【連載】早慶戦直前特集 第7回 岡村猛監督

野球

 本来の実力を発揮できない投手陣につながらない打線とチームの歯車がかみ合わない。勝利が遠のき、苦悩する日々が続く岡村猛監督(昭53二文卒=佐賀西)。指揮官として早慶戦だけは負けるわけにはいかない。今季を振り返るとともに、伝統の一戦への意気込みを語ってもらった。

※この取材は5月24日に行ったものです。

「明大戦が一つのヤマだった」

勝利は指揮官の手腕にかかっている

――まずはこれまでのリーグ戦を振り返って、チームをどのように評価されますか

2週目からの試合で東大戦は非常に良い滑り出しをすることができたんですけれどね。投手陣も、安定して攻撃もつながりながら得点もできていったので、良いスタートは切れまました。明大戦が一つのヤマだったと思います。1戦目はワンサイドで良かったんですけれどね、2戦目に引き分けたこの試合がやっぱり一番のポイントになったかなと。あれだけ押して押して押しきれなかったっていうところが、今季のこれまでの戦いの全てかなと。あそこから歯車が狂い始め、完全に狂ったのが法大戦だと思います。

――現在リーグ5位と岡村監督就任1年目の春と同じです。当時との違いは

大きな違いはチームを今季は把握した上での5位、一昨年はよく把握できていなかった上での5位というところなので、そこに大きな違いがあると。だからこのチームを把握してるので、これからどう立て直していくのかというのもある程度、こちらとしては思惑があると。秋に向けて巻き返しをするにおいてどういうことが必要なのかというところではプランはあります。一昨年はとにかくもう弱いんだから、負けてるんだから練習するしかないと闇雲な思いでしか、直線的でしかなかったんですけど、今回はいろいろ多面的に複合的に考えながら4年生とも、それからチームのメンバーともお互い理解しながらやっていけてると僕は思っているんですけれどね。選手たちは知らない。それは(選手に)聞いてみて下さいよ(笑)。

――昨春は優勝したこともあり、4年生をはじめ、選手には少なからずプレッシャーがあったのでは

どうでしょう。いずれにしても毎年4年生たちは優勝したいという思いがありますので、優勝に向けてのプレッシャーというのは例年と変わらずあると思います。きょねん優勝したからことしも優勝しなければならないという思いはなかったと。まあ、自分たちの代で優勝したいという思いはあっても、きょねんの優勝が手かせ足かせになっているとは僕はなかったと思います。

――特に打撃に関しては低迷したと言わざるを得ない状況です

今季は、得点はそれほどできないという思いがある程度ありました。そのためにはやはりディフェンスをミスのないようにしっかりと固めていき、そういったところからワンチャンスで得点していくという構想がありましたので、打線が機能しなかった、得点できなかったというのはある程度想定の範囲内でした。しかし、やはりこれも明大2回戦で押し切れなかったというところに全ての元凶があって、あそこで点を取って勝っていればその後の展開は全く違った形になってると思います。たらればは野球においてはないんですけど、決して僕は打線が弱いとは思っていない。じゃあ強いのかと、得点できるのかと言われると、いやそれはなかなかできませんよと。ヒットの数はそんなに出てないわけじゃない。明大との4戦でもヒットの数は40本くらい打ってたと思うんですよね。1試合平均10本のヒットを打ってるわけですから、明大よりもヒットの数は多いわけですから、決して打線が強力とは言えないけれど、弱いということはないと。そこから狂った歯車が明大戦に入って法大戦の前半に失点をしたというところから、ただ打つだけという相手にもなんらプレッシャーのない中で戦っているので、相手に思うように投げられて得点できなかったと。そういう構図だったと思います。

――では守りからリズムをつくって打撃につなげるということを目標にしているということですね

守りをしっかり固めミスを少なく戦っていく。その守りのリズムから攻撃に変わるという思惑が外れたということですね。

「勇気を持って攻撃できなかった」

――次は投手陣についてです。まず開幕カードの東大戦では有原選手の好投、2回戦では高梨選手が完全試合を達成されました。先発の二人についてどう思われていましたか

高梨が完全試合を達成した試合は守りも内野手をはじめミスがなかったわけですから、いいプレーで投手のリズムをつくっていったと思うので、あの2試合は非常にバランスよく戦えたと思います。

――明大1回戦は10得点と明大の山崎福也選手を初回から打ち崩しての勝利でしたが、2回戦ではリードしても追いつかれ引き分けと、明大の粘りを振り払えませんでした。東條主将も「おごった部分があった」と言われてましたが、どう思われますか

「取れた」ということは「取れる」という風に僕自身もおごったきらいがありましたし、打って攻めて打って攻めて取れると思ったんですけどね。非常に明大の投手陣が粘って踏ん張りましたのでね。1戦目に点数を取れたことが、攻撃でしっかり得点できるという安易な気持ち、隙ができたのかもしれないですね。

――その後の3回戦は1回戦とは真逆の大敗、4回戦も序盤に点差をつけられ最後まで追いつけずに敗北と、2回戦終了後チームの雰囲気が変わったということはありましたか

そうですね。逆に言うと、あの試合は勝ちきれなかったというよりも、負けなくてよかったなと思います。ああいうときはヒットの数が多くても相手がワンチャンスで、一本のホームランでとか、そういった形でやられることがままあります。だから、負けなくて良かったなと、もう一回気を引き締めて翌日頑張ろうと言ったんですけどね。勢いは完全に向こうにありますから。相手はいつ得点されてもおかしくない、いつ負けてもおかしくないという状況の中でそこを踏ん張ったわけですから、まさに九死に一生を得たような思いで3回戦に臨んだと思うので、勢いの立場の違いがね3回戦に出ちゃったのかなと。うちが先行していればまた別なんですけれど、どちらかと言えば先行逃げ切りのチームが相手に先行されるとそれを巻き返すだけの力がまだまだないということですね。

――特に有原投手の連投が目立ちましたが勝利のために仕方ないことだったということでしょうか

負けたら終わりなわけですから、しかもその後一週空きがあるという状況ですからね。常々、3連投はあり得るよっていうことは言っていましたので、そういう意味ではその通りになったということですね。エースであれば、2連投、3連投させるということです。ただそこまでの力が彼にはまだ残ってなかったと、まだそこまでの実力がなかったと。結果を出せない、3戦目、4戦目で失点をしたということは、まだそこまでの力が備わってなかったということだと思います。

――続く立大1回戦は高梨選手を一塁手のスタメンに起用するなどテコ入れを施されましたが、最終回に逆転を許し敗北。2回戦も1点を返すのみで逆転できませんでした。

相手投手を打ち崩せなかったと、投手は2点と3点に抑えているわけですから、そんなに相手の打線に打ち込まれたというわけではないけれども、それ以上にこちらが得点できなかったのが敗因かと思います。先程の質問の中にもあったように打線が弱いと、なかなか得点力がないというようなご指摘があったと思うんですけれど、それは当初からある程度想定されていたことだと答えましたけれどね。当然、立大戦もそんなに得点はできないだろうということから、高梨を打線に組み入れてテコ入れを図ったということですよね。だから彼が打点を挙げたり、安打を放ったりしたというのはそれなりに機能はしたけれども、打線全体として本当に活性化できたかというとそうではなかったという見方ですね。

――2回戦では横山選手と吉永選手の2投手が先発予想で名前が挙がっていました。その中で横山選手を選んだ意図とは

いつもみなさんから質問があるんですけれど、先発はなぜ彼なのと、なぜ高梨、横山なのという風に聞かれるんですけれど、これまでの春季オープン戦(オープン戦)や練習の中で好い状態の者を先発に起用しているとお答えしているんですよね。そういった中で、オープン戦も先発で横山を投げさせて安定した投球をしていました。じゃあ吉永は安定していたかと言われれば安定してはいなかったと。過去の実績は関係ないと常々言っているので、ただそのとき状態の良い方が先発をするというだけです。別に僕の投手の起用というのは機をてらったわけでもなく、だいたい状態の良いものが先発をするということなんで、そこに作為的なものがあったりなどはしません。

――この2回戦の敗北で優勝がなくなりました。当時のお気持ちは

優勝がなくなったわけですからね。優勝がなくなってはいるんですけれども、その後の法大戦もあるし早慶戦も残っているし、じゃあそういうのを度外視して戦うのかというわけにもいかないので。あくまでもそれぞれの大学との対抗戦を行うという意味合いがあるのでその対抗戦で勝ち点を取っていくということに集中をするということですね。

――ここまではそれぞれの試合で安打は出ています。しかしあと一本が出ませんでした

なかなか勝てないときっていうのはどうしても結果を先に考えてしまったり、打ちたい、得点したいという気持ちが強いほど思うように体が動かないので打てなかったのかなと。また最初から打って凡打になったら、せっかく盛り上がった雰囲気が崩れてしまうという、どうしてもマイナスのことが先に頭をよぎってしまうので、なかなかそこで勇気を持って攻撃できなかったのかと思います。

――代打を出される場面も幾度もありましたが、成功率は.129、さらに好機での三振も目立ちました。連鎖反応とでも言えるように連続三振などもたびたびあったのですが、岡村監督はチームに何か指示されたことなどはありますか

三振するなということですかね(笑)。みんな三振しようと思って三振してるわけではないと思うんですけれどね。ただ結果的に見れば、明大との4試合でワセダが35くらい三振して、そのうち12が見逃しの三振。明大がこの4試合で三振が15、そのうち見逃しが5くらいでした。その数字だけを見ても、いかに相手投手に抑え込まれたのかというのは数字的には出てるんですけれども、なぜ三振をするのかというと振っているから三振を済んだし、ただ振らずに三振するのが多すぎるというのがあります。でも、三振の要因というのは私にも分からないですね。

――それはやはり結果を先に考えて体が動かなかったりするのがあるのではないでしょうか

それとボールに手を出すからバットに当たらない。代打を出す、でも肝心なところで打てていなかったらやっぱり違う打者に期待を寄せるっていうのも一つだし。そういう起用を誰が代打の特性を持って、オープン戦から起用をしてきたっていうのがありますからね。そういったところで力を発揮しているとこちらは信じ期待をして起用したと、ただそれで結果が出なかった。もう一回練習のやり直しってことですよね。先発メンバーが打っていればその必要もないし、でも打っていないから、打っていたとしてもランナーがいないところで打ってると。ランナーがいるところで打っていないから代打を起用せざるを得なかったということですね。

――優勝がなくなって臨んだリーグ首位の法大との試合。何か試されたことなどはありましたか

試すだけの余裕はないってことなんですけれどね(笑)。試すという意味では法大戦から吉野(和也、社1=新潟・日本文理)を起用して,良いピッチングをしてくれたと。1年生でなかなか登板の機会がなかったところ、あれだけ大量失点したので彼を試したってことになりますかね。しかし、我々はプロ野球のペナントレースと違い、この試合は負け試合だからといって下級生を試そうっていうことはできません。やはり学生野球としてファンのためにも一試合一試合全力勝ちにいくと、そのつもりで法大戦は吉野和を起用しました。だから、この試合は負け試合でいいからってことは僕にはできないですね。

「一つの節目の年」

――これまでの4校と対戦されました。印象に残っている他校の選手はいらっしゃいますか

まあ一番はうちの打線が機能しなかった、抑え込まれたという意味ではやはり他校の投手たちですかね。誰というより、明大だったら主戦の山崎、関谷亮太の二人に肝心なところで抑えられました。立大で言えば、澤田圭佑、齋藤俊介という両投手に2試合で2得点しか挙げられませんでしたから、これも抑え込まれました。法大で言えば、石田健大、船本一樹に抑えられたということですからね。こういった相手校の投手陣に抑えられたという印象が強いですね。

――次はいよいよ早慶戦です。慶大は4位と不調のようですが、どのように見ていますか

自分のチームのことを差し置いて他チームのことを言うっていうのは非常におこがましいんですけれど、状況的にはワセダと似ているのかなと。やはり主戦の投手がどうしても不安定で先に失点すると。じゃあ打線が挽回するほど強力なのかというと、それもなかなか昨日しきれていないと。特にクリーンアップのところが機能していないのかなと思います。まあ、谷田くん(成吾、2年)が3割くらい打って、その他は低迷しているということなので、そういう意味では状況が似ているのかと思います。どうしても元気がなさそうに見える。じゃあ、ワセダはというとやはり元気がなさそうに見えると(笑)。非常に似たようなチーム状況で似たような順位にいるのかと思います。

――では、早慶戦への意気込みをお願いします

早慶戦が始まってことしが110周年ということで一つの節目の年でもありますし、優勝は懸からないというもののやはり伝統の一戦なので、ぜひ勝ち点を挙げたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 廣瀬元宣)

◆岡村猛(おかむら・たけし)

1955年(昭30)4月1日生まれ。佐賀西高出身。1978年(昭53)第二文学部卒。次の全早慶戦が岡村監督の故郷でもある佐賀県で開催されることについてうかがうと「並々ならぬ思い入れがあります」と意気込み十分。ぜひ故郷で勝利を挙げてもらいたいです!