「今までにない」バイタリティ溢れる相手に大学女王の貫録見せつけ完封勝利!

ア式蹴球女子
第36回関東大学女子リーグ戦 前期第6節
早大 1―0
1―0
十文字学園女子大
【得点】
(早大)23分 船木和夏主将(スポ4=日テレ・メニーナ)、85分 廣澤真穂(スポ4=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)
(十文字学園女子大)なし

 関東大学女子リーグ(関カレ)のホーム開幕戦が29日、東伏見で行われた。7週間ぶりに臙脂(えんじ)のユニフォームを身にまとったア式蹴球部女子(ア女)は、昇格組の十文字学園女子大と対戦。特に相手の勢いに押されかけた序盤を乗り切り、ア女がボールを保持する展開に。すると23分にCKからDF船木和夏主将(スポ4=日テレ・メニーナ)が先制点をあげた。終盤にはFW廣澤真穂(スポ4=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)の追加点で相手を突き放し、完封勝利で開幕2連勝を飾った。

 

廣澤の得点シーン。ストライカーらしい身のこなしで難しいボールに合わせネットを揺らした。今節を終え今季公式試合3戦3発。マークが厳しい中でも結果を出し続けている

 

 試合前から東伏見には異様な空気が流れていた。その空気を作り出していたのは対戦相手の十文字学園女子大。ウォーミングアップから部員の威勢の良い声が響き渡っており、後藤史監督(平21教卒=宮城・常盤木学園)もこのテンションは「大学では今までにない」と驚くほどだ。もちろんそのテンションの高さはアップだけにとどまらず、試合開始からア女のビルドアップに対し4-4-2のシステムで勢い良くゲーゲンプレスをかけてくる。「スカウティングを超えてきた」(後藤監督)と想定外の圧力に、らしくないパスミスやセカンドボールでの競り負けなどでカウンターを食らう場面も多かった。33分に与えた絶好機も自らのミスによるものだった。中途半端になったバックパスにGK石田心菜(スポ2=大阪学芸)が飛び出し前線に送ろうとするが、これが相手に引っ掛かりア女ゴールが無人に。それでも石田が懸命にゴールマウスに戻り、右手一本で何とかセーブ。前節に続くスーパーセーブで失点を免れた。また、打たせたシュートはこのシーンを含め90分で2本のみ。試合を通して、対人能力に長けた2CBを中心にピンチの芽をほとんど摘み取った。一方、攻撃では徐々にペースを握り始めると、ア女らしくサイドを起点にした攻撃でチャンスを迎える。18分には前線に上がってきた船木が、ゴール前に走り込んだノーマークのFW髙橋雛(社4=兵庫・日ノ本学園)に正確無比なクロスを送る。髙橋のヘディングシュートは惜しくもバーの上に飛んだが早速ビッグチャンスを演出した。

 

前日の関東女子リーグでの敗戦を踏まえ「どうにか自分の力でチームを元気づけたかった」という船木。自らの先制点でチームの勝利に貢献した

 

 すると22分、右サイドのMF三谷和華奈(スポ3=東京・十文字)の鋭いドリブルからCKを獲得。セットプレーを重要視している今季のア女はこのチャンスを逃さなかった。一度は相手にクリアされたものの、このこぼれ球に反応したMF宗形みなみ(スポ1=マイナビ仙台レディースユース)がペナルティエリア外から強烈なダイレクトシュートを放つ。これも相手がブロックしたが、今度はそのディフレクションにゴール前にいた船木が反応しゴールに流し込んだ。船木は試合後、「たまたま自分の前にボールが来た」と笑顔を見せた。ハーフタイムが明けてからの45分はほとんどの時間ア女が主導権を握っていた。その中で後半に際立った活躍を見せたのが宗形。「見ていてワクワクするプレーはやっていても楽しい」(宗形)と、ボール保持の局面でゴール方向への正確なパスを何本も通し攻撃の潤滑油となる。それが得点に結びついたのが85分。DF夏目歩実(スポ3=宮城・聖和学園)からの楔(くさび)をライン間で受けると、即座の反転で相手をかわし前を向く。そして廣澤の裏を狙う動きを認知し、相手DFの頭を超えつつ廣澤にも届く絶妙なパスを出した。廣澤は相手GKとの難しい1対1を冷静に決め切りア女に追加点をもたらした。

 

宗形は印象的なアシストだけではなく、先制シーンではゴールを呼び起こすシュートを放った。前節では得点も記録しており、ゴールに直結したプレーでも存在感をみせている

 

 チームとしてもDFラインにより展開力のある選手を配置し、得点を欲していた場面でのゴールであった。結局これがダメ押しとなり、ア女は2-0で勝ち点3を獲得した。後藤監督は選手たちを「よく頑張ってくれた」とねぎらったうえで「精度、質を上げていくことが課題」と、さらなるレベルアップを求めた。それは選手たちも感じていたことだったようだ。主将の船木は「なかなか点を決めれずピンチも作った」、宗形も「前半の入りはボールに触れられなかった」とそれぞれ反省点を述べた。シュート本数をみると18対2と圧倒しているようにも見えるが、ア女が目指すのは目の前の勝ち点3だけではない。何よりも皇后杯ベスト8とインカレ連覇こそが最終目標。関カレ開幕2連勝と上々のスタートを切ったア女はこれからも飽くなき向上心で、理想のサッカーを追究し続ける。

(記事 前田篤宏、写真 前田篤宏、大幡拓登)

 

特に激しい攻防が繰り広げられた時間帯は両チームのユニフォームの色もあり、リヴァプールvsマンチェスター・シティを彷彿とさせる程の見応えがあった

 

早大メンバー
ポジション 背番号 名前 学部学年 前所属
GK 16 石田心菜 スポ2 大阪学芸
DF 夏目歩実 スポ3 宮城・聖和学園
DF 堀内璃子 スポ3 宮城・常盤木学園
→66分 井上萌 スポ4 東京・十文字
DF ◎5 船木和夏 スポ4 日テレ・メニーナ
DF 13 浦部美月 スポ3 スフィーダ世田谷FCユース
MF ブラフ・シャーン スポ4 スフィーダ世田谷FCユース
MF 三谷和華奈 スポ3 東京・十文字
→56分 11 吉野真央 スポ4 宮城・聖和学園
MF 14 笠原綺乃 スポ3 横須賀シーガルズJOY
→93分 19 築地育 スポ2 静岡・常葉大橘
MF 26 宗形みなみ スポ1 マイナビ仙台レディースユース
FW 廣澤真穂 スポ4 ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ
FW 10 髙橋雛 社4 兵庫・日ノ本学園
◎=ゲームキャプテン

 

スターティングフォーメーション

 

DF船木和夏主将(スポ4=日テレ・メニーナ)

――今日の試合を振り返ってください

 90分通して自分たちのボールを持つ時間が長かったのですが、なかなか得点に至らなくて少し慌ててしまった部分もありました。前半良い時間帯に先制点を取ることができた中で、その後なかなか2点目が決まらずピンチもいくつか作られてしまったので、課題の残る試合だったかなと思います。

――関カレでは、ホーム東伏見で初の試合となりました

 土曜日に関東リーグで負けてしまい、どうにかして自分の力でチームを元気づけたいなと思っていたので、それが東伏見でゴールという形でつながったのは良かったかなと思います。

――左サイドの攻撃に関しては、宗形選手や笠原選手と良い連携を構築できていると思いますが

 去年からビルドアップにチャレンジしている中で、それが今シーズン入って体現できるようになってきたというのもありますし、練習の中からしっかりと声を掛け合ってプレーを合わせていけたので、そういった面では試合でも出せていたかなと思います。

――高い最終ラインを維持してのビルドアップはリスクも伴うと思いますが、そこに対しての怖さや不安は克服できていますか

 関カレは特に引いてくる相手が多く、そこに対して押し込んでいくことはもちろんリスクを伴うことではあるのですが、リスク管理はしっかりとできていますし、だからこそサイドバックである自分は高い位置をとることができています。攻守においてつながりをちゃんと持てていて、切り替えもきちんとできているのでそこに対する怖さは大丈夫です。

――今日の1点目もそうですが、セットプレーに関しては監督からも指示を受けているとお聞きました。ご自身の今日の得点に関してはどうですか

 たまたま自分の前にボールがきた、という感じでした。確かに今シーズンのチームははセットプレーを重要視していますし、逆に相手のセットプレーもピンチを招いている部分ではあったので、攻守においてセットプレーには重きを置いていかなければならないと思っています。

――今後の試合に向けてどういったことをこころがけていきたいですか

 ここから2連戦が続き、難しい試合も増えていくと思いますが、どんな時でも自分たちはチャレンジャー精神を忘れずサッカーを楽しんで全力を出していくことだけだと思います。ア女らしさを全面に押し出していきたいです。

 

MF宗形みなみ(スポ1=マイナビ仙台レディースユース)

――東伏見で初めての関カレを戦いました。序盤から強度の高いサッカーでしたけど、相手に対してどういった印象を持ちましたか

スカウティングをやっていた部分もあって勢いは分かっていたので、その勢いに自分たちが負けずに行くというのと、縦に速いサッカーをするというのも理解していたのでそこへの対策と、自分たちも縦に速くなり過ぎないというのは意識して試合に入りました。

――インサイドハーフでの出場でしたが、DFラインの補助に入ったり攻撃に参加したりと、縦横無尽に動いて存在感をみせていましたが、自分の特徴を十分に出せたなという感触は持っていますか

やっぱり前半の入りのところはボールに触れられていなかったので、入りに関しては自分的にはいまいちだったんですけど、だんだん試合に慣れて周りを見れるようになってからは、ポジショニングとかで相手を惑わすことができたのかなと思います

――何といっても2点目のアシストはとんでもなく正確なパスがありましたけど、ああいったところも特徴だったりしますか

見ていてワクワクするところは、やっていても楽しいし見ていても楽しいと思うので意表を突くパスだったり、それが得点につながってくれればいいかなと思っています。

――ここまでア女では3試合に出場されていますけど、チームに適応できてきているなという感覚はありますか

最初はまだ慣れてなかったんですけど、だんだんボールももらえるようになってコミュニケーションをとって、流動性で相手を崩すことが多いので普段の練習から話しながらやっています。

――延期の影響もあって今月は過密日程の中で試合が続きますけど、意気込みはありますか

自分の特徴を毎試合発揮することもそうですし、けがなく自分のベストコンディションを作れるように毎日の練習の強度も落とさず、もっと短所も直して行けるように頑張りたいです。

 

後藤史監督(平21教卒=宮城・常盤木学園)

――試合前から分かってらっしゃったと思いますけど、序盤はかなり強度が高かったですけど、いかがでしたか

(十文字学園女子大が)ウォーミングアップの段階からものすごくテンションが高くて、今年1部に上がってきたんですけど今までにないというか、昨季の1部の中ではなかったかなと。前から(プレスを)かけてしっかり走って、というスカウティングをしてたんですけどそれを超えてきました。ただそれに対して自分たちが受け身になるのではなくてというのは、試合前に選手たち自身が出てくれたので、そこに関しては特に心配はしてなかったです。ただこれからもあると思うんですけど、自分たちがボールを保持している中で、どうしても相手が中も締まっているし、5レーンやリトリートなど、想像はしていたんですが、そういう試合展開になったなと。その中で暑さなのか試合勘なのか、自分たちの横パス、不用意なパスを奪われて、またセカンドボールを拾えずにカウンターを食らうシーンが今日は少し多かったのかなという印象ではあるんですけど、ただこういう試合の中でしっかりセットプレーからと後半に追加点を奪って、勝ち点を取るということが何よりも大切なことだと思っているので、そこに関してはよく頑張ってくれたなと思っています。

――特に前半は右サイドで奪われることが多かった印象でしたけど、ここの連携だったという面では改めていかがですか

ひとつはUの字で(ボールを)回していても結局はこう(横に)動かせばいいだけなんで、そうするとサイドバックが上がり切らないですよね。なのでもう少しボランチをうまく使いながらボランチから展開をと。宗形から三谷に出たボールもあったり、前半の最後の方からシャーンが受けて振るような展開も出てきたと思うんですけど。Uの字でサイドバックが上がり切れない状態でビルドアップをしちゃうとどうしても詰まっちゃうと。なので私たちの良さでもある速いサッカーと、しっかりつないでいって刺すサッカーの精度、質をこだわって上げていくことがこれからの課題だと思います。

――シュートも少なくなってきた終盤に宗形選手の素晴らしいパスから廣澤選手がしっかり決め切るという、個の高さの部分は改めてどういうふうに感じていますか

基本ベース、彼女たちにも伝えているんですけど、おごっている意味ではなくて大学サッカーの中で個で勝つというのは当たり前だと。強度の部分もそうだし、フィジカルの部分もそうだし、テクニカルな部分もそうだし。1対1の戦いは絶対に早稲田が勝つんだという話は最初からしているので。ただ(2点目のシーンは)(夏目)歩実から宗ちゃん(宗形)に出ましたよね。ボールを回しているときに回させられているんじゃなくて、自分たちでスイッチを入れるタイミングを作るために回しているんだというマインドが大事ですよね。(2点目の)前に(ビルドアップで)2、3本取られてカウンターを食らってるんですけど、危ないからそれをやるなというわけではなくて、それをやらないとあそこで受けて前を向いてそれに対して裏に出る、っていうプレーは出ないと思うので基本的に守備で1対1で絶対に負けないことがベースなので、奪われてもいいからとにかくチャレンジをして。奪われたら奪い返せばいいだけの話なので、そこの部分は攻撃の部分でもあるんですけど、守備のところで1対1で負けないというのが大前提だと。そういう意味ではボールを回しながらスイッチを入れる、ゴール前のところではもう少し1対1で仕掛けてもいいところはあったかもしれないですよね。彼女たちだったら背負って前を向けるし、全然そういうチャレンジは見たいなと思っています。本人たちも分かっていると思うので。

――まさに奪われたあとの守備は今日もほぼ完璧だったと思いますけど、心強い部分はありますか

そこはプレシーズンのところから一番最初にチームに落とし込んでやってきているところです。それって例えば決勝戦とかプレッシャーの高い試合の時に、足元の技術とかってメンタル状態が影響したりしますけど、絶対守備ってできるじゃないですか。もちろんテクニカルな部分もあるっちゃありますけど、守備は(そういう場面でも)絶対にできると伝えているし、彼女たちもしっかりそれを体現してくれているので、そこの当たり前の基準もこれからもまだまだ上げれていく部分があると思いますし、非常に素晴らしいと思っています。

――昨日出られた方も何人か出て、やりくりも難しかったと思います。DFラインの交代のところは、堀内選手への評価も含めてどういった意図がありましたか

(堀内)璃子は別に悪くて代えたわけではなくて、彼女は1対1が非常に強い選手でサイドバックや逆のCBのカバーもしっかり走れて、うちのチーム全員が思っていることだと思うんですけど、彼女は絶対1対1で負けない、守備のところでチームに貢献してくれる、そういう評価をしています。で、代えたのは(井上)萌が入ってリズムを作れる選手なので、シャーンはCBに入ってもボランチのような配球をできる選手なので、配球どころが(ブラフと井上の)2つになりますよね。という意図で代えたので決して璃子が悪くて代えたわけではないというところですね。

――もう一つ試合のハイライトシーンで、石田選手がまたセービングで素晴らしいプレーが出ましたね

(U-20W杯に向けても)とにかく今はアピールの時期だと思います。もちろんああいう反応も素晴らしいところなんですけど、彼女はビルドアップもしっかりできるキーパーです。まずはここでしっかり頑張ってくれているので、近澤が教育実習に行っている間しっかりゴールマウスを無失点で守ってくれたので、世界大会に出れるように頑張って欲しいですね。