背番号『1』の重圧に苦しんだ春。足を負傷し、一時控えに甘んじた夏。度重なる困難を乗り越え、ついに檜村篤史(スポ3=千葉・木更津総合)が本領を発揮した。法大2回戦で勝ち越し打を放つと、同3回戦でも先制弾を含む5打数4安打の大活躍。その後も勝負どころでの一打が光り、ここまでチームトップの9打点をマークしている。そんな檜村にここまでの振り返りと、早慶戦への意気込みを伺った。
※この取材は10月18日に行われたものです。
「自分が卒業するまでは背番号『1』をつけたい」
チームの中心選手として攻守で存在感を放っている檜村
――アンケートでは現在の自分に点数をつけるなら70点と書いてありました。その理由は
今のところ打撃面では3割を超える成績を残せていて、守備面でも1失策はしてしまいましたが取りミスとか送球ミスはないので70点にしました。
――残りの30点は何が課題ですか
打撃面で打てない日があったり、複数安打が出ないことがあって、その点でまだまだ打っていけると思うのでその点を詰めていきたいです。
――今季、やはりターニングポイントになったのは法大2回戦の勝ち越し打だと思われますが、あの場面を今改めて振り返ってみていかがですか
それまで無安打だったんですけど、得点機で打席が回ってきて、岸本さん(朋也副将、スポ4=大阪・関大北陽)から「打てなくてもお前のせいじゃないから力抜いて振ってけ」と言われたので、その声掛けがあって打てたのかなと思います。
――その前の打席では痛恨の犠打失敗の併殺打をしてしまいましたが、その時の心境はいかがでしたか
あの場面で失敗するのはやってしまったなという思いがありました。
――その場面で気持ちの沈みは大きかったのでしょうか
いやでも、前々からそういう失敗が起こった時に、落ち込んでも仕方がないと思うことにしているので、切り替えていこうと考えていました。
――相当沈んでしまう場面だったとは思いますが、次の打席の時に岸本さんに言われた一言が大きかったですか
そうですね、はい。
――あの打席で挽回できたことが、それ以降の試合に大きくつながりましたか
チャンスの場面で打てたことは自分にとって自信にもなって、それ以降の試合でもチャンスで打てているのでいいかなと思います。
――法大3回戦では、約1年ぶりとなる本塁打を放ちましたが、振り返ってみていかがですか
真っすぐを待っていて、インコースの球をうまくさばくことができました。1打席目に打てたことでその後の安打にもつながったのかなと思います。
――現時点で9打点とチームで一番打点を挙げていることについてはどう思いますか
それだけチャンスの場面で打てているのはあるということなので、早慶戦でもそういった場面は必ずくると思うので、打てるように頑張りたいです。
――打順が3番まで上がり、得点機で回ってくる機会が多くなりましたが、好機で特別意識していることはありますか
力が入ってしまうとうまくバットが振れないと思うので、無駄な力を入れないように集中しているかなというのはあります。
――自分はチャンスに強い方だと思いますか
今は打てているので強いかなと思います。
――打順も3番まで上がり、髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)からの期待も大きくなっていると感じますか
打順のことについては何も言われてないんですけど、試合中とかに引っ張り気味になって打球を引っ掛けることが多くなったりしたら打席に入る前に「しっかり引きつけて打ってけよ」とか言われますね。クリーンアップになるとどうしても変化球が多くなってくるので、引きつけて逆に打つよう意識するように言われます。
――ここまでコンスタントに安打を放ってきていますが、調子の波が安定している要因は何でしょうか
バットが振れているというのが大きいと思います。安打が打てない日でもいい当たりでアウトになることがあるので、自分の中でもきょうはダメな日だなっていうのはあまりないと感じています。
――今季はここまで背番号『1』に相応しい成績を残せていますが、開幕前の対談では背番号を気にしすぎないようにしていると話していました。今は背番号をどのように考えていますか
そんなに考えてないです。
――春は背番号のプレッシャーがあったと話していましたが
そうですね、自分にとって初めての1番だったので、「周りからどう思われているのかな」という意識はあったかもしれないです。
――春は意識しすぎた部分もあったと思いますが、その点も踏まえて春は全体を通して悔しい思いがありましたか
そうですね、守備では2失策してしまいましたし、早慶戦前までは打率も3割台キープしていたのに、早慶戦で全く打てず、結局目標が達成できなかった点が悔しかったです。
――意識しすぎないようにしつつも、1番は誰にも譲らないという思いはありますか
そうですね、背負う以上は結果を出し残し続けたいという思いはあります。自分が卒業するまでは背番号『1』をつけたいなっていう思いもあります。
――背番号『1』に対する誇りのようなものでしょうか
はい、そうですね。
「自分の中でつかめているものがある」
目標とする打率3割達成も視野に入ってきた
――夏には足のケガもありましたが、それによる支障はもう全くありませんか
試合をやっている間は気にならないです。練習とかだと痛いときもあるんですけど、試合中は特にないです。
――練習中はどのような節に痛くなるときがありますか
守備とかではあまり痛くならないんですけど、打撃で体重を乗せる時に痛くなったりします。
――夏はケガで出遅れましたが、それによる気持ちの沈みなどはなかったのでしょうか
ケガ中の時はそんなになかったです。復帰してから結果が出せなくて、「やばいかな」って焦りは感じていました。
――結果が出せない中、自分がスタメンで開幕戦に出れないんじゃないかと思うことはありましたか
そうですね。開幕前の1週間前くらいのオープン戦で、その試合は結局雨で流れてしまったんですけど、その時のスタメンが真中(直樹、教2=埼玉・早大本庄)だったのでやばいと思ってました。
――ケガの経験なども含めて、これまで挫折経験などはありますか
高校時代なんですけど、高1から試合に出ていて、その夏は4割7分くらいの成績が残せていましたが、高2になったら打率が1割台まで落ちてしまいました。全然打てなくて、先輩に申し訳ない気持ちが大きかったです。高3でも最初の方は全然打てなくて、その時はきつかったです。
――その挫折はどのように乗り越えましたか
試合終わりにバッティングさせてもらったり、寮内で羽打ちさせてもらったりして、とにかく練習してました。
――その挫折経験があるからこそ、大学でも調子が上がらない時でも焦らず自分で対処できるようになったのでしょうか
たぶん・・・そうだと思います(笑)。
――不安もありつつ迎えた今季ですが、現状の成績を見てご自身としては予想以上の出来ですか、それとも想定内ですか
予想以上ですかね。全然打てなかったオープン戦から見ても、自分の中でつかめているものがあります。
――春に比べて狙い球など目的を明確にして打席に立っている印象があります
春は下位打線が多くて、「どうせ真っすぐだろうな」って思いはありました。打順が上がるとどうしても変化球が増えるし、逆に裏をかいて真っすぐだったりするので前よりも考えているかなと思います。
――変化球が増える中で、自分ではうまく対処できていると思いますか
多少はあります。でも、後に振り返ってみると「あの打席もったいなかったな」って思う打席はあります。
――また、アンケートでは、「春に比べて下半身で待って打てるようになった」と書いてありましたが、具体的にどのような練習をしたのでしょうか
右の股関節に体重を乗せて打てるようになったというのがあります。前までは体重が乗せられていないので前に突っ込んでしまうというのがあったんですけど、しっかり待てるようになったので、打率も上がってきている要因だと思います。
――粘りの打撃をするためにその練習を前々から行なっていたと思うのですが、それがこの秋に実を結んだのでしょうか
そうですね、はい。
――メンタル面においても、心の余裕が出てきたように思えます
守備を守っていて少し前より安心感があります。小島さん(和哉主将、スポ4=埼玉・浦和学院)が調子がいいからっていうのもあると思うんですけど。打球が飛んできても大丈夫っていう感覚があります。
――秋からは金子銀佑選手(教2=東京・早実)が三塁手として出場していますが、三遊間の連携はいかがですか
金子は守備範囲が広いので、そういった点では前進しなきゃいけないバウンドでも金子が出てきてくれるので前よりも楽になりました(笑)。福岡(高輝、スポ3=埼玉・川越東)の時は全部自分が前に出ることになっていたので(笑)。今でも福岡は一塁から三塁の守備に移るときに「檜村頼んだぞ」って言ってきて・・・。それは「三遊間お前に任せたぞ」って意味なんですけど。金子が三塁に入ってくれてだいぶ楽になりました。
――西岡寿祥選手(教4=東京・早実)との二遊間はいかがでしょうか
西岡さんは寮でも今隣の部屋で話す機会が多くなりましたし、リーグ戦前には近くの定食屋に自分と福岡と吉澤(一翔、スポ2=大阪桐蔭)と西岡さんの4人でご飯もごちそうになって、すごく今はやりやすいです。
――以前よりも打ち解けたと
そうですね、はい。
「打撃で見せられればいい」
――早慶戦を前にして、ご自身の調子はいかがでしょうか
調子は継続できているのでいいかなと思います。
――試合の入りが課題だと話していましたが、その課題はどのように対処していきたいですか
スイングをしっかりして調整するのはもちろんですけど、気持ちだと思うので。入りのノックから声を出して気合を入れていきたいです。
――早慶戦には特別な感じがありますか。それとも他の大学との対戦と同じく、リーグ戦の延長として捉えていますか
早慶戦は観客が多いので他の試合とは違う感覚があります。
――それは緊張に変わるのか、楽しみという思いに変わるのか、どちらでしょうか
ワクワクする気持ちの方が強いですね。前は緊張していたんですけど、途中から楽しくなってきて。今年も入りは緊張するかもしれませんけど、やっぱりワクワクする思いの方があります。
――攻守どちらで見せたいですか
まあ打撃が調子いいので、しっかり3割残した上で、打撃で見せられればいいかなと思います。
――アンケートでは郡司裕也選手(3年)のリードが嫌だと書いてありましたが、詳しく教えてください
配球とかを考えた上で打席に入るんですけど、毎回裏をかかれてしまうというか。春の慶大3回戦で、瀧澤が無死三塁の場面を作ったんですけど、投手の石井雄也(3年)が全部内角の直球を投げてきて。追い込まれてから変化球が来るんじゃないかっていう考えも当然生まれて、結局詰まって三ゴロという結果になりました。そういうところが嫌ですね。
――郡司選手のリードを踏まえた上でどのように打席に向かっていきたいですか
データを見て分析しながらっていうのもありますけど、意外とシンプルに向かっていった方がいいのかもしれません。
――開幕前、目標として打率3割を掲げていましたが、早慶戦の結果が大きく影響してきます。その点についてはいかがでしょうか
そうですね、春は早慶戦で打てなくてつまずいたので、しっかり打って3割残したいです。
――早慶戦でやりたいプレーに「打点を挙げること」と書いてありましたが、自分が試合を決めたいという気持ちの表れでしょうか
そういう場面が自分に回ってくれば、決めたいと思います。
――4年生のために自分が決めたいという思いもあるのでしょうか
これまで4年生が自分たちを引っ張ってくれたので、そういったところで貢献したいです。
――小島さんのバックを守るのも残りわずかです
小島さんは守っていてもすごく安心感があって。エースであり、主将であり、チームの大黒柱なのでそういった人のバックを守ることも最後なので、エラーしないでしっかり見守りたいです。
――頼りにしていた存在がいなくなることへの寂しさや不安というのもありますか
そうですね、自分たちの代になるのはもちろん楽しみではありますけど、不安があります。
――それほど小島さんの存在は大きいと
はい。
――早慶戦、優勝へのキーマンを挙げるなら誰ですか
打撃陣は加藤(雅樹、社3=東京・早実)で。途中でレギュラー落ちしましたけど、明大戦で復活して結果も残しているので調子も上がっていると思います。早慶戦でも爆発してほしいな、という気持ちがあります。守りは小島さんですね。これまで完封してきてて、早慶1回戦でも完封してもらえれば2戦目も波に乗っていけると思うので、頑張ってもらいたいです。
――早慶戦への意気込みをお願いします
早慶戦しっかり二連勝して、法大とのプレーオフにいきたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 中澤紅里)
2連勝、そして3割クリアへ、打棒に期待がかかります!
◆檜村篤史(ひむら・あつし)
1997(平9)年11月6日生まれ。182センチ、83キロ。千葉・木更津総合高出身。スポーツ科学部3年。試合前のルーティンはロッカールームで三木雅裕選手(社4=東京・早実)からチョコをもらうことだと話してくださった檜村選手。もらいそびれた明大2回戦では無安打に終わったのだとか。早慶戦でも、先輩からもらったチョコの力でチームを勝利に導きます!