【連載】新体制本格始動特集『過渡期』 最終回 土橋登志久監督

庭球男子

 連載最終回を飾るのは、フェド杯日本代表監督も兼任する土橋登志久監督(平元教卒=福岡・柳川)だ。昨年度の振り返り、今季の展望、ナショナルでの経験を通して学んだこと――。早大庭球部のことはもちろん、大学テニスの可能性についても語っていただいた。

※この取材は3月15日に行われたものです。

「必要なことを綿密に積み上げていくことが大切」

昨年度の王座で部員の試合を見守る土橋監督

――まず、昨年度のことについて振り返っていただきたいと思います。部全体としてどのような年になりましたか

 苦しい試合がある中で、学生たちがいろいろ工夫しながら自分たちでチームをすくい上げて勝った、非常に意味のある1年だったと思います。

――昨年1年間を通して見つかった課題は

 毎年ですけど、その一年一年新しいチームになるので課題だらけでスタートしながら、何とか夏に向けてチームがつくられていくということができているからチャンピオンになれているわけで。課題はいろいろありますけど、それを克服しているところを評価したいと思います。ただ近年他の大学もすごく戦力や強化が充実してきているので、やはり今までのように差をつけて勝つということはなかなかできなくなってきていて、ことしはそういう意味で圧倒的な強さが発揮できるような準備ができたらいいなと思います。

――新体制になって4カ月ほど経ちましたが、今のチームの状況や雰囲気はどうご覧になりますか

 監督としてあまり何もできていないのですが、逆に組織というシステムであったり育成のシステムであったりがきっちりできているので、先ほども言ったように学生が自分の役割をしっかり行っているということと、テニスだけではなくて社会貢献活動であったり、そういうことをしながら人間的にも成長することができているなと思います。長く指導に携わっていると、最終的にはその人の人間的な強さであったり大きさであったりというのが大事なところでテニスにも生きると思うので、学生ですし学業もそうですが、非常に重要なウエートを占めると思います。テニス以上にそういうところに気を配ってやりたいなと。

――学生大会としては全日本学生室内選手権、関東学生新進選手権とありましたが、戦績の面ではどう捉えていらっしゃいますか

 なかなかうまく結果が出せなかったというところはあるのですが、正直昨年の夏は特に男子が1、2年生中心のチームで、女子は4年の林が引っ張って個人も団体も頑張ってくれたので、そういう意味で1、2年生が多かった男子は少し大きな波が終わって下っている状態だと思います。仕方がないことかなというのと、今は学生大会だけではなく世界を目指す、できれば東京五輪に出られるような選手を育成したいという思いもあるので、結果はしっかりと受け止めますがそれ以上に目標は高く持って、また本格的なシーズンが始まればそういう面が成果になるのではないかなと期待しています。

――新1年生とはお話しされたのでしょうか

 少しはしましたけど、基本的にあまり話はしない方なので(笑)。まあでもすごく明るいですし、やる気がある選手が多いので、男子も女子もすごく楽しみにしていますし、またそれが刺激になって現役部員たちが目の色を変えて競争してくれるのではないかなと期待しています。

――4年生はどのような学年でしょうか

 目立つ存在ということではないのですが、キャプテンの小倉(孝介主将、スポ4=神奈川・湘南工大付)であったり細沼(千紗女子主将、スポ4=東京・富士見丘)であったりは努力するタイプですし、そういうカラーが出せるといいなと思いました。まだ始まったばかりなのでこれからいろいろな課題が見つかると思うのですが、基本的には信頼して任せていますから、成長を楽しみにしています。

――ことしのチームはどのようなチームになると思いますか

 男子はさらに充実してくるのかなと思います。次に入ってくる子にもいろいろな新人もいますし、もっともっと団体戦に関して言えばダブルスで圧倒して、余裕を持ってシングルスに打ち込めるチームにしたいと思っています。女子に関しては筑波大がおそらく一番のライバルだとは思うので、そこに勝つために必要なことを綿密に積み上げていくことが大切だと。女子はぎりぎりの試合になると思います。

――男女それぞれでキーになるのはどの選手でしょうか

 どの選手もキーになるとは思うのですが、やはり去年活躍してきょう(三菱電機・早稲田大学フューチャーズ国際トーナメント)勝った古田(伊蕗、スポ3=静岡・浜松市立)がどれだけ頑張るか。いろいろな意味でインカレ(全日本学生選手権)を取った小林(雅哉、スポ2=千葉・東京学館浦安)であったり島袋(翔、スポ2=三重・四日市工)であったりが自由にのびのびと戦えると思うので、男子で言うなら古田が学生大会でどうやって勝ち切れるか。女子はキャプテンの細沼ですね。(5本の団体戦である全日本大学対抗王座決定試合、王座で)2-2になれば最後ナンバー1に(勝敗が)懸かるということを考えると一番確率が高いのが細沼だと思うので、彼女がキャプテンとしてもそうですが、選手としてもどれだけチームを引っ張れるか、勝利に貢献できるかがポイントだなと思います。

――先ほど他大の話も出ましたが、ことしは関東であれば男子は慶大、女子は筑波大が強敵になると思います

 新人が入学するのでまた新しいチームになると思うのですが、慶大はやはり毎年完成されたチームになってくると思います。昨年は少し苦戦したのでことしこそはということで戦ってくると思うので、毎年そうですが慶大は一番のライバルと考えています。女子は筑波大が先ほど言ったように強いと思いますが、だからと言って他で油断することなく戦わなければいけないと。リーグ(関東大学リーグ)は5戦、王座は3戦なので、その8戦をどう戦っていくかということですね。たった8戦ですが、一つも油断できないし落とせないという。それは今この寒い時期からスタートしていかなければ何があっても勝てるということが約束されているわけでもないので、全員でそこを目指してつくり上げていってくれると思います。

「指導者として、常に学ぶことを忘れてはいけない」

――チームを率いる上で意識していることは

 難しい・・・(笑)。13年やったのかな、最初のときのがむしゃらにやっている時に比べて今は組織がしっかりして、もちろんOB会もそうですし、私を支えてくれる嶋崎だったりコーチ陣だったり、今は大きな気持ちで任せています。指導についてはコーチ陣に任せていますし、そういうことができるようにもなってきたし、任せられる人材が育ってきたことが自分にとって一番うれしいことだなと思います。あとは大学生がそういうシステムに甘えることなく自発的に物事を考えたり、自発的に勝つために必要なことをコートの上で発揮してほしいなと。それだけですね。それがないと目標を達成することができないと思います。

――フェド杯の監督をやられていてナショナルチームをご覧になっていると思いますが、庭球部に還元できることはありますか

 やはり同じテニス人として、プロだからとか学生だからということではなくて、コートに立てば同じ条件ですし、プロに勝てないということではないと。選手としての意識だったり、例えば練習前の準備だったり、自分がこの試合を目指すからきょうは何をしなくてはいけないということが明確になっていると思います。ただ単にきょうは練習があるから何時間練習したらきょうが終わるじゃなくて、そこで何をするのか、この一球は何のためにあるのかということをプロの選手の方が考えてプレーしていますし、行動しているなと思っています。そういうところはぜひ伝えてあげたいなと思います。

――自分を律する力、管理する能力が違うということですか

 そうです。最後はテニスは個人プレーですし、団体戦ならアドバイスができても個人戦では一人で戦わなくてはならないので、自分で自分のことを把握してコントロールできないといい結果が出てこないと思います。そういうことができる選手たちを今は育てたいなと思います。

――以前、海外での経験を通して考えが変わった、丸くなったとおっしゃっていましたが

 怒らなくてもみんながやってくれるからというのもあるのですが・・・(笑)。アプローチの仕方が年齢と共に変わっているのかなと。もちろん厳しく接することもあるのですが、そうでなくても選手のモチベーションを上げることができるというのは海外の指導、特にフランスの指導現場を見て感じたところなので。別にそれを真似するということではないのですが、今はそういう時期だということなのかな。もちろんナショナルの仕事もある中で、選手にはよりフラットな目線で接してあげた方がいいかなと思います。

――大学テニスの位置づけについてどうお考えですか

 これから五輪もありますし、日本テニスを強くするためにどうすればいいかということはナショナルのスタッフの皆さんとも話をしながら仕組みをつくろうとしている中に、学生テニスをもう一度見直してそこから少なくともこれだけ団体戦をやっている、ダブルスを重要視しているような組織は日本には存在しないと思うので、大学テニスからまずはダブルスの選手を輩出することをやっていきたいなと思っています。私も大学出身ですし、ぜひそこを実現しようと思います。特に注目しているのは林で、彼女のダブルスのスキルがあれば100番以内に入る力もあると思いますし、もっと言ってしまえばフェド杯であったり五輪であったり、もしくはグランドスラム優勝であったりも遠くはないのかなと言う思いがあります。学生テニスを活性化する意味でも、そういう仕組みを今つくろうとしています。

――まずはダブルスから進出していくと

 そうですね。そうすれば大学に行っても世界に羽ばたける、大学を卒業してプロになっている早大のOB、OGもたくさんいますから。グランドスラムで活躍している選手もいますし、そういうのを見ていると必ずできると、早大だけではなくて他の大学の選手も大学に行っても世界に行けるということになれば、そういう道をつくってあげたいと思いますし、せっかく大学の監督出身からナショナルにいったわけですから、そういう道筋をつくってあげるのも自分の役割なので、今一生懸命それに向けて頑張っているところです。

――ことしの庭球部のスローガンは『挑戦』ですが、監督はどう解釈されますか

 シンプルでいいのかなと思います。連覇が続いていて緊張感がなくなったりおごってしまったりというところは我々も含めて気をつけなければいけない部分だとは思ので、挑戦するという気持ちを忘れてはいけませんし、我々も指導者として常に学ぶことを忘れてはいけないと思います。そういう意味ではいい言葉ですね。自分もそういうつもりで毎日を過ごしたいと思います。

――今季の目標をお聞かせください

 王座の連覇というのは最低限の目標として、これは自分が監督になった時に自分の仕事の中でマストの目標だと思っていました。ただその先は先ほども言った世界です。海外遠征も増やしていますし、五輪に向けて可能性がゼロではないので、そういうところを目指していきたいと思います。学生の大会もしっかり戦い、海外でもいろいろなことに挑戦していきたいと思っています。幅広く活躍してほしいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 熊木玲佳)

監督としての意気込みを表していただきました

◆土橋登志久(つちはし・としひさ)

1966年(昭41)10月18日生まれ。早稲田大学教育学部卒。左利きの土橋監督は、色紙を書く際の太いマーカーに苦戦。それでも達筆で書き上げてくださいました!