【連載】『第62回早慶戦特集』 第8回 濱部昇監督

米式蹴球

 「やはり1年目は難しい」――。昨秋リーグ戦最終戦、濱部昇監督の1年目はこの言葉で幕を閉じた。あれから約半年、確実にアップしたチーム力とともにいかにして2年目のシーズンに臨むのか。BIG BEARSの「いま」を伺った。

※この取材は4月8日に行われたものです。

「それなりに順調に来ている」

――現段階でのチームの状況を教えてください

昨シーズンが終わって、きょねんの反省をもとに今シーズンに臨んでいるんですけれども、一番の反省点を挙げるとするならば、チームとしての取り組みはそれ相応にはできていたと思うんだけれども、早稲田大学の活動環境の中では個人で授業や練習と私生活の隙間の時間をうまく使ってフットボールに取り組まないとなかなか難しいところがあるんですよね。そういうところでの個人個人の自覚とか取り組みがちょっと甘かったというか、僕自身も目が行き届いていなかったということが反省です。ことしは一人一人が自覚して自立して取り組もう、という意識の共有から始まっていますね。きょねんもそうだったんですけれど、新チームが立ち上がってから春休みぐらいまでは休み期間ということもあって練習の質や内容に対してはある程度コントロールできる環境にあって、比較的順調に来ているとは思っています。きょねんも早慶戦までは良い形できていたので、ここからまた前期の授業が始まり、春シーズンがあり、前期の試験が終わってサマーキャンプ、後期の授業が始まるという中で、一年間どのようにシーズンを送っていくか、ということがまた課題になってくると思っています。もちろん足りない部分もありますが、そういう部分を挙げるとキリがないのでね。ただ、僕らが選手に求めるプレーの数とか質、彼らの春のフィジカルアップの取り組みを含めて、全体としてはそれなりに順調に来ているのではないかと思います。

取材に応じる濱部監督

――昨シーズンは意識改革に重点を置かれていた印象だったのですが、ことしもメンタル面に関しては意識的に指導されていますか

きょねんは今までのチーム作りとは全く違うチーム作りをして、変える、ということにものすごくフォーカスしたシーズンでした。選手もいろいろなことに関してやり方が変わって戸惑ったこともあったと思うんですが、秋の予行練習として取り組んだきょねんの春シーズン一年経って、フットボールシーズンのプログラムとしては3回目のシーズンを迎えているんですね。そういう意味では、みんなも次にどのようなことが起こるかがわかって先が見えるようになってきていて、当然きょねんの秋のシーズンよりもこの春のシーズンのほうがはるかに順調にチーム運営をできていると思います。きょねんのシーズンが終わっての課題というのがメンタル面での部分、選手の自覚の部分だったのですが、僕がグラウンドでコントロールできる時間というのは限られている、1日24時間の中で自分が彼らに影響を及ぼせる時間は非常に限られているので、それ以外の時間を彼らがどのように過ごしていくかということがすごく大事なんですよね。そのために、きょねんの反省点を踏まえて月ごと、週ごとにチームの様子を見ながらプログラムを組んでいます。練習で同じことを繰り返していると先が見えてくる分刺激が薄くなってきて、やはり取り組みの質も下がってくるので、そうならないよう、飽きないような、そして常に前向きに取り組んで成長できるようなプログラムを考えています。成果としては比較的順調なんだけども、まだまだ足りない部分もあるので、どんどん成長してもらいたいなと。成長の伸びしろはあると思うので、そこに向けてチャレンジして欲しいと思いますね。先週の全体ミーティングで、「これが限界であれば、これ以上君たちに要求しない。でもそうではないだろうし、目指しているものはもっと高いはずだ。もっとチャレンジしよう」と少し厳し目の言葉を伝えました。

――就任2年目となりますが、きょねんから変化している部分はありますか

きょねんは全体的な運営を変えることに追われていたということもあって、選手も戸惑っていたし、自分の要求と実態が噛み合っていなかったことも多かったんですよね。そういう意味では常に試行錯誤の日々だったというか。高校のHCをやっていた頃は成熟したプログラムを持っていて、きょねんはそれを応用してこのチームに還元したんだけれども、やはりイコールではない、高校生と大学生とでは全く違うということを痛感しました。ことしはその点についても反省しながら、適応できるように変化を加えてやっていこうとしていますね。例えば、良かれと思ってやったことも予定通りの成果が出なかったし、そこについて新しい手を打っても、それがまた今シーズンどんな結果になるかということはわからないので。そういう意味では、選手だけではなく僕自身も常に挑戦、試行錯誤しています。チーム作りは難しいけれども僕にとっても新たなチャレンジなので、前向きに楽しみながら頑張っています。

――高校と大学の違いとは、具体的にどのような部分なのでしょうか

一番は、やはり生活のサイクルが違うことですね。高校生は1限から6限があって、そのままグランドにやってきて、帰って、風呂に入ってご飯を食べて寝る、という風に一日が流れていってしまうけれど、大学生は学部もカリキュラムも違うし、自宅から通っている者と寮の者がいる、また出身地もまちまちで、これを高校生と同じように一つのプログラムでやってもうまくいかないのは当たり前だったということを振り返って痛感しています。僕がグラウンドで選手に接している時間は長くても5時間くらいであって、彼らにとっては家にいる時間の方が長いわけですよね。早大学院のチーム運営が良くなった理由として、一つは親御さんとのコミュニケーションをしっかりととって、協力を促してもらうような体制を作ったことが挙げられると思っているんです。選手の足りない部分を補うために、親御さんのサポートの力はすごく大きい。でも大学生はそうではないんですよ。彼らを高校生と同じ様にコントロールできると思っていたことは大きな間違いであって、自分の中の奢りでもだったと思います。だからこそ、選手自身の自立と自覚がすごく大切になってくるんですよね。自分の声の届かない部分で、選手は自らを律していかないといけない。大学生活では楽しいことがたくさんあるからこそ、自分たちが何を目指しているか、そのために何をしなければいけないのか、そういうことをもっと噛み砕いて、選手たちには常に意識してほしいです。自分としては、きょねんは変えることに一生懸命で全体を俯瞰していた部分があったけれどもそれでは脇が甘かったので、ポジションコーチにも協力を願いしながら、なるべく一人一人に接するように意識しています。選手個人にフォーカスして、アプローチしている点が昨シーズンとは違うかな、と思いますね。

「全試合勝ち抜くことが絶対的な目標」

――今季はリーグ編成がありますが、カギとなってくるのはやはり選手層の厚さといった部分なのでしょうか

そうですね。今まではシーズン終盤に向けて仕上げていけばよかったものが、今季は序盤からその精度が求められてくということで、全ての試合がタフでハードは試合になると思います。それを戦い抜くためには、まず一人一人をもっとタフな選手に育てなければいけないし、色々なアクシデントが予想される中で選手層を厚くしていかないと戦い抜けないですね。上位校はさらに一段とチーム強化を図っているという話も聞くので、そういう意味ではかなり危機感を持っていますね。

――ほかのチームの情報は気にされますか

自分はあまり気にならないタイプではあると思うんだけどね(笑)。当然ことしも「日本一」を目指して取り組んではいるんだけども、シーズンを通してその目標を達成できるチームは一つしかないわけで、たとえことしBIG BEARSがベストの取り組みをして歴代ナンバーワンのチームになったとしても、競合するチームも同じような状況だったら、当然削り合うという状況が生まれるわけですよね。逆に歴代ワーストのチームだったとしても、周りのレベルも下がっていたらポッと勝ててしまうこともありえるじゃないですか。なので、一番大事なのは、今季このメンバーでできる限りのことをしてベストなチームを作り、ベストなシーズンを送るということだと思うんですよね。もちろん相手があってこそのスポーツではあるんだけれども、相手うんぬんよりも、自分たちがやりたいことをとことん追求して、自分たちがやるべきことをやるということが大事だと思いますね。そこに結果がついてくれば最高だね。選手はベストを尽くしているわけだから、仮にそれで結果が出なかったとしたらそれは僕の責任なので、そんなに悲観することでもないかなと思いますね。

――OL中村洸介主将(スポ4=東京・日大三)、LBコグランケビン(商3=東京・早大学院)、LB加藤樹(商2=東京・早大学院)が第1回世界大学選手権の代表メンバーに選出されましたが、彼らにはどのような成長を期待していますか

自分は社会人になるまではワセダのフットボールしか知らなかったんですが、社会人になって初めて他の大学のフットボールを知ってすごく世界が広がったので、こういう機会があるのは学生にとってはとても良いことだと思うし、幸せなことだと思っています。ワセダの中だけでプレーしていると、どうしてもそこで満足してしまうと思うんですよね。だからこそ外の世界を経験することで、世の中にはもっと大きくて強い選手がいるということを学ぶことが重要だし、日本国内だけではなくて、海外のチーム、選手と接するということはなかなかない経験なので、そういう機会を彼らが得られたということに対して、与えてくれた協会にも感謝をしているし、彼らのことも応援したいと思っていますね。僕も2008年にアメリカに行ってきたんだけれども、ビデオや写真で見るものと生で感じるものとは全く違うんですよね。それを彼らが実際にフィールドの中で感じることができるというのはものすごく貴重な経験だと思うし、彼ら自身が一回り成長して帰ってきて、それをチームに還元してくれることを期待しています。

昨年の早慶戦では見事、初采配を勝利で飾った

――慶大の印象について

デビッド・スタントHC(慶大)が就任したのがきょねんの3月の始めだったので、春の早慶戦には僕が心配していたほどの影響力はなかったんですよね。ただ、昨シーズンを経て今シーズンに入って相当選手を鍛え上げているみたいなので、そういった意味では慶大はきょねんとは全く違うチームになっているんじゃないかなと思います。元々、慶大の選手には能力が高い子が多くてスマートなフットボールをやるチームで、そこにデイビッドが来て練習量を求めて、「強くなりたいんだったらハードワークをしろ」ということでウエイトトレーニングにさらに力を入れているみたいで。そういったフィジカル面とメンタル面が格段に上がってきていると感じているので、ことしは非常にタフな試合になるのではないかと思っています。きょねんはうちの仕上がりが格段に良くて、やりたいことがほぼ完璧にできた試合だったんですけど、ことしはそうはいかないかなと。スクリメージを試合されてしまうことも想定できるので、危機感を持っていますね。

――春シーズンの目標を教えてください

春シーズンは1部上位校から2部下位校まで幅広く練習試合を組んでいる中で、選手全員に試合経験を積ませながら、チームの底上げを図りたいと考えています。底上げをしながらも、とにかく勝負にはこだわっていきたいので、全試合勝ち抜くことが絶対的な目標ですね。スコアだけではなくて、コンタクトやスピード、テクニック、個々の接点でも勝てるようなプレーを展開していきたいと思っています。きょねんは上位校に対して接点で負けてしまって、フィジカルなフットボールが全くできなかったので、ことしはそのような面も含めてコントロールできるようにしたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 井上義之、巌千咲)

◆濱部昇(はまべ・のぼる)

 1963年(昭38)10月7日生まれ。東京・早大学院出身。1987(昭62)年教育学部体育学専修卒。 「常に気になる」と語る一昨年度まで指揮していた早大学院高は昨年度も全国高等学校選手権(クリスマスボウル)を制覇し、これで濱部監督が率いていた時代から合わせてクリスマスボウル4連覇を達成。今でも早大学院高の監督、コーチ陣に相談に乗ったり、アドバイスを送ることもあるそうです。