【連載】秋季早慶戦直前特集『全身全霊』第8回 今西拓弥

野球

 1年秋から3年秋に至るまで、毎年安定した登板数を重ねてきた今西拓弥(スポ4=広島・広陵)。しかし、今年の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)ではひじの故障のより登板がなかっただけでなく、ベンチ入りすらままならない状態が続いた。そんな状況下でリハビリを続け、見事に回復。自身最後となる秋季リーグ戦ではここまで2試合に登板し、徐々に状態を挙げつつある。そんな今西のここまでの戦いぶりや早慶戦への思いなどについて伺った。

※この取材は10月29日に行なわれたものです。

「今できることをしっかりと」

笑顔で取材に答える今西

――秋季リーグ開幕からここまでを振り返ってみていかがですか

 春のリーグ戦で投げることができなくて、今は投げられるようにはなったのですが、チームには全く貢献できていないので、本当に申し訳ないという気持ちが大きいです。特にその気持ちが大きかったのが復帰して初めて投げた法大2回戦で、自分が1イニングもたなくて、前日完投している早川(隆久主将、スポ4=千葉・木更津総合)を投げさせてしまって申し訳ないという気持ちがとても大きいです。

――事前アンケートにて法大戦では浮き足立ってしまったと答えてらっしゃいましたが、それはやはり久々のリーグ戦登板だったからというのが大きかったのでしょうか

 あまり言い訳をしてはいけないと思っているのですが、やはり法大戦の時は地に足がついていない状態でマウンドに上がってしまっていたので、そのままあたふたした状態ですぐ降板してしまったという感じでした。

――現在のひじの故障の回復状況はどの程度になりますか

 完治していて、何も問題なく投げることができています。

――ご自身が出場できなかった春季リーグ戦の間のチームの戦いぶりはどのように見ていらっしゃいましたか

 早川を筆頭に、徳山(壮磨、スポ3=大阪桐蔭)や西垣(雅矢、スポ3=兵庫・報徳学園)など安定した投手陣がそろっていたなという印象です。徳山は最優秀防御率も取りましたし。ただ、安定しているからこそという部分も大きいと思うのですが、なかなか代打などのカードを切れずにとるべきところでなかなか点を取れていなかったのかなという印象があります。もし、自分がしっかりと投げれる状態だったら、点を取れそうなところで積極的に代打攻勢を仕掛けることができたのではないかなと思っています。

――リハビリ期間中に支えになったものは何ですか

 やっぱりリーグ戦を共に戦ったメンバーだったり同級生からの励ましの言葉だったりとかがとても大きかったと感じています。

――特に励ましの言葉をかけてくれた方はどなたですか

 自分が登板過多にならないようにしっかりと管理してくれた投手コーチの結城(壮一朗、教4=大阪・早稲田摂陵)の存在が特に大きかったです。

――けがの最中に小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)から何かアドバイスなどはありましたか

 特になかったと思います。普段から監督さんから何か言われるということはあまりないので、その点では自分のことを信じてくれているのかなと解釈しています。

――リーグ戦通して投げることができなかったのが1軍に定着して以来初めてだったと思います。外から見ていて何か感じたことはありましたか

 正直チームの状態よりも1シーズン投げることができなかったというのが一番の心残りです。チームが延長までもつれ込むようないい試合をしているときに、自分もそこに混ざって戦力になりたかったなというのは強く思います。

――外から見ていたことによって、ご自身にとって何かプラスになった部分はありましたか

 やはり投球フォームの見直しはじっくりできたと思っています。今まで以上に自分の投球動画などを見直したりして、手投げになってしまっている部分が大きいと感じたので、下半身を中心とした投球フォームへの変更もできました。下半身強化にも努められたと思います。

――事前アンケートで「腹をくくる」という表現をされていましたが、精神面を見直したことで得られた効果は何かありましたか

 法大戦で浮足立っていたのがすべてだったので、考えれば考えるほど結果は悪い方向に行ってしまうと思いましたし、試合後に監督さんからも腹をくくって投げろと言ってもらったので、今できることをしっかりとやろうと決意してその表現を使いました。

――その結果として、次の東大戦では3回無失点と好投されました

 そうですね。技術的なところは正直なところ東大戦でもあまり戻ってはいなかったのですが、絶対抑えてやるという気持ちを持って、バックを信頼して投げることができたのが良い結果につながったと思います。

――技術的に戻っていなかったというのは具体的にどのような部分ですか

 やはりまっすぐの強さが全然戻っていないですし、コントロールもアバウトなところがあるので、本当にその部分を早慶戦までに修正できるように今は取り組んでいます。

――秋季リーグ戦の2試合を通してカーブを多用しているように見受けられますが、まっすぐの勢いが戻っていないことも関係しているのでしょうか

 そうですね。カーブが今は一番自信をもって投げることができていて、実際にあまり打たれていないので、どんどん使っていこうというのをキャッチャーの岩本(久重、スポ3=大阪桐蔭)と話し合って投げています。

――ここまでは登板機会があまり多いとは言えないと思います。その中で、ベンチやブルペンから何かチームのために意識して行動されていることはありますか

 自分の登板よりもチームが勝てばよいと思うので、試合に出ている選手のバックアップが今の自分にとってできることだと思っています。バッターとして帰ってきた選手に、守備に就く前にグローブや飲み物を渡したりして、少しでも出ている選手が結果を出しやすいような環境つくりを意識しています。

――1年生から主力投手として登板されていて、ベンチで長い時間を過ごすシーズンは今季が初めてだと思います。その中で何か新しい視点は得られましたか

 3年生のころまでは、チームの勝利というよりは、自分の結果だけに一喜一憂しているところがありました。ですが今は自分が投げることができなくても、チームが勝てればよいというチーム優先の考え方ができるようになったと思います。

――入学してから3年生までの間と4年生になってからで何かご自身の中で心境の変化はありますか

 正直自分の結果ばかり追い求めていたところがありました。4年生になって怪我で投げられなかったというのもありますし、去年の秋の早慶戦でチームに迷惑をかけてしまったということもあったので、本当にチームのために何が出来るかを考えるようになりました。

――その変化がご自身にもたらしたものは何ですか

 チームのことを考える上で自分が周りに対して適当になってしまうと、チーム内での自分の意見は全く通らなくなってしまうので、自分の行動を見直して、練習態度などをもう一度確認することができたかなと思います。

「早稲田で培ったことを最大限見せられれば」

東大2回戦で登板した今西

――先日のドラフト会議では残念ながら指名がありませんでした。現在もお気持ちをお聞かせください

 やっぱり悔しかったという気持ちが大きいです。ただ、今季春で1試合も投げられなくて、秋もここまでほとんど結果が残せていないので、こんな結果では仕方がないという気持ちがあります。やりきれなかったというところに悔いは残っています。

――事前アンケートでメッセージを送りたい慶応の選手に植田響介選手(3年)の名前を挙げていらっしゃいました。その理由をお聞かせください。

 慶応の選手の中で唯一の知り合いだからです。自分はあまりオール早慶戦とかに参加していなかったので、慶応の知り合いはあまりいないのですが、植田は数少ないしゃべったことがある選手でした。多分彼はキャッチャーとしての準備もしつつ終盤で右の代打として使われることもあると思うので、そこで対戦する可能性もあると思って名前を挙げました。

――実際に植田選手と対戦することになったらどのような勝負をしたいですか

 やはり真っ向勝負したいです。ただ自分の感情を優先して投げるわけにはいかないので、チームの勝ちに貢献できるように結果にこだわって投げたいと思います。

――早慶戦で早川投手以外で期待している4年生は誰ですか

 僕は吉澤(一翔、スポ4=大阪桐蔭)に注目したいです。あいつも1年春からベンチ入りしながらなかなか結果を残し切れずに悔しい思いをした部分もあると思うので、彼の一本を見たいなという気持ちが強いです。

――後輩で特に期待している選手は誰ですか

 やはり徳山(壮磨、スポ3=大阪桐蔭)西垣雅矢(スポ3=兵庫・報徳学園)の2人はもちろんなのですが、森田(直哉、スポ3=早稲田佐賀)にも頑張ってほしいなと思っています。ベンチ入りしたりしなかったりで調整の面とかで難しいところはあると思うのですが、彼が練習を一生懸命やっている姿を見たりしていますし、彼には期待したいです。

――ご自身にとって「最後の早慶戦」とはどのような位置づけになりますか

 やはり集大成を見せるところだと思っています。去年は早慶戦自体は勝ったのですが優勝することができなくて、代替わりの時に先輩方から「お前たちの代で優勝しろよ」と言ってもらっていました。自分自身も3年の秋で状態が上がらずに結果を残すことができなくて、先輩から「今年こそは頼むぞ」と励ましの言葉ももらいますし、実際にスタンドに足を運んで観戦するよと言ってくださる方々もたくさんいるので、そういった方々に自分が早稲田で培ったことを最大限見せられればなと思っています。

――リーグ優勝のためには、早慶戦を1勝1分以上で乗り切る必要があります。そのうえでもっともカギになる要素は何だとお考えですか

 1戦目は早川が頑張ってくれると思うので、2戦目が特に大事になってくると思います。慶応の投手陣も強力で、なかなか野手陣が点を取るのが難しいと思うので、両試合ともどれだけ投手陣が踏ん張れるかにかかっていると踏んでいます。

――早慶戦で生かしたいご自身の強みを教えて

 自分自身の身長と手足の長さを生かした縦と横の角度を生かして、打者のインコースをどんどんつけるような攻めの投球を見せられればなと思います。

――早慶戦ではどのような役回りを全うしたいですか

 おそらく大観衆が入った早慶戦のマウンドを経験している選手があまり多くはないので、少しでも後輩たちの気を楽にしてあげられるような声かけなんかを意識してやっていきたいと思っています。

――最後に早慶戦の意気込みをお聞かせください

 何が何でも優勝を勝ち取りたいと思いますし、それが一番強いです!

――ありがとうございました!

 

(取材・編集 篠田雄大)

◆今西拓弥(いまにし・たくみ)
1998(平10)年6月22日生まれのo型。200センチ、90キロ。広島・広陵高出身。スポーツ科学部4年。投手。今後は社会人のHondaに進み、プロ野球を目指すという今西投手。早慶戦でも自慢の手足を活かした角度ある投球に期待しましょう!