学生大会においては頂点に立ち続けてきた早大庭球部。しかし、東京五輪を3年後に控えた今、部の目標はさらに上に設定されているという。過渡期の真っただ中にある庭球部について、嶋崎徹夫監督代行(平元商卒=神奈川・桐蔭学園)にお話を伺った。
※この取材は3月5日に行われたものです。
「大学を、日本のトップ選手を育てるための最善の組織に」
昨年度の王座にて選手の試合を見守る嶋崎監督代行
――新体制が本格的に始動しようとしています。まず、新しい主将はどのような主将でしょうか
小倉(孝介主将、スポ4=神奈川・湘南工大付)は練習態度とかトレーニング、ランニングで必ずトップを走っていたり、学校の成績もいいんですよね、去年は成績上位として表彰されたりとか。真面目に取り組む姿勢を最大限買っていて、こういう男だったら1年後結果を出してくれるだろうし、チームを頑張って率いてくれるだろうなという期待があります。女子の細沼(千紗女子主将、スポ4=東京・富士見丘)は、絶対的なエースの林(恵里奈、平28スポ卒=現福井県体育協会)やその前にいた宮地(真知香、平27社卒)とか、ああいうメンバーが抜けた中で一番練習を頑張る、リーダーシップがある、「練習やるよ!」とみんなに声をかけられるので、学生トップチームをなんとか作って欲しいと思いチームを任せました。王座(全日本大学対抗王座決定試合)では足をつりながらチームのために戦ったという実績があるので、そういう強い気持ちで戦えるチームをつくってくれると確信しています。男女とも主将に100パーセントの信頼でチーム運営を任せています。
――新戦力も加入しましたね
彼らのリクルートを1年間やっていく中で多くの高校生に出会いましたが、プロになりたい、五輪に出たい、世界で活躍したいという大きな目標を持っている日本の若手がたくさんいるのが私自身も良く分かりました。本人たちの高い目標をいかに実現させるかというところは私たちの責任でもあるし、取り組んでいかなくてはいけない目標だなと強く実感していて。それができない組織には高校生も行きたいと思わないのではないかなと思っているので、私も高校生の目標に関してはそれに応えられるように僕たちも精一杯頑張るからと言うのは彼らとの約束だと思っていますね。もちろん課題はあるのですが、それを実現するために努力している姿は当然見せなくてはいけないと思います。将来に対して高い目標を持ったり希望を持ったりしている高校生に応えることができる組織にしていきたいなと。
――現在大学ぐるみで改革を進めているとのことですが、詳しく教えていただけますか
学校から求められているのは『競技力の向上』と『グローバルリーダーの育成』、『早大の誇りの醸成』と3つあります。部に対してはこれを大きな目標にしなさいと各部に出ている状況です。『競技力の向上』はまず日本一になりなさいということと、2020年の東京五輪では学生・交友合わせて32名以上の出場を目指すということ。『グローバルリーダーの育成』というところは、テニスが強ければいいというわけではなく、世界でも活躍できる人を大学としても部としても育成していきましょうと。グローバルリーダーの定義は難しいですが、世界で活躍するに当たっては手段としての英語というところは庭球部のメンバーも最低限の会話ができるというところもあるし、一般企業に勤めたいという人もいるので、そこでも戦えるような語学力も必要なのかなと最近思い始めています。部員全員にTOEICの受験も推奨しています。また、語学力だけでは当然だめで、人間力、洞察力の向上という観点では、外国の方も含め、いろいろな人とコミュニケーションを取りながらお互い理解して、相手がどういうことを求めているのかをきちんと分かれるような部員にしたいなと。3つ目の『誇りの醸成』では、最近CS委員を設けて庭球部の価値をどう上げていくかをみんなで考えたり、地元の皆さんへの還元では地域のゴミ拾いなんかも少しずつやったりだとか。先週金曜日も地域の皆さんを呼んでミニテニススクールをやったりとか、そういう中でいろいろな人にお世話になっているということを理解しながらやっていきましょうという3つの柱でやっています。十分できているかどうかは別として、学校の方針に則ってチームも悩みながら模索している状況ですね。
――その中でも競技は大きな柱になってくると思います。具体的な目標はどのように設定しているのでしょうか
競技の話について言うと、現在王座男子12、女子が11連覇という状況ですが、大学日本一の話については東京五輪開催の2020年までこの目標は不変で継続したいというところがあります。ただ、先ほども言ったように、庭球部には将来日本のトップ選手になりたい、五輪に出たいという選手が結構入っているんですよね。学生の大会を制するという目標は、継続しなくてはいけないもの、それに向けて頑張らなくてはいけないものだと最大限思っていますが、もっと上を目指していかなくてはいけないのかなと。一般大会で言うと(三菱)全日本選手権が日本のプロ・アマの最高峰を決める大会なので、こういうところで優勝者を輩出したいと。昨年も男女とも、ベスト8、ベスト16といったところに単複複数名いっているので、そういうところで活躍できる基礎はできつつあるのかなと。過去にも田川くん(翔太、平25教卒)がベスト4に入ったりもしていますから、こういうところを目指すことは実現が全く不可能ではない目標だと私たちは思っています。グローバルでは五輪、国別対抗戦といったところに代表選手や指導者、監督・コーチを輩出したいということで、国をあげて五輪を目指しましょうという中で、庭球部としてもそういうところで活躍できる人材を送り出すことも私たちの責務なのではないかなと思います。
――その大きな目標に向けて、どのような取り組みがなされるのでしょうか
アクションプランとしては、2017年についてはユニバーシアード大会がありますから、そこに代表選手を送ること。あとは国際大会ですね、五輪には全日本選手権で優勝したから出られますというわけではなくポイントを取らなくてはいけないので、国内のJOPの大会もそうなのですが、海外のATPポイントを取らないと出られませんし、前回のリオデジャネイロ五輪だと約70番以内が一つのめどだったと記憶しているので、まず大会に出るということをやっていかなくてはいけないと。2018年度はさらに大会に出るだけではなくチャレンジャー大会などでも優勝を目指さなくてはいけないし、四大大会にも出場することを目指したいと思います。2019年度も同様の目標ですね。
――そのような視点から、ここまでの戦績をどう振り返りますか
競技結果については、簡単に言えば学生の大会では自分たちの目標とすべき大会で全て優勝できたわけではありませんが、十分頑張った結果も出ましたし、全日本では古田(伊蕗、スポ3=静岡・浜松市立)がベスト16、ダブルスが男子2組、女子1組がベスト8。グローバル大会では林(恵里奈、平28スポ卒=現福井県体育協会)が台湾の大会でシングルス準優勝、ダブルス優勝という結果もありました。自己評価としては、学生大会で勝てているけれど今後国際大会に出ていかなくてはいけないねと。全日本でも頑張れてきていますから、もっと上を目指しましょうというところです。ことしの課題は国際大会に積極的に出場すること。今後の方向性については国際大会上位を目指しましょうと。従来王座優勝、インカレ(全日本学生選手権)優勝が大きな目標であったのは事実ですし、これからも同様ですが、五輪や国別代表を目指すのであれば世界に出なくてはいけないということを私たちもより理解しましたし、学生も少しずつ分かってきたので、ハードルを少し上げて頑張っていこうと思っています。
――目標が変わりつつあるとのことですが、その中で現在の庭球部の状況はいかがですか
学生の大会で活躍できているのも事実ですし、いい選手が入ってきているのも事実ですが、目標が今まで王座だったこともあり、それに合わせて練習していく、部員の意識もそれに集中していくということだったので、その先の全日本、海外を目指すためには自分たちの目標観を大きく変えるとか、練習のやり方も変わってくるでしょう。年間の過ごし方も変わってきますし、当然お金も必要になってきますから、そういう変化に対して私たちだけではなく学生もそれを達成するという気持ちを持つことが大事だと。少しずついろいろなことを実現していかないと、当然五輪に出るということはすごく大きな目標なので。そういう目標を少しずつ理解し始めたという、そういう現状だと思います。
――実際に、2月にはインドネシア遠征も行っていましたね
日本のフューチャーズのスタートは亜細亜(亜細亜大学国際オープン)で、F1亜細亜、F2早稲田(三菱電機・早稲田大学フューチャーズ国際トーナメント)と続いていきますが、学生は基本的に休みの時しかできませんから、海外に出ていって大会に出ないとポイントが取れませんので、より多くポイントを取るという試みがより必要になってきますし、五輪を目指す上ではそれをしないと必要なポイントが取れないというのが現実ですね。更にポイントを獲得するために、学生大会のない6月にも男女とも韓国遠征ができないか現在検討中です。
――海外遠征の他に、具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか
ことしから栄養管理士の方に指導していただいています。1食ずつ写真を撮って毎食送ると、これが足りないということが返ってきて、血液検査をしながら必要な栄養がちゃんと取れているのかをチェックできるみたいで。その結果病気をしないとか、足がつらないとか、そういう体をつくれるらしいんですよね。一生懸命練習して、やれることを全部やって負けたら仕方ないですけど、せっかくいつも強いのに当日つって終わっちゃったら元も子もないので。そのために栄養管理士も入れてつくっていこうと。栄養管理なんかも僕らは全然分からないので、栄養のプロの方にいろいろ聞きながら。また、土橋登志久監督(平元教卒=福岡・柳川)がナショナルチーム(フェド杯日本代表監督)を兼務することで、海外の最先端のテニス事情がタイムリーに手に入れられるようになりました。学生に近く、この度S級エリートコーチの資格を取得した渡邊ヘッドコーチ(隼、平19スポ卒=静岡・庵原)が現場を指揮することで、日ごろの練習もさらに活気を帯びるようになりましたね。さらに今後世界を目指すなかで、デ杯選手としても活躍し、全日本選手権で優勝経験のある石井弥起コーチを外部から新たに招き、より高度な戦略面での指導も受けられるようになりました。このことにより、他の大学には負けない指導体制が整いつつあると自負しています。
――高校を出てすぐプロに行く選手がいる中で、嶋崎監督代行は大学テニスをどう位置づけていらっしゃいますか
日本のテニスの現状について、男子で言えば錦織圭選手が先頭で引っ張っているのはみなさんご存じの通りだと。今後継続的に日本のレベルを上げるためには学校の組織を利用した、例えば資金力であるとか、設備だとか、スポーツ科学部を中心としたマネジメント、研究施設もありますから、全て活用してやっていけば大学スポーツが日本のトップ選手を輩出するための経営基盤になる可能性は十分あるのかなと思っています。高校出のプロの大半は一人で戦っていくと言っても過言ではないと思うのですが、大学を利用すれば組織として戦えますし、後はアシックスさんとの提携というかたちで産学共同、つまり産業界と大学がコアワークして日本のスポーツを盛り上げていこうという機運が出てきました。その流れの中で日本のトップ選手を出す上で大きな結果を出せる可能性が十分あると思っています。高校からプロになることがトップ選手への近道ではなく、大学を経由した方が必要な資源があるということを周知しながら取り組むことによって、5年後、10年後に大学がトップ選手を育てるための最善の組織に変わっていく可能性は大きくあると思っていますし、それをしていかなくてはいけないという責務があると思っています。
――いつごろから改革が進んでいるのでしょうか
問題意識は前からありました。私が監督代行になって3年目ですが、今まで土橋監督がこの13年間で一から基礎をつくってきて、その仕組みの中でチーム一丸となって頑張れば学生大会で上位の結果が十分に出せるようになってきたと思います。監督がナショナルチームを兼務するにあたって、学生が『自立』という気持ちを持つことが大事だと言い始めたのがおととしのスローガンなんですよね。2年目の『変革』は、自立できてきたけど変えなくてはいけないこともたくさんあるんじゃないのと。伝統も大事だけど、自分たちを強くするためにいろいろ変えようよと。学生に任せてみたことも多いですし、下級生の作業を効率化したこともそうですし。今年度『挑戦』という言葉を選んだのも彼ら、彼女たちでした。
――最後に、スローガンの『挑戦』について嶋崎監督代行の解釈を教えてください
目標を変える、高くする、それにチャレンジするということかなと私は理解しています。挑戦の意味は部としての挑戦、個人としての挑戦、それぞれあっていいと思っていますが、部として王座連覇継続はもちろんのこと、先ほど言ったような五輪を目指す、国際大会で活躍するといったことかなと思っています。早大庭球部のあり方もいろいろ考えないといけないと思います。産学共同で日本のスポーツをリードしないといけない新たな使命を背負いましたし。王座だけ取って「早大庭球部はすごいぞ」とかなったら成長しないんじゃないかと。早大が大学テニス界の番長だったから日本のテニスが伸びなかったとか後から言われちゃうかもしれないので。実現が難しいのは重々承知していますが、目標を大きく持って頑張っていきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 熊木玲佳)
◆嶋崎徹夫(しまざき・てつお)
1965年(昭40)12月16日生まれ。神奈川県・桐蔭学園高出身。早稲田大学商学部卒。土橋監督がフェド杯の日本代表監督を兼務する中で、その補佐として『外からの視点』を大事に庭球部を発展させようと試みてきた嶋崎監督代行。将来への展望、大学テニス界の可能性について熱く語ってくださる姿が印象的でした