世界トップレベルの選手層を誇る日本フィギュアスケート界の選ばれし30名がそろう氷上の戦い、全日本選手権(全日本)。フリースケーティング(FS)に進むためにはショートプログラム(SP)で上位24名に入らなければならない。中塩美悠(人通2=広島・ノートルダム清心)は15位、松嶋那奈(スポ3=東京・駒場学園)は20位に入り、共にFS進出を決めた。
1つのミスが大きく順位を左右したSP。松嶋は昨季惜しくも出場を逃した全日本にかける思いをノーミスの演技でぶつけてみせた。 鮮やかなブルーの衣装に身を包んだSPの冒頭は、得意ではあるものの東日本選手権(東日本)ではミスの出たトリプルトーループ―トリプルトーループ。高さもあり伸びやかにジャンプを着氷させた勢いのまま、不安であったトリプルループも確実に成功させる。演技後半に入れたダブルアクセルもしっかりと決めた。「ことしはスピンとステップをすごく頑張りました」と言う通り、ステップやスピンでは安定したスケーティングに加えこれまで強化してきた表現面でも観客を魅了。ジャッジに向かっていくスパイラルでは笑顔も見せ、スピード感そのままにレイバックスピンで締めた。今季のSPで予定していたジャンプを全て決めたのはこの日が初めて。会心の演技で全日本に出場した過去2回を上回る51.97点をマークした。
今季初の50点台を大一番でたたき出した松嶋
中塩が、全日本に帰ってきた。昨季は前日の公式練習で故障しまさかの棄権。今季は強化選手を外れ、ブロックから勝ち上がり再び夢舞台への切符をつかんだ。第3グループの第3滑走、落ち着いた表情でリンクに向かう。1年前ここで滑るはずだったSP『ゴファー・マンボ』が、始まった。冒頭のコンビネーションジャンプ、なんとかセカンドをつけ好スタートを切る。残るジャンプも降りると、その後は西日本選手権(西日本)では影を潜めていたキレのあるステップが復活。細かなミスこそあったものの、笑顔でフィニッシュを迎えた。「滑れるだけですごくうれしかったし、感無量でした」。ことし滑ったどの大会よりも大切で特別なリンクを噛みしめた中塩。あす、磨き上げてきた極上の『ラプソディー・イン・ブルー』を完成させ、逆転で目標にしてきた『12位』入りを目指す。
2年ぶりの全日本を楽しんで滑り切った中塩
60点以上が9名。女子はSPからハイレベルな戦いが展開された。そんな中、大観衆に包まれた会場をそれぞれの色に染め上げた二人。西日本9位と東日本5位、ここまでの道のりは平たんではなかったが、大一番で底力を発揮した。「目標はノーミス」(中塩)、「全力で楽しんで滑る」(松嶋)。ことし積み上げてきた全てを出し切り、最高のクリスマスを迎えたい。
(記事 石黒歌奈恵、川浪康太郎、写真 藤岡小雪、糸賀日向子)
結果
▽女子SP
中塩美悠 15位 54.99点
松嶋那奈 20位 51.97点
コメント
松嶋那奈(スポ3=東京・駒場学園)
――きょうの演技を振り返っていかがでしたか
練習をしてきた中でノーミスが1回しかできていなくてすごく不安要素はありました。でも、きょうはすごく落ち着けていてよかったかなと思います。
――特に自分のなかでこれはできたぞという要素はどれでしょうか
得意である冒頭の3回転―3回転(の連続ジャンプ)が一番落ち着けていたかなと思います。
――試合まで重点的に練習してきたのはどの部分でしょうか
ジャンプはもちろんなのですが、ことしはスピンとステップをすごく頑張りました。普段レイバック(スピン)とか腰を反るのが嫌で、練習は曲かけのみにしていました。でもスピードが上がらなかったりしていたので、今回重点的に練習したかなと思います。
――6分間練習の感触はいかがでしたか
ループはちょっと不安がありました。アクセルもきょうの練習で全然うまくいかなかったのですがわりと感触はつかめていました。だからあとはやるだけだという気持ちだったので、6分間(練習)は落ち着いてできていたのかなと思います。
――コーチとはどのようなお話をされましたか
今まで練習してきたから落ち着いて、自信を持ってやれということを何度も言われました。きょうも最後にその言葉をいただいて落ち着いて滑ることができました。
――滑走順はいかがでしたか
グループの1番目が普段は多いのですが、今回(グループの)2番目ということでちょっと休憩を挟むことができました。そこで一旦6分間(練習)のことは忘れて、今まで練習してきたことをやろうと思うことができたので、よかったかなと思います。
――表現面を振り返っていかがでしたか
今までよりは笑顔で滑ることができました。指先なども意識できるようになったと思います。
――ループはいかがでしたか
普段練習で1回も入らないということが多くてよくパンクもしていました。でもきのうの練習ではすごくうまくいって、きょうの朝は両足着氷になってしまったのですが、公式もいい感じでした。だから練習では跳ぶことができているので自信を持って挑もうという気持ちでした。
――最後にあしたの意気込みをお願いします
行くことができたら、全力で楽しんで滑ることができたらいいなと思います。
中塩美悠(人通2=広島・ノートルダム清心)
――ショートプログラムを終えた率直な気持ちをお聞かせください
昨年出られなくて悔しかったので、ショートを滑れるだけですごくうれしかったし、感無量でした。
――ここまでの道のりを振り返っていただいてよろしいですか
昨年の全日本(選手権)からサマーカップまで徐々に調子が上がってきて、練習も上手くいったので、すごく良いコンデションで全日本を迎えられたと思います。
――きょうの演技はいかがでしたか
最初のトリプルトーループ―トリプルトーループの1本目のトーループがきょう史上最低のトーループで(笑)、かなり焦りました。でもせっかくの全日本の舞台だから後ろに付けないといけないと思い、無理矢理付けました。フリップも練習ではすごくよかったのですが、本番ではどうにか降りられたという風になってしまったので、ジャンプに関してはとても悔しいです。スピンも間違えてしまって(笑)、コンビネーションスピンでフライングキャメルスピンのようなことをしてしまいました。そこからすごく焦っていたのですが、ステップは楽しんで滑れたのでよかったです。
――緊張はありましたか
今まで出てきた全日本の中で一番落ち着いていたかなと思うのですが、それは自分を騙していただけで本当は緊張していたのだと思います。
――公式練習などでフリップジャンプを気をつけて跳んでいるように見えたのですが、意識しているところはありますか
コーチを変えてからジャンプの跳び方も変えました。トーループなどは今までと同じ感覚で跳べるのですが、フリップやループは感覚が自分の中で変わったので、そこを気をつけて練習していました。
――きょう決められて自信にはなりましたか
きょうはグシャッとなってしまったので…。ただワルシャワ(カップ)などで自信は大分ついてきました。
――フリーに向けて一言お願いします
全日本に帰ってこられてとてもうれしいです。目標はノーミスなので、落ち着いて焦らないで自分の演技ができたら良いかなと思います。