27年の歴史に幕を閉じる盛岡市アイスアリーナで行われた最後の大会。早大が誇る二人の女神が、記念すべき舞台を彩った。第71回国民体育大会冬季大会成年女子の部は、本郷理華(中京大)や村上佳菜子(中京大)らトップスケーターも参戦しハイレベルな争いに。そんな中、神奈川県代表の松嶋那奈(スポ2=東京・駒場学園)が個人8位、広島県代表の中塩美悠(人通1=広島・ノートルダム清心)が個人4位と躍動。また松嶋は団体での2位入賞にも貢献し、共に会心の演技で今季の戦いを終えた。
ショートプログラム(SP)では2つの転倒が響き16位スタートとなった松嶋。今季は全日本選手権出場(全日本)を逃すと、日本学生氷上競技選手権も11位と不本意な結果に。このままでは終われない。翌日のフリーでは、硬い表情でリンクへ向かう松嶋の姿があった。冒頭のコンビネーションジャンプはステップアウト、2つ目のトリプルループは転倒。だが、「何個転んでもいいから思い切って飛んできなさい」というコーチの言葉が不安を自信に変える。続くダブルアクセルを決めると、ここから松嶋にしかできない珠玉の演技が始まった。この1年で磨き上げたステップと終盤の3連続ジャンプで、会場のボルテージは最高潮へ。映し出された数字は、今季のフリーでは自己最高得点の87.97点。本当の笑顔を、取り戻した瞬間であった。「全日本に出場したい」。シンプルながらも力強くそう口にした早大の大黒柱は、とどまることなく前へ進む。もう一度、日本最高峰の舞台で滑るため。
今季集大成の演技で追い上げを見せた、松嶋
無念の全日本棄権から約一ヶ月。中塩の復帰戦は、あまりにも早く訪れた。腰の痛みが残る中、SP直前の6分間練習では思うようなジャンプを飛ぶことができない。それでも、いざその名をコールされると、一抹の不安も感じさせない明るい表情でリンクの中央へ向かった。高らかに響き渡る『ゴファー・マンボ』。序盤、高さのあるトリプルトーループのコンビネーションジャンプを降り立つと、静寂に包まれていた会場の空気が一変する。弾けるようなステップで大観衆を引き込み、残るジャンプも見事に決めてみせた。圧巻の2分50秒を終え、自然と沸き起こるスタンディングオベーション。中塩美悠が、帰ってきた。フリーは完璧な出来とはいかなかったものの、終盤に見せたジャンプのリカバリーや美しいコレオシークエンスでまとめ、合計157.07点でフィニッシュ。復帰初戦で本郷、村上、今井遥(新潟県スケート連盟)に次ぐ4位は文句なしの結果と言えるだろう。「悔しい気持ちが強かったから一ヶ月でここまで来られたのかな。」一度はスケート人生の進退を迷い、全日本では苦渋の決断を下した。だからこそ見えてきた、新たな道。その道を突き進む『覚悟』を、中塩は氷上で誓った。
ワセダを胸に再スタートを切った、中塩
激動のシーズンを最高の笑顔で締めくくった二人。それでも残った悔しさが、早大日本一の原動力となることを願ってやまない。来季は揃って全日本へ。そして、名門復権へ。始まりの鐘は鳴らされた。
(記事、写真 川浪康太郎)
神奈川県団体2位入賞を笑顔で飾った、松嶋
結果
▽成年女子
中塩美悠 4位(157.07点)
松嶋那奈 8位(127.14点)
コメント
松嶋那奈(スポ2=東京・駒場学園)
――日本学生氷上選手権(インカレ)後、どんな調整をしてきましたか
インカレで悔しい思いをしたので練習してきたのですが、きょうはうまくいかなくて悔しいです。
――ジャンプでは転倒が2つありましたが振り返って
アクセルは自信があって練習でも失敗がなく、トーループも調子が良かったのですが、きょうはタイミングが合わなかったです。それでサルコーにコンビネーションをつけなくてはと思うと焦ってしまって、もっと集中しなければなと思います。
――ステップではいつも通りの笑顔が見られましたが
ジャンプで2つ転倒があったので、スピンは丁寧にしてステップも少しでも加点がもらえるように滑りました。
――国体の独特な雰囲気は感じましたか
国体はチームプレーとかもあって楽しく滑れるので、仲間が応援してくれて安心して滑れます。
――あすのフリーに向けて意気込みをお願いします
きょう悔しい思いをして挽回はしたいのですが、欲が出すぎると裏目に出ると思うので落ち着いて気持ちを切り替えてあしたに挑みたいなと思います。
――きのうのSPから気持ちを切り替えることはできましたか
公式練習もあまりよくなくて落ち込んでいたのですが、先生や周りのチームから思い切って集中して滑ってきなと言われて、緊張はしましたが自分に勝つことはできたかなと思います。
――序盤の転倒のあと、どのように気持ちを切り替えましたか
ループは練習でもあまり決まらないのですが、いつもよりは回せたというのもあって先生にも何個転んでもいいから思い切って飛んできなさいと言われたので、あとは集中力を保ったままジャンプ一つ一つを丁寧に飛ぼうと気持ちを変えていきました。
――表現面はいかがでしたか
最初の方は表情が硬かったかなと思うのですが、後半になって気持ちも落ち着いてきて、笑顔で最後まで滑ることができたと思います。
――インカレのフリーと比較していかがでしたか
インカレはあまりよくなくて猛練習したのですが、練習してきた成果を発揮できたという面ではすごくよかったと思います。
――今大会でシーズンを終えましたが、今季の振り返りをお願いします
調子が悪い時もそれなりの演技はできていたし、あとは経験というのもあったので自信を持ってやるしかないと思って、きのうも含めてなのですが集中はできたかなと思います。
――今季を通して、良かった点と課題は
良かった点は昨年に比べて表現力が上がって笑顔で滑ることができたということなのですが、課題としてはやはりジャンプにミスが多いので次のシーズンに向けて失敗しないような練習をしていきたいと思います。
――最後に、来季への意気込みを聞かせてください
来季は全日本に出場したいというのと、インカレもメンバー3人揃うか分かりませんが団体でも個人でも入賞できたらいいなと思います。
中塩美悠(人通1=広島・ノートルダム清心)
――ケガの状態はいかがですか
ケガ自体はだいぶ良くなりました。練習を始めた時は腰が痛くてそこをかばってしまい思うように練習できませんでしたが、いまはかばいながらも頑張ってやっています。
――今大会はどんな思いで臨みましたか
練習を始めたのも1月の2週目くらいで、休みすぎて全然飛べなくて出たくないなという気持ちもありましたが、国体は2人で出る競技で広島は補欠がいなくて私が出ないと相方も出られないので。復帰戦だから気楽にいこうと思って臨みました。
――高得点が出ましたが、率直な感想は
実はずっと違う構成で練習していたのですが、コーチがインターハイに行っていて、いない時に自分で元の構成に戻して練習していました。最初の予定ではもっと下のレベルの構成でやっていたので高い点が出たのはよかったです。
――ジャンプは完璧に見えましたが、振り返って
ここの氷が飛びやすくてポンっと上がったので、綺麗なジャンプが飛べたと思います。
――特に最初のコンビネーションジャンプが決まった時はどんな気持ちでしたか
なかなか決まらなくてすごく不安だったので、この調子で2本目も飛ぼうと思ってできました。
――ジャンプ以外の要素はいかがでしたか
片足に体重をかけるのが痛くて、スピンをずっと練習していなかったので、スピンで取りこぼしているかもしれないのですが、できることはやったかなと思います
――あすのフリーに向けた意気込みを聞かせてください
今季のフリーは振り返ってみてあまり良くないので、最後くらいは綺麗にまとめられたらいいなと思います。
――今大会を振り返って
復帰戦だったのでどこまでできるか挑戦という感じだったので、悪いところもたくさんあったのですが、いまの状態ではよかったかなと思います。
――フリーでは、ジャンプの出来はいかがでしたか
公式練習の時からすごく悪くて心配だったのですが、いまできることはできたかなと思います。
――今大会では2日間を通して笑顔が目立ちました
相方がすごく良い子で、楽しく滑ったらいいよと言われていたので、楽しく滑ろうと思ってそれだけ考えていたら自然にそうなりました。
――今井遥選手や本郷理華選手の演技もご覧になっていましたが、どのように映りましたか
理華ちゃんは同い年ですが先輩のスケーターは表現力もすごいしジャンプも安定しているので、同じグランプリシリーズに出させてもらった身としてはすごく恥ずかしいなと思いました。
――ケガから約1ヶ月でここまで戻すことができたのは大きいのではないでしょうか
逆に言えば、直前のアクシデントだったので仕方ないのですが全日本には出たかったし、その悔しい気持ちが強かったから1ヶ月でここまで来られたのかなと思います。
――今季はグランプリシリーズ出場やケガなど様々なことがありましたが、振り返ってみていかがですか
今季は海外で練習したり衣装を自分で決めてみたりいろんなことに挑戦させてもらって、大学生にもなって環境も変わったのですが、序盤で頑張りすぎたかなと思います。
――新プログラムの構想はありますか
まだ分からないのですが、SPはそのまま続けようと思っています。
――今大会は広島県代表としての出場でしたが、今後早大の一員として戦う上で意識することはありますか
今季も出る予定だったのですが出られなくて、ワセダも初めて3人揃ったと部長さんに喜んでいただいたのに申し訳ないなと思っています。
――最後に、来季への意気込みを聞かせてください
スケートアメリカが終わってスケートを続けるか本気で迷って、スケートを続けると決めたので、続けるからには悔いの残らないように来季は1試合1試合大切に滑りたいと思います。