全日本大学対抗王座決定試合(王座)を前にした取材時のこと。多くの部員がキーマンとして名前を挙げた選手がいた。田中優之介(スポ2=埼玉・秀明英光)だ。実力はありながらなかなか試合で結果を出せず、苦しい一年を過ごしていた。「ここを踏ん張って乗り越えられれば、来年以降も絶対に勝てる」(坂井勇仁主将、スポ4=大阪・清風)。まさにターニングポイントともいえる大舞台。坂井は期待を胸に単複全ての試合へと送り出す。その期待に応えるように、それまでの迷いや葛藤を振り切った田中優。見事、単複全勝を飾ったのだ。
1年生ながら全国タイトルを手にした田中優(右)
ルーキーイヤーからその実力は本物だと見せつけていた。シングルスでは入学直後の関東学生トーナメント(春関)でベスト4に入ると、全日本学生選手権(インカレ)ではベスト8。実力を買われると、関東学生リーグ(リーグ)、王座にも1年生ながら出場し、5勝1敗という申し分ない成績を収めた。ダブルスでも同様に結果を残す。関東学生選手権(夏関)で坂井と組み2位に輝くと、リーグ、王座でも同ペアで全試合に出場。こちらはなんと全勝を挙げた。その勢いのまま冬の全日本学生室内選手権(インカレインドア)では単複優勝。早大にとって欠かせない戦力となり、その後の活躍に期待せずにはいられなかった。
ところが、今年に入ってからは苦戦が続いた。特にシングルスでは悩みもがく姿が何度も見受けられた。春関では同学年の岡垣光祐(法大)に敗れ、ベスト16止まり。翌週の早慶対抗試合(早慶戦)でも同学年の今村昌倫を相手に黒星を喫した。インカレでの挽回を図ったが、またしても結果は振るわず3回戦敗退。田中優の持ち味は何と言っても攻撃的なプレーだ。しかし、自分からのミスが増えていたことで積極性は鳴りを潜め、守りに入ってしまったところを相手に攻められるという悪循環に陥っていた。普段は強気なコメントも多い。しかし、シングルス敗退後は「調子は悪くないと思わないと、ダブルスにも響く」と苦笑い。何とか悪い流れを断ち切ろうと苦闘する心の内が垣間見えたようだった。
リーグ早慶戦では苦しい試合が続いた
しかし、リーグでも満足のいく結果が残せない。シングルスでは3試合に出場するも、1勝2敗。特に慶大戦では単複共に黒星を喫した。一歩間違えればチームとしての敗北も見えていたほど。そんな試合での2敗に悔しさは募った。勝てないふがいなさや不安は大きい。それでも、チームでつかみ取った王座を前にした田中優は、『いつものプレー』を取り戻しつつあった。「勝ちたいって思いが強すぎて、いつもは攻撃的なのに守備的になっちゃう場面が最近は増えていたなと。でも最近はここまで負けているので、もう開き直って思い切ってやっていたらだんだん戻ってきた」。結果を求めるあまり、見失っていた自身の持ち味に気付いたのだ。「王座では期待していてください!」久々に見せた明るい表情だった。
王座では躍動した姿を見せた田中優
その言葉通り、王座では大活躍を見せる。初戦の松山大戦から持ち味の積極性が光る。単複で勝利を収めると、準決勝は関西の強豪・関大戦。昨年の王座ではチームとして敗北寸前まで追い込まれヤマ場と位置付けられていたが、ここでも田中優の攻撃的なプレーがさく烈した。ダブルスでは第1セットを落とすも、リズムを取り戻し逆転勝ち。続くシングルスではわずか3ゲームしか許さずに圧勝した。決勝の相手は、宿敵・慶大。「リーグ戦では落としたうちの2本が僕だったので、僕が勝ってちゃんと9-0で勝ちたい」。リベンジに燃えていた。ダブルスはリーグで敗れた逸崎凱人・羽澤慎治組との再戦。他の2ペアが破れる中、一歩も譲らぬ接戦をしのぎ、貴重な一勝を挙げた。シングルスでは慎重にプレーするあまり、第1セットを先取されてしまう。しかし第2セットからは、しっかりとラケットを振っていくことを意識。リーグまでは出来ていなかった試合中での修正に見事成功し、『いつものプレー』で勝利をつかみ取った。
「春から負けばかりで、正直気持ち的にはすごく落ちていた」。王座優勝後、この一年の苦悩を振り返った田中優。それでもしっかりと立て直し、大一番で大活躍を見せた。「最後にしっかり単複全勝できたのがうれしかった。負けの反省をしっかり生かせてよかった」。『失敗は成功のもと』。迷いを振り切り思い切ってプレーする姿は、その言葉を見事に体現していた。苦しんだ末の王座単複全勝。『強い田中優之介』がコートに戻ってきた。
(記事 吉田優、写真 松澤勇人)