【連載】秋季早慶戦直前特集『結実』【第9回】松木大芽

野球

 昨季は打率1割台と、悔しい思いをした松木大芽(スポ4=石川・金沢泉丘)。しかし、ラストシーズンとなる今季は途中からスタメン入りすると、ここまで既定打席未到達ではあるが打率4割6分7厘、守備でも安定感を見せるなど神宮で躍動している。「普通の進学校」から早大のレギュラーまで上り詰めた松木は、ここまでどのような野球人生を歩んできたのか。そして、その野球人生の集大成となる早慶戦への意気込みを伺った。

※この取材は10月26日に行われたものです。

「早慶戦には全打席自分の思うようなスイングができるように意識してやっていきたい」

ここまで良い打撃を見せている松木

――ここまで打率4割6分7厘の活躍をされています。今季を振り返っていかがですか

 個人的には一応結果は出ていますが、もっと大事な場面での一本を出していかないと慶応には勝てないと思っているので、そういった部分ではまだ満足はしていないです。

――守備でも安定感があり、盗塁も決められていますが、体はよく動けていますか

 そうですね。

――構えでバットを立てるようになりましたが、どういった意図がありましたか

 自分は構えるときに背中が丸くなって、ボールが長くしっかり見れていないという感じがしていたので、背中を立ててという意識の中でバットも立てた方がボールも見やすいと思い、今の構えになりました。

――いつごろ変更されましたか

 結構最近で、リーグ戦の直前くらいですかね。

――昨季はリーグ戦の打席を多く経験しました。その経験はどのように生きていますか

 リーグ戦の雰囲気や六大学の投手のレベルを春に経験できたので、それをイメージしながら日ごろの練習をやってこれたのが秋につながっていると思います。

――春の早慶戦前の対談で「神宮では思うようにバットが振れていない」とおっしゃっていましたが、今季はその点はご自身が思っているスイングはできていますか

 できている打席とできていない打席があって、できている打席は結果が出てるし、できていないときは駄目だしという感じなので、早慶戦には全打席自分の思うようなスイングができるように意識してやっていきたいと思います。

――春よりは自分の思っているスイングができている打席が増えたという感じですか

 そうですね。

――小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)が夏の期間について、一番よく練習していたのは松木選手ということをおっしゃっていましたが、期間にはどのような練習を重点的に行なってきましたか

 午前中は指名制で特打特守の練習をしていて、バッティングに入っていないときはバッティング練習の打球を取る練習をしたり、昼休憩で時間があるときにバッティングをしたりという感じです。特別なことはしていないです。

――攻撃の流れを作るバッティングが多いように感じますが、打席内ではどのようなことを意識していますか

 どの打席も意識はそんなに変わっているわけではなくて、やっぱり自分は4年生で引退するので、これが本当に最後の打席かもしれないというのは常に考えながら打席に立って、悔いは絶対に残さないようにというのは意識しています。

――立大2回戦ではセーフティバントを決めていました。そういった練習もしていましたか

 セーフティはそんなに練習はしていないですが、バントの練習は特にリーグ戦始まってからは自主練習でバント、バスターの練習はよくしています。

――東大2回戦からは打順が2番になりました。ご自身ではどういった2番を目指していますか

 2番はチャンスで回ってきたり、チャンスメイクもしたり、チャンスを広げたりなど、他の打順に比べたらいろいろなところで回ってくる打順だと思うので、状況に応じたバッティングというか、最低限やらなければいけないことはやれるような準備をして、他の打順を打つよりもより準備して挑まなければいけないと思っています。

――今季チーム初盗塁を決めましたが走塁面はどうでしょうか

 積極的な走塁は常に意識しています。常に一つ先、二つ先の塁を狙っていくというのは意識してやっています。

「すごい厳しい環境ではあったがなんとかやってこれた」

好守も見せ、守備面でもチームに貢献している松木

――続いて、今季のチームの話に移ります。春は5位と苦しい戦いでしたが、秋はここまで6勝2敗勝ち点3で優勝の可能性を残しています。このチームの成績についてどのように考えていますか

 法政に勝っていい勢いが付いたのですが、明治に2連敗してしまって、その時は苦しくて「大丈夫かな」という雰囲気はありましたが、切り替えて東大、立教で4連勝できたので、完璧に満足しているわけではないですが、まだ粘れているので春よりは成長できているのかなと思います。

――その粘りの要因はなんだと思いますか

 4年生が最後のシーズンということもあって、メンバーの4年生はもちろんそうですが、メンバー外の4年生もメンバーに入りたいとかそういう思いをより自分たちは強く感じて、練習したり試合に臨んだりしているというのが粘り強さの要因かなと思います。

――夏の期間を経てチームとしてどのような成長をしたと感じていますか

 春はみんな個人個人の結果という感じだったと思うのですが、新潟にキャンプ行ったりとか普段の練習とかからみんなチームのためにというふうになっていて、特に下級生は「4年生のため」にという思いを持ってやってくれていると感じます。『ワンフォーオール』というようにできているのが成長した部分かなと思います。

――明大戦での連敗があった中でその雰囲気を引きずらずに、その後の試合では4連勝で勝ち点を二つ獲得しました。どのように切り替えをしていきましたか

 明治に負けてもまだ優勝の可能性が消えたわけではなかったので、負けた後のミーティングで冨永(直宏新人監督、文4=東京・国学院久我山)と中川(卓也主将、スポ4=大阪桐蔭)中心に「前を向いてあと全部勝しかないから前だけ向いてやっていこう」みたいな話になって、ここまでやってきました。

――中軸を打つ中川選手と蛭間拓哉副将(スポ4=埼玉・浦和学院)が現在苦しんでいますが、そこはどのように感じていますか

 2人ともドラフトもあって、ずっとチームの中心として引っ張ってきて、重圧とか「自分が打たなきゃ」みたいな思いが誰よりもあったと思います。「あいつらが打たなくても勝てるんだぞ」というのを、特に試合に出ている4年生が少ないので、なんとか自分がカバーできるようにと思ってやっています。

――チームとしての課題はありますか

 ずっと課題ではありますが、勝負どころでの一本を出せるか出せないかかなと思います。

――その課題を克服するためにどのような練習に取り組んでいますか

 常にバッティング練習の1球を無駄にしないように、というの学生コーチの冨永を中心に厳しくいってやっています。

――松木選手は大学で野球人生に終止符を打つということですが、ここまでの野球人生を振り返っていかがですか

 大学に入っていきなりレベルの高い環境で野球をすることができて、自分の中ではいい野球人生だったなと思います。

――野球はいつ始めましたか

 チームに入ったのは小学校3年生です。

――どういった経緯で野球は始めましたか

 もともと父が野球が好きで、小さい頃からキャッチボールとかはしていて、その流れで小学校の軟式の野球チームに入りました。

――高校は石川県トップの進学校である金沢泉丘高校に進学されましたが、文武両道というのはずっと意識していましたか

 文武両道を意識していたかと言われるとそんなに意識していないのですが、ずっと野球が好きで、中学校時代はそれなりに頭も良かったのでとりあえず進学校に行こうということで、金沢泉丘高校は野球の実力も石川県内ではそこそこだったので行こうと思いました。高校時代は勉強というよりずっと野球をしていて、野球が終わってから勉強したという感じで文武両道ではないですね(笑)。

――早大を目指したきっかけはありますか

 高校野球をしているときは大学で野球やろうとはあんまり考えていなかったのですが、(高校3年では)自分たちは1回戦で負けてしまって不完全燃焼というかもっと強い環境でやりたいなと思ったのがきっかけでした。そこからいろいろ大学のチームを探した時に、六大学がいいなとなり、特に早慶戦がテレビでやっているのもあって早稲田にしようと思いました。また、たまたまその時に早稲田の練習会みたいなものがあって、それに行ったのが早稲田にした結果ですかね。

――早大野球部に入部するにあたって迷いや不安はありましたか

 不安はめっちゃありました。いきなり強豪校の選手たちばっかりの環境に行って、自分は試合に出れるのかとか、上下関係が厳しいというのも聞いていたのでうまくやっていけるかとか、入学前は不安しかなかったです。

――そういった迷いや不安を払拭する出来事はありましたか

 実際に入ってみてすごい厳しい環境ではありましたが、同期や仲良くしてもらった先輩方がいたので、なんとかやってこれたのかなと思います。

「自分にとっては野球人生の集大成」

チームに流れを引き込む打撃ができるか

――BIG6TVの【思い出の試合】で「1年生の時の初めての2軍戦」と書いてありましたが初めて早大野球部のユニフォームに袖を通した時はどのような気持ちでしたか

 率直にうれしかったですね。

――2年の春に初めて神宮でベンチ入りし、試合にも出場されました。どのような気持ちで神宮のグラウンドに立ちましたか

 2年生の春に最後守備で出た試合は緊張しすぎてどんな感じだったかも覚えていないくらいの感じで、それも自分の実力で出たというか、たまたま上級生がケガをして自分がベンチに入って、点差もあったので守備で出れたみたいな感じでした。うれしかったはうれしかったですが、自分の目標はスタメンで出て活躍するということだったので、まだまだここからだなみたいな感じでした。

――3年の夏季オープン戦ではコンスタントに試合に出続け、結果を出していました。その時を振り返っていかがですか

 あの時もたまたまスタメンで出るチャンスが回ってきて、そこで結果を出すことができて、その後もちょくちょく結果を出してずっとスタメンで出れましたが、最後結局リーグ戦出れてないのでまだまだ努力が足りないなという思いでした。

――今年の春にはリーグ戦で初めてスタメン出場しましたが、その時はどのような気持ちでしたか

 スタメンになったときは「やってやるぞ」という思いが強かったですが、なかなか結果が出なくて、すごく悔しくて情けない思いでした。

――松木選手について、「練習」という言葉をよく耳にします。ご自身で練習に関しての自信でしたり意識している部分はありますか

 練習をするのはやっぱり試合で不安にならないためとか、これだけやってきたんだという自信をつけるためだと思うので、自然と結果出したいと思うと練習するしかないかなと思います。あとは、神宮で活躍してみんなで日本一になるために練習しています。

――在学中に最もきつかったのはどんな時期ですか

 体的にも精神的にも1年生の最初が一番きつかったですかね。朝早く起きて練習の準備して、練習中もずっと補助して、練習終わったらずっと走ってみたいな、今までそんな強豪校で野球をやったことがなくてそういうのが初めてだったので、すごいきつかったですね。プレーの部分できつかったのは、3年生になった時の秋の一発目のオープン戦で、ベンチには入ったのですが、ほぼみんな出ていたのに自分だけ試合に出れなくて、その試合がすごい悔しくてその時はきつかったですね。

――刺激を受けた同期はいましたか

 中川とかは自分たちが始めて練習に行ったときには試合に出ていたので、すごいなというのはありました。

――同期で同じ外野手の蛭間選手がドラフト1位で指名されました。そのことはどのように感じていますか

 やっぱりすごいなというのは素直な感想ですね。蛭間はすごい練習熱心だし、一番野球がうまいのにみんなに意見を聞いたりとか、どんどんいろんな人にうまくなるために教えを請いに行ったりとか他の選手にないものがあると思うので、ドラフト1位になったのはすごくうれしいし、そのままプロでも活躍してくれたらすごい嬉しいなと思います。

――明大と立大の試合結果によっては早慶戦が優勝決定戦となります。その点についてはどのように感じていますか

 今はもう今週の明治と立教の試合を祈るしかないので何とも言えないのですが、自分たちは早慶戦が優勝決定戦になることを前提にして準備するしかないので、早慶戦だけを考えて準備しています。

――早慶戦を前にしてチームの雰囲気はどうですか

 立教に2連勝してうれしい部分もありましたが、あと2連勝しなきゃ意味ないので、より気を引き締めて練習していこうという感じです。

――今季の慶大はどのような印象ですか

 増居(翔太、4年)選手は後半になるにつれて状態が上がってきていて、打つのがすごく難しそうだなというのはありますし、特に打線は一発のあるバッターが多くて気の抜けない打線だなという印象です。

――松木選手にとって早慶戦はどのような試合ですか

 これまでのリーグ戦ももちろんそうですが、より多くの人が「見に行くから頑張ってね」とか言ってくれる、特に注目されている試合なので、そういう場面で活躍して今まで支えてくれた人たちに恩返しできる一番の舞台だと思います。

――勝利の鍵はどこにあると思いますか

 実力だけで言ったら全然慶応の方が上だと思いますが、早稲田の一球に対する執着心や思いみたいな部分では絶対負けたら駄目だと思うので、精神論はあまり好きではないですが、そういう部分がカギじゃないかなと思います。

――どのようなプレーをしていきたいですか

 普段と変わらず積極的に思い切ったプレーをできるように意識します。

――最後に早慶戦に向けての意気込みをお願いします

 自分にとっては野球人生の集大成で、最後優勝してこの同期とこの後輩たちと一緒に優勝の喜びを味わいたいので、なんとしても2連勝して優勝します。

――ありがとうございました!

(取材・編集 田中駿祐)

◆松木大芽(まつき・たいが)

2000(平12)年10月14日生まれ。171センチ、70キロ。金沢泉丘高出身。スポーツ科学部4年。外野手。右投左打。ここまで打撃好調の松木選手。試合前のルーティンは、風呂でタオルを濡らしてホットアイマスクのようにすること、寝る前にハマっている音楽を聴くことの二つあるそうです。早慶戦でもいつも通り持ち前の思い切りの良さをいかんなく発揮します!