賜杯の可能性が消えた中で迎えた、東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)の明大2回戦。前日と同様に、最終回ビハインドの場面で岩本久重(スポ4=大阪桐蔭)に打席が回った。3ボール1ストライクの5球目。高めの直球を振り抜いた打球は高々と舞い上がり、左翼席に吸い込まれる。これが岩本にとって2試合連続となる本塁打となった。試合には敗れたもののチームに流れを呼び込むーー。まさに意地の一発だった。
岩本にとって昨季は苦渋を飲んだシーズンだった。『4番・捕手』として全試合に出場した春に続き、秋も不動の4番として君臨。目標をベストナインに定め、責務を全うすることを誓った。だが、最終的に打率は1割台に落ち込み、本塁打は0。チームが10季ぶりの優勝を果たした一方で、岩本自身は打撃面で精彩を欠いた。「チャンスで凡退した時や打てない時、責任を感じました」と振り返るように、主軸としての責任を実感した1年となった。新たに副将に就任し、臨んだ冬の練習期間。岩本は毎日欠かすことなくスイングを重ね、よりシンプルに力が伝わる打ち方を追い求めた。すると、リーグ戦前に行われた春のオープン戦・東北福祉大戦ではバックスクリーンへ突き刺さる本塁打を放つ。一冬の間に重点的に打撃を鍛えたことで、復調の兆しを見せた。
明大2回戦で本塁打を放つ岩本
今季はあえて個人の目標を設定せず、岩本はチームの優勝のために尽力することを目標として掲げた。しかし、早大は接戦の中で勝ち星を奪えず、第7週の時点で5位と低迷。昨秋の覇者として苦しい戦いを強いられることとなった。「ここぞの場面での一本や粘りが足りない」。岩本は今季の戦いぶりについてこう口にする。そして、後がなくなった明大1回戦、投手陣は相手打線の猛攻を受け8失点。打線も幸先良く3点を挙げた初回以降、得点を奪えず。5点のビハインドを背負って最終回の攻撃を迎えた。2死を奪われながらも、一塁に走者を置き、打席にはここまで無安打の岩本。このままでは終わらせない。そんな思いを胸に放った打球は、左翼席に突き刺さる本塁打に。岩本にとって2年の秋以来となる一発となった。だが、反撃むなしくチームは敗北を喫し、優勝の可能性は完全消滅。連覇の夢はついえた。
慶大が3季ぶり38回目の優勝を決めた春季リーグ戦。早大は現在5位につけている状況だ。ただ、宿敵との一戦を前に岩本の状態は上向きつつある。また、ここまで放った7安打の中、その内の6本が長打。この結果について、「冬場に取り組んできたことが出せている」と自身としても手応えを感じているという。王座奪還を狙う秋に向け、4番の復活はチームにとって大きな意味を持つ。眠りから目覚めた扇の要は、華の大一番でも意地を見せる。
(記事 足立優大)
◆岩本久重(いわもと・ひさしげ) 1999(平11)年4月21日生まれ。180センチ、90キロ。大阪桐蔭高出身。スポーツ科学部4年。捕手。右投右打。自分に付けたい野球ゲームの特殊能力という問いに『一球入魂』と答えてくれた岩本選手。一球への強い思いを胸に、早慶戦で躍動を果たします!