【連載】王座直前特集『覇者の挑戦』 男子・第1回 栗林聡真×松崎勇太郎

庭球男子

 ことしも全日本大学対抗王座決定試合(王座)の時期がやってきた。10連覇という歴史的な記録が懸かる男子部。その連載第1回目に迎えるのは、団体戦のメンバーとしてチームの勝利に貢献してきた栗林聡真(スポ3=大阪・清風)と松崎勇太郎(スポ2=神奈川・湘南工大付)だ。関東大学リーグ戦(リーグ戦)を全勝優勝で終えたが、その結果には決して満足していない。王座を直前に控えるいまの胸中を探った。

※この取材は10月12日に行われたものです。

「自分たちがしっかり勝たなければいけない」(栗林)

栗林は今季、インカレで自身初のベスト8入りを果たした

――リーグ戦全勝で王座進出を決めましたが、いまのチームの状況はいかがでしょうか

栗林  明大戦の結果が5-4で、他にも危ない試合があり、何とか勝ったという感じでした。それから1カ月ほど経って、そのときよりはいまの方がチームとしてまとまりができていると思います。少しケガ人もいたのですが、その人たちもだいぶ状態は良くなってきているようなので、チームとしてはリーグのときより上がってきているかなと思います。

松崎勇 リーグ戦は本当に厳しい戦いが多くて、やはり全体を通して良くないかたちで終わってしまいました。この1カ月間すごく追い込んでやっているので、雰囲気や各個人のスキルが上がっているなというのは、対抗戦や練習試合をしていて感じます。王座に向かって完璧とまではいきませんが、良い感じだなとは思います。

――ことしのチーム結成時は昨季からの変化はありましたか

栗林 やはり田川さん(翔太、平26教卒)、遠藤さん(豪、平26スポ卒)がすごく強かったので、抜けてからの戦力ダウンはあったと思います。先ほどもあったようにことしはリーグ戦などで競った試合も多かったです。昨季であればダブルスも毎回3-0で終えていて、どこか余裕を持ちながらできている部分もあったと思うのですが、ことしは本当に余裕がない状況で。逆にその分みんなが頑張らないと、という思いはあると思います。

松崎勇 そうですね。昨季はいて当たり前の存在だった田川さん、遠藤さんが抜けて、やはり2人の存在はすごく大きかったなと思います。でもその分、チームで何とかしようという思いは昨季よりあるのかなと感じています。やはりことしは一本一本が勝負で、絶対に勝つという計算ができる人がいないので、チーム力は以前より増しているのかなと思います。

――そんな中、団体戦のメンバーとして試合に臨むときのご自身の役割はどのように考えていますか

栗林 今回僕はリーグ戦では5番手や4番手など下の方で出ることが多かったです。やはりシングルス4、シングルス5、シングルス6は毎年大事だと言われるのですが、実際にその通りで。ダブルスが3-0であれば、5、6が取れば勝ちですし、2-1でも4、5、6で勝負を決めようと思えば決まってしまうので、シングルスの最初の3人の入りはすごく大事だなと思います。やはり他校も上の方はどこも強いので、団体戦では自分たちがしっかり勝たなければいけないという気持ちはあります。

松崎勇 王座はまだ分かりませんが、リーグ戦ではダブルスがなくてシングルスだけというのが役割であって、シングルスだけなら絶対に一本を取ってこなくてはいけないという意識はあります。他の選手はダブルスもシングルスもやらなくてはいけないというタフな状況の中で、僕らはシングルスしかないので。王座でも厳しい戦いが続くとは思うんですけれど、絶対に一本を取って帰ってくるのが役割だと思います。

――今季の印象深かった大会はありますか

栗林 やはりインカレ(全日本学生選手権)ですね。1年生のときがベスト16で、昨季は予選で負けてしまっていたので、大学に入ってからだと全国大会でベスト8に入れたのが初めてでした。権さん(大亮、慶大)とやってそれが初対戦だったのですが、そこでしっかり勝ってベスト8に入れたというのは成長した部分だと思います。

松崎勇 僕はインカレはあまり思い出したくないので(笑)。春関(関東学生トーナメント)がことしのキーポイントだったのかなと思います。陸人さん(古田、スポ4=愛知・名古屋)などと当たって、そこを乗り越えてベスト8までいったというのはすごく大きく、少し自信を取り戻すことができた気がします。いままで大学に入ってからはずっと探り探りで、自分のテニスを見失いかける部分もあったんですけれど、そこで少し自分を取り戻せたので価値ある大会でした。

――自分のテニスというと、どのようなものですか

松崎勇 やはり自分は身長もなくて、他の人と比べてフォアハンドがすごいとかサーブが良いとか目立つところもないので、粘り強くやり続ける、相手にしつこくやり続けるテニスが自分のテニスで。いま少しずつ確立し始めていると思います。春を終えるまでは一発で決めてやろうとか、少し大味になっている自分がいたから勝てていなかったというのはあるので、そこは少しずつ自分のテニスが見つかりつつあるのかなと思います。

――栗林選手は具体的にどのような点が成長したと考えていますか

栗林 上級生になって精神的なゆとりができましたね。テニス面では昨季と比べてだいぶ攻撃的になったかなと思います。しかし、まだリーグ戦でOBの方などにもっとコートに入って勝負したほうが良いよというようなアドバイスもいただいたので、もっと攻撃的にいけるかなとも思います。前まではどちらかというと相手に攻めさせてミスを誘うようなテニスだったんですけれど、最近、特にフォアハンドでどんどん攻めていくことが少しずつできるようになってきたかなと思います。

――逆に課題はありますか

栗林 いま言ったことではありますが、やはりもっとコートに入って勝負できるようにというのが一番です。それプラス粘り強くプレーすることを忘れずに、そして攻撃的にいけるようになりたいです。

松崎勇 粘り強くやり続けるのももちろんですが、やはり大学生はみんな粘り強いですしそれだけでは勝てなくて。粘り強いものを基盤として、攻撃力であったりネットプレーであったり、幅広いプレースタイルを追求していかなければいけません。粘りだけだと勝ち続けることはできないと思うので、自分も攻撃的なテニスをやっていく必要があると思います。

「一番強いところで4年間やり切りたい」(松崎勇)

過去の試合のドロー表を見る松崎勇(左)と栗林

――過去の記録を調べたところ、2人は2011年の全日本ジュニア選手権(全日本ジュニア)18歳以下男子シングルス決勝で対戦していますね

栗林 うわー懐かしい。

松崎勇 (ドロー表を見て)よく持ってきましたね(笑)。

――当時の印象はいかがでしたか

栗林 14歳くらいのときからこいつのことは知ってはいて、なんかサンバイザーつけて、髪が長いやついるなって思っていたんですけれど。それぐらいですね、印象は(笑)。

松崎勇 印象それだけ?(笑)。

栗林 いやいや。やっぱり高校のときはみんな未完成で、フォアだけが良い選手だったり、サーブだけが良かったり、偏っている選手が多いんですけれど、こいつは全部まとまっていて弱点がなかったなという印象で。サーブもボレーもストロークも全部できるオールマイティープレーヤーでかっこよかったです。

松崎勇 栗林は大阪だったのであまり絡みはなかったのですが。ぶっちゃけて言うと、栗林や今井(慎太郎、スポ3=神奈川・湘南工大付)は僕からしたら天と地の差の人だったんですよ。その前の年に栗林は(全日本ジュニア18歳以下男子シングルスで)優勝していて、今井と栗林という同い年が決勝で戦っていて、上の人だなと思っていました。僕は出ていないので2人が決勝で戦っているのがすごく悔しくて、1年間努力してきました。いろいろあっていまは先輩ですけれど、彼らは目標をくれた人というか…。その2人の活躍が悔しくて1年間頑張った自分がいます。僕からすれば、ライバルといったらそのときは全然比べてはいけない人たちでしたけれど、3人で話したりたまに遊んだりもしていたので良き友であり、という感じです。

――当時からワセダへの入学は考えていたのでしょうか

栗林 僕は監督の土橋さん(登志久、平元教卒=福岡・柳川)と当時の主務の方に、高校2年くらいのときに声を掛けていただきました。まず早稲田大学のテニスが強いということも知らなかったので、入れるところに入りたいなと思って入りました。

松崎勇 自分もワセダに来るなんて思っていませんでした。最後の全日本ジュニアで優勝するまで全国での成績が全然なく、ベスト4くらいであまりぱっとしなかったんです。全日本ジュニアが終わるまでは大学に行ければいいやくらいにしか思っていませんでした。しかし最後にそういうかたちで成績を残せて、土橋さんからお話をいただいて。やはりやるからには一番強いところで4年間やり切りたいと。早稲田大学は憧れの的ではあったんですけれど、自分としては行ける場所だとは思っていませんでした。

――実際に入部してみていかがですか

栗林 高校のときに年末の合宿に来たこともあって、入部前の印象としてはまず部員がすごく多いなと思いました。練習についても、高校までは緩い雰囲気でやっていたのですが、大学はしっかりしているというか、全然違いました。実際に入ってみたらやはり練習試合も部内戦もレベルが高く、そういう面ではとても練習になりますし、印象通りでしたね。

松崎勇 僕が入る前から日本一のチームだったので、日本一厳しいところだろうなとはイメージしていたのですが、それを超える厳しさがありました。もちろん求めるのはテニスだけではなくて、人間性も求めています。監督は人間性をとても大切にしているので、妥協するということにすごく厳しく、正直大変な部分もありました。しかしそれが日本一のチームのつらさかなとも思います。9連覇しているということは、やはり他のチームとか何かが違うから9連覇しているわけで。そこをやり切れば10連覇が見えてくるのかなと思います。

――土橋監督の存在はやはり大きいですか

栗林 そうですね。部員に対して本気で伝えてくださっています。テニスに対する熱い気持ちもすごく伝わってきますし、昔の実績も僕らからすると本当にすごい人なので、尊敬しています。

このチームでできる最初で最後の王座

松崎勇も、徐々に頭角を現してきている

――王座に向けていま考えていることはありますか

栗林 まずはケガしないことですね。あとは、たぶん昨季も同じことを言ったんですけれど、いまの4年生と一緒に戦えるのも最後だということです。僕が1年生のときの4年生の先輩が言っていたんですけれど、このチームで戦うのはこの年1年しかないんですよ。王座は毎年やっているけれど、いまの1年から4年がそろってできるのは最初で最後の王座なんだというのが、すごく印象に残っています。ことしは1つ年上の先輩の最後の王座と考えると、特に思い入れも強くて絶対に勝って終わりたいなという思いです。

松崎勇 僕は、昨季は試合には出ていないんですけれど、もしことしチームに貢献できるのであれば、やり切るだけです。10連覇は懸かっていますがこのチームで優勝するのは初優勝になるわけで、そのおまけで10連覇がついてきたら、くらいの感じでも良いのかなと思っています。いまの4年生は高校時代から仲良くしていた先輩もいるので思い入れは強くて、10連覇して卒業してほしいです。絶対に優勝するという気持ちで残りの期間をやっていけば、勝つことができると思っています。

――4年生への思いという点では、それぞれのベンチコーチにも当てはまると思いますが

栗林 ことしベンチコーチに入っていただいているのが、もともと関西出身の方で12歳くらいのときからの知り合いの西田さん(昇吾、社4=福岡・柳川)で、本来ならその西田さんも試合に出られるくらいの実力の方なんですけれど、ベンチコーチに入っていただいています。一番親しいというか、高校のときから仲良くしていただいて、それで何かの縁でベンチコーチもしていただいて。だから勝ちたいというのもおかしいですけれど、一緒になって2人で、そしてチーム全員で勝てるように頑張りたいなと思います。

松崎勇 僕は高原さん(和功、スポ4=広島・修道)で、僕は一浪しているんですけれど、高原さんも浪人していて。人間として理解してくださって、浪人としての悩みも分かっているので、テニスだけでなく気持ちの面でもサポートしていただいています。厳しい先輩だなとは感じているんですけれど、いざ試合になったときは本気で一緒に戦ってくださり、とても心強く思っています。心の部分でも大人だなと感じることが多いですね。浪人は大学では普通かもしれないですけれど、体育会ではあまりいなくて。それを感じながらいろいろ教えてくれる良い先輩なので、絶対に一緒に戦って、一緒に勝利をして終われたらそれが恩返しになるかなと。感謝の気持ちをプレーで表現できたら良いなと思います。

――王座という舞台は緊張しますか

栗林 しますね。高校までは結構楽観的というか、実際勝っても負けてもいいやくらいの気持ちだったんですよ。大学の団体戦だからだとは思うんですけれど、勝たなきゃいけないという空気があるので、特に大学に入ってからすごく緊張するようになりました。

松崎勇 同じくです。高校のときはただテニスが楽しくて、勝ったらうれしいし負けたら悔しいという単純な感じだったんですけれど、大学に入って、テニスが楽しいというのもありますが、勝たなきゃいけないチームに存在しているという気持ちも大きいです。やはりこういう歴史があって連覇しているチームで試合に出るというのは目に見えない大きなプレッシャーがあるので、試合前はチームのみんながサポートしてくれているのを見て、かたくなったり不安になったりします。緊張というか不安になることが多いですね。

――残りあとわずかの時間で意識したいことはありますか

栗林 テニス面では、王座本番はすごく緊張すると思うのですが、緊張しても大丈夫なくらい練習をやっているので、それを信じていまの練習であったり調整だったりをしっかり集中してやるだけです。テニス以外の面だと、4年生と部活動でいられる時間があと2週間で、卒部されたら会える機会も少なくなるので、残り少ない時間を楽しくやりたいなと思います。

松崎勇 テニスを調整していくのは当然ですけれど、最終的には心、メンタルの部分が勝敗を左右すると思うので、いざ試合となったときにかたくならない、強いメンタルをつくっていくことですね。それは普段の練習の厳しいときに自分をどれだけプッシュできるかとか、私生活でどれだけ落ち着いて規則正しくやるかとかが大事になってくると思います。練習だけではなくて、私生活でも気持ちにつながる部分はしっかりと調整して、自信を持って戦えるようにしていきたいです。

――では最後に王座への意気込みをお願いします

栗林 いまのチームで戦う団体戦もこれが最後です。ことしは大学間の実力が拮抗(きっこう)していて大変な王座になるとは思うんですけれど、最後に笑って終えるためにも、結局個人としてやるのは1勝を挙げてくることなので、それを目指してやり切ります。

松崎勇 何回も言っていますけれど、4年生とできる最後の王座です。このチームでの初優勝、そして10連覇に貢献できれば良いなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 井上雄太、吉原もとこ)

色紙用にはそれぞれ、シンプルな言葉を選んでいただきました!

◆栗林聡真(くりばやし・そうま)(※写真左)

1993(平5)年5月20日生まれ。172センチ、62キロ。大阪・清風高出身。スポーツ科学部3年。今季の主な実績は関東学生トーナメント男子ダブルスベスト4、全日本学生選手権男子シングルスベスト8。全日本学生ランキング男子シングルス18位、男子ダブルス27位(2014年10月15日現在)。色紙に書く言葉を迷っていた栗林選手。最後は、監督、チーム、4年生、ベンチコーチ、そしてご両親への『恩返し』に決めたそうです。「倍返しだ!」と笑いながら書いてくださいました。

◆松崎勇太郎(まつざき・ゆうたろう)(※写真右)

1993(平5)年8月30日生まれ。165センチ、64キロ。神奈川・湘南工大付高出身。スポーツ科学部2年。今季の主な実績は関東学生トーナメント男子シングルスベスト8。全日本学生ランキング男子シングルス21位(2014年10月15日現在)。テニス、そして王座への思いを伺うと、真摯(しんし)に考える姿が印象的だった松崎勇選手。常に明るく対談を盛り上げてくださいました。今後の活躍に、期待が高まるばかりです!