今シーズン限りでシングル競技を引退することを表明している西山真瑚(人通3=東京・目黒日大)が、シングル最後の大会に挑んだ。フィナーレとなったこの国民体育大会冬季大会(国体)には、東京都代表として出場。ショートプログラム(SP)、フリースケーティング(FS)ともにジャンプに乱れがあったものの、3回転アクセルへ挑戦する姿や、西山らしい滑りを見せた。
★成年男子SP
温かな拍手と声援を受けながら、西山は笑顔でリンクに飛び出した。ゆっくりと息を吐き、最初のポーズを取ると、ファンにとってもなじみ深くなった『That's Life』の軽快なメロディーが流れ出す。フランク・シナトラの歌声にぴったり合った振り付けを見せながら挑んだ冒頭の3回転+3回転のコンビネーションジャンプは、2本目の3回転トーループが回転不足となり乱れてしまう。続く3回転ループでは転倒。勢いよく跳んだ最後の2回転アクセルは着氷でわずかに詰まるも、プログラムの流れを切らさず演技を続ける。見せ場がたっぷり詰まった後半のステップでは、序盤のジャンプの乱れを忘れさせるような軽やかさで魅せる。伸びやかで緩急自在なスケーティングや、メリハリのある動作に目を惹かれる。最後まで明るい表情で、大会最後のSPを滑り切った。
ジャンプでは精細を欠く演技となりながらも、ステップ・スピンではしっかりと最高評価のレベル4と高い出来栄え点を獲得するなど、自身の強みを生かした演技を披露した西山。得点は62・95点となり、演技終了時点で翌日のFS進出を決めた。
★成年男子FS
ついに迎えた「シングルスケーター西山真瑚」最終戦。たくさんの観客と仲間たちが集まった八戸の会場の風を受けながら、西山はポジションについた。重厚なピアノの音色が流れ、最後の『Anthem』が幕を開けた。
「またシングルをやりたいなと思うことがないくらい練習をして、国体に臨みたい」。1月初め、日本学生氷上競技選手権(インカレ)の演技後に西山は力を込めてそう語っていた。想いを込めて臨んだ今大会のFSでは、今シーズン初めて3回転アクセルに挑戦。6分間練習ではきれいに決めていたジャンプだが、本番は回転不足で転倒してしまう。続く3回転フリップではバランスを崩し、コンビネーションにすることができなかった。「アクセルが入ると、他の部分も難しくなってくる」と語ったように、その後も着氷の乱れや回転の抜けが目立ってしまう。しかし、大会最後のジャンプとなった3回転トーループから2回転アクセルのシークエンスは、加点がつく出来栄えで着氷した。
プログラムのクライマックスでは、ひとつひとつの動作に想いが込められたような、繊細かつダイナミックな舞を披露。西山の魅力、そして西山のスケート人生を表すような壮大で優美なスケートが、銀盤の上で輝いた。最後のスピンを丁寧に回り切り、力を込めて腕を上げ、演技を終えた。
『Anthem』を演じる西山
穏やかな表情で観客に丁寧にあいさつをし、リンクを降りた西山。インカレからこの最終戦に向けてジャンプなどの技術面を重点的に練習してきたという中、SP、FSともに乱れが目立ってしまった。しかし、「今の自分の現状を出し切った」、「最後に3回転アクセルを入れた演技をできてよかった」と振り返り、前向きな姿勢を見せた。得点は120・19点でFS、総合順位ともに11位。同じ東京都代表の國方勇樹(日大)の結果と合わせ、東京都としては6位入賞を果たした。
表彰状を持ち、笑顔を見せる西山(右)
西山は8月末の初戦から、シングルラストシーズンを全力で駆け抜けてきた。磨き上げてきたプログラムで見る者を魅了し続け、シーズン後半戦では会場に集まる観客に直接その演技を届けた。全日本選手権、そして最終戦となったこの国体では多くの観客が立ち上がって拍手を送り、たくさんのバナーも見られた。シーズンを通して輝きを放ち続けたその姿は、観客の心に刻まれたことだろう。来シーズンからはアイスダンスの選手として新たな一歩を踏み出す西山から、今後も目が離せない。
(記事 吉本朱里、写真 及川知世)
※掲載が遅くなり、申し訳ありません
結果
▽成年男子
西山真瑚(東京都)
SP 11位 62・95点
FS 11位 120・19点
総合 11位 183・14点
コメント
西山真瑚(人通3=東京・目黒日大)
※FS後、囲み取材より
――シングルスケーターとしての最後の大会でしたが、演技を終えていかがですか
そうですね、今の自分の現状を出し切ったからもういいや!という感じです。
――冒頭3回転アクセルに挑みましたが、どのような思いを込めて跳びましたか
アクセルはできるようになってきていたので、とりあえずチャレンジしようと。最後だし思いっきりやろうと入れました。
――3回転アクセルを入れたプログラムを滑り切っていかがですか
やっぱりアクセルが入ると、他の部分も難しくなってくるなと思いました。特に大会だと。でも最後に3回転アクセルを入れた演技をできて、よかったかなと思います。
――シングル最後のシーズンを通して、色々な経験をされたかと思いますが、今シーズン振り返っていかがですか
もう、山あり谷ありというか。良い時は良い波にのって、悪い時もあってみたいな感じでしたが、今まで自分が経験してこなかった大会に出たり、経験ができたことはすごく自分の将来に役に立つなと思います。
――今後の予定は
まずはアイスダンスの相手を探す、本当に本当に探すという感じで。しばらくはそちらに時間を費やすという感じですね。
――今後の活動拠点などは
日本人の相手を探したいと思っているので、まずは東京拠点でやっていきたいと思います。
――終わった後の感慨深さや込み上げるものなどは
あっという間に終わったなという気持ちです。でも、今自分の現状、等身大の演技だったなと思うので、これはこれで受け入れて、次に進みたいと思います。
――演技をして感じたことは
チームメイトが応援してくれたりなど、国体の独特の空気感を感じて、お客さんの応援も感じることができました。最後、有観客で演技ができたのはすごく幸せだなと思います。
――どうしてこのタイミングでシングルを引退しようと思ったのですか
昨年アイスダンスで全日本に出場して、トップ2の壁は高いなと感じたのですが、(北京五輪や世界選手権を見て)その高い人たちにとっても世界の壁はさらに高くて。シングルとアイスダンスを並行して行うのは、アイスダンスを極めるためには無理だな、と感じました。アイスダンスをやるなら一本に絞りたいなと思ったので、今年はアイスダンスの相手が見つからなかったからシングルをやって、今年できっぱり終わろうと思いました。
――相手を見つけるという覚悟もあったのですか
まだ本当に見つかっていなくてどうしようという感じなのですが、自分の中でアイスダンスにぐっとシフトしたいなと、今のところ考えています。
――インカレ終わったあとに「シングルでもっとうまくなりたい」という話をされていましたが、インカレ後に変えた部分などはありますか
この国体に向けて跳べるようになってきていたので、新しいチャレンジの一つとして3回転アクセルを組み込みました。特に技術的な面を重点的に、思いっきり練習しようと思ってやってきました。
――アイスダンスをされている学生の選手はインカレなどでシングル競技に出ることもありますが、今後は完全にシングルの大会には出場されない予定ですか
今のところはその予定です。