【連載】『令和4年度卒業記念特集』第53回 谷健太朗/水球男子

水球男子

主将であり守護神

 4年間、早大水球部の守護神としてチームを守り続けてきた。そしてこの1年間は、さらに主将として、チームを包み、変革をもたらしてきた。これが、1年時からレギュラーメンバーとして試合に出場し続け、様々な状況を経験してきた谷健太朗主将(スポ4=東京・明大中野)の姿である。

 昨年度の日本学生選手権(インカレ)。メダル獲得という目標を引っさげて挑んだその初戦、相手は学生リーグで1つ下の階級に位置する格下だった。圧勝で結んでもおかしくないこの試合で、早大は序盤からペースをつかめない。勢いが加わることはなく、結果は敗北。まさかの初戦敗退だった。ここまでのリーグ戦の内容などから、この先に控える日本選手権には参加できない。つまり敗退は、その日での引退を意味した。泣き崩れる選手と唖然とする選手。試合後の混沌した状況の中で谷は、「負けて悔しいという気持ちもあるのですが、それ以上に4年間真摯に水球に向き合ってきた自覚があるので、やりきれたなという達成感が大きいです。」真っすぐな目でこう語った。これまでも様々なチーム状況を味わってきた、谷らしい貫禄だった。

 水球と出会ったのは中学1年生の時。水球の名門、明大中野で中高と鍛錬を積み、早大の門を叩いた。整った競技環境や進路選択の幅の広さなどにひかれたという。入部後は、ルーキーながらメインキーパーとして活躍。この年には世界ジュニア選手権の代表にも選ばれた。4年間全体を振り返る際も、「海外でプレーさせていただけたことは特に自信にもつながりましたし、良い経験になったと思います」と話したほど、以降の糧になった。

 今年の早慶戦で試合前練習を行う谷

 谷が4年間で最も印象的な試合だったと振り返るのは、2020年シーズンのインカレだ。コロナ禍で思うような練習ができない日々を乗り越えて、早大はメダル獲得という大きな結果にたどり着いた。この年はさらに、日本選手権4位にも輝いた。高校時代から目標としていた舞台。水球人生で一番良いシーズンだったと振り返る。そして今年、主将として迎えた1年間は、厳しい戦いを強いられることも多かった。「結果を追い求めることが体育会であり、そこを達成することができなかった。」スーパーセーブを数々繰り出し、幾度となくチームを救ってきた名キーパーでも、自分が守り切れなかったシーンを悔やむことが多くあった。だが、谷が残した功績はプレーだけにはとどまらない。

 今季、監督や多くの選手が口にしていたのが、チーム体制の変化だ。谷は、学年やプレーレベルを問わず、フラットな意見を言い合える環境を作り上げてきた。ミーティング回数の増加や、下級生による練習メニューの考案など、具体的な施策をもって、選手一人一人にさらなる主体性を求めた。この一歩は、来年以降も受け継がれ、今後のチームを高みへと押し上げていくことだろう。

 関東学生リーグ戦専大戦でボールを投げる谷

 選手生活にはここで終止符を打ち、春からはシステムエンジニアとして就職する。「全くの後悔はありません。」早大水球部に入部したことを、谷は今こう振り返る。ひたむきな努力と、温かい情熱。チームがより強くなることを願って多くのものを残し、次のステップへと「飛翔」していく。

 

(記事・写真 中村凜々子)