野球を楽しみ続けた4年間
「野球やりてぇな」。野球を愛する準硬式野球部主将・新井健太(商=東京・早大学院)が引退を迎えて最初に出てきた感情である。野球を楽しむために入部した準硬式野球部での日々は充実した4年間に。一選手として1年時から試合に出場し、4年時には主将としてチームを引っ張る存在に。全国大会である清瀬杯全日本大学選抜大会(清瀬杯)ではチームを優勝へと導き、仲間と喜びを分かち合った。野球を全力で楽しむことに身を捧げた新井の4年間を振り返る。
清瀬杯決勝・甲南大戦でタイムリーを放った新井
新井は、父は元高校球児、母は読売ジャイアンツファンという野球一家に生まれた。そんな新井が野球を始めたのは小学校1年生の時。父に連れられて行った神宮球場の東京ヤクルトスワローズ戦で野球の魅力を覚え、軟式野球のチームに入団した。中学入学後はシニアリーグで硬式野球をプレーするようになり、高校は早大学院高に進学。硬式野球部に入部し、甲子園(全国高等学校野球選手権記念大会)出場を目標に白球を追いかけた。1年生時には第98回全国高校野球選手権記念西東京大会、秋季東京都高校野球大会でベスト8まで進出するも、甲子園出場はかなわず。大学に進学しても硬式野球を続けることを決めると、早稲田大学野球部に入部した。
野球部へと足を踏み入れた新井だったが、そのレベルの高さについていけない日々が続く。自分が試合に出ている姿が想像できなかったと振り返った。さらに、高校時代の甲子園のような目標が見つからなかったこともあり、約1カ月で退部した。それでも、新井の中で野球を続けたい気持ちは変わらず。野球サークルと迷う中、高校時代の練習試合から交流のあった準硬式野球部の練習を見学し、その雰囲気や本気度から入部を決意。新たなプレーの場を「準硬」に決めた。入部後間もなく頭角を現した新井は木村杯春季新人戦、全日本出場校選出予選会、東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)と立て続けに遊撃手として出場。1年生の選手の少ない1軍で早くから実戦を積んでいった。
2年生になると、新井に大きな転機が訪れた。新型コロナウイルスまん延で春季リーグ戦が中止になったのちに開催されたサマーチャレンジカップや秋季リーグ戦は遊撃のレギュラーだった池澤一真氏(令3スポ卒=栃木・大田原)の復帰や自身の不調もあり、ベンチを温める日々が続いた。そんな中、試合に出ることの難しさや自身の課題点を痛感し、さらに真摯に野球に取り組むようになったという。そして3年生になりレギュラーで出場するようになると、春季リーグ戦では三塁手として大活躍。4割にも迫る高打率をキープしベストナインも受賞した。「成績面で結果が残った」と語った新井。秋季リーグ戦も引き続きレギュラーで出場し、一年間を通してチームの主力としてプレーした。プレーの一方で、キャプテンシーも着実に成長を遂げていた。2年時に学年リーダーとして学年を引っ張ると、3年の春季リーグ戦が終了した頃にはチームを引っ張る自覚が芽生えていたという。いち早く試合に出場していたこともあり、同期の部員からも主将を推薦されていた新井は就任を決意。3年の冬から主将としてチームを引っ張ることとなった。
3年時に自身の活躍もむなしくリーグ戦順位が低迷し、悔しさを味わっていた新井。1軍を刺激してくれる2軍からの昇格選手が少ない点に注目し、同期と共に部内リーグ戦の開催に尽力した。さらに2軍の試合にも自ら足を運んで選手の状態を確認し、選手起用にも携わる。そんな取り組みが奏功し、続々と下級生が1軍の選手として台頭した。新井は経験豊富な一選手として、選手を束ねる主将としてチームをけん引。リーグ戦優勝、全日本大学選手権出場は逃したものの、清瀬杯ではプレーとキャプテンシーでチームを引っ張り、逆転劇の連続、そして優勝へと導いた。「すごくうれしくて達成感を感じた」と笑顔で当時の心境を振り返った。一番印象的な試合として挙げたのは、4月末の春季リーグ戦・法大1回戦。1番・遊撃で出場したこの日は、初回に先陣を切る右安打で出塁すると、延長10回には意地の内野安打でドラマに貢献し、仲間と勝利の喜びを分かち合う。毎試合、仲間と苦楽を共にし、準硬の全員野球を体現し続けた。
法大1回戦の延長10回で生還し、チームメイトと喜び合う新井(背番号10)
11月末の引退試合をもって引退した新井。4年間を振り返って「本当に楽しかった」と語る。特に楽しかったのは4年生の時。準硬の主将、一選手として、そして選抜チームの一選手としても最後の一年間を存分に満喫した。その一方で「準硬」生活を満喫できたのは周囲のおかげだと語った新井。支えてくれた人々への感謝を口にした。準硬での野球生活を終えた新井の次なる居場所は草野球チーム。1月に入団し、試合出場に向け週1回の練習に励んでいる。野球を楽しむ新井の人生はまだまだ終わらない――。
(記事 横山勝興、写真 小山亜美、渡邊悠太)