部4年。温泉やサウナが好きで、リーグ戦期間も休みの日はチームメイトと行きリフレッシュしたという吉納選手。気持ちを切り替え臨む早慶戦での一打に期待です!