就任2年目の昨年、早大を10季ぶりの東京六大学リーグ戦(リーグ戦)優勝に導いた小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)。チームで一番ワセダを愛しているという指揮官から見る今年のチームとは。各ポジションの選手たちについてお話を伺った。
※この取材は4月4日に行われたものです。
早川がいた去年とは別のチーム
質問に答える小宮山監督
――リーグ戦開幕まで1週間となりましたが、現在の心境は
「ようやく」という気持ちと、「もう」という気持ちが入り混じった感じですかね。
――今年の春季リーグ戦も昨年の秋に続いて各カード2試合で戦うというかたちになりました
昨年の秋、優勝した要因の一つにこの大会運営方式がありました。しかし条件は他の大学と一緒なので、この運営方式がどうというのはちょっと何とも言えませんが、一つ言えるのは早川(隆久前主将、令3スポ卒=現東北楽天ゴールデンイーグルス)がいなくなったので。その分計算をいろいろしないといけないので、大変と言えば大変ですね。
――昨年の秋季リーグ戦で優勝して、王者として迎えるリーグ戦になると思いますが、気持ちの部分で変わる部分はありますか
これはね、いろんな方から「連覇」と言われるんだけれども、早川がいた去年のチームといないチームでは別のチームなので。もちろん勝ちたいという気持ちで選手もプレーしているので優勝というのが一番いいことなのでしょうけれども、秋に勝ったからというのは別だと思います。新たに他の5大学とこうして戦うということなので、特別意識をしてはいないです。
――昨年の秋を迎えるときと気持ちの部分では似ていると
去年の秋は夏(春季リーグ戦)5試合しかしなかったですけれど、夏を受けての秋なので、ある程度手ごたえを感じ取ってのスタートでした。それで言うとこの春は本当にまっさらな状態で迎えることになります。リーグ戦の経験を積んでいる連中はたくさんいるので、そういう連中がレベルアップをしてくれているだろうということと、あとは新たに早稲田のメンバーとして加わって戦力として働いてもらう選手たちに大いに期待をしている、そういう感じです。
――オープン戦の結果に関しては
可もなく不可もなくという感じです。ただ欲を言えば、もう少し選手個人個人が考えながら、臨機応変に対応するっていうことができたんじゃなかろうかと、そういう感じはします。もちろんね、監督の存在というのも大きいんだろうけど、監督の意図していることを自分たちで考えてできるというのが大人のチームだと思っているので、最終的なゴールはそこですから。高校野球のように監督のサインですべて動くということではなくてね、ある程度の判断を選手たちに委ねる部分も多々あるので、そういうところで最善を見つけてそれぞれが自分の考えをグラウンドで体現してほしいなというふうに思いますね。
――それは攻守両方においてということでしょうか
基本的には攻撃ですね。守りに関しては受身なので。ピッチャーがボールを投げてそのリアクションなので、自分のところに打球が来たらどうしようというのは準備しているのが当たり前の話ですよ。ありとあらゆることを想定して守るというのは大学生レベルだったらできなきゃいけないことですし。一方で攻撃のことに関していうと、バッターとランナーがいて、その2人、3人でどうしていこうかという攻撃を仕掛けるということが、全員の共通理解のもとで動けるようになるのが理想ですから。そうなるように色々なことをそれぞれがインプットしながらということですかね。
――主将副将について、昨年秋の早慶戦が終わった後に丸山選手(壮史主将、スポ4=広島・広陵)と岩本選手(久重副将、スポ4=大阪桐蔭)を呼んで指名したとお伺いしました。どのようなところでその2人を指名したのでしょうか
チームにとって最もいいかたちだという判断をして主将副将を任命したというところです。
――去年との違いは
去年は野手で何人か候補がいたけども頼りなかったので早川にしたと。今回は野手で柱になる選手がいるので、野手にしたという話です。
――今年もスポーツ科学部のアスリート選抜で4名の1年生が入学しました。吉納選手(翼、スポ1=愛知・東邦)は本日のオープン戦(対Honda、●3-4)で1年生として初の出場を果たしましたが、それぞれ印象はいかがでしょうか。
(吉納は)良かったんじゃないですか。今までずっと4人の選手をうまく入れ替えながらベンチに入れて、少しでも早稲田のユニホームを着ながら、早稲田の野球部を実感してもらいたいと思っていました。試合に使うチャンスはあったはあったんだけどあえて使わなかったんですね。というのも3月いっぱいはまだ入学前だということで、入学式を終えてから使うと。今日しかチャンスがなかったので(※1)、吉納を代打にということでまあまさか打つと思ってなかったですから(※2)。早稲田の野球部員として初めて試合に出て、初めて打席に立って、初めてピッチャーのボールを打つというところの気持ちみたいなものを見たいなと思っていたら、やっぱりファーストストライクを思いっきり振っていたのでちょっと期待できるなというのは思いました。が、まさか外野の頭を越すようなあたりを打てるとは思わなかったので。ただ1年生の春からスタメンで抜てきした去年の熊田(任洋、スポ2=愛知・東邦)、その前の中川(卓也、スポ3=大阪桐蔭)のケースとはちょっと違って、ポジションが埋まっているので。しばらくは鍛えながらその時を待つという状況になるのかなという気がしていますが、ただ能力の高さを証明してくれたので、それはもう心強いですね。
※1 スポーツ科学部の入学式は4月1日に行われた。その後のオープン戦は4日のHonda戦のみ
※2 吉納はHonda戦9回二死から代打で出場し、左越え二塁打を放った
――コーチ陣では長年野球部を支えてこられた徳武コーチ(定祐氏、昭36商卒=東京・早実)、佐藤助監督(孝治氏、昭60教卒=東京・早実)が退任されました
まず助監督は、ENEOSからお借りしていたので。3年間の任期が来たということでこちらとしたら続けてもらえるんだったら続けてもらいたいという思いはありましたけれど、会社の人間としてもう3年でいっぱいいっぱいだということで返さなければいけないと。徳武さんに関してはちょっと体調を崩してということがあったので、本人は続けたい思いがあったでしょうけれども、ご家族のほうがもう優勝したし一区切りつけさせてほしいということでしたので。こちらとしてもあれだけのご高齢で本当に無理して来てもらっていたところがあると思うので、ちょっとゆっくり休んでくれと言うことで。本人の思いはまだまだ学生と一緒に技を磨き上げていきたいというのがあったのでしょうけれど、とりあえず休んでというところですね。
「細心の注意を払って」
2日のJFE東日本戦の試合前、シートノックを打つ小宮山監督
――投手陣に関しては、徳山選手(壮磨、スポ4=大阪桐蔭)、西垣選手(雅矢、スポ4=兵庫・報徳学園)が順調そうに見えます。監督からはどう見えていらっしゃいますか
可もなく不可もなく。ただ去年の早川の存在があり、比較されるとどうしてもかわいそうな部分があるのでその辺は差し引いて考えてあげないといけないなという部分はありますけど、十分すぎるくらい先発投手として両投手ともやってくれるはずなので。そのような話はしていますね。
――救援陣では山下選手(拓馬、法4=埼玉・早大本庄)が要となると思いますが、山下選手への信頼度は
一番最後を投げますよ。これはもう最後の1イニングは山下というふうに考えているので。
――そこにつないでいくというところで、リーグ戦登板のない加藤選手(孝太郎、人2=茨城・下妻一)、原選手(功征、スポ3=滋賀・彦根東)、最近では伊藤選手(大征、社2=東京・早実)がオープン戦で多く登板機会を得ています
いま名前の挙がった連中をブルペンに待機させて、何とか山下につないでいくというところです。
――先発投手は何回までというのは
基本的には1人で最後まで。それが野球なので。ただ今回のスケジュールだと2試合、9回打ち切りというところなので、18イニングのピッチャーを用意すればいいと。その18イニングを2日間でどういうふうにすればいいのかというのを考えながら継投していこうとは思ってます。
――他の選手ですと、長くけがで戦列を離れていた飯塚選手(脩人、スポ2=千葉・習志野)、清水大成選手(スポ2=大阪・履正社)が復帰しました。
飯塚はボールに力があるので、うまいこと使えれば使いたいとは思っていますけど、ただ手術明けということで無理はさせられないという状況です。シナリオとしたら秋にしっかりと投げられるようにしたい。夏場のオープン戦である程度準備をさせて、秋デビューというのが理想なんですけど、背に腹は代えられないので。状況によっては飯塚を春に投げさせるというのもありうるかなというところですね。清水大成に関してはボールがイメージ通りになっていないので春は無理をさせずに、夏場鍛えて秋に備えるというかたちを取ろうかなと思っています。
――捕手に関してですが、岩本副将で固定というお話だと思います。副将、4番とプレッシャーもかかると思いますが
まあ去年1年間4番を打っていますので。特別変わったことを要求するわけではなく。学年が1つ上がって最上級生になると今まで見えなかったものが見えてくるので、とにかく扇の要としてゲーム全体をコントロールしてもらう役割をしてもらわなきゃならないので、そういう意味では全幅の信頼を置いています。去年1年間の経験は相当生きてくると思います。
――捕手のベンチ入りは何人を想定されていますか
試合の状況にもよりますね。2人でいくケースもあると思いますし、野手の茅野(真太郎、教2=東京・早実)を入れて、内野のユーティリティー要員として捕手もこなせるということで入れるということも考えられるし。あとは1年生の印出(太一、スポ1=愛知・中京大中京)をベンチに入れてリーグ戦の雰囲気を含めて早めに経験を積ませたいという思いもあります。どういうかたちになるかはその対戦カードごとにシミュレーションをして考えます。
――内野手に関して伺いたいと思います。中川卓也選手はかなり状態がいいように見えます
2年間の経験で、やらなきゃいけないというのは本人もわかっているでしょうし。さらに言えば去年の秋悔しい思いもしているので、その悔しさを糧に一回り大きくなったなという感じがします。今のままの状態を維持してくれればリーグ戦でもいい結果が出るだろうなという感じはしています。
――遊撃は熊田選手が濃厚かと思います。先日熊田選手にお話を聞いた際に打撃も守備も不安だということを話していました
少し不安があるくらいのほうがちょうどいいんじゃない。
――丸山主将は二塁手に戻るというかたちになるかと思います。オープン戦では打撃の状態がなかなかあがってこないという印象です
何の心配もしていません。
――一塁手は生沼選手(弥真人、教2=東京・早実)を使っています
生沼でいくことになると思います。ただ生沼には申し訳ないけど代役なので。多くは望んでいないです。マイナスになるようなことだけはするなという思いで、プラスを期待しているわけではなく、もうイーブンでいい。
――外野手に関しては左翼から野村選手(健太、スポ2=山梨学院)、鈴木萌斗選手(スポ4=栃木・作新学院)、蛭間選手(拓哉、スポ3=埼玉・浦和学院)の3人で固定されていると思います
試合に出て活躍してもらわないといけない3人なので。この3人が思うようにならないということであれば今日の一振りで吉納を使うこともあるかもしれないですが、もう吉納を使わなきゃならなくなったら末期的症状だと思うので。できればこの3人でいきたいなと。野村に関しては終盤守備で足を引っ張る可能性があるので、そこは守備固めを使うというそういう予定でいます。
――スタメンはある程度固定されてきたのかなという印象です。ベンチから途中出場の可能性のある選手には4年生が多いと思いますが、そこに対してはどう見えていらっしゃいますか
結果そのものが出ていればいいけど、そうじゃなかったら(リーグ戦の)途中でもメンバーを入れ替えようとは思っています。勝つための人員にしないといけないので、リーグ戦始まってからでも普段の練習の感じで判断していくかたちです。
――以前、メンバーは固定のほうがいいとおっしゃっていたかと思いますが、そこに対して現状は
固定のほうがいいと言っているのは、固定のメンバーしかラインナップが組めないからです。入れ代わり立ち代わり組めるくらい選手層が厚ければ問題ないんだけど。そうではなくて、レギュラーとして試合に出ている連中がこけたら終わりなので。そうならないようにバックアップを鍛えてはいるけれどもなかなか伸びてこない。さらに言うとベンチ入りを目論むとされる連中とメンバーとの差がこれまた激しいので、このギャップを埋めるのはちょっと無理だろうというふうに思っています。
――けがをしている選手が戻ってくると変わってきますか
もちろん当初予定していたメンバーと多少変更がある、それはもう想定内なので。いなきゃいないで困らないように準備しなくてはいけないというのが監督としての仕事ですから。それで言うと欠いているメンバーはいるけれども何とかなるかなという感じで来ています。
――最後にリーグ戦についてですが、カード順については
どのみち当たる相手なので。ただ序盤に我々と対戦する東大、立教に関しては負けてはいけないでしょうね。4週目からの法政、明治に関しては彼らも試合をこなして対戦するわけですから、その時の星勘定ができれば有利な状況で臨みたいなというふうに思っています。
――東大戦立教戦で4連勝をして、法政明治に有利な状況でぶつかるというのが理想でしょうか
もちろん全部勝ちたいとは思いますけど。勝てなくても、「負けたらもう終わりだ」という状況で法政明治戦を迎えたくない、そういう意味です。
――一番のライバルである慶応は主力が多く残ります。また向こうは去年の秋の悔しさも持っているかと思います
どうでしょうね。本当に悔しく思っているかですよ。卒業していった連中が一番悔しかったはずですから。その悔しさを「頼むぞ」と託された連中なので。その託されたという思いがどの程度強いのかというのが分からないので、あまりそのことについて重たく考えてはいないです。ただ、歴史的なことも含めて事あるごとに早稲田が立ちはだかっているというのは事実なので。そういう時こそ(慶応は)牙をむいてくるわけですから、その相手にやられないようにするために相当頑張らないといけないというのは重々選手たちも承知しているはずなので。なんとか早慶戦をいいかたちで迎えられるようにしたいと思っています。向こうは優勝がかかっていて、こちらはそうではないという状況になると、向こうは優勝がかかった早慶戦だけれどもこちらはただの早慶戦になってしまいますので。そうはならないようにしないといけないなと思いますね。
――1週間後に迫ったリーグ戦について意気込みをお願いいたします
コロナの大変な状況がまさかこの時期まで長引くとは思っていなかったので。すっきりしたかたちでリーグ戦を戦いたいなという思いではいました。ところが意に反して去年の秋よりもひょっとしたらシビアな状況のようにも感じるので、その点は細心の注意を払って毎日生活をして、リーグ戦8週間無事に終えるということがやっぱり一番大きなことだと思います。もちろん優勝して、連覇だということで稲門の関係者が喜んでくれる。これに越したことはありませんけれども、それよりもまずコロナで試合ができないということのないように注意をして、リーグ戦をとにかく無事に終えたいというその一点だけですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 山崎航平、写真 杉﨑智哉)
早大野球部初代監督・飛田穂洲先生の教えである『一球入魂』を胸に、優勝を目指します!
◆小宮山悟(こみやま・さとる)
1965(昭40)年9月15日生まれ。芝浦工大柏高出身。1990(平2)年教育学部卒業。早大野球部第20代監督。