ダイドードリンコアイスアリーナで3日間にわたり開催された東日本選手権大会(東日本)。最終日には男女のフリースケーティング(FS)が行われ、東日本から全日本選手権大会(全日本)へ出場する選手が決定した。早大勢は男子部門で島田高志郎(人通2=岡山・就実)が優勝、石塚玲雄(スポ4=東京・駒場学園)が4位。女子部門で川畑和愛(社2=東京・N高)が同じく4位に入り、出場した3人全員が全日本への切符を掴んだ。
表彰台に立つ島田
前々日のSP後に「(FSでは)気持ちを切り替えてノーミスできるようにしたい」と話した川畑は、少し緊張した面持ちでスタートポジションにつく。ヴァイオリンの音色に合わせてしなやかな動きで滑り出すと、冒頭のコンビネーションジャンプを成功。その後の2回転アクセル、そして東京選手権では回転が抜けてしまった、手を挙げてのサルコウジャンプもダイナミックに決める。スパイラルのポジションから片足をつかないまま踏み切りに入る、難しい入り方の3回転フリップでは、エッジ違反と回転不足を取られてしまうが、流れは損なわず後半へ。後半最初のジャンプである2回転アクセルでは転倒もあったが、失敗をひきずることはなく、その後のコンビネーションジャンプを着氷する。最後はSPではミスのあったループジャンプを美しく決めると、伸びやかなヴァイオリンの音色を体全体で表現するようなランジで演技も終盤へ。ラストは音のキメに合わせて跳び上がってから入るスピンで締めくくり、上を見上げるポーズでフィニッシュ。ポーズを解いた後は少し悔しそうに俯いたが、笑顔で礼をし、氷を降りた。結果はFS、総合ともに4位で全日本への出場権を獲得。調子が良くなかったなりにまとめられた、と前を向いた。得点は3週間前の東京選手権より2点ほど伸ばしたが、スピンやステップのレベルの取りこぼしがあったこと、また東京選手権から3回転-3回転の連続ジャンプを回避していることなど、まだまだ点数を伸ばすことのできる要素は多い。残り2カ月を切った全日本に向けては「ジャンプをもっと自信をもてるように練習から確率を上げていきたい」と語った川畑。エレメンツの精度、そして今回はあまりできなかったと言う曲自体の表現がどのように仕上がっていくのか、注目だ。
柔らかな表情で滑りきった川畑
SP2位でFSを迎えた石塚は、会場の外で秋雨がしとしと降る中『雨に唄えば』を披露した。冒頭、フリップとルッツ2種類のダイナミックな3回転ジャンプを立て続けに着氷。流れに乗り、前半のジャンプはミスを最小限に抑えた。軽快な音楽を紡ぎ出すようなしなやかな動きを見せたステップでは、まるで画面越しに応援する観客の手拍子が聞こえてくるようだった。後半、セカンドジャンプの高さと美しい着氷が印象的な2回転アクセル-3回転トウループで得点を稼ぐ。しかし、「少しタイミングがずれてしまった」3回転フリップ、「判断ミスだった」と振り返った3回転ループでは転倒。演技後のインタビューで悔しさを見せつつも原因をしっかりと分析した。得意のスピンでは、 持ち前の安定感を発揮しこの日唯一のオールレベル4の判定を受けた。特にラストのチェンジフットコンビネーションスピンでは、スムーズなポジション変更とぶれない軸、神経の行き届いた指先の表現でラストポーズに繋げ、他を圧倒する強さを見せた。演技後、「最後のループがなければ良い演技だったな」という気持ちで数回うなずく。FSの得点は111・88。演技構成点は島田に次ぐ2位で、2週間前の東日本学生選手権後に目標として掲げていた「お客さんに楽しんでいただける演技」がまた一つレベルアップした。SPと合わせた総合順位は4位となり、現役ラストとなる全日本選手権への切符を掴んだ。念願の全日本FS進出を目指して、あと2カ月弱を大切に過ごしていく。全日本の大舞台で石塚の魅力がたっぷり詰まったプログラムの完成形が花開くのが楽しみだ。
表情豊かに『雨に唄えば』を披露した石塚
SP首位で折り返した島田は、最終滑走で登場した。ジュニア時代に滑っていた思い出深い『チャップリン・メドレー』の「ハタチバージョン」を披露すべく、グレーのジャケットという上品かつ大人びた衣装に身を包み演技をスタート。冒頭、軽やかな音楽に合わせて4回転トウループを着氷。3回転アクセルでの転倒や3回転ループでの着氷の乱れはあったが、演技後半では得点源となる3回転アクセル-オイラー-3回転サルコウをダイナミックに決め、加点を得た。チャップリンのコミカルな動きを散りばめたステップでは、上半身を伸びやかに使いつつ足元は深くはっきりとしたエッジでステファン・ランビエールコーチとともに磨いてきたスケーティング技術の高さを見せた。後半見せ場のコレオシークエンスでは、伸びやかなメロディーをしっかり捉え、氷に吸い付くような島田らしいスケーティングを存分に披露した。回転速度の安定したチェンジフットコンビネーションスピンを回りきり、右手を胸に当ててフィニッシュ。演技後、わずかに首を傾けた様子から悔しさがうかがえた。曲の緩急に合わせて長い手足を存分に生かしながら、6年前とは違った魅力を持つプログラムを演じ切った。FSの得点は138・43、総合得点 217・22で10カ月ぶりの試合を優勝という形で終えた。優勝したものの、演技内容を振り返り「自分に完敗した形で、本当に本当に悔しい」と話す。試合で得た悔しさをバネに、思い描く『チャップリンメドレー』完成のため、さらなる高みを目指し続く試合に向けて一歩一歩歩んでいく。
チャップリンを演じた島田
3人の次なる大舞台は、12月22日からさいたまスーパーアリーナで行われる全日本。独特な緊張感のあるオリンピックイヤーの全日本だが、早大の選手たちが各々のベストの演技を見せてくれることを期待したい。
(記事 及川知世、中島美穂、写真 及川知世)
結果
▽男子
島田高志郎
F S 1位 138・43点
総合 1位 217・22点
石塚玲雄
F S 4位 111・88点
総合 4位 175・35点
▽女子
川畑和愛
F S 4位 106・73点
総合 4位 163・28点
コメント
石塚玲雄(スポ4=東京・駒場学園)
――まず率直に今日の演技を振り返っていかがですか
前半は、少し着氷のミスはあったものの、ジャンプ含めて悪い演技ではなかったので、後半、最後2つのジャンプを失敗してしまったのが、悔しいというか、惜しかったな、という気持ちです。
――後半のジャンプの失敗の要因は思い当たりますか
3回転フリップで転んでしまったのは、少しタイミングがズレてしまったかな、という位でそんなに悪くはなかったです。その後の3回転ループを転倒してしまったところについては、元々3回転ループを最後に飛ぶ予定は無くて、元は3回転サルコウで終わるはずだったのですが、自分の頭の中で、一番最初の3回転フリップに3回転トウループをいつもつけているので、そこでセカンドのトウループを2つ使ってしまったと思い込んでいて、ラストは、本当だったらサルコウでも、ジャンプの本数的には問題無かったのですが、なんでかループじゃないとジャンプがかぶってしまう、と思ってしまい、予定していなかったループを跳びに行ってしまいました。その結果失敗したので、そこに関しては判断ミスだったなと思います。
――SPでベストが出て、1日空いて今日を迎えましたが、間の1日はどのような気持ちで過ごされましたか
ショートをノーミスでできたことは本当に嬉しかったので、その嬉しさは素直に受け止めながら、昨日空いた1日は、東京開催だったということもあり、いつも行っているジムとかにも普通に行けたので、ジムに行ってトレーニングしたり、日々やっている曲をかけながらのイメトレを、いつものようにやり、ガッツポーズするイメージもしていました(笑)。
――気持ちや体調面でも良い状態で迎えられましたか
そうですね、とても良い状態で迎えられましたし、演技の方も、最後2つ失敗はしてしまったのですが、非常に良い心の持ちようで滑れたかなと思います。
――演技数回うなずいたように見えましたが、どのような気持ちからですか
ジャンプに関しては、最後のループがなければ良い演技だったな、という感じだったので、そこだけかな、といった意味でうなずきました。それがなければまずまず良い演技だったと思います。
――全日本に懸ける思いを聞かせていただけますか
やっぱり今まで過去3回、ショートを通過できずに終わってしまっているので、今回はショートもフリーも去年から比べるとすごく成長した姿をお見せできていると思うので、しっかりと、後1カ月と少し、しっかりと練習を積んで、練習してきたことをしっかりと発揮して、ショートもフリーもどっちも、お客さんに楽しんでもらえる演技をしたいと思います。
――全日本までどのような練習をしていきたいですか
今回の試合で分かったことなのですが、今入っているアクセル以外のトリプルジャンプというのは、もうそんなに硬くならずに、簡単に跳んでいけるジャンプだなと思ったので、そういうジャンプをもっともっと増やしていきたいです。今回はショートでもそれができましたし、フリーでも最後の2つはできなかったのですが、そういった簡単に跳んでいくジャンプができた部分もあったので、そういったジャンプをもっと増やしていければ良いなと思います。
川畑和愛(社2=東京・N高)
※Zoom囲み取材より
――東日本選手権を振り返ってみていかかですか
演技自体は、練習での調子などを考えるとまとめられた方だと思います。
――今回のフリーでよくできたと思うところはどこですか
東京選手権大会(東京選手権)から、ジャンプは不安定というところが自分の中でもあったのですが、今日のフリーでは思い切って跳ぶことができ、最後のループをしっかり決められたのがよかったです。
――2回転アクセルで転倒してしまった原因は
東京選手権から、靴が折れてしまって、そこから靴を替えたのですが、その調整があまりうまくいっていませんでした。時間が少し足りなかったのかなと思っています。それでアクセルなどが不安定なことが多くて、それが出でしまったかなと思います。
――全日本選手権大会(全日本選手権)に向けてここから強化していきたいことが何かあれば教えてください
ジャンプはやっぱりもっと自信をもてるように練習から確率を上げていかなければいけないなというのがあります。あとは本番で自信をもって楽しんで滑るためにも、ノーミスでできる日を増やしていかなければいけないと思います。
――全日本選手権ではおそらくお客さんが入った中で演技することになると思いますが、お客さんの前でこのプログラムを通してどんなことを伝えていきたいですか
ショートもフリーもすごく素敵なプログラムです。ショートは曲自体に物語があるので、その世界観を自分の滑りから感じてもらえるようになったらいいなと思います。フリーはヴァイオリン協奏曲なのですが、今回は少しジャンプに集中しているところがあって曲自体の表現というのはすごくできたわけではないと思うので、全日本選手権ではもっとプログラムの強弱だとか、小さなポイントをもっと細かいところまでどう表現したいかとか、どう手を動かすかとかも練習して、ひきつけられる演技をしたいです。
――樋口豊先生からは試合前と試合後でどんな話がありましたか
試合前は、とにかく自信をもって滑るようにという言葉をもらいました。試合後は、練習での調子があまり良くなかった中で、2回転アクセルの転倒はあったもののまとめられたところはよくまとまった方だった、と言ってもらいました。
――今回は本当にいきいきした表情のときの滑りというわけにはいかなかったのかなと思ったのですが、緊張感のある全日本選手権でそれを達成するためには気持ちをどういう風にもっていきたいですか
いつも緊張するのですが、その緊張がいい方向に働くときは練習からの自信がちゃんとあった上でいい緊張感をもって滑れるときだと思うので、練習からノーミスでできる日を増やしていきたいと思います。
島田高志郎(人通2=岡山・就実)
※Zoom囲み取材より
――フリーの演技を振り返って、今の気持ちをお聞かせください
率直に言うと、自分に完敗した形で本当に本当に悔しいです。やっぱり、もっとできる自分を目標にしていましたし、プログラム自体をところどころ楽しむことはできたのですがどうしても自分に嘘をついていたというか、強い自分を100パーセント押し出していけなかったのが、今回あまりいい演技ができなかったことに繋がっているのかな と思います。次はチャレンジャーシリーズなのですが、そこに向けて今回の経験を糧に試合の調整をうまくやっていきたいと思います。
――次のワルシャワのチャレンジャーシリーズまでに、具体的に取り掛かりたい課題はどこですか
練習に関しては、まだ課題点が見つかっていないのですが、今回6分間練習で全く何も跳べない状況になってしまいまして、それはやっぱり試合の雰囲気や本番で合わせる調整の仕方がうまくできていなかったのかなと考えています。そこは試合でしか経験できない部分ですが、6分間練習の練習や、もっと早く準備ができるようにするとか色々な手はあると思うので、ステファンコーチや色々な人と相談しながら練習メニューを決めていきたいと思っています。
――今回の試合の収穫は何でしょうか
収穫をいますぐにあげることが難しいくらい自分が放心状態というか。そうですね、今回難しい条件下で、コーチを本田武史さんにお願いしていつもの環境とは全く違った状態でも最後まで戦い抜いたっていうのが一番に挙げられる収穫ですかね。 それでもやはりもっとできた自分を求めているので、今後の試合で収穫がたくさんあったなと言えるように頑張っていきたいと思います。
――チャップリンを演じられていましたが、チャップリンになる秘訣は何でしょうか
秘訣というよりも音楽にただ入り込むというか、自分がただただ楽しんでいればチャップリンに近づいていくだろうし、雰囲気感はチャップリンのビデオを見て予習もしました。振り付けの中にチャップリンの映画の中のワンパートが少し入っていたりと、良い振り付けをしていただいているので、それが存分に発揮できる技術も身につけていきたいと思います。
――グランプリシリーズが始まっていますが、これらの試合を見る機会はありましたか
全部チェックしましたし、先ほどのワリエワ選手などのすごい演技を見て自分も頑張らないと、と思っていました。すごく自分に集中できてはいたのですが、自分が良い演技ができるイメージが直前から湧いていなかったので。刺激を受けてはいたのですが良い刺激として僕が力に変換できなかったのかなと思います。
――今回、久しぶりの試合ですが島田選手にとって、どのような試合のペースがちょうどよいですか
自分の意思としては、試合に出られるだけ出たいという思いが第一にあって、今シーズンは去年に比べたら2試合も多くてすごく喜んでいます。ですが、試合の感覚は自分にとってどのペースが良いかはあまり掴めていなくて、今後模索していく予定です。自分の身体と相談することもすごく重要なので、今後もステファンコーチと相談 しながら試合数や練習メニューを考えていこうと思っています。
――ステファンコーチとはショートプログラムの後、どのようなお話をさ れたのですか
今回のステファンコーチたちとの目標がプログラムを存分に披露してくることだったので、ショートは4回転のジャンプのミスはありましたがその他の演技面はすごくよかったよと喜んでいただけました。ですが、今回のフリー、これはどうだったかなというのがちょっと怖いじゃないですけど、あまり自分の中でよくなかったので今後さらにステファンコーチと突き詰めていきたいなと思います。