主将として、エースとして、王者として
今井慎太郎(スポ=神奈川・湘南工大付)――エースとして、男子部主将として、この1年間常にチームの中心で走り続けた男だ。全日本大学対抗王座決定試合(王座)において11連覇を成し遂げたラストイヤーは、全日本学生選手権(インカレ)男子シングルス優勝という悲願のタイトルを手にした年でもある。チームとしても個人としても学生界の頂点に登り詰めた今井にとって、ワセダでの日々はひたすらにテニスと向き合う4年間だった。
「大学でテニスを頑張るならワセダしかない」。全国でも指折りの強豪校であり、憧れとする杉田祐一(平23スポ卒=現三菱電機)の出身校でもあるワセダは今井が中学生のときから目標にしてきた場所だった。自己推薦入試を突破し、念願かなって入部した庭球部では1年次から団体戦に出場。高校時代とはまた違う重圧に戸惑いもしたが、経験を積みながら徐々に自分の力を出せるようになっていった。そんな今井にとって大きな存在だったのが2学年上の遠藤豪(平25スポ卒)と田川翔太(平25教卒)だ。必ず相手チームの主力選手に勝ってくれる、と思える二人のプレーヤーがいたからこそ、今井は目の前の試合に集中することができたという。「自分が上級生になったときには、下級生を安心して戦わせてあげられるよう頑張らなくては」。エースとしての土台は、下級生のころから確実に築かれつつあった。
主将としてもエースとしてもチームを鼓舞してきた今井
4年生になった今井は、主将として、エースとして、男子部を率いる立場になる。「主将をやる上で一番大切なのは、説得力のある人になること」。結果を残せない人間に、部員たちがついてくるはずがない。コートの上で努力しない人間の言葉に、重みがあるはずがない。一つ一つの部内戦や練習試合でも白星を挙げられるよう、毎日自主練習を欠かさなかった。加えて、エースである今井には王者・ワセダならではのプレッシャーもかかる。「シングルス1は絶対に負けてはいけない」。たとえ他の8本を取ったとしても、シングルス1を落としてしまえばチームが負けたも同然の空気になる。大学テニス界の覇者であり続けるワセダで、チームの顔であるエースが負けることは許されなかった。
チーム全体を見ること、自分のテニスに集中すること。そのバランスは結局、10月の王座直前までうまく取ることができなかった。インカレでの悲願のシングルスタイトルも、「自分の状態がすごく悪い中で大会に入ってしまって、試合の中で調節しながら優勝したというかたちだった」と振り返る。インカレを終えればすぐに関東大学リーグが始まり、個人戦から団体戦へ気持ちを切り替えなければならない。悩みもしたが、そこをどうにか乗り越えたことは王座に向けての自信になったという。今井がワセダを背負って戦った最後の試合である王座決勝。チームの優勝こそ決まってはいたものの、シングルス1では苦戦を強いられていた。しかしここで今井を奮起させたのは、「ワセダのエースは負けられない」という思いだ。重圧を力に変え、泥臭く食らいついていく。一球一球をひたすらに追いかけた末に手にした勝利。部員全員が見守るコートには、1年間チームの柱として走り続けた絶対的エースの姿があった。
1ポイントを追うしぶとさ、アグレッシブなプレーを生かした攻撃の幅、緊迫した場面での集中力、これからも大切にしていきたいと思える仲間。ワセダでの4年間で得たものを挙げればきりがない。最高のかたちで庭球部生活を締めくくった今井はいま、プロテニスプレイヤーとして新たな世界に羽ばたこうとしている。高校卒業後すぐにプロへ転向するケースが多いなかで、大学を出た今井がまず課題とするのは経験の少なさだ。ステップアップのためにはさまざまな国際大会を回り、結果を出してランキングを上げていくことが求められる。そしてその先に見据えるのはグランドスラム出場という大きな目標だ。「テニスとは離れたくない。プロになる以上はそこ(グランドスラム)を目指して頑張っていく」。これからもテニスという競技と共に歩んでいく覚悟を決めた今井は力強く語った。ワセダを飛び出した新星は、これからどんな輝きを見せてくれるのだろうか。
(記事 熊木玲佳、写真 佐藤亜利紗)