コロナウイルス感染拡大の影響で例年参加していた六大学合同演奏会・コンクールが次々に中止し、“吹奏楽団”としての活動がほとんど叶わなかった2020年。マスクを外さなければ演奏ができない、曲の練習は集まらないと難しいといった吹奏楽独自の特徴から、練習を確保することすら難しかった。その中で座席数を減らすと同時にオンライン配信を行い、感染症対策を徹底することで、ようやく開催に漕ぎ着けた第57回定期演奏会。テーマに掲げた「冒険」は、今年一年部員が感じた様々な思いが込められたものであった。
第一部、幕が上がると、今年度から常任指揮に就任した畠山崇先生の指揮のもと『アルセナール』を演奏。式典行進曲として華やかかつ格調高いメロディーは、応援部の伝統と「冒険」の始まりを彷彿とさせる。続く『組曲ニュー・ロンドン・ピクチャーズ』『マードックからの最後の手紙』では、繊細なハーモニーを奏で、風景の移り変わりを音楽で鮮やかに表現。第一部が終わろうとしたそのとき、舞台に現れた宮川隼代表委員主将(人4=千葉・稲毛)に合わせ『早稲田大学校歌』を演奏。応援部として見せる厳かな雰囲気で会場を圧倒した。
吹奏楽団として丁寧に音を紡ぐ
ポップスステージと題し、『ジャパニーズ・グラフィティXII』で幕開けた第二部。銀河鉄道999と宇宙戦艦ヤマトのテーマからなるこの曲に合わせ、車掌風衣装で飯田あやの指揮(文4=東京・共立女子)は演奏を導く。続いて、『ライオンキングメドレー』では山下大輔(教3=東京・芝)が、『マンボNO.5』では井田隆之インスペクター(政経4=東京・早大学院)が指揮を振り、馴染みあるメロディーで会場を盛り上げた。曲が終わり、暗闇に包まれた舞台にスポットライトを浴びて応援部のマスコットキャラクター、わーおくんが登場。部員に連れられドラムの前に座ると、力強く叩き始め、部員全員がアンコール『sing sing sing』を披露した。
わーおくんと共に演奏した『sing sing sing』
第三部は応援部吹奏楽団ならではのドリルステージ。華やかなマーチング用衣装に身を包み、めまぐるしく隊列を変えながら息の合った演奏を披露する。『I have a dream 〜「マンマ・ミーア!」より』で明るくのびやかに始まった音楽は、『Final Countdown』『courage〜「海猿」より』では一転し、凛々しい音色でホールを満たした。さらにカラーガードの華麗な身のこなしは演奏に一層彩りを与えていく。最後の曲『コンパス・オブ・ユア・ハート』では晴れやかな未来への確信を訴える、堂々の演奏を披露。まさに、「様々な困難があっても、その先のゴール・光を信じて突き進む」といった当演奏会のテーマ「冒険」を音楽で体現したものであった。プログラムの曲を終えると観客からのアンコールに答え、『応援曲メドレー 東京六大学野球秋季リーグ戦優勝スペシャルバージョン』を披露することに。再登場した宮川主将は、学生注目で「吹奏楽団がいなければ、リーダーはテクを振れないし、チアは踊れない」と感謝を力いっぱい叫ぶ。部員にもサプライズで行われた吹奏楽団へのありがとうの文字切りは部員や観客の涙を誘い、パートを超えた愛に溢れるものとなった。メドレーではリーダー、チアリーダーズの4年生も参加し、応援部としての魅力を惜しむことなく見せて幕を閉じた。
華やかなドリルステージで観客の心を掴む
書上幸也演奏会運営責任者(法4=群馬・県立前橋)は「吹奏楽団ってどうしても日の目を浴びない部分があるのかなと思う」と話す。しかし、コロナ禍という困難の中でも、応援・演奏・ドリルとひたむきに努力し続けた吹奏楽団の思いは、音楽という形で人々に届いている。これからも吹奏楽団は演奏で応援を支え、3パートの強い絆を持った応援部は、選手や観客のあすへ突き進む活力となり続けるだろう。
(記事 吉田美結 写真 中原彩乃、湯口賢人 取材 市原健、古舘滉基)
コメント
書上幸也演奏会運営責任者(法4=群馬・前橋)
――定期演奏会全体を振り返っていかがですか
まずは終わってほっとしているといか、無事に終わってよかったなという気持ちが強いです。最初はいざ定期演奏会に向かう中で振り返ると、やっぱり自分自身が定期演奏会に対してあんまり好きになれなかった過去があって、そういう3年間、定期演奏会に思い入れがない中で、いざこの役職をまっとうするとなったときに、どうしても8月仕事が始まっていく中で全く自分自身のやることが手につかなかったり、3年生の補佐にいる子を動かせなくなったり、結局同期の演奏会責任者や会計の子、いろいろな他の子の力なしではやれなくなってしまったところがあって、自分自身演奏会運営責任者としてはできなかったことの方が多かったのですが、こういう形になって徐々に定期演奏会目前になるにつれて、自分自身も少しずつやれるようになってそれで、きょう本番を迎えてというように、総じてみると、これまで定期演奏会嫌いだったのが好きになったのかなと思います。
――コロナ禍での開催で苦労したことは
やはり例年にないことを考えなくてはいけなくなったというのが負担かなと。例年のことをやるのがまず大変なことがあって、そこにオンライン配信だったり、座席数どうするとかだったり、コロナ関係の対策、ガイドラインのようなものであったりをやらなくてはいけないとなったときに、結局手の空いている同期やコーチングスタッフの方々に対応してもらってできたかなということがあったので、そこに関して、自分が大きく関わるということではなかったですが、コロナという中で定期演奏会をやるのは難しいものがあったなと感じています。
――新人の練習時期がかなり遅れたと思いますが、新人の姿を練習中や本番に見て、感じたことは
新人はモチベーションが高かったなという一言に尽きるなと思います。自分も運営する中でやるべきことができていないとか、気が滅入って、部活もほとんど練習ができないとなった中でも、新人がすごく頑張ってくれていて自分自身も元気をもらって頑張らなきゃなという思いにさせてくれたので、存在感は大きいなと思います。それに「新人が部の宝」ってよく言っているんですけど、こういうことなのかなと、自分自身も一端を感じることができたと思います。
――今年から、新しい常任指揮の先生となりましたが、変化を感じることは
部員が去年以上に練習に対していきいきとしていて、楽しそうだというか、うまくなろうという気持ちを持って臨んでいるのがすごいなと思ったのが、ご指摘がとても分かりやすい、どういうふうにすればいいのかが分かりやすくて、自分自身も最初はぐさっときたことはあったのですが、楽しくなったなと思います。あとは、もともとみんな吹奏楽が好きで入ってきた中で、また今まで失われていた好きという気持ちを戻せたのではないかなと思います。そういう意味でも、いいなと思います。さらに来年、レベルアップしていくと思うので、そこも期待しています。
――きょうの中で印象に残っていることを教えてください
1部から3部総じて見てみると、普段練習でできていないことができていたりだったり、いつもより気持ちであったり(という違いが見えて、)演奏のクオリティが結果的に上がっているなと思いました。そういう意味ではやり切ったという感じで終えている部員新人多かったですし、総じていつも以上に1.5倍くらいグレードを高く演奏できたというのがあります。具体例を言うのであれば、『sing sing sing』のアンコールで井上優(商3=神奈川・柏陽)というクラリネットの3年生が最後にクラリネットソロやっていたんですけど、練習で高い音が当たらなかったのが本番次々に当てていって、結果として「おぉ」とみんなの中でなったので、それは忘れられないなというように思います。
――3部終わった後に宮川主将の学注があったと思いますが、それについてはいかがでしたか
自分たちが新人のときにあのような場で学注をやられた当時の新人監督が非常に吹奏楽団が好きで、そういうインスピレーションもあって、「俺は楽団好きだ」と言っている部分がある宮川代表委員主将だったので、きっとすごい楽団に対して思いをぶつけてくれるんだろうなと思いました。それでもまさか、あそこまで長くなるとは本当に思わなくて(笑)。楽団に対して思っていることはあれもわずかなものに過ぎないんでしょうけど、思いというものが部員新人にも伝わったというふうに思いますし、吹奏楽団ってどうしても日の目を浴びない部分があるのかなと思うんですけど、それでも部員新人からのネガティブな気持ちを払拭するようないい学注だったなと思います。
――下級生に対して一言お願いします
部員新人の定期演奏会が好きだという思いは自分自身も感じたし、そういう思いが自分自身を動かしてくれたというのがあるので、第58回定期演奏会に向かう中でも定期演奏会が好きだという思いをぶつけてくれればありがたいなと思います。練習とか裏方、スタッフの仕事もしんどいことも数多くて、そういう中で心折れたり、定期演奏会やりたくないというふうに何回も自分以外にも思っている中でも、どんどん定期演奏会が好きでやりたいという思いをぶつけてくれるとそれがきっと力になって本番もいい演奏につながるのではないかなと思います。
――同期に対して一言お願いします
どうしてもやっぱり吹奏楽団同期に対する思いが薄いなと思われてしまっているのかなと思うんですけど、本当にそれでも要所要所で親しく接してくれたり、失敗してもあたたかい言葉をかけてくれたり自分自身が何回もドロップアウトしかけそうになっても助けてくれたり、そういう意味で大きく支えられたのは同期なのかなと思います。本当に同期に対して感謝の気持ちは深いものがあるし、こういう言葉で拙くてうまく伝えられていないのかなと思いますが、本当に感謝しかないです。自分自身がまだまだ未熟なところが多くて、迷惑をかけてしまったところは申し訳ないというのと、自分を最後まで見切らず、捨てずに続けさせてくれた、定期演奏会で感動の場面に立ち合わせてくれたという意味では感謝しかないかなと強く感じています。これからも離れ離れにはなってしまうのかなと思いますが、いつか会いたいというか(笑)。総じて令和二年度の吹奏楽団4年生でよかったなと感じています。この言葉に嘘がないというのは、どうかこれを読んでいる同期に感じ取ってもらえればと思います(笑)。
松永卓演奏会広報責任者(商4=東京・武蔵)
――定期演奏会を終えての率直なお気持ちを教えてください
まずはほっとしているが一番ですね。本当に、早稲田が六大学の中でも定期演奏会の順番が一番遅くて、他の大学がやっていく中で、自分たちもやるのかなという実感が湧いていなくて本当にやるのかなこれと思っていたんですけど、なんとかやれてほっとしているに尽きますね。
――きょうの演奏会で印象に残っている曲はなんですか
個人的にはシンフォニックの2曲目の『ニュー・ロンドン・ピクチャーズ』というのの、3部構成の中の2楽章がしっとりした曲なんですけど、涙腺が崩壊して、3曲目の始まりが自分が入るところから始めるんですけど、先生と目を合わせるんですけど、先生が「泣いてるじゃんお前」みたいな視線を送ってきて(笑)。それが一番心に残っていますね。
――4年間最後のステージを終えてみて、いかがですか
4年間というよりも、パーカッションって下級生が全然いなくて、新人の2人が今年入ってくれて、8月に入った子と9月に入った子一人ずつなんですけど、3ヶ月とか4ヶ月くらいで完全に初心者から始めて、なんとか頑張ろうということで定期演奏会まですごい練習してやってきたので、曲をやっていてここすごい練習したところだな、ここすごいうまくいったな、ここはいまいちだけどまぁまぁまぁみたいなところ、一個一個聞いていてすごく嬉しかったですね。
――演奏会広報責任者としての仕事は
もともとの自分の役割は印刷物を作ったり、いろいろなところで広報したり、というのが主ですが、自分の仕事として行ったのはパンフレットを作っただけです。あとは、誰がいらっしゃるとかそういうメールを送る、とかです。他のことをやれないから、今年はパンフレットに力を注ごう、3年生の子たちと話し合って、今年だけのものを作ろうと頑張ってこられて。中身去年と比べて、全然違っていると思うんですが、そういうことを達成できてよかったかなと思っています。演奏会広報責任者以外の仕事は演奏会自体の運営にも関わらせていただいて、自分のやったこととしては、タイムスケジュールを決めたりですとか、お手伝いのOB・OG、業者の方に見せなきゃいけない資料とかを作ったり、今年はリーダーのOBの小野(興氏、令1卒部)さんにステージマネージャーをお願いして、そこのやりとりをやらせてもらって、運営の方にも自分から書上とか指揮の飯田にもお願いしてやったので、そこが大変でしたね。
――オンライン配信は初めての試みでしたが、いかがでしたか
まだ感想などを聞いていないのであれですが、知り合いからドラムを叩いているわーおくんの画像が送られてきたりして、見てくれている人がいて嬉しいなと思いますし、twitterでオンラインでやりますと言った際に「あんまり情報が出ていなくて心配していたけど、やるんだ、よかった」といったお言葉もあって、そういった自分等の活動にいっぱい来てくださる方に一応見せられる場ができてよかったです。
――合同演奏会は中止となり、今年で最初で最後の演奏会となりました。
自分は連盟吹奏楽責任者という役職で、合同演奏会への思い入れが並の人の100倍くらいあって、それを成功させるために応援部生活を全て捧げてきたと言っても過言ではないくらい取り組んでいて、それを自分でなしにするという決断をしなくてはいけなくてつらかったんですけど、きょうを迎えてリベンジマッチと言いますか、それをやれなかった分、頑張ろうという思いはありました。
――宮川主将の学注いかがでしたか
最高の一言につきますね(笑)。いや、もう宮川とは本当に長い付き合いでして、2年生で自分鼓手というのを始めまして、2年生の1月から4月くらいなんですけども、リーダー練習に一緒に参加して、そのとき宮川が鼓手筆頭という鼓手になろうとしているみんなをまとめる役割で、それでそこから宮川との関わりが始まって、宮川が大変なときとか自分が大変なときに支え合って過ごしてきましたし、4年生になって連盟の方の役職で一緒になって本当に言葉に表せないようなほど、宮崎も一緒なんですけどやってきて、そんな宮川が学注をやってくれている後ろ姿だけでもぐっとくるものがありましたし、自分の名前を出してくれていたのも嬉しいですし、すごく長い学注で愛を感じましたし、未来の子にまで愛を伝えてくれたというのはすごい最高でしたね。
――これまでを振り返って
自分たちも泣いていたんですけど、泣いているお客さんもいらっしゃってそういう方々の心に何か届けられたのかなというので達成感はありますし、今年一年間すごく変則的な活動ばかりしていて、下級生のみんなは大変だったと思うんですけど、その中でもなんとかやってきてくれてなんとかステージをやれて。新人の子は激動の4ヶ月間を過ごしたと思います。新人の子が一人もやめてないんですよ。それがすごい大変な中、途中から入った子も食らいつき続けてくれて、すごい誇らしいなと思いますし、来年もまだまだコロナで大変な1年間になると思うんですけど、すごい頑張って欲しいなという気持ちでいっぱいです。
わーおくん
――今日はドラムを叩いていましたね
実はドラムも叩けるんである!みんなのアンコールの手拍子を聞いて出番を感じたんである!
――今年わーおくんの姿をあまり見かけませんでした
野球など色々なスポーツの応援に行けなかった分ずっとドラムを練習していたんである。みんなに見てもらえて嬉しいんである!