『野球脳』を鍛え、勝負の春へ

野球

 新チーム発足後、冬季オープン戦が3試合行われるなど休む間もなく活動を続けるワセダ。現在は静岡県藤枝市で6日間のキャンプを組み、日夜練習に励んでいる。基礎を中心に体力、精神を徹底的に鍛え直すのが目的だ。宿敵を倒し、常勝復活を。新たな決意で臨む冬季キャンプの様子を取材した。 

 「キャッチャーいま三塁見てたのか!」「ベースカバーが遅い!」岡村猛監督(昭52二文卒=佐賀西)から激しいげきが飛ぶ。実践を想定した守備練習での一こまだ。プレーを止め、中村奨吾主将(スポ3=奈良・天理)に「いまのは別の選択肢の方がよかったのでは?」と問いかける場面も。細かい状況判断、選手間でのコミュニケーションに重点を置いた練習だった。シートノック終了後、岡村監督が選手を集める。時間にして約10分程度。ときに語気を強めながら捕球態勢や守備位置について一人一人に細かい指導が行われる。「本気で勝つ気はあるのか」という厳しい言葉もかけられ、選手たちも真剣なまなざしで耳を傾けていた。

選手たちに岡村監督から細かい指示が与えられた

 昼食を挟んで午後の練習。野手陣は室内練習場でセンター返しを意識したシート打撃、ティー打撃、マシン打撃を行った。中澤彰太(スポ1=静岡)は左右に鋭い当たりを連発する。中澤彰は練習中の声出しも力強く、生き生きとしたその表情から頼もしさが感じられた。同じ時間帯、グラウンドでは正面のゴロに対し、体勢やステップを確認しながら丁寧にさばく選手たちの姿が。正しい動きを身体にしみこませるように、黙々と直原大典新人監督(人3=高知・土佐)によるノックが繰り返された。日も沈み、冷え込む中で行われた野手陣の最後のメニューはベースランニング。仲間を鼓舞し合いながら、ひたむきにグラウンドを走る選手たちの姿が印象的だった。一方で、投手陣はウエイトルームでストレッチ、バランスボールを使った体幹トレーニングに汗を流す。その後は再びグラウンドへ。外野を左右に駆け巡り、ボールを追いかけるアメリカンノックは約2時間にも及んだ。

アメリカンノックで打球を追う竹内諒(スポ1=三重・松阪)

 基礎的なメニューが中心のこのキャンプ。岡村監督は体力、精神力の他に2つのキーワードをあげた。「思考力」と「脳力」だ。この場面はどこでアウトを取るのが確実か。走者を進めるためにどの方向に打球を飛ばせばいいのか。長いリーグ戦の最後の1試合、最後の1球まで脳の集中を高め、一瞬で正しい判断を下す能力。これが得点力不足克服のカギになるという。岡村監督が新4年生へ熱い言葉をかければ、「チームとしては優勝するしかない」と中村も強い決意を口にした。このキャンプで己の体と向き合い、いじめ抜く。そして『野球脳』を鍛え上げた先に、ワセダ野球の神髄が待っているだろう。野球で味わった悔しさは野球でしか取り返せない。来季こそ、神宮で歓喜の輪を。中村ワセダが新たな変貌を遂げる。

(記事 市川祐樹、写真 川口真由)

コメント

岡村猛監督(昭53二文卒=佐賀西)

――キャンプも3日目ということで折り返しだと思うのですが、この合宿を通してのねらいというのは

まずフィジカルをしっかり鍛える。それからメンタルを厳しい練習の中で強くするというのが一つありまして。もう一つはやはり基本。振るということであったりボールを捕るということであったりそういったところをもう一回ここで数多くやって徹底をしていくと。それから合宿ですから、チーム内でコミュニケーションを。スタッフと選手、それから選手間、それぞれのポジション間。部屋に複数が寝泊まりしているということもありますのでそういった部屋の中でのコミュニケーションもですし、合宿なのでミーティングもしっかりやりながら、コミュニケーションをしっかり取るというようなことを一つの目的にしています。

――きょうの練習は基礎的な練習が多いように感じました。キャンプを通してこういった基礎的なメニューを多めに課しているのでしょうか

僕が目的として挙げてることを学生コーチに伝えて、何をやるかといったところはほとんど学生コーチに任せています。

――選手の仕上がり、調子と言った部分は

春先の合宿であればそういうのもありますけども冬場の合宿ですからね。徹底的に身体をいじめ抜くというところから体力的な部分や精神的な部分を強くしていくことが目標ですから。そういうやり方でやっています。

――新チームになってこのキャンプで寝食を共にすることでチームの色というようなものも見えてきたのでは

それは僕に聞くより選手に聞いてもらった方がいいかな。どうしてもやっぱりゲームをやらないと、そういう色って中々出てこないんで。まだそういう時期ではないというのはありますけどね。ことしうまくいかなかったような課題であったり反省点というものを踏まえて、チームを作っていきたいなという風に思っていますので。またらいねんはことしとは全然違ったチームにしていきたいという願望はあります。

――監督から見て、どういったタイプの選手が多いでしょうか

これは、ベンチに入ってくるメンバーによってある程度決まってくるんでしょうけども。僕がやっぱり一番大事にしたいのは4年生が、リーダーシップをどれだけ取って練習であったり、私生活であったり試合だったりと、ともかく勝負所で力が発揮できるように。練習の中でもそれぞれがチームとしての勝負所。個人の勝負所。そういったところを意識して練習をやってくれ、という風に言ってます。

――午前練習後のミーティングでは、4年生に厳しい言葉をかけている様子も見受けられました

そうですね。やはりリーダーになってもらわないといけないので、2年後の春にはもう社会人になって出て行くわけなので。そういった意味でひたむきに、とにかく先頭になって引っ張って行って欲しいということを4年生には期待して伝えたりもするのでね。そういったことをやってくれると信じてますので。

――ミーティングでの監督の言葉に「状況判断」「守備から流れを」といった言葉がありました。監督の中でやはり守備からゲームを作っていくという考えは強いのでしょうか

それが野球の一つの基本としてあって。ミスから失点するというのが非常に多いので。そこを注意してくれという風には言ってますけどやはり(ミスが起こってしまった)。あとは思考力っていうんですかね。まず理解する力、それから適応する力。判断する力、学習する力。そういった脳のスピード。それから脳のスタミナというのが非常に大事かなと考えています。9人で戦っていく上で必要だし、2ヶ月というリーグ戦を戦っていく上でもね。体力、精神力プラス思考力といった脳力が必要になると思っています。

――秋季リーグ戦は得点圏での一打に苦しみました。そこをどう改善していくかという部分ではいかがですか

1割5分2厘。他校が2割5分、優勝した明大が2割9分ぐらい残している中でウチが1割5分2厘は一つの大きな課題なのでね。ここでどうやって得点を挙げるのかというところをいま言った脳力、思考力であったり体力であったり、精神力であったり。そういったものを充実させてくればね、集中力につながってくると思うので。狙った球や甘いボールを一振りで決めるということにつながるし。ツーストライクに追い込まれても粘るっていう執着力につながってくるというふうに考えています。

――野球脳の部分と体力、精神力といった鍛錬の積み重ねが得点力につながってくるということですね

体力、精神力、脳力のスタミナですよ。集中力とスピード感とスタミナ。それが大事かなと思います。

――きょうの午前練習後のミーティングでの「本気で勝つ気はあるのか」という言葉もありましたが、勝利にこだわる集団になるためにいまのチームに足りないところは

ターゲットを明確にしてますからね。3シーズン勝ち点取れてない明大、それからことし1勝も勝てなかった法大。ここがもうターゲットですから。優勝したいという目標の前に、ターゲットを倒すという明確な目の前の目標に対して本気で立ち向かっていく。準備をしていく、練習をしていくということが必要じゃないでしょうかね。

――最後に来季に向けて、強化して行きたい部分を教えてください

走攻守投全て。これに脳力。頭です。

中村奨吾主将(スポ3=奈良・天理)

――主将になられて2ヶ月近く経ちましたが、いかがですか

まだキャプテンとして何をするって訳ではないのですが、いろいろみんなで考えながら、その中で先頭に立っていければいいかなと思っています。

――気持ちとしての変化はありますか

そういう役割を与えられているので、自分がやらないとチームも付いてこないなと思っています。

――先ほどのノックでも積極的に声掛けをされていました

やはり自分がやらないとみんなもやらないと思うので、そういうことも心掛けながらやっています

――秋季リーグ戦後はオープン戦などもありましたがどのように過ごされてきましたか

年が明けるまでにどういうチームでどういう戦い方をしていくのか、というのをしっかりかたちとして出していければいいなと思っているので、そういったことをみんなで意見交換しながらやっています。

――このキャンプで個人として取り組んでいることは

基礎基本を重視したキャンプなので、一から見直して全てにおいて、技術面でも精神面でもレベルアップしていければいいかなと思っています。

――この時期にキャンプを行うのはあまり他大には見られないことですが

もう(年内の)練習を終えているチームもあるので、そこよりももっと練習ができるということで、そこでしっかり差をつけて少しでも他の大学に追い付いてがんばっていきたいと思います。

――先ほど選手を集めて岡村監督が厳しく指導されていましたが

メンバーに入っている(新)4年が多いので、そういうメンバーがやらないと下の学年にも示しが付かないし、軸となる選手も(4年には)多いので、そういった選手がもっとしっかりしていかないといけないな思います。

――最後の一年へ向けて意気込みと目標をお願いします

いままでいろいろな人に助けられてきましたし感謝の気持ちも持って、ことしのシーズンは悔しい思いもしたのでしっかりその悔しさをぶつけていければと思います。チームとしては優勝するしかないと思っています。

髙梨雄平(スポ3=埼玉・川越東)

――秋季リーグ戦では結果を出すことはできませんでしたが、ことし一年を振り返って

秋季リーグでなとんど投げれなくて投げても打たれたりしたんで、改善点とかいっぱい見つかったのでそこのところをこの冬で克服してやっていきたいと思います。

――現在、髙梨選手自身の調子は

いいです。自分の力自体も徐々に上がってきているかなという気はしているので、このまま冬にしっかりトレーニングして春には一回り二回り大きくなってやりたいと思います

――秋季リーグ戦後、オープン戦などもありましたが、どのような練習をしてきましたか

主にフォームの見直しとウエイトトレーニングを少しやる部分を変えたりとか工夫して。トレーニング自体は大きく変わってはいないんですけど、鍛える部分を見直したって感じです

――今後はどのようなことに取り組んでいきたいと思っていますか

まずはいま取り組んでいるフォームを固めることと変化球を覚えるということですね。チェンジアップをいま覚えようと思っていて、あるにはあるんですけどほとんど使えないボールだったので、それを実戦で決め球として使えるように、やはり三振が取れるボールがないといけないので。そのボールとしてチェンジアップを覚えようとしています。

――投手陣全体として取り組んでいるようなことは何かありますか

四球が少し多かったので、有原(航平、スポ3=広島・広陵)は少ないんですけど。それ以外のピッチャーが四球が多い。あとやはり課題として2番手のピッチャーがいないということなので、全員その2番手の座を取りに行くっていう意識でやりつつ、あとはチーム全体として四球を減らすということをやっています。

――大学最後の年となる来季をどのような一年にしていきたいですか

いままでで一番ことしが本気で練習している年なので、それに伴う結果も出していきたいですし、もちろんチームの優勝というのを一番に考えてやっていきたいと思っています

中澤彰太(スポ1=静岡)

――地元・静岡で迎えるキャンプですが特別な感情などはありますか

静岡の空気や雰囲気は高校3年間やってきて慣れているのでやりやすいというか懐かしい感じはします。

――高校時代の気持ちなどを思い出したりしますか

はい、思い出します。

――ことし一年を振り返っていかがでしたか

チームとしては悔しい1年だったのですが、個人的にはいい経験ができた1年でした。

――良い経験というのはスタメンで結果を残したことなどでしょうか

はい、そうです。

――逆にその中で見えてきた課題というのは

打撃ですね。初回、先頭(打者)のときは塁に出られたのですが好機で打つことがあまりできなかったので、らいねんの春、秋には好機でも打てるようにできたら良いです。

――この冬に取り組んでいることは

そこも打撃になってしまうのですが、逆方向の打球ですね。守備ではもともと肩に自信があるので、より絶対的な安定感というかそういうものを求めてやっていきたいなと思います。

――キャンプの手応えの方はいかがですか

実戦をやっていないので分からないのですが、フリー打撃やノックで受ける感じだと少しずつではあるのですが成長はできているのかなというように思います。

――来春までどのように過ごしていきたいですか

実戦ではまだシーズンはたくさん残っているのですが、この次のシーズンがラストシーズンだと思ってやっていきたいと思っています。