「主将がやらないと」 チームの大黒柱が見せた責任感/PICKUP選手 早川隆久

野球

 「悔しかったです」。4年前に行われたプロ野球ドラフト会議。高校日本代表で共に戦った戦友が次々と指名されていく。同代表の投手陣でただ一人プロ志望届を提出しなかった早川隆久(現主将、スポ4=千葉・木更津総合)は、進路が決まっていく同期を見て、手放しには喜べなかった。「球がめちゃくちゃ速い訳でも、すごい変化球がある訳でもなかった」。だからこそ、上のステージで戦うための『武器』を身につけるべく早大進学を選んだ。そして――。「スピードもあり、取りたいところで三振が取れるところは武器にしてもいいのかな」。もちろん、すべてが順調だったとは言い難い。不調や故障に苦しんだ時期もあった。それでも、この3年半で早川は確実に大きな武器を得た。

 東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)でもその武器を存分に披露した。初戦の明大戦では、1回にいきなり155キロをマーク。「地面の反発をうまく使う」新フォームで自己最速を4キロ更新すると、その後はエースの独壇場。2回に不運な当たりを足がかりに1点を取られたものの、9回12奪三振の好投で自身初の完投勝利を挙げた。チーム3戦目となった慶大戦では、2本塁打を浴びるなど苦しい登板ではあったが、8回を3失点にまとめて先発としての役割を果たした。

 投球内容もさることながら、注目すべきポイントは他にもある。1つは、2試合ともロングイニングを投げ切ったことだ。入学してから全てのシーズンで登板経験がある早川だが、これまでの最長イニングは7回2/3。自身が「エースになるための条件」だと語る完投・完封勝利は達成できていなかった。しかし、立場が変われば人も変わる。「主将がやらないといけない」という強い気持ちが早川を突き動かし、志願の完投勝利で主将としての示しをつけた。

 そしてもう1つは、投球以外での主将・早川の存在感だ。明大戦、8回2死走者なしの場面で早川に打席が回ってきた。平凡なゴロがセカンドへ飛ぶ。9回の投球に支障が出かねない場面、ましてや初完投が懸かったマウンドだ。それでも早川は一塁まで全力で駆け抜けた。また、慶大戦では速球自慢の長谷部銀次と対峙。追い込まれてからバットを短く持ち替えて、しぶとく安打を放った。主将の責任感が打席でも強く表れていた瞬間だった。それだけではない。練習中はチームの見本となるように1本1本のランを全力でこなし、試合中は自分が登板していない時でも、ベンチから大きな声を出して仲間を鼓舞し続けた。こうした投球以外の主将・早川の働きが、チームに影響を与えているのは言うまでもない。

 「優勝しか見ていない」と早川は言い切る。いざ決戦の時。頂からはどんな景色が見えるのだろうか。

(記事 山田流之介)

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