【連載】『WASEDA is all in』 最終回 岡村猛監督

野球

 思うような結果が出せなかったきょねんの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように投打にわたる粘り強さが光る早大。そのチームを適材適所の采配で導くのが就任4年目の岡村猛監督(昭53二文卒=佐賀西)だ。今回は、今季の躍進の要因や自身の野球観などをテーマにお話を聞いた。

※この取材は5月24日に行われたものです。

鍛錬の成果

ここまでのチーム状況を振り返る岡村監督

——宮崎キャンプのときはまだことしのチームの雰囲気は分からないと仰っておりましたが、リーグ戦をここまで戦ってこられて監督から見てことしのチームはどんな色をお持ちでしょうか

打ち勝とうと思っているわけではないし、有原(航平、スポ4=広島・広陵)一人じゃ勝ち点は取れないし、きょねんみたいに有原が無失点に抑えても点が取れなければ勝てないし、これといった特徴を持つためにやっているわけではないです。打てないときもあります。立大2回戦では1点しか取れなかったですから。明大2回戦も1点しか取れなかったので、一概には言えないですね。どういうチームをつくろうとしているのかと聞かれたら、それは負けないチームですよ。守りに関しては投手を中心にして失点を少なくしたい、攻撃は得点力を高めて得点したいと考えるだけです。

——その立大2回戦についてアンケートではひた向きな姿勢が足りなかったとのことですが、一方明大2回戦ではいかがだったのでしょうか

やはりこの春は立大2回戦で負けて、そのときの戦う姿勢であったりひた向きな姿勢が足りなかったように感じたのでね。3回戦からもっと躍動感をもってプレーしていこうと。攻守交代からもっと全力でいこうということでやりました。

——翌日の3回戦ではロッカールームから『岡村コール』も巻き起こりましたが、チーム内の雰囲気もいいのではないでしょうか

まあ勝ち点を落としてませんから。やはり勝ち点落とすとショックが大きいので、雰囲気はいいと思います。

——一つも勝ち点落とさずに早慶戦に臨めます

きょねんは散々負けましたからね。ことしは負けたくない、勝ち点を落としたくないという気持ちが選手たちにもあるんじゃないかな。春のオープン戦のときから負けた後の次の試合を取ることを意識させてきたのでね。そういうのが、非常にいい結果を生んでいるのかなという気がします。

——明大3回戦のときに有原投手を勝たせてあげたかったと仰っていたのは、シーズン前からの一つの課題だったと

じゃないと勝ち点取れないので(笑)。優先順位はチームが勝つということなので、そのためには有原が3回戦を取るということになります。結果的に有原が勝ち投手になったというのはチームにとっても本人にとっても良かったと思います。

——昨季や春先はケガに苦しんだ選手がいらっしゃいましたが、いまのところ順調に戦えています

ちょっとしたケガは色々ありましたが、ここに来てケガなくそろってきてチーム状態はいいと思います。

——ケガほど監督にとって悩ましいこともないということですね

そうですね。そんなに選手の層が厚いとも言えないので、主力選手たちがケガなくやってほしいというのはありますけど、調子のいい悪いというのはありますから。でも、それはやむを得ないことで、今は一番いい状態にあるのだと思います。

——法大戦でまだ万全とは言えない小野田俊介選手(社4=東京・早実)を代打で出しましたが不安はありませんでしたか

僕が試合をやる上で考えているのは、チームが勝つための最善の方法は何なのかということであって、あそこで小野田を起用したのがそのときの最善の策だと。ケガがある、ない。調子がいい、悪い。それぞれ事情があるわけで、そういうのを全部ひっくるめた上での選択肢なのでね。ここで出したらケガが悪化するのではないかというのは、それはもうそこまでのチームであり、選手でしかないということですから、出す以上は全幅の信頼を置いて出しているということです。そんな心配ばかりしていたら野球なんてできないし、選手起用もできないでしょう。ベンチに入れているということはもう使えるという判断をして入れているわけなので、戦うときには痛いとかかゆいとか関係ないです。

自覚と責任

——4番に定着した武藤風行選手(スポ4=石川・金沢泉丘)は三冠王を取る勢いの活躍でチームを引っ張っています

三冠王を取るためにやっているわけじゃないし、三冠王を取ったら優勝できるわけではないのでね。4番の働きに関してはもう言うことないですね。数字的に見ても、その内容を見てもみなさんが見ても早大の4番として十分その責任を果たしていると思います。

——試合を経るごとに4番としての風格が出てきたように思います

そうですね。だんだん風格が出てきたなと。それは数字が裏付けるような自信になって醸し出しているんだろうなと思います。

——そういった面を考えると土屋遼太選手(教4=東京・早実)が背番号『6』をつけるようになったのも関係があるのでしょうか

それもポストへの責任と自覚だと思いますね。

——『地位が人を作る』と

はい。現時点としていい働きをしてくれていると思います。

——それは監督の采配がうまくいっている証拠とも言えるのではないでしょうか

選手がきちんと働いてくれているからそう見えるのであって、僕がプレーしてるわけではないですから(笑)。僕がやっているのは、先発オーダーを決めるのとピッチャーを代えるくらいです。

——逆に中村奨吾主将(スポ4=奈良・天理)は数字だけ見れば主将に就任して以降苦しんでいるように見えますが、どうお考えですか

勝ったり負けたりすることに関して非常に責任を痛感しているのではないでしょうか。責任の重さを自覚すればする程、感じれば感じる程なかなか思うようなプレーができないということなんだと思います。当初からあんまりそういうことを意識しないで背中で引っ張っていきたいと言っていたので、あんまり過剰に意識しないでプレーしてくれたらいいと思いますけどね。

——主将としての働きぶりはいかがでしょう

打率が良くないという点がありますけど、やはりリードオフマンとして走ったり、セカンドというポジションでしっかり守ってくれたりとチームをよく引っ張ってくれていると思いますよ。ベンチの中でも一番声を出してくれていますから。打てても打てなくてもベンチで大きな声を出してリードしてくれています。

——リードオフマンであると同時に精神的支柱を担ってくれているわけですね

一番いい選手が1番を打つのが僕はオーダーを決める基準だと思います。4番の武藤が十分な働きをしてくれてますし、中澤(彰太、スポ2=静岡)も3割打ってそれなりの働きをしてくれていますからね。やはり1、2、3番というのは足があって、特に1番にいいバッターがいれば相手のバッテリーを中心に相手の守りにプレッシャーがかかると思いますからね。トップバッターとして頑張って欲しいと思います。

「ベストを超えていく」

——残すは早慶戦のみとなりましたが、先発が予想される慶大の加嶋宏毅選手(3年)と加藤拓也選手(2年)はどのように評価しておられますか

前半戦慶大が躍進した立役者のピッチャーなので、先発の二人とも警戒はしています。

——生協の学生席のチケットも2時間で完売したようでことしは例年に増して注目度が高まっているようです

そうですか。それはうれしいことですね。多くの人に応援していただけるということなので非常にありがたいことだと思います。

——早慶戦で優勝が決まるというのは監督自身にとっては初めての経験ですが、胸の高鳴りも強いのではないでしょうか

その日神宮球場にいってみないとわからないですね(笑)。早慶戦は特別なのですが、あくまでも対抗戦なのでね。対抗戦の一つという位置づけは変わらないわけですよね。

——日頃よく仰っている「野球は社会の縮図」という野球観はどこからきたお考えでしょうか

このグラウンドで野球をやる中で楽しみや苦しみいろいろなことがありますけどね、それは社会に出てそのまま置き換えても考えることができると思います。野球のゲームにしても一人じゃできない。ピッチャーだっていくらボールが速くてもキャッチャーが捕ってくれなきゃダメだし、打たれたら野手がその打球を処理してくれなければアウトにはならないし、結局は連携と助け合いですよね。社会に出ても一人じゃ生きていけないわけでしょ。やはりここで培っていることというのは社会に出てもある意味通じるものなのではないかと思いますけどね。

——最後に改めて早慶戦に向けて意気込みをお願いします

いつも言っていますが、ワセダ野球の真髄を試合の中で追求していくこと。じゃあその真髄は何なのかというと、僕にもよくわからない。でも、必死なってひた向きになってプレーすればそれに少しでも近づいていくと思うし、それはスタンドでご覧になっている観戦されている人たちが感じていただけることなのではないかと思います。いい野球だった、早大らしかったねって言っていただけるように最善を尽くし、ベストを超えてということですね。

——ありがとうございました!

(取材・編集 小川朝煕)

岡村監督

◆岡村猛(おかむら・たけし)

1955年(昭30)4月1日生まれ。佐賀西高出身。1978年(昭53)第二文学部卒。7季ぶりの早慶決戦で注目が集まっていることに話が及ぶと、顔がほころんだ岡村監督。多くの方に選手たちの勇姿を見に来て欲しいそうです!