松嶋、『トゥーランドット』で有終の美を飾る。中塩、永井もFSに登場

フィギュアスケート

  シーズンの集大成となる、国民体育大会(国体)成年女子フリースケーティング(FS)が行われ、松嶋那奈(スポ4=東京・駒場学園)、中塩美悠(人通3=広島・ノートルダム清心)、永井優香(社1=東京・駒場学園)が出場した。今大会が現役生活最後の試合となった松嶋は7位入賞。団体でも鈴木美桜(慶大)とともに神奈川県は7位となり、長年早大をけん引してきたエースが有終の美を飾る。また中塩は個人12位、永井は個人13位で今季最終戦を終えた。

★14年のスケート人生に幕。胸を張って次のステージへ

納得のいく舞を披露し、笑顔でスケート人生を締めくくった

 また一人、強く、美しきスケーターが氷に別れを告げた。国体で引退を迎える選手は多いが、全員がこの舞台に立てるわけではない。神奈川県を背負って、しかも一番の親友であり戦友の鈴木美桜(慶大)と共に臨む今大会は、松嶋にとってこれ以上ないラストステージだった。

 まずは、「絶対に跳ぶ」と意気込んだトリプルトーループ―トリプルトーループ。完璧に決め、出来栄え点1.40点を獲得する。何度も観客を驚かせてきたこの大技も、これで見納めだ。その後も加点のつくコンビネーションジャンプをそろえるなど持ち味を発揮し、ジャンプのミスを最小限にとどめる。それ以外の要素も柔らかく、丁寧に舞い、そして笑顔を絶やさなかった。特別で濃密な『トゥーランドット』が完結。氷上では大きく見えるその体を、割れんばかりの拍手が包み込んだ。「恩返しはきょうで最後だったんですけど、最後にいい演技を見せられてよかったです。本当にありがとうございました」。スケート靴を脱いだ松嶋は、ファンへの感謝の言葉で現役生活を締めくくった。氷上に咲く花は枯れない。多くの人に笑顔を与えてきた松嶋の人生は、これからも強く、美しく咲き誇る。

(記事 川浪康太郎、写真 糸賀日向子)

★信念貫き、迎えた『ラプソディー・イン・ブルー』の集大成

2年かけて磨き上げたプログラムを披露した

 「素の自分を出して、人間味のあるいろんな感情を持った女の子を演じてみようと思いました」。2年次のシーズン開幕直前、『ラプソディー・イン・ブルー』を演じる心境を中塩はこう語った。2季連続で滑ってきたプログラムを披露するのもこれで最後。ケガの影響もありジャンプの構成を下げ、表現面にこだわった。3回転の予定が2回転になるミスがいくつか見られたが、今できる範囲で、転倒なく全てのジャンプを跳び切る。ステップシークエンスでは一つ一つの振り付けを中塩らしく、楽しく踊り、ラストの演技をかみしめた。個人順位を落とし、2年連続の団体入賞はならず。それでも、戦い抜いた中塩はすっきりとした表情で今季を振り返った。「できない、と焦っているのもそのままの私だし、楽しく滑っている時もそのままの私」。FSの演技を終えた時、心から笑うこともあれば悔し涙を流すこともあった。だが、いつどんな時でも、氷上にいるのは演じた誰かではなく『素の自分』だった。来季はラストイヤー。最後は心から笑って、スケート人生のフィナーレを迎えてほしい。

(記事 川浪康太郎、写真 糸賀日向子)

★今季最終戦は悔しい結果に

SP,FSともに実力を出すことはなかった

 現役生活最後の演技を披露した松嶋からリンク上で声をかけられると、次に出番を迎える永井が頷く。そしてともに戦う東京チームから声援を受け永井は『オペラ座の怪人』を滑った。だが、冒頭のルッツ、アクセルートーループが1回転になる。三連続ジャンプでは0.70点の出来栄え点を得たが、その後も本来の高さと幅のあるダイナミックなジャンプはなりを潜めた。一方スピンは丁寧かつきれいな動きで全てレベル4を獲得。ステップでも一年間積み重ねてきた舞を見せるも、FSは10位、全体でも13位という結果に終わった。試合後は「自分の気持ちの弱さが出た試合になってしまった」と振り返り、シーズンを納得のいく演技で締めくくることはできなかった。しかし、今季は波のある調子と向き合いながら東日本選手権優勝や、日本学生氷上競技選手権SPでのノーミスの演技など何度も素晴らしい瞬間を見せてくれた。来季も持ち前の可憐な演技で多くの人々を魅了するだろう。

(記事、写真 糸賀日向子)

結果

▽成年女子

松嶋那奈 8位 137.34点(FS 7位 96.33点)

中塩美悠 12位 133.63点(FS 14位 85.43点)

永井優香 13位 131.43点(FS 9位 89.19点)

コメント

松嶋那奈(スポ4=東京・駒場学園)※囲み取材から抜粋

――最後の大会を終えて、率直な感想は

ループは跳びたかったなという気持ちはあったんですけど、最後まで思い切り自分の今できることはできたので、よかったです。

――トリプルトーループ―トリプルトーループは見事に成功しました

最後なので絶対に跳ぶという気持ちで跳んで、ショートで跳べなくて悔しかったので、フリーだけでも私の3-3を見ていただければなという思いでした。

――ジャンプ以外の面はいかがでしたか

今回は結構体が動かせたのと、楽しく滑ることができました。

――最後の年に『トゥーランドット』を選んで、1年間滑ってみていかがでしたか

『トゥーランドット』と言えば荒川(静香)さんというイメージがあるんですけど、それを忘れられるような演技ができたらいいなと思っていました。私もすごく好きな曲だったので、使えてよかったです。

――国民体育大会は特にフリーに強いイメージがありましたが、そのあたりの意識はありましたか

ショートでいつも失敗していて、フリーで挽回というところがあったんですけど、ショートもうまくいかないとやっぱり上にはいけなくて。でも、できることはできたのでよかったです。

――最後の大会で鈴木美桜選手(慶大)と共に出場できたことについてはどう感じていますか

二人で出ることが一番の目標だったので、それが現実となってうれしいです。

――ラストイヤーを振り返って

泣いたり笑ったりというシーズンだったんですけど、悔いなく終われたので、伸び伸びと引退できるかなというシーズンになりました。

――佐藤信夫コーチもご覧になっていましたが

信夫先生が見に来てくれて、ショートはよくなかったんですけど、それを挽回できるような演技ができたので、信夫先生に少しは恩返しできたかなと思います。

――引退後はスケートには関わらないのですか

ジャッジとかもあんまりやりたいとは思っていなくて(笑)、観に来るくらいですかね。新しい人生も試してみたいなという思いがあるので、これを機に引退してスケートを離れようかなと思っています。

――最後に、ファンの方にメッセージをお願いします

そんなに有名な選手でもないのにすごく応援してくださったりして、プレゼントとかお手紙もたくさんいただいたので、本当に心強いというのと、感謝の言葉しか出てこないです。恩返しはきょうで最後だったんですけど、最後にいい演技を見せられてよかったです。本当にありがとうございました。

中塩美悠(人通3=広島・ノートルダム清心)

――今季最後の大会を終えて、感想はいかがですか

やっと終わったって感じです。

――フリーはジャンプの構成を少し変えたようですが

3-3をバラして、ループを抜かそうということになって、フリップはトリプルでやるつもりだったんですけど、結果的にダブルトーループを3回跳んじゃったので、またキックアウトになっちゃいました。

――ジャンプ以外の部分はいかがでしたか

今回は滑り込めていなかったのでステップが飛んだりしてしまうのは仕方ないかなと思っていたんですけど、『ラプソディー・イン・ブルー』が最後になるので、これで終わるのは寂しいなという感じです。

――以前、『ラプソディー・イン・ブルー』を滑る上で「素の自分を出して普通の女の子を演じたい」とおっしゃっていましたが、それは2年間でどこまでできましたか

調子のいい時も悪い時も、素の自分は出せていたかなと思うんですよね。(佐藤)操先生が「美悠ちゃんらしく」とおっしゃってくれたように、できない、と焦っているのもそのままの私だし、楽しく滑っている時もそのままの私だし、笑顔を絶やさずに滑る曲だったので、どの試合も笑顔では滑れたかなと思います。

――最後の演技でもそれはできましたか

だんだん真っ白になっちゃったんですけど、つらいというよりは、楽しく滑れました。

――ケガの痛みがある中、国民体育大会(国体)は広島県代表として出たいという気持ちが強かったですか

そうですね。国体は正直出たくないと思っていたんですけど、相方がわざわざカナダから帰ってきてくれたし、残りの試合も少ないし、淀(粧也香)先生に「立ってそこそこやって帰ってきてくれればいいから。それだけでいいから。」って言われていたので出ました。出てよかったです。

――全日本選手権の際に、今季は田中刑事選手(倉敷芸術科学大)と共に戦ってきたシーズンだったとおっしゃっていましたが、無事に五輪の代表に選出され世界で活躍している姿は刺激になりますか

刑事くんは、五輪に選ばれる前も後もなにも変わらずに、ただ自分のことを淡々とやって、威張るようなこともせず、ちびっ子に謝りながら滑っています(笑)。上に立つ人はそうであるべきだと、近くで見て学ばせていただきました。

――苦しいことも多いシーズンでしたが、振り返っていかがですか

いい時も悪い時もあって、西(日本選手権)くらいまではすごくよかったんですけど、詰めて練習したり体重が増減したりということがあって…。でも、その中でいろいろ学ぶこともあったので、少し成長できた年かなとは思います。

――ラストイヤーとなる来季へ向けた意気込みをお願いします

最後はスケートを楽しいと思って終わりたいので、いやいや試合に出るのではなくて、感謝の思いを込めて楽しく滑りたいです。どういう風に練習するかはこれから模索していくんですけど、気持ちを切り替えるためにも、来シーズンまでに休んでから調整していきたいです。

永井優香(社1=東京・駒場学園)※囲み取材から抜粋

――きょうの演技を終えていかがでしたか

自分の気持ちの弱さが出た試合になってしまいました。

――SPから気持ちの切り替えはできたのでしょうか

きのうだいぶ落ち込んだのですが、東京のみんなとご飯を食べたり男子のFSを見たりして頑張るという気持ちになれました。でも、また本番の時は緊張してしまって自信のなさが出てしまったなという感じがしています。

――昨季から比べると、今季は波があっても戻ってきたと思うのですが、来季をこんなシーズンにしたいという考えはありますか

今季これで一応最後の試合で、来季何が最初の試合になるか分からないのですが、今季はとりあえずスケートを楽しんでやると思ってやってきました。次のシーズンはスケートが好きだなという気持ちが分かったので、もうちょっと挑戦していけるように練習を一つ一つ大事にやっていきたいなと思っています。

――もう一度ルッツ-トーループもどうですか

曲で跳ぶのとただ練習で跳ぶのとではやっぱり違うと思います。だからまずは練習で確率良く跳べるように。その前にやることは山のようにあると思うのですが、ひとつひとつ自信を持って(やることを)やっていけたらいいなと思います。

――きょうの三連続ジャンプはいかがでしたか

最初に二個失敗していて。そのときは緊張もあって直前に脚がぐらついたりしてしまったんですけど、ぐらぐらしてしまったから力を入れないと、と思っていました。そしたら良い具合に力が入ってくれたので、まあまぐれかなという感じです。