【連載】 春関直前特集『Winner!!』 最終回 土橋登志久監督

庭球男子

 早大庭球部は昨年、全日本大学対抗王座決定試合(王座)で男子が9連覇、女子が8連覇を達成した。その常勝チームを率いているのは土橋登志久監督(平元教卒=福岡・柳川)だ。『負けられない』という思いは部員以上に強く、誰よりも長くコートに立ち続ける。そんな土橋監督に、現在のチームの状況と昨シーズンの振り返り、今シーズンに懸ける思いを伺った。

 ※この取材は4月20日に行われたものです。

チームとしてはまだまだ

土橋監督

――現在のチームの状態は

チームとしてまだ若いというか、成熟した状態ではありません。日々練習することによって課題が生まれたり、自分たちがやっていかなければならないという気持ちはあるけれど意識が希薄であったり、そのあたりがこの時期は目立ちます。対抗戦などではもちろんそれなりの成果は出していますが、チームとして、そして個人としての質の高さは足りていないと思います。特に男子は田川(翔太、平26教卒)、遠藤(豪、平26スポ卒)が抜けたということがとても大きくて、その穴を誰が埋めるかということがまだ見えてきません。それに加えて4年生が就職活動などでなかなか練習に参加できていません。ただそれはどの大学も同じことで、このような状況の中でいかに力を発揮していくかということが問われるのが春関(関東学生トーナメント)です。そこに向けていま全力で取り組んでいるところです。

――主将になった大城光選手(スポ4=埼玉・秀明英光)と高田千奈美選手(スポ4=静岡・浜松西)の印象は

二人ともとてもしっかりしていますし、だからこそ主将に抜てきされました。しかし、新チームを引っ張るという役割には厳しさも求められます。その部分に関しては、いまその力を発揮できているかといえばそうではないと思うので、一生懸命頑張らなければいけませんね。10月の王座まではあと半年しかなく、この半年間のうちにそれを一気にやってのけなければならないので、いますぐに厳しい覚悟で臨んでもらいたいなと思います。

――高田女子主将は主務も兼任されています

大変だと思いますし、自分が監督である時は少なくともこのようなかたちで起用したことはありません。しかし部を正しい方向に導くということを考えると、我々の判断では高田が一番適任かなということで(本人に)提案しました。すると頑張りますと受け入れてくれました。この判断が正しかったかということは分かりませんが、我々としては昨年、あのような厳しいシーズンを乗り越えてきました。もちろん女子部はことしも厳しい状態が続き、油断はできません。そういった時にしっかりとした人材を置くことが大切だと思ったので、思い切って挑戦したところです。

――23人入部したという1年生には、どのような印象を抱いていますか

ワセダでテニスをしたいと思っている子が非常に多くて、そのような雰囲気の学生が集まってくれたことはとても喜ばしいことです。また力のある選手も入部してくれたので、最初は体づくりをしながら、慌てずに上を目指してほしいなと思います。やはり23人は大所帯となるので活気も出ると思いますし、とても良い傾向だと思っています。いままで先輩がやってきたことが高校生たちに何らかのかたちとなって伝わり、このような多くの新入生が入部してくれたのだと思います。

――1年生の中で特に注目している選手はいますか

女子部の細沼(千紗、スポ1=東京・富士見丘)は高校でもトップクラスでした。体力的にも恵まれているので、そのような部分を前面に生かしてほしいと思います。きのうの対抗戦で西本選手(恵、慶大)には敗れてしまったのですが、彼女のパワーに対抗できる力を持ち合わせていると思います。これから春、夏にかけて力をつけてほしいと思っていますし、楽しみにしています。

――ではここで昨シーズンのことについて伺いたいと思います。監督に就任して10年という年でしたが、どのような1年でしたか

大変なシーズンではありましたね。連覇を重ねている中で、それを途切れさせないようにするというのは自分にとってとても大切なミッションでしたし、連覇している中で負けるというのは学生にとって苦い思い出になってしまいます。男女どちらかが勝ってどちらかが負けるということも許されない中で、お互いにぎりぎりの練習をして、精神的にも厳しい状態で1年間過ごしましたが、終わってみたら充実感がすごくありました。学生もよく頑張ってくれましたし、よく練習したなという思いがあります。監督就任10年目を一区切りと考えたら、10年目でこのような熱い1年を送れたというのはとても幸せなことだと思っています。

――昨年の全日本学生選手権(インカレ)では当時の4年生の活躍が目立ちました

そうですね。話は古くなりますが、我々が学生だったころは部に監督やコーチが常駐していませんでした。最近は大学が専属の監督やコーチ、トレーナーを置いて選手をサポートするという体制になったので、大学に入ってから伸びる選手も増えましたし、高校のナンバーワンが入ってもなかなか1年で優勝するということができなくなってきました。これはとても喜ばしいことだと思います。最後に4年生が活躍できるというのは、その選手が4年間積み重ねてきたことの成果が表れたということで、本来当たり前の姿であると思います。ワセダには『この一球』の精神というものがありますが、昨年はその精神が実現した良い年だったと思います。田川が(男子シングルスで)3連覇したというのは素晴らしいことで、立派だったと思います。長谷川(茉美、平26スポ卒)もなかなか成績が出せなかったけれども、キャプテンになったことにより責任感も出て、練習を引っ張る中で個人の力を上げられたのかなと思います。

――土橋監督が現役の選手だったころは、指導者が常駐しているというわけではなかったんですね

はい、仕事を持っていて週末に練習に来るというのが常識でした。平日の練習は学生主体の練習で。自分たちで話し合っていたので、自立心を育む環境はありましたね。そういうことに関しては、もしかしたらいまの学生よりもレベルが高かったかもしれません。どちらが良いというものではありませんが、いまの世の中の流れとしてそういうシステムができるようになったことは、テニスにおいてはプラスだなと思います。

一日一日を大切に

試合中は常に戦況を見守る

――今シーズンのことについて伺いたいと思います。ことしも厳しい戦いになると思われますが、どのような気持ちで臨みたいと考えていますか

男子は田川、遠藤が卒業したのですが、いまでも素晴らしい選手がそろっています。絶対に負けられないという重荷を背負っているのはワセダだけで、特に男子は10連覇という区切りにもなります。挑戦する側と受けて立つ側の違いだと思うのですが、そこも含めて練習をしないといけません。対抗戦では、苦戦しながらも確実に勝ち切っています。しかし本番で少しのミス、意識の低さ、油断があって負けてしまえば(目標は)達成できません。負けられない中でどのように自分たちを磨いていくかということはかなり難しいことですが、そういう難しいことに挑戦できるからこそ我々は有意義な4年間を過ごせると思います。ことし勝てるかということは誰にも分からないことで、見えないものと戦うことはすごく大変だとは思います。ですが部員たちも絶対にアベックで9連覇したいと言っていますので、それに近付けるように一日一日を大切に過ごすだけですね。

――最近は学生テニス界のレベルも上がって、他校にも強力な選手が多く在籍しています

そうですね。明大には小野くん(陽平)というインターハイ(総体)チャンピオンがいて、彼にも期するものがあります。彼が引っ張るという代になればチームも底上げを図ってくると思います。慶大には近藤くん(大基)がいますし、さらには新人で上杉くん(海斗)というつくばフューチャーズ(筑波大学国際トーナメント)で片山選手(翔、平24スポ卒=現イカイ)に勝った子もいます。また関東だけではなくて、関大など関西の大学にも苦戦しました。慶大も苦戦したようですが、練習をしっかりやっているところが強くなっているという印象がありますね。個人の力もそうですが、チーム力が問われる年になることは感じています。女子の場合は昨年同様に慶大、関学大などがターゲットになります。それ以外の学校としては、例えば山学大の選手はすごくファイターで、しっかりと練習をやっているなという印象があります。ことしもいろいろな学校がいろいろなカラーでやってくるでしょう。気になる選手といえば慶大の西本さん、筑波大の菅村さん(恵里香)などという名前は挙がるのですが、どの大学も力はついてきていると思います。個人名だけではない脅威を感じています。

――一方で、ワセダの中で注目している選手はいますか

主将の大城はインカレインドア(全日本学生室内選手権)で優勝しました。最後の1年でもタイトルを取れるかということに注目しています。次の世代を背負う今井(慎太郎、スポ3=神奈川・湘南工大付)にも期待するものがあります。また、3年目でやっと芽が出てきた栗林(聡真、スポ3=大阪・清風)など、各代にキーマンがいますね。強いて挙げるならその3人かと思いますが、だからといって他の選手に期待していないわけではありません。みんなで競争してほしいなと思います。女子に関しては、長谷川が抜けて、2、3年生が中心でやっていくと思うのですが、吉冨(愛子、スポ3=愛知・椙山女学園)、宮地(真知香、社3=福岡・折尾愛真)、林(恵里奈、スポ2=福井・仁愛女)、辻(恵子、教2=東京・早実)あたりが引っ張っていくのかなと思います。ただ、団体戦は野球やサッカーと同じです。エースで4番の選手だけが強ければ良いかといえば、決してそうではありません。脇を固める選手がとても重要になってくるので、自分の力をどうやって発揮するかを考えられるようなチームになってほしいなと思います。4番バッターばかりそろえてもいけないというイメージを持っています。

――最後に、ことし一年の抱負をお願いします

毎年そうなのですが、まず学生たちが目標としている(王座)アベック9連覇を達成することですね。そのことをメインにはしますが、どちらかというとそれは過程でしかありません。その先を目指す選手にはその先を目指してほしいと思います。日頃から自分に負けることなく、どれだけ自分に正直にやれるかが重要なことだと思います。目標や結果を追求しようとするのが競技スポーツの意義だと思いますが、その中でもしっかりと文武両道を目指し、テニスのマナーもしっかりと守る。そのように全てにおいてリーダーシップを執れるようなチームを目指したいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 松下優)

◆土橋登志久(つちはし・としひさ)

1966(昭41)年10月18日生まれ。福岡・柳川高出身。早稲田大学教育学部卒。その後も競技を続け、五輪やデビスカップの代表にも選出される。引退後は早大庭球部監督に就任、ことしで11年目。在学時には全日本学生選手権男子シングルスで4連覇を達成した土橋監督。現在のところ、後にも先にもこの記録に匹敵する実績を持つ選手は現れていません。学生テニス界のレベルが上がりその環境が厳しくなる中、今後この記録を打ち破る選手は出てくるのでしょうか。